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雨の中、独り歩くのは嫌いではなかった。
手に持った傘に伝わる振動、傘の表面で弾け、辺りの建物を、地面を打つ、雨音。
辺りは音に満ちている。
そして、湿度の所為だろうか、普段以上に深みと強さを増す、匂い。草花の、鉄錆の、そして水の……。
辺りは匂いにも満ちていた。
でも、此処に人の声は無い。
人の匂いも無い。
打ち棄てられた街だから。
山地の開発に取り残されたのか、最早先が望めないと見切りを付けられたのか。兎も角住民の去った街。
日常に嫌気が差して逃げ場を探して山中を彷徨った僕の前に現れた、無人の街。
一日中、山を這い回った末に自動販売機――不思議な事に未だ作動していた――で求めた水は、僕が本心では死を望んでなどいない事を、教えてくれた。何て事のないミネラルウォーターが、どれ程旨かった事か。
どんな理由で人が居なくなったのか、此処には暮らしに必要な物は一通り、揃っていた。新鮮な食料こそ、手に入らなかったが、家庭菜園が出来る程の農地も、道具もある。
野菜を一から育てるのは面倒も多いが、これ迄に知らなかった事や、何より生きているという実感を教えてくれた。
田畑を潤し、ひと時の休息を齎す、雨の大切さも。
そうして過ごす内、僕は気付いた。
人の声に、人の匂いに、少し疲れていただけだったのだと。
こんな風に雨の降り頻る日には、少し、それらが懐かしくなる。
そろそろ――戻ってみようか。
* * *
僕は身を横たえていたカプセルから上体を起こした。自然と、両腕を上げて伸びをする。
「おかえりなさい」穏やかな声が、僕を迎えてくれた。「如何でしたか?」
「ああ、久し振りにリフレッシュ出来た気がするよ」
「それは良うございました」オペレーターの営業スマイルさえも、今の僕には懐かしい。「では……また半年後、ご予約をお入れしますか?」
「ああ。頼むよ」僕は頷いた。「うっかり予約を忘れるとなかなか順番が回って来ない程の人気だからねぇ、此処は」
「恐れ入ります」丁寧に、腰を折る。見慣れたそんな様も、このカプセルに入る前は、あんなに卑屈に感じられて鬱陶しかったのに。
バーチャルリアリティーを利用した休息用のカプセル。ほんの数時間で、数日分の「無人体験」が出来る。舞台は無人島や無人の街、様々なものを選択出来る。
僕の様な、対人関係上のストレスを抱えた管理職以上の人間に好評のシステムだ。
「それにしても、また半年待たなきゃならないのか。規約だから仕方ないけれど……。何故、半年以上開けなければいけないんだい?」
「それは……」僅かに微苦笑を浮かべて、オペレーターは言った。「連続使用されますと、その……精神的にお戻りになられない方が過去、おられましたので……」
無人の環境で人の世界の懐かしさ、良さを再確認する――その趣旨の元作られたシステムだと聞いていたが……。精神がそちらに行った切り戻らなかった者達は、そこに安住してしまったのだろうか。
だが、人の声、人の匂いの無い世界、私にはそこは完全な安住の地とは思えなかった。
――今は未だ。
―了―
偶には独りで雨音を聞くのも……いいかも知れません。
偶にはね☆
偶に独りになってみると解る事、見えて来る事もあるかもです。
妙に感心してしまいました。
そんな機械に頼っちゃうのは嫌だけど、一度試してみたいかも(笑)
でも、2、3日で農作業の喜びは難しいんじゃないかな?植物そんなに早く育たないでしょう?
……そこら辺は機械だからなんとでもなるのかな?
偶~に、バーチャル独りごっこも気分転換になるかも?
完全な一人ぼっちも、シンドイかもなぁ。
それ故、必要なものは一応揃ってる。
なんて都合の良い。
まぁ、そこら辺はサービスってことで。(笑)
完全に一人ぼっちで、何も無しでサバイバル! 迄行ったらしんどくてリフレッシュどころじゃないし(笑)
サービス、サービス♪
脳は同じ事ばかりやっていると、刺激が足りないと感じると言いますし。色んな事をしてみるのは、ボケ防止にもいいとか☆
それはそれで癒しだけど♪