〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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窓を閉めては駄目、と秋代は言った。
既に季節は晩秋。二階にある部屋の窓からは今も、夕方の冷たい風が吹き込んでいると言うのに。
「風邪ひいちゃうよ? 窓が開いた儘じゃ暖房も効かないし」僕は彼女に言った。
だが、大して厚着もしておらず、何より冷え切った手がかじかんでいるのが傍目にも判ると言うのに、彼女は頭を振った。
「駄目なの。閉めたら……聞こえなくなるの」そっと耳をそばだてる仕草をして微笑み、彼女は言った。
「聞こえなくなる? 何を聞いてるんだ?」釣られる様に、僕も耳を澄ます。
聞こえてくるのは風が街路樹の枝葉を揺らす音、車の走行音、帰り道を急ぐ子供達の声……。彼女が聞き入る様なものがあるのだろうか?
「歌よ」秋代は笑った。
「歌?」僕は首を捻った。そんなものは聞こえなかったが……。「どんな?」
「私と同じ人間が出しているとは思えない程、とても綺麗なソプラノ……外国語みたいで、歌詞は解らないんだけど……ずっと聞いていたい」丸で夢でも見る様な表情で、秋代は窓辺に耳を傾けた。
僕には相変わらず、どれだけ耳を澄ませても歌など――歌の様に聞こえる物音さえも――捉えられなかったけれど。
秋代はそれからもずっと、窓を開けていた。流石に夜には僕が無理矢理にでも閉めたけれど。
いや、それ以前にそんな夜中に迄聞こえる歌って……おかしくないか?
からかわれているのだろうかとも思ったけれど、冷たい風に身を縮こまらせる思いをして迄、幼馴染みの僕をからかう理由が何処にあるだろう。
しかし例え件の歌い手が一人ではなかったとしても、四六時中歌い続けているなんて事があるだろうか?
僕はその疑問を、秋代にぶつけた。
「本当は何を聞いているんだ? 僕には歌なんて聞こえないし、ずっと歌い続けてるなんておかしいだろ。本当に歌を聴いているって言うのなら、これだけ聴いているんだ、歌詞は解らなくてもメロディーをハミングする位は出来るんじゃないか? 聞かせてくれよ」
秋代は、僕が聞こえないと言うのが不思議でならないといった顔で、僕を見詰めた。
しかしその口からハミングが漏れる事は無く、彼女は首を捻り、冷たい風に掠れた声で言った。
「おかしいわね。もうずっと同じ歌を聴いていると思ったけれど……思い返そうとすると思い出せないわ。だから余計に直接聴きたくて、窓を……」
僕はばたんと激しい音を立てて、窓を閉めた。
そして彼女を振り返り、呻く。
「あからさまに怪しいだろ、それは」
きょとんとしながらも、彼女は頷いた。
結局それが何だったのかは解らない儘だったけれど、取り敢えず馬鹿は兎も角天然ボケは風邪ひきそうだったので、あれ以来何も聞こえてこなくなったらしいのは喜ばしい事だろう。
妖魔に化かされてる間は不条理に気付かない事も多いからな――とは知り合いのオカルトマニアの弁だった。
ところで……この間から矢鱈耳に付く、何の楽器とも知れない、しかし心躍る音色は何だろう?
窓、閉めたくないな……。
―了―
何だったんでしょうね?(←おい)
歌声で人を惑わせると言えば、ローレライとか、ハーピィとか。
しかし風邪をひかせてどないする気やねん(笑)
既に季節は晩秋。二階にある部屋の窓からは今も、夕方の冷たい風が吹き込んでいると言うのに。
「風邪ひいちゃうよ? 窓が開いた儘じゃ暖房も効かないし」僕は彼女に言った。
だが、大して厚着もしておらず、何より冷え切った手がかじかんでいるのが傍目にも判ると言うのに、彼女は頭を振った。
「駄目なの。閉めたら……聞こえなくなるの」そっと耳をそばだてる仕草をして微笑み、彼女は言った。
「聞こえなくなる? 何を聞いてるんだ?」釣られる様に、僕も耳を澄ます。
聞こえてくるのは風が街路樹の枝葉を揺らす音、車の走行音、帰り道を急ぐ子供達の声……。彼女が聞き入る様なものがあるのだろうか?
「歌よ」秋代は笑った。
「歌?」僕は首を捻った。そんなものは聞こえなかったが……。「どんな?」
「私と同じ人間が出しているとは思えない程、とても綺麗なソプラノ……外国語みたいで、歌詞は解らないんだけど……ずっと聞いていたい」丸で夢でも見る様な表情で、秋代は窓辺に耳を傾けた。
僕には相変わらず、どれだけ耳を澄ませても歌など――歌の様に聞こえる物音さえも――捉えられなかったけれど。
秋代はそれからもずっと、窓を開けていた。流石に夜には僕が無理矢理にでも閉めたけれど。
いや、それ以前にそんな夜中に迄聞こえる歌って……おかしくないか?
からかわれているのだろうかとも思ったけれど、冷たい風に身を縮こまらせる思いをして迄、幼馴染みの僕をからかう理由が何処にあるだろう。
しかし例え件の歌い手が一人ではなかったとしても、四六時中歌い続けているなんて事があるだろうか?
僕はその疑問を、秋代にぶつけた。
「本当は何を聞いているんだ? 僕には歌なんて聞こえないし、ずっと歌い続けてるなんておかしいだろ。本当に歌を聴いているって言うのなら、これだけ聴いているんだ、歌詞は解らなくてもメロディーをハミングする位は出来るんじゃないか? 聞かせてくれよ」
秋代は、僕が聞こえないと言うのが不思議でならないといった顔で、僕を見詰めた。
しかしその口からハミングが漏れる事は無く、彼女は首を捻り、冷たい風に掠れた声で言った。
「おかしいわね。もうずっと同じ歌を聴いていると思ったけれど……思い返そうとすると思い出せないわ。だから余計に直接聴きたくて、窓を……」
僕はばたんと激しい音を立てて、窓を閉めた。
そして彼女を振り返り、呻く。
「あからさまに怪しいだろ、それは」
きょとんとしながらも、彼女は頷いた。
結局それが何だったのかは解らない儘だったけれど、取り敢えず馬鹿は兎も角天然ボケは風邪ひきそうだったので、あれ以来何も聞こえてこなくなったらしいのは喜ばしい事だろう。
妖魔に化かされてる間は不条理に気付かない事も多いからな――とは知り合いのオカルトマニアの弁だった。
ところで……この間から矢鱈耳に付く、何の楽器とも知れない、しかし心躍る音色は何だろう?
窓、閉めたくないな……。
―了―
何だったんでしょうね?(←おい)
歌声で人を惑わせると言えば、ローレライとか、ハーピィとか。
しかし風邪をひかせてどないする気やねん(笑)
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無題
どもども!
あぁ、年を取ると共に聞こえなくなる高ヘルツの歌っすね!
私も毎日聴いていますんで、年寄りじゃないって証拠かも♪(笑)
流石に窓は閉め切ってますが…、キャットドアから隙間風がピューピューですんでw
あぁ、年を取ると共に聞こえなくなる高ヘルツの歌っすね!
私も毎日聴いていますんで、年寄りじゃないって証拠かも♪(笑)
流石に窓は閉め切ってますが…、キャットドアから隙間風がピューピューですんでw
Re:無題
猫バカさんが聞いてるのがモスキート音か耳鳴りかは置いといて(笑)
猫バカさん地方の隙間風って相当冷たそう!(>_<)
猫バカさん地方の隙間風って相当冷たそう!(>_<)
Re:実は
体温は確実に奪われてますね(笑)
歌好き幽霊さん、終いに自分が喉嗄れたりして。
歌好き幽霊さん、終いに自分が喉嗄れたりして。
歌好き?
単なる歌好きの妖怪で、自慢の喉を聞かせたいだけだったりして(笑)
えーっと
『取り敢えず馬鹿は兎も角天然ボケは風邪ひきそうだったので』
って文章が少しわかりにくいんですが…何でしょ?
漢字は読めたよ。念のため。
えーっと
『取り敢えず馬鹿は兎も角天然ボケは風邪ひきそうだったので』
って文章が少しわかりにくいんですが…何でしょ?
漢字は読めたよ。念のため。
Re:歌好き?
うましかはうさぎもつの……じゃなくて(笑)
バカは風邪ひかないって言うけど、天然ボケの人はひきそうだったので、という事で。
要するに秋代さんが天然ボケだと(笑)
バカは風邪ひかないって言うけど、天然ボケの人はひきそうだったので、という事で。
要するに秋代さんが天然ボケだと(笑)
Re:こんにちは♪
パン……微かに蹄の音もしてたりして(^^;)
何か妖っぽい(笑)
何か妖っぽい(笑)
こんにちは
死神にとりつかれた?(笑)
徐々に体力を奪っていって・・・。
それでも、夢から覚めず・・・。ってか。
>冬猫さん
多分、「馬鹿と呼んでしまうのは兎も角、天然ボケと呼んで差し支えないだろう幼馴染は~」ってことじゃない?
徐々に体力を奪っていって・・・。
それでも、夢から覚めず・・・。ってか。
>冬猫さん
多分、「馬鹿と呼んでしまうのは兎も角、天然ボケと呼んで差し支えないだろう幼馴染は~」ってことじゃない?
Re:こんにちは
afoolさん、解説有難うm(_ _)m(←解説要る様じゃあかんだろう、おい)
あの儘聴き続けていたら……少なくとも確実に風邪ひいたね!(笑)
あの儘聴き続けていたら……少なくとも確実に風邪ひいたね!(笑)
Re:こんばんは!
これからまだ寒くなりますからね~。
風邪にも妖しい歌声にもご注意下さいね(^^)ノ
風邪にも妖しい歌声にもご注意下さいね(^^)ノ
Re:こんばんは
いやいや、やはり彼女は天然ボケという事で(笑)
Re:afoolさん
解説が要る話で済みません(^^;)