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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 人形を窓辺に飾るのは止めて頂戴――珍しく直々にやって来た向かいの家のお婆さんは妙に真剣な表情でそう懇願した。
 私は途惑いながらも曖昧に頷く。頷かざるを得ない程、真剣な面持ちだったからだ。
 お婆さんが安心した様子で帰って行くと、私は二階の自分の部屋に上がった。問題の人形はその窓辺に飾ってあるのだ。
 もう十年程も前に母が何処だかの土産で買って来た、陶器の人形。白い肌に亜麻色の髪、青い目。フリルのふんだんに付いた服は、幼い頃の私の憧れでもあった。今では動き易いのが一番と、ラフな格好に終始しているけれど。
 この人形が此処にあると何だって言うんだろう?――人形を抱き上げつつ、私は首を捻った。
 お婆さんは只、此処に飾らないでくれと、丸で呪文の様に繰り返すだけだった。確か未だ六十代だった筈だけど……惚けたんじゃないわよね?
 私は取り敢えず人形をベッドの上に置いて、窓から外を見渡す。
 うちのささやかな前庭、門、道路を挟んでお向かいの門、庭、そして隣の御宅。ほぼ中央に玄関、向かって右手には――換気扇が見えるから――キッチンらしき部屋。そして左側には……窓からお婆さんがこちらを見上げていた。

 ぎくり――何となく私は窓辺から身を引く。鼓動が、早くなる。
 目が合いはしなかった筈だけれど、私が見ていた事には気付いただろう。
 私が頼まれた通りに人形を除けたかどうか、確認していたのだろうか? きっとそう……それだけなのだろう。でも――何故、そこ迄? あの人形が窓辺にあってはいけない、どんな理由があると言うのだろう。
 それに、何故今になって?――向かいの家族が越して来たのはもう三年以上も前の事。以来、特に深い付き合いではないものの、平穏な近所付き合いを続けてきた筈だった。お婆さんにしても、道で会えば挨拶を交わし、時折お孫さんが遊びに来たからと腕を振るい過ぎて余ったと言ってはお裾分けを持って来てくれる、そんな仲だった。そう言えば、最近は来ないけれど。
 そして件の人形はもう十年程、この窓辺に飾られている。
 なのに、何故今更?

 結局窓辺からは見えない箪笥の上を整理して、そこに人形を飾る事にした。理由は解らないけれど、お婆さんが嫌だと言うのなら、敢えて窓辺に拘る理由は私には無い。
 ところがその夜――窓のカーテンを閉めようとして、私はふと、それを目にしてしまった。
 昼間見た窓辺に立って、やはりこちらを見上げている、お婆さんの姿を……。
「!」私は力一杯、カーテンを引いた。窓に背を向け、鼓動が鎮まるのをじっと待つ。
 そうして顔を上げた正面には、問題の人形。何の変哲もない、お人形。
 それの何処に、お婆さんは拘っているのだろうか? それが見えなくなってからも――丸でそれが再び窓辺に現れる事を恐れているかの様に――窺っているなんて。
 その夜は結局、殆ど寝付けない儘、朝を迎えた。

 翌日、向かいの奥さんが訪ねて来たと聞いて、私は途惑った。
「ごめんなさいねぇ」お婆さんの実の娘だと言う彼女は、私の顔を見るなり、頭を垂れた。「母がおかしな事を言ったみたいで……。二週間程前に姪が……別居している妹の娘が急な病で亡くなってから、少し……参ってるみたいなのよ」
「そんな事が……」私は掛ける言葉に詰まる。「さぞ、お辛かったんでしょう。お孫さんが来る度にあんなに楽しそうにお料理作って……。とっても、楽しみにしていたんでしょうに……」
「ええ……。一週間程は落ち込んで、食事も喉を通らない程だったわ。でも、最近は……ある意味、もっと悪いかも知れない」
「……と言うと?」ざわり、胸騒ぎを抑えて、私は尋ねた。
「丸で姪がその場に居るみたいに、話すのよ。姪を亡くしたショックで参ってるんじゃないかと、心配で……。昨日だって窓からこちらのお宅を見上げては、ぶつぶつ言ってたのよ。『駄目よ、まぁちゃん』――まぁちゃんっていうのは姪、政美の愛称なの――『あれはお隣のお姉ちゃんのお人形なの。手を出しちゃ駄目。いつか、私がまぁちゃんのお人形を持って行ってあげるから』……って。確かに生前から姪は貴女のお人形に憧れて、窓から見上げている事があったけれど、丸で今でもそうしているみたいに……。あ、ごめんなさいね、気味の悪い話をして」
 いえ、大丈夫です――そう答えながらも、私の脳裏にはこちらを見上げるお婆さんの姿が去来していた。
 その直ぐ横には、小さな女の子がきらきらした目を人形に向けている……。
 小さな子供特有の素直な欲望をぶつけられたお婆さんは、それでもどうにかそれを抑えようとし、せめて人形が見えない所にあればと、私に人形の移動を頼みに来た――そういう事だったのかも知れない。

 程なくして、お婆さんは亡くなった。
 私のによく似た、フリル一杯のドレスを着たお人形を買った、その翌日だった。

                      ―了―


 怖い話を書こうとすると悲しい話になる……よくある事です!?(^^;)

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無題
怖い話だと思って、ドキドキしちゃったよ~~
子供を魅了するのも、おばあさんを思いつめたのも人形の魔力でしょうね~(;^_^A

私なら、人形位、直ぐに欲しい人にあげちゃうな。怖いしね(笑)
冬猫 2010/05/23(Sun)03:55:26 編集
Re:無題
やっぱり人形は苦手ですか(苦笑)
人形を怖いものにするか、悩んで結局こんな話に……(^^;)
巽(たつみ)【2010/05/23 22:04】
紙で読んでみた^^v
こんにちはー^^

今日は会社のPCでコメントです^^v
・・・お仕事が溜まってて休めないorz
もっとは早くしとけばよかった。。。普段からちゃんとしとけばよかった。。。ブツブツ←物心ついたときから繰り返している念仏ですwwwwwwwwwはぁー;;

で、プリンタ使って、(チラシの裏に)プリントして読みました^^v

PCのモニターで読むのと違って、ものすごく読みやすいwしかも、お目目が疲れない><v

やっぱり、紙の文字は目に優しいですねw
あ、会社の電気代とプリンタ消耗品を使ってしまった。。。
せめて、他のスタッフの人にも読ませてあげよう^^v

。。。お人形。。。おばあちゃんに、あげたら良かったのにwwwwwwww

ではではー^^/
nukunuku URL 2010/05/23(Sun)12:38:16 編集
Re:紙で読んでみた^^v
お疲れ様です!(^^)ゞ
やはり紙の方が目には優しいのですね。これが携帯の画面だと尚更きつい(笑)
早くしとけばいい事が溜まるのは、世の習いですな(笑)
巽(たつみ)【2010/05/23 22:37】
こんにちは(^^)
子どもが欲しがる人形…
その子どもはあちらの世界からじっと…
コワいよ〜w
なんて想像しちゃいました。
おばあさま…成仏なさってくださいませ(人)
つきみぃ URL 2010/05/24(Mon)16:32:34 編集
Re:こんにちは(^^)
子供にジーっと見られると、それだけで何かヤダ(^^;)
巽(たつみ)【2010/05/24 21:29】
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