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その内、勢いが付いて止まれなくなり、たたらを踏んで転んでしまう。
視界がぐるりと反転し、褐色の石畳が視界一杯に広がる。
そんな夢をここ数日、続けて見た。
あっ! と思った処で目が醒め、本当に走っていたかの様に汗びっしょりで朝を迎えるのだ。
「何なんだ……」僕は頭を振りながら、ベッドの上に身を起こした。「同じ夢を何度も見るなんて……」
夢は脳が無意識下で記憶を整理しているのだとか、もっとスピリチュアルなものだとか、色々言われている。時に人はそれに意味を求め、それらしきものを見出すことも、偶に、ある。
連日の夢なんて、尚更意味ありげじゃないか?
「それだけ連日見るんなら風景とかも覚えてるわよね?」昼休み、話の種に持ち出したその夢に面白そうに食い付いたのは幼馴染みの志津子だった。「そんな長い坂道なんて、この街には無いわよね?」
「夢だから」僕は苦笑した。「多少現実と違ってても不思議はないんじゃないかな? でも、確かにこの街の風景じゃないみたいだったけどね」
「何処か、覚え、あるの?」弁当の玉子焼きを好奇心の代償にくれながら、志津子は首を傾げる。
「いいや」
「何だ」僕のタコさんウインナーが取られた。あっ、と声を上げると、こんな着色料の多い物、あたしが退治して上げると来た。「静(せい)君のママ、保育園の頃よりお料理上手になったけど、こういうとこ無頓着になったよね」
確かに。それに高校生の息子の弁当にタコさんウインナーもないだろう、母よ。いや、子供の頃は運動会や遠足の時、タコさんが入ってる友達の弁当が羨ましかったけど。
そう考えて、ふと思い当たった。
「目線……低かった様な気がする」
「夢の中で?」
「ああ。町並みは古い感じで……ほら、昔の和風の家って間口が低いじゃないか。どうかすると頭ぶつけるんじゃないかって位」
「あぁ、静君ならぶつけそうね。縦ばっかり育っちゃってまぁ」人をもやしかかいわれ大根みたいに言うな。
「そんな町並みなのに夢の中の僕にとってはそうじゃなくて、石畳がもっとずっと近くて……。丸で僕が縮んだか、子供に戻ったかって感じなんだ」
「自分の姿は解らないの?」プチトマトが移動して来た。
「何故だか懸命に走ってるし、家の窓も格子が邪魔で鏡にならないし……カーブミラーさえ無かったな。夢だからかな?」
答えが不満だったのかミートボールが去って行った。これも添加物が云々と言ってるけど。
「それで、転ぶ処で目が醒めるの? いつも?」ブロッコリーが来た。げっ、という顔をすると緑黄色野菜も摂らなきゃね、と来たもんだ。確かに赤みの多かった僕の弁当箱はいつの間にか色とりどりになっている。
「そうなんだ」残るメイン食材、唐揚げを死守するべく、言葉を選んで僕は言った。「こう、坂道で勢いが乗って足の方がついて行かなくなる事ってあるじゃないか。あんな感じで、わぁって……」つんのめる様に身を乗り出す。
「なるほどねぇ」取り敢えず唐揚げは守れた様だ。「で、最大の疑問なんだけど、何で走ってるの?」
またもや唐揚げの危機。僕は夢を思い出そうとする。
だけど、夢の始まりなんて厳密に覚えている人が居るのだろうか? いつの間にか夢の中で、いつの間にか走っていたとしか言い様が無い。
「まぁ、夢なんてそんなもんよね」志津子は納得してくれた。「でも、何かに追われてるとか、そんなんじゃあないの?」
怖いものに追われる夢を見て目が醒める。よく聞く定番だが、僕はそんな感じの夢は見た事が無い。寧ろ、夢なんて覚えてない事の方が多い位だ。だから見ていたとしてもそれ程怖いと思ってないのだろう。
なのにこの夢は――連日見るという事もあって――覚えている。それだけに気になるのだ。
「石畳で、坂道で、周りの町並みはちょっと古風で……」志津子はそんな場所に心当たりが無いか、脳内検索している様子。「一山越えた、港方面位しか思い付かないわね」
この街は周囲を山々に囲まれた盆地だけど、北の山を越えるとそこには港が広がっている。道が整備された今ではそこから新鮮な魚も入る。僕達は小学校の時に見学に行った事もあった。
「そう言えばあんな感じだったかも……」その時の事を思い出しながら、僕は頷く。でも、あの時はクラスの皆が一緒だったし、一人で坂道を駆け下りるなんて事もしていない。夕方にはもう街に帰っていたし。勿論、夢なんだから、違っていても不思議はないんだけど。
「あの見学の時より前に行った事って無いの?」デザートのうさぎリンゴが尋ねた。「見学は確か小学校六年の時よね。その頃はもう、静君、背高のっぽだったじゃない。私服だと中学生と間違われる位」
確かに。あの時の目線ではない気がした。もっと低くて、よたよたしていて……足取りも幼かった。でも行った覚えは……ある様な、無い様な……。
曖昧な言葉に、真っ赤な缶詰のチェリーが逃げた。ああ、甘くて好きなのに。
「何かを……追っていたのかも知れない」ふと思い付いて、僕はそう呟いた。
追われる夢ではなくて、追う夢。でも何を?
「港で追うものと言ったら……船?」志津子が小首を傾げる。「もしくは船に乗った人?」
「一体誰を……?」僕は首を捻る。小さい頃、誰かを見送りにでも行ったのだろうか。それも、懸命に負い掛けたくなる様な誰かを。
「まぁ、夢なんだし、それ程真剣に考えなくてもいいんじゃない?」弁当箱をしまいながら、志津子は笑って言った。「それより、ブロッコリー、残さず食べなさいね」
げ。忘れてなかったのか。仕方なく僕はカラフルな弁当を平らげる。ご馳走様。意外にも、苦手な筈の野菜も美味しかった。
そう言うと、志津子は嬉しそうに笑い、じゃあ明日からお弁当はあたしが作って上げると宣(のたま)った。
「え、でも悪いだろ」少し鼻の下が伸びていたかも知れないけど、僕は一応そう言った。
「いいのいいの、序でだし」ひらひらと、志津子は手を振る。そして席を立ちながら呟いた独り言を、僕の耳は聞き逃さなかった。
「前の静君のママみたいに栄養バランスも考えて作って上げられない継母さんより、あたしの方が静君の事、好きだもんね」
港町を去り行く女性の後ろ姿を思い出して蒼くなるやら、志津子の言葉に赤くなるやら……お陰で午後の授業は散々だった。
―了―
風邪で声が出ません! なので会話多め(笑)
と言うか、早く寝ろ、私(爆)
最初は黄泉路でも歩いていたのかと(臨死体験?w
巽さんも風邪ですかー^^;
ゆっくり休んでくださいね_(U_U)_御大事に。
そういう私も鼻がズビズビと・・・早く寝ないと(TT)
黄泉路(よもつひらさか?)で転んだらヤバイでしょうね~^^;
今日は早寝……って、もう日付変わった(笑)
保育園の頃から静君ママの作るお弁当が変わったのもその所為。
告白と言うか呟きが聞こえちゃった(笑)
声は出ないけどなまじ打つのには問題無いからついつい遅く迄……^^;
今回幽霊絡みでもないし。
誰も死んでないもん。未だ。
現在のバランス悪い弁当に身体が危機を覚えて、昔のバランスの良い弁当=母を求めて夢を連日みせさせた…?
もう少し、短編なりに説明が必要かもね
バランス悪くてもタコさんやウサギさんを作るの大変なんだけどなー。でも身体が求めてるなら仕方ないかー
母の面影も朧げな頃なんだろうけど、高校生なんだし母親の事自覚しなきゃね。。
風邪は大丈夫?咳とかする時耳に気をつけてね。くれぐれも無理しないようにね~
と言うより、継母さん、態とバランス悪いお弁当作ってたんだけど。書き方が悪かったのか誰も気付かないや(苦笑)
一人称にしたのが失敗だったかな? 静君が気付かないと書けない(笑)
って、私、ふわりぃさんの夢に出演してましたか(爆)
どんなイメージだったんだろう……(?_?)
この二人が結婚したら嫁姑戦争が勃発しそう^^;
継母なのにお弁当作ってくれるだけいい人ですよ~。しかもタコさんウィンナーいいな♪
うちなんて実母なのに、門限守らない日は夜ご飯だってなかったもん。家のルールを守らない人には何もしてあげませんとかいっちゃって、中学生のときから洗濯も自分でやってたし~。でも、おかげで独立してからも一向に困らなかったので感謝かな(^^♪
継母さん、いい人に見せながら継子を早死にさせる作戦成功中(にやり)
多分戦争になる以前に志津子ちゃんが持ってってくれるのなら熨斗付けてくれると思う(苦笑)
なんて想像しちゃったけど・・・(^▽^笑)♪
そっかぁ~忘れていた記憶だったんだね!
実の母親を追いかけた・・・・・
でも二度目のお母さんも良い人みたいで良かった!
ところで、「たたらを踏んで」と言うところで、
思わず!「まぁ~懐かしい表現!」と叫んでしまったわ!
風邪、お大事にネ!
夜更かししては、あきまへん!
早寝しましょう!
風邪には休養が一番ですよぉ!
「たたらを踏んで」懐かしいですか!(^^;)
そしてやっぱり継母さん、いい人に見られてる……。
栄養士さんにしとけばよかったかな。なのに栄養バランス最悪の弁当を継子に持たせる。だから静君、ひょろひょろだし、志津子ちゃんはそれが気になって悪そうな物を選んで弁当とっ替えてる(笑)
そんな時に話し掛けるお馬鹿には苛付きますな(--;)
箱庭……子供の世界はある意味箱庭かも知れん。
声が出ないけど・・・パソコンには向かえる^^
お弁当の話で終わるんかな~??って、思ってたら、ほんまに終わった。
夢の坂道なんてどうでも良かったのね~^^
何か状況はがほのぼので良いっす(^_^)/~
まぁ、とことん気にし出したら、お高い食材しか使えなくなって、やってけないんだけど。
医食同源。身体に良くない物をそれと知りながら連日摂らせてたら虐待やと思うけど。
よもつひらさかの漢字は咄嗟に出て来なかったけど(普通に変換出来ないし)黄泉路が読めん訳無かろう(笑)
そうです、比良坂です(含む、が正しいかな
でも微妙なニュアンスの違いありますよね。
三途の川とかと被ってるせいでしょうけど^^;
道が先にあるのか坂が先にあるのか、はたまた川か海なのか?
あ、ネタが浮かんだ!w
楽しみにしてますねー♪
何にしてもああいう所って「狭間」ですよね。生と死の狭間。生者と死者の狭間。それだけに面白い。