〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「どうして和兄ちゃんは居ないの?」姿を見せるなり、予想通りの膨れっ面で菜緒子はそう言った。如何にも不機嫌そうに腰に手を当て、小さな身体を反り返らせる様にして、僕を睨んでいる。「今日が何の日か、忘れてないわよね?」
和兄ちゃん、というのは僕の兄、和志の事だ。そしてこの菜緒子は僕達の従妹に当たる。
だから今日だけは家に居ろって言ったのに――内心舌打ちするも、兄貴は携帯もマナーモードにしているだろう。しかし、よりによって、やっと出来た彼女の誕生日がこの日とは……。誕生日のデート、そういった記念日に、女性は特に拘るんだよなぁ。
「今日が何の日か、わ・す・れ・て・ないわよねぇ?」菜緒子は再度、言った。本当、拘るよなぁ。
「忘れてない、忘れてない」僕は内心うんざりしながらも、宥める。「忘れる訳ないだろ?」
それならいいのよ、とばかりに菜緒子はちょっと視線を和らげる。
「それで、和兄ちゃんはどうして居ないの?」やっぱりそこに戻るのか。
かつて、よく遊んでいた小さい頃から、菜緒子は特に兄貴を慕っていた。だから偶に会えるこの日に、是非とも兄貴に居て欲しいのだろうけど……。
この菜緒子に兄貴には彼女が出来たから、なんて言った日には手が付けられない程、激昂しそうだ。あるいは厄介な事にならないとも限らない。
「なぁ、菜緒子。今日がお前にとっても大事な日だっていうのは、僕もよく解ってる心算だよ。けど……あれからもう何年も経ってるんだ。兄貴も僕も、ずっと同じ所に立ち止まっていられる訳じゃない。菜緒子には酷な言い方になるかも知れないけれど……そろそろ、好きにさせてやってくれないか?」僕はやんわりと言った。
「……」菜緒子はまた、僕を睨む。「詰まり、和兄ちゃんには、あたしに構っていられない用事が出来たって事ね?」
「そう……だな」僕は頷いた。この儘彼女と付き合いが続けば、この日は兄貴にとって、今迄とは別の意味を持つ日になるだろう。そうなればやはり、いつ迄もこの小さな従妹に構ってはいられない。
「それで? 康兄ちゃんはこうしてていいの?」
「う……。残念ながら……」生憎、別の日を誕生日とする彼女も、僕には居ない。
駄目ねぇ、と言いたげな生意気な笑顔を浮かべて、菜緒子は肩を竦めて見せた。
「いいわ。今度からは康兄ちゃんに会いに来たげる。あたしなんかに構ってられなくなる迄ね」そう言って、菜緒子はこちらを向いた儘、一歩二歩と後ろに下がり――ふと、声を潜めた。「あ、それとね……」
「ん?」僕は耳を澄ます。
と――。
「彼女が出来たんなら出来たって言いなさいよ!」大声で怒鳴られた。「お見通しなんだからね! あたしが邪魔するとでも思ってんの? 見縊らないで頂戴!」
「わ、解った……。悪かった」耳を押さえつつ、僕は謝る。
「全く……」一丁前に、嘆息してみせる。そしてふと、微笑んだ。「これでも二人の守護天使目指してるんだからね。いつ迄も子供の姿だからって、子ども扱いしないで頂戴――生きてたら今頃、康兄ちゃんのお義姉さんだったかも知れないんだからね。じゃ、また来年ね」
九歳で亡くなった、ちょっと生意気な僕達の従妹は、そう言ってやや寂しげな笑みを残すと、ふっと姿を消した。
「……」僕はそっと、蝋燭の立ち消えた仏壇に手を合わせた。
今日は彼女の命日――その短い人生最後の、記念日だった。
―了―
短めに行ってみよう!
和兄ちゃん、というのは僕の兄、和志の事だ。そしてこの菜緒子は僕達の従妹に当たる。
だから今日だけは家に居ろって言ったのに――内心舌打ちするも、兄貴は携帯もマナーモードにしているだろう。しかし、よりによって、やっと出来た彼女の誕生日がこの日とは……。誕生日のデート、そういった記念日に、女性は特に拘るんだよなぁ。
「今日が何の日か、わ・す・れ・て・ないわよねぇ?」菜緒子は再度、言った。本当、拘るよなぁ。
「忘れてない、忘れてない」僕は内心うんざりしながらも、宥める。「忘れる訳ないだろ?」
それならいいのよ、とばかりに菜緒子はちょっと視線を和らげる。
「それで、和兄ちゃんはどうして居ないの?」やっぱりそこに戻るのか。
かつて、よく遊んでいた小さい頃から、菜緒子は特に兄貴を慕っていた。だから偶に会えるこの日に、是非とも兄貴に居て欲しいのだろうけど……。
この菜緒子に兄貴には彼女が出来たから、なんて言った日には手が付けられない程、激昂しそうだ。あるいは厄介な事にならないとも限らない。
「なぁ、菜緒子。今日がお前にとっても大事な日だっていうのは、僕もよく解ってる心算だよ。けど……あれからもう何年も経ってるんだ。兄貴も僕も、ずっと同じ所に立ち止まっていられる訳じゃない。菜緒子には酷な言い方になるかも知れないけれど……そろそろ、好きにさせてやってくれないか?」僕はやんわりと言った。
「……」菜緒子はまた、僕を睨む。「詰まり、和兄ちゃんには、あたしに構っていられない用事が出来たって事ね?」
「そう……だな」僕は頷いた。この儘彼女と付き合いが続けば、この日は兄貴にとって、今迄とは別の意味を持つ日になるだろう。そうなればやはり、いつ迄もこの小さな従妹に構ってはいられない。
「それで? 康兄ちゃんはこうしてていいの?」
「う……。残念ながら……」生憎、別の日を誕生日とする彼女も、僕には居ない。
駄目ねぇ、と言いたげな生意気な笑顔を浮かべて、菜緒子は肩を竦めて見せた。
「いいわ。今度からは康兄ちゃんに会いに来たげる。あたしなんかに構ってられなくなる迄ね」そう言って、菜緒子はこちらを向いた儘、一歩二歩と後ろに下がり――ふと、声を潜めた。「あ、それとね……」
「ん?」僕は耳を澄ます。
と――。
「彼女が出来たんなら出来たって言いなさいよ!」大声で怒鳴られた。「お見通しなんだからね! あたしが邪魔するとでも思ってんの? 見縊らないで頂戴!」
「わ、解った……。悪かった」耳を押さえつつ、僕は謝る。
「全く……」一丁前に、嘆息してみせる。そしてふと、微笑んだ。「これでも二人の守護天使目指してるんだからね。いつ迄も子供の姿だからって、子ども扱いしないで頂戴――生きてたら今頃、康兄ちゃんのお義姉さんだったかも知れないんだからね。じゃ、また来年ね」
九歳で亡くなった、ちょっと生意気な僕達の従妹は、そう言ってやや寂しげな笑みを残すと、ふっと姿を消した。
「……」僕はそっと、蝋燭の立ち消えた仏壇に手を合わせた。
今日は彼女の命日――その短い人生最後の、記念日だった。
―了―
短めに行ってみよう!
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Re:こんばんは♪
言動は当時の儘を心掛けつつ(笑)
子供の儘だと、本当厄介でしょうねぇ(^^;)
子供の儘だと、本当厄介でしょうねぇ(^^;)
Re:こんばんは♪
菜緒子ちゃん、いつ成仏するんでしょう(笑)
本人的には見守ってる心算!?
本人的には見守ってる心算!?
Re:こんにちは
ちぃっ、予想してたか☆
や、願ってるんですよ? でも忘れられるのも寂しいなという、幽霊心(笑)
や、願ってるんですよ? でも忘れられるのも寂しいなという、幽霊心(笑)
Re:こんばんは
きゃ~三(゜□゜;)ノノ
(笑)
(笑)