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花の盛りはやや過ぎ、青葉が顔を覗かせ始めていたが、俺はその桜の下にゴザを敷き、荷物を下ろした。
辺りを見回すが、周囲に他の人間の姿はない。花弁の舞い散るこの景色を独り占めという訳だ。尤も、それを喜ぶ気分でもなかったが。
薄紅の桜は宵の色に沈み始め、それでも尚仄かに花の形を浮かび上がらせている。生憎と行楽地の様な提灯も雪洞も無い中、いずれは闇に飲まれてしまうだろうが。
それまでの間、と、俺はクーラーボックスから缶ビールを二本、取り出す。
開けた一本を、対面する位置に、もう一本を俺の前に置く。
そして一人、呟いた。
「花見の約束、果たしに来たぞ」
答える者は居ない。
桜に見守られる様にこの地に立ち並ぶ、墓の下の住人達さえも。まぁ、それは答えられても困るが。
しかし、俺を呼び付けた本人位は、答えたらどうなんだ?――俺は内心愚痴りながら、ビールを口に運んだ。
二週間前、俺は友人達と花見の約束をした。
渋々――決して花にかこつけての馬鹿騒ぎが嫌いだとか言う訳じゃない。羽目を外し過ぎればみっともないとは思うが、友人達とのある程度の息抜きはいいものだろう。それだけに、俺が参加するのは少々、気が引けたのだ。
別に俺は雨男じゃあない。けれど、何故か俺が参加を決めた花見は昔から、何かしらの理由でお流れになる事が多かったのだ。メンバーの大半に急な用事、事故、急病。いずれも翌日にはけろりとして出て来る様な些細な問題なのだが、兎に角よく起こる。
勿論偶然だとは思う。俺が参加する事と何の因果関係もない、と。
それでも段々俺は花見から遠ざかる事になった。曲がりなりにも楽しみに準備していて、中止っていうのは、嫌じゃないか。
なのに今回は約束してしまったのは、友人の一人が遠くに引っ越す事になったから、その思い出作りと頼み込まれてしまったからだ。
それだけに、今度こそは中止にならないでくれと密かに願ったのだが……。
当日、俺自身が熱を出した。おまけに熱はなかなか下がらず、会えない儘にそいつが引っ越して行った翌日、やっと俺は起き上がる事が出来た。
こうなると流石に、何かが俺の花見を邪魔しているとしか思えない。
何者であれ、邪魔をされる謂れなんかないぞ!――そう思っていたのだが……。
一週間前、部屋の整理をしていて、俺は古い写真を見付けた。
桜の下で笑う、高校生の頃の俺と、やはり同年代の少女。
次の瞬間、俺は思い出していた。
その子と、花見の約束をして、未だそれを果たしていない事を。
「果たせなかった理由は、お前が先に死んだ所為なんだからな。いつ迄も拗ねてんじゃねぇよ」墓場で独り酒を呷りながら俺はぼやく。
ごめんね――そんな声を聞いた様な気がした。
来年の花見には、皆と行けるかも知れない……。
―了―
短めに~☆
間が悪いんだろうけど★
タイミングって難しいですね。
花粉症で花見どころじゃない!?(笑)