〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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昨日内海と一緒に、警報を発すればよかったのだろうか?
そうすれば皆が信じてくれて、結果、今の様な事態にはならなかったのだろうか。同級生でも内海は僕と違って真面目な正直者で通っている。彼の言葉なら先生達も信じたかも知れない。
でも……僕は僕の言葉を、信じて欲しかったんだ……。
大型の低気圧が運んで来た雲はうんざりする程の雨を降らせて行った。
郊外に建てられたこの施設も、数日間に亘って雨に閉ざされ、僕達は退屈し切っていた。
此処は小規模だけど、所謂孤児や、訳ありの子供達を保護している施設だった。中学二年生の僕や内海は今では古株だろうか。今迄にそれぞれの居場所を見付けて巣立って行った上級生達が僕達にそうしてくれてきた様に、僕達は先生を手伝って幼い子供達の面倒を見る。
でも、僕は内海程には真面目な子供ではなかった。
やっと雲が切れた昨日、ちび達の世話を内海に任せ、僕は久し振りの探検を楽しんだ。
探検――そう言いたくなる程に、施設の裏手に迫った山は起伏に富んで、食べられる実を付ける植物も繁茂していて、僕達には格好の遊び場だった。
長雨に打たれた葉は未だ重たそうに頭を垂れ、雫を落としていたけれど、僕は態とそれを揺らして降り掛かる雫を天然のシャワーの様に楽しんだ。見上げると抜ける様な青空に雫がキラキラと光り、綺麗だった。
服が濡れてしまった事もあり、汚れても構うものかと僕は泥だらけの斜面に迄脚を伸ばした。此処は施設の真裏に位置するものの、雑木林を挟んでいる為に殆ど見えない。そこに立つ小さな崖には綺麗な縞模様の地層が浮き出ていて、時には貝の化石が見付かる事もある。それはちび達へのちょっとしたお土産にもなった。
その斜面と崖に違和感を感じて、僕は脚を止めた。
長雨の所為で地面は水を含み、崖も所々洗われてしまっている。それはいつもの雨上がりの光景だったけれど……あんなに濁った水が崖の面から染み出していただろうか?
僕は眉を顰めて崖を見上げた。慣れた遊び場の筈なのに、覆い被さってくる様な威圧感と危機感を感じる。僕の脳裏を、この時期に耳にする事の多いニュースが去来した。
もし、この崖が崩れたら? 大量の水を含み、それを支え切れずに……。此処は施設の真裏だ。此処が崩れれば……。
僕は一目散に、施設に取って返した。
内海に相談する事を、僕は考えた。彼ならこの漠然とした不安感を巧く言葉にし、先生達に伝えてくれるかも知れない。何より、僕の言葉では先生達が信じてくれるかどうか……。
いや、今だけでも信じて欲しい。信じてくれるだろう――僕は思い切って、一人で先生の元へと走った。
「どうしたの? その格好は」僕を一目見るなり、先生はそう言って眉を顰めた。
けど、僕には泥だらけの靴や濡れた服なんかより、最優先すべき事があった。
「先生! 裏山から水が出てるんだ。もしかしたら崩れるかも知れない!」
「裏山? またあんな所迄行っていたのね。弟や妹達の世話は内海君に押し付けて」
違う、今はそんな事を話したいんじゃない。お説教なんか後で聞くから――僕はもどかしさに身動ぎして、更に声を上げた。
「先生! 裏山が……! この間からの雨の所為だよ、きっと! 早く逃げないと……!」
「そんな事が貴方に解るの?」失笑を含んだその声に、僕は口を噤んだ。「あの雨の後だもの、地下に滲み込んだ水が染み出してる事もあるでしょうよ。だからって直ぐにそれだけで崩れるなんて……。いつも言ってるでしょう、人騒がせな言葉や、嘘はお止めなさいって」
僕は内海程には真面目な子供じゃなかった。
先生達や皆の気を引きたくて、ちょっとした事で大騒ぎしたり、嘘を言った事もあった。先生が読書の時間に「おおかみ少年」の話を読むと、皆がこっそり僕を見て笑っていた――そんな子供だった。
けど、それでも信じて欲しかったんだ。真剣な言葉なら、信じてくれるって思いたかった。
でも……。
僕はテレビの前で、昨日迄暮らしていた施設の空撮映像を見ていた。それは土砂に覆われ、屋根と、二階の壁が辛うじて確認出来る程度だった。皆で遊んだ運動場や、実に野菜を育てていた小さなビニールハウス、そんなものは影も見えない。
「見ているのは辛くないかい?」夜中に施設を出て歩いてる子供を保護してくれたお巡りさんが、そっと気遣ってくれた。施設裏の崖は真夜中過ぎに、崩れたらしい。崩落を確認したのはこのお巡りさんだった。「保護した事を施設に連絡しようとしたら通じなくて、どうした事かと見に行ったら……。いや、不幸中の幸いだったと言うべきだろうな――君達、子供だけでも全員が助かったのは」
僕は夜中に無理矢理起こして連れ出した所為だろう、テレビのニュースどころじゃなく眠りに落ちているちび達の寝顔を眺めて、ふっと微笑んだ。
僕に焚き付けられて訳が解らない内に子供だけの避難を手伝わされた内海は、どこか非難する様な目で僕を見ていたけれど。
―了―
や、日頃の信用は大事ですな☆
そうすれば皆が信じてくれて、結果、今の様な事態にはならなかったのだろうか。同級生でも内海は僕と違って真面目な正直者で通っている。彼の言葉なら先生達も信じたかも知れない。
でも……僕は僕の言葉を、信じて欲しかったんだ……。
大型の低気圧が運んで来た雲はうんざりする程の雨を降らせて行った。
郊外に建てられたこの施設も、数日間に亘って雨に閉ざされ、僕達は退屈し切っていた。
此処は小規模だけど、所謂孤児や、訳ありの子供達を保護している施設だった。中学二年生の僕や内海は今では古株だろうか。今迄にそれぞれの居場所を見付けて巣立って行った上級生達が僕達にそうしてくれてきた様に、僕達は先生を手伝って幼い子供達の面倒を見る。
でも、僕は内海程には真面目な子供ではなかった。
やっと雲が切れた昨日、ちび達の世話を内海に任せ、僕は久し振りの探検を楽しんだ。
探検――そう言いたくなる程に、施設の裏手に迫った山は起伏に富んで、食べられる実を付ける植物も繁茂していて、僕達には格好の遊び場だった。
長雨に打たれた葉は未だ重たそうに頭を垂れ、雫を落としていたけれど、僕は態とそれを揺らして降り掛かる雫を天然のシャワーの様に楽しんだ。見上げると抜ける様な青空に雫がキラキラと光り、綺麗だった。
服が濡れてしまった事もあり、汚れても構うものかと僕は泥だらけの斜面に迄脚を伸ばした。此処は施設の真裏に位置するものの、雑木林を挟んでいる為に殆ど見えない。そこに立つ小さな崖には綺麗な縞模様の地層が浮き出ていて、時には貝の化石が見付かる事もある。それはちび達へのちょっとしたお土産にもなった。
その斜面と崖に違和感を感じて、僕は脚を止めた。
長雨の所為で地面は水を含み、崖も所々洗われてしまっている。それはいつもの雨上がりの光景だったけれど……あんなに濁った水が崖の面から染み出していただろうか?
僕は眉を顰めて崖を見上げた。慣れた遊び場の筈なのに、覆い被さってくる様な威圧感と危機感を感じる。僕の脳裏を、この時期に耳にする事の多いニュースが去来した。
もし、この崖が崩れたら? 大量の水を含み、それを支え切れずに……。此処は施設の真裏だ。此処が崩れれば……。
僕は一目散に、施設に取って返した。
内海に相談する事を、僕は考えた。彼ならこの漠然とした不安感を巧く言葉にし、先生達に伝えてくれるかも知れない。何より、僕の言葉では先生達が信じてくれるかどうか……。
いや、今だけでも信じて欲しい。信じてくれるだろう――僕は思い切って、一人で先生の元へと走った。
「どうしたの? その格好は」僕を一目見るなり、先生はそう言って眉を顰めた。
けど、僕には泥だらけの靴や濡れた服なんかより、最優先すべき事があった。
「先生! 裏山から水が出てるんだ。もしかしたら崩れるかも知れない!」
「裏山? またあんな所迄行っていたのね。弟や妹達の世話は内海君に押し付けて」
違う、今はそんな事を話したいんじゃない。お説教なんか後で聞くから――僕はもどかしさに身動ぎして、更に声を上げた。
「先生! 裏山が……! この間からの雨の所為だよ、きっと! 早く逃げないと……!」
「そんな事が貴方に解るの?」失笑を含んだその声に、僕は口を噤んだ。「あの雨の後だもの、地下に滲み込んだ水が染み出してる事もあるでしょうよ。だからって直ぐにそれだけで崩れるなんて……。いつも言ってるでしょう、人騒がせな言葉や、嘘はお止めなさいって」
僕は内海程には真面目な子供じゃなかった。
先生達や皆の気を引きたくて、ちょっとした事で大騒ぎしたり、嘘を言った事もあった。先生が読書の時間に「おおかみ少年」の話を読むと、皆がこっそり僕を見て笑っていた――そんな子供だった。
けど、それでも信じて欲しかったんだ。真剣な言葉なら、信じてくれるって思いたかった。
でも……。
僕はテレビの前で、昨日迄暮らしていた施設の空撮映像を見ていた。それは土砂に覆われ、屋根と、二階の壁が辛うじて確認出来る程度だった。皆で遊んだ運動場や、実に野菜を育てていた小さなビニールハウス、そんなものは影も見えない。
「見ているのは辛くないかい?」夜中に施設を出て歩いてる子供を保護してくれたお巡りさんが、そっと気遣ってくれた。施設裏の崖は真夜中過ぎに、崩れたらしい。崩落を確認したのはこのお巡りさんだった。「保護した事を施設に連絡しようとしたら通じなくて、どうした事かと見に行ったら……。いや、不幸中の幸いだったと言うべきだろうな――君達、子供だけでも全員が助かったのは」
僕は夜中に無理矢理起こして連れ出した所為だろう、テレビのニュースどころじゃなく眠りに落ちているちび達の寝顔を眺めて、ふっと微笑んだ。
僕に焚き付けられて訳が解らない内に子供だけの避難を手伝わされた内海は、どこか非難する様な目で僕を見ていたけれど。
―了―
や、日頃の信用は大事ですな☆
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こんにちは
子供達だけ助かったの?
ってことは、また余所にやられるのかい?
それもまた憐れですな。
ところで、巽は色んなものに変身するんだね。(笑)
いっそのこと、“たつみ”って名前の人物、創った方がよくないかい?(笑)
ってことは、また余所にやられるのかい?
それもまた憐れですな。
ところで、巽は色んなものに変身するんだね。(笑)
いっそのこと、“たつみ”って名前の人物、創った方がよくないかい?(笑)
Re:こんにちは
流石に巽でその儘使うのも微妙~な感じが(^^;)
Re:今年は
大人の対応、言葉は思っている以上に子供に影響を与えますよね~。
普段の行いがあって、それを諌める言葉でも、タイミングによっては只相手を傷付けるだけになっちゃったりしますし。
普段の行いがあって、それを諌める言葉でも、タイミングによっては只相手を傷付けるだけになっちゃったりしますし。
Re:こんにちは♪
子供達には罪は無い!――ので全員救助^^
日頃の行い……よっぽどだったんでしょうね(^^;)
日頃の行い……よっぽどだったんでしょうね(^^;)
Re:土砂ってなに?
土と砂。