〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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此処にこうして立ち尽くしていても仕方ない――男は重い溜息だけを残して、踵を返した。
少し前迄、彼がじっと見詰めていたのは焼け落ち、廃墟となった館だった。
石造りの二階建て。一部三階か、屋根裏部屋があったのだろうか、焼け残った柱や壁からその造りは類推出来るが、その面影は最早偲び様もない。硝子を失い、ぽっかりと空いた窓からは煤色の空虚な室内が見て取れる。
もう何年も前に火事に遭ったのだと、数日前に帰国した男は知人から聞かされた。
此処は、男が設計した館だった。
大事な人の為に――大事な人を守る為に。
なのに……男は遣る瀬無い思いで拳を振り上げ、門柱に叩き付けた。痛みが、これが悪夢ではない事を思い知らせてくれる。例え悪夢でも、いっそ夢であれば……そんな希望を捻じ伏せて。
大事な幼馴染でもある彼女と、最後に会ったのは、十年前、男が国を離れる間際だった。
新たな建築様式を学びに行く。そんな口実を拵えて逃げる様に渡航しようとする男に、笑顔で手を振っていた。
素敵な新居を有難う、と。
男は目深に被った帽子で表情を隠して、そっと頭を下げただけだった。その新居に彼女と住むのが自分ではない事への憤りを、決して気取られないように。
仕方ない事だ。彼女は自分の親友を選んだ。男もそれを祝福した。あいつなら任せられる、と。
だから、館の建設にも安全面に於いて出来得る限りの力を尽くした。近くに在って自身の手で守れない分、家が彼女の幸せを守るようにと。
だのに、その館は焼け落ちてしまった。彼女とその夫は煙に撒かれ、遺体で見付かったと言う。二人には息子が一人居たそうだが、幸いにも彼はその日、祖父母の家に泊まりに行っていて無事だったらしい。今は祖父母が面倒を見ているそうだ。
渡航以後、敢えてこちらとの連絡を断っていたのが災いした。今頃知らされるなんて……。やっと、心を落ち着けて二人の――あるいは出来ているかも知れない子供達も含めた家族の――幸せな姿を、見守る事が出来ると思って帰国したと言うのに。
もしかしたら二人は、この館の堅牢さ故に、拡散する事のない煙に巻かれたのではないか?
もしかしたら、自分は心のどこかで望んで、この館を建てたのではないか? 二人を包んだのは、自分の嫉妬の炎だったのではないか?
馬鹿な事を、と思いつつもそんな言葉が脳裏を暴走する。
確かに自分は二人を、特に親友を羨んでいた。お前が居なければ……そう思った事もあった。
建築も一種の作品だ。そして作品には、造り主の思いが時として如実に表れる。
「もしかしたら私は……」頭を抱えて蹲り、男は嗚咽を漏らした。「私が二人を……殺した?」
ぽん、と肩を叩かれた気がした。
振り返り、男は目を瞠った。
後にして来た焼け落ちた館。それが庭木の緑も鮮やかに蘇り、建築当時の姿を見せ――その門前では、彼女とその夫が、笑顔で手を振っていた。
十年前、彼を見送った時の様に、笑顔で。
決して、男の所為ではないのだと。
二人共、男の想いを知っていたが、それ以上に信頼していた。そして、彼はその信頼に応えてくれたのだと。
男の目は涙で滲み――それが晴れた時、そこにはもう焼け落ちた館のみが、夕闇に沈もうとしているだけだった。
数年後、男は独り立ちした友人達の息子の為に家を設計した。
今度こそ、大事な人を守れる、家を。
―了―
暑いー(--;)
纏まらーん!
少し前迄、彼がじっと見詰めていたのは焼け落ち、廃墟となった館だった。
石造りの二階建て。一部三階か、屋根裏部屋があったのだろうか、焼け残った柱や壁からその造りは類推出来るが、その面影は最早偲び様もない。硝子を失い、ぽっかりと空いた窓からは煤色の空虚な室内が見て取れる。
もう何年も前に火事に遭ったのだと、数日前に帰国した男は知人から聞かされた。
此処は、男が設計した館だった。
大事な人の為に――大事な人を守る為に。
なのに……男は遣る瀬無い思いで拳を振り上げ、門柱に叩き付けた。痛みが、これが悪夢ではない事を思い知らせてくれる。例え悪夢でも、いっそ夢であれば……そんな希望を捻じ伏せて。
大事な幼馴染でもある彼女と、最後に会ったのは、十年前、男が国を離れる間際だった。
新たな建築様式を学びに行く。そんな口実を拵えて逃げる様に渡航しようとする男に、笑顔で手を振っていた。
素敵な新居を有難う、と。
男は目深に被った帽子で表情を隠して、そっと頭を下げただけだった。その新居に彼女と住むのが自分ではない事への憤りを、決して気取られないように。
仕方ない事だ。彼女は自分の親友を選んだ。男もそれを祝福した。あいつなら任せられる、と。
だから、館の建設にも安全面に於いて出来得る限りの力を尽くした。近くに在って自身の手で守れない分、家が彼女の幸せを守るようにと。
だのに、その館は焼け落ちてしまった。彼女とその夫は煙に撒かれ、遺体で見付かったと言う。二人には息子が一人居たそうだが、幸いにも彼はその日、祖父母の家に泊まりに行っていて無事だったらしい。今は祖父母が面倒を見ているそうだ。
渡航以後、敢えてこちらとの連絡を断っていたのが災いした。今頃知らされるなんて……。やっと、心を落ち着けて二人の――あるいは出来ているかも知れない子供達も含めた家族の――幸せな姿を、見守る事が出来ると思って帰国したと言うのに。
もしかしたら二人は、この館の堅牢さ故に、拡散する事のない煙に巻かれたのではないか?
もしかしたら、自分は心のどこかで望んで、この館を建てたのではないか? 二人を包んだのは、自分の嫉妬の炎だったのではないか?
馬鹿な事を、と思いつつもそんな言葉が脳裏を暴走する。
確かに自分は二人を、特に親友を羨んでいた。お前が居なければ……そう思った事もあった。
建築も一種の作品だ。そして作品には、造り主の思いが時として如実に表れる。
「もしかしたら私は……」頭を抱えて蹲り、男は嗚咽を漏らした。「私が二人を……殺した?」
ぽん、と肩を叩かれた気がした。
振り返り、男は目を瞠った。
後にして来た焼け落ちた館。それが庭木の緑も鮮やかに蘇り、建築当時の姿を見せ――その門前では、彼女とその夫が、笑顔で手を振っていた。
十年前、彼を見送った時の様に、笑顔で。
決して、男の所為ではないのだと。
二人共、男の想いを知っていたが、それ以上に信頼していた。そして、彼はその信頼に応えてくれたのだと。
男の目は涙で滲み――それが晴れた時、そこにはもう焼け落ちた館のみが、夕闇に沈もうとしているだけだった。
数年後、男は独り立ちした友人達の息子の為に家を設計した。
今度こそ、大事な人を守れる、家を。
―了―
暑いー(--;)
纏まらーん!
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Re:無題
有難う(^-^)♪
うん、私も書きながら思い出してた(笑)
うん、私も書きながら思い出してた(笑)
なんで。。。
やっぱり、耐火性が一番!
ってことは、スペースシャトルにも使われている、耐熱セラミックブロック!
洪水も来るから、深海3000?に使われている耐圧耐水構造で^^/
落雷もあるから、耐電素材で></
台風も来るから、風力工学・航空力学を駆使した、流線型を採用して w(°0°)w ホッホー
地震でも大丈夫なように、装甲分厚くして多層構造・蜂の巣構造にして></
。。。できたー!こ、これは、空母そのものだぁー!
\(^ ^)/ バンザーイ \(^ ^)/ バンザーイ
・・・・な、なんで、ダイワハウスなんだ。。。(~~;)ナンデ?
ってことは、スペースシャトルにも使われている、耐熱セラミックブロック!
洪水も来るから、深海3000?に使われている耐圧耐水構造で^^/
落雷もあるから、耐電素材で></
台風も来るから、風力工学・航空力学を駆使した、流線型を採用して w(°0°)w ホッホー
地震でも大丈夫なように、装甲分厚くして多層構造・蜂の巣構造にして></
。。。できたー!こ、これは、空母そのものだぁー!
\(^ ^)/ バンザーイ \(^ ^)/ バンザーイ
・・・・な、なんで、ダイワハウスなんだ。。。(~~;)ナンデ?
Re:なんで。。。
建築費が大変な事になりそうですが(笑)
てか、いっそ宇宙船!?
てか、いっそ宇宙船!?
感想^^w
こんにちはー^^
よくよく、考えたら、わたし、感想ぜんぜん、言ってなかったですよね^^;;;;;w
ごめんなさいぃぃぃぃぃーーーーー><;;;;
っということで^^w
やっぱり、エマンジェンシールームみたいなのがいるよね^^v
なんか、そういう映画があったなぁー。。。題名が思い出せない^^;www
いざって時に、逃げ込めば、中からしか開けられない^^v
これで、火事になろうが泥棒が入ろうが、地震で家が崩れようが、大丈夫^^v
そういう部屋を作っておけば良かったんだ^^v
・・・あれ?感想文になってないような。。。^^;;;;;;
やっぱり、ごめんなさぁぁぁぁーーーい(T_T) ウルウル
。。。なんで、ダイワハウスなんだ w(°0°)w ホッホー
よくよく、考えたら、わたし、感想ぜんぜん、言ってなかったですよね^^;;;;;w
ごめんなさいぃぃぃぃぃーーーーー><;;;;
っということで^^w
やっぱり、エマンジェンシールームみたいなのがいるよね^^v
なんか、そういう映画があったなぁー。。。題名が思い出せない^^;www
いざって時に、逃げ込めば、中からしか開けられない^^v
これで、火事になろうが泥棒が入ろうが、地震で家が崩れようが、大丈夫^^v
そういう部屋を作っておけば良かったんだ^^v
・・・あれ?感想文になってないような。。。^^;;;;;;
やっぱり、ごめんなさぁぁぁぁーーーい(T_T) ウルウル
。。。なんで、ダイワハウスなんだ w(°0°)w ホッホー
Re:感想^^w
『パニックルーム』かな?
侵入者が居て、逃げ込んだものの、外に連絡出来ない……みたいな(・・∥)
中からしか開けられない構造で、もし外から瓦礫なんかで塞がれちゃったら……どうすべ?( ̄▽ ̄∥)
侵入者が居て、逃げ込んだものの、外に連絡出来ない……みたいな(・・∥)
中からしか開けられない構造で、もし外から瓦礫なんかで塞がれちゃったら……どうすべ?( ̄▽ ̄∥)
Re:おはようございます♪
ですね~(^^;)
そこ迄は如何な建築家でもどうしようもない(苦笑)
そこ迄は如何な建築家でもどうしようもない(苦笑)
無題
うーん、切ないお話ですね。
外からの延焼や冷暖房のロスをなくすために気密性を高めると、逆に万が一内部で火災が起きたら、すぐに高温となり普通の設計より逃げる暇がないそうです。難しいところですな。
火事に備えるならいっそ水中家ってのはどうだろ(笑)
外からの延焼や冷暖房のロスをなくすために気密性を高めると、逆に万が一内部で火災が起きたら、すぐに高温となり普通の設計より逃げる暇がないそうです。難しいところですな。
火事に備えるならいっそ水中家ってのはどうだろ(笑)
Re:無題
水中(^^;)
梅雨でなくとも湿気には要注意かも!?
洗濯物が干せないので乾燥機は必須ですね。
梅雨でなくとも湿気には要注意かも!?
洗濯物が干せないので乾燥機は必須ですね。