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突然の驟雨に思わず駆け込んだのは、古びたバスの待合所だった。他愛ない落書きや放置されたゴミはあるものの、雨が降り込まない程度の屋根もあれば、ベンチもある。僕はバッグから取り出したタオルで、濡れた髪を拭きながら、一時、自転車のペダルを漕ぐ事に疲れた脚を休める事にした。
待合所の背後には、今さっき僕が出て来た雑木林。目の前には一面の畑が広がっている。壁に貼られていた時刻表を見れば、次のバスが来るのは二時間後――本当に僻地に来たもんだ。
そんな僻地に態々来たのは、この雑木林の中に建つと言う一軒の廃墟を求めての事だった。
廃墟マニア――人からそう呼ばれるのには些か抵抗があるけれど、そういった場所に惹かれ、そこに足を踏み入れ、空気を嗅ぎ、写真を撮りたいと思う僕は……やはり、そうなのだろう。
人里離れた廃墟。その中には曰く付きの物件もあったり、事実は兎も角血腥い噂の舞台となった場所もある。そんな所に一人で出掛けるのは怖くないのかと、友人に訊かれる事もあった。全然怖くない、と言ったら流石にちょっと、嘘と言うか、自分を騙している事になる。そういった場所への訪問は現実的な意味でも、好ましくない連中の溜まり場になっていたり、建物が傷んでいたりと、危険を伴う。それに何より、やはり周囲より冷たい空気を感じる……。けれどそれもまた、廃墟の味わいなのだと、僕は言い切っていた。
そしてネットで同好の士から情報を集め、愛用のマウンテンバイクを駆って来たのが今日の朝。早朝に隣町の宿を発ち、山道を飛ばして此処迄来たのだ。
ところが目的の雑木林に入り、何時間彷徨った事か、結局件の廃墟には辿り着けずに出て来た所を雨に降られたのだった。ついてない。
雑木林は木々の枝も下生えも放置状態で見通しが悪い事、この上ない。話に聞いた廃墟は木造築数十年といった所で、朽ちたり蔦に覆われていたりという証言もあった。けれど、林は所詮林、足元の悪さと疲れに内部の広さを実際以上に感じるものの、こうして外から見ればたかが知れている。なのに何時間も彷徨って見付からないなんて……真逆、担がれたのだろうか。それとも情報が古く、廃墟はこの林の一部に還ってしまったのか?
ともあれ、この雨ではあの見通しも足下も悪い林に戻るのは無理だろう。隣町にもう一泊して、という事も考えたが、生憎と明日の夕方にはバイトが入っている。帰宅の足を考えると、今日しか時間はなかった。
仕方ない、一旦は帰って再度情報を確かめてからリベンジするか――恨めしげに黒い雨雲を見上げ、僕は嘆息した。もしガセだったら……あいつら、覚えてろ?
それにしてもある程度絡みのあった奴等は兎も角、全く知らないハンネの奴等迄、同じ情報を持ってきたなぁ。彼等も騙された口なんだろうか? それとも……。
僕は性懲りもなく、背後の壁に開いた窓から窺える、暗い林を振り返った。
そして、思わず雨の中に――いや、雨が降っている事などすっかり忘れて――路上に転がる様に飛び出した。車も碌に通らない道だったのは幸いと言うべきだろうか。
古い木枠の硝子窓、その向こうにあったのはさっき迄幾ら捜しても見付からなかった、廃墟らしき建物。但しそれは異常に近く、殆どこの待合所の裏手に見えていた――あり得ない。そして何より、その廃墟の窓には、青白い鬼火が乱舞している。
ヤバイ場所だ、と感じた。こういった廃墟には曰く付きの場所も幾つか存在する。これ迄巡って来た所にも、そういった噂のある場所はあった。しかし、何れも雰囲気はあっても――少なくとも僕自身は――こういった現象に出くわした事などなかった。
辿り着かなくて幸いだったのかも知れないと思いつつ、僕は慌ててマウンテンバイクに跨った。一向に止まぬ雨の中、それでも僕は振り返る事なく、ペダルを漕ぎ続けた。
後日、情報交換の為の掲示板にこの事を書き込むと、どうやら近隣の住民らしきユーザーからレスが付いた。勿論、具体的な名前は挙げていないので、あくまで推測なのだが、彼が記した待合所付近の外見は確かに僕が見たものに酷似していた。
『問題の雑木林にあった建物は、もう八年程前に取り壊されて、ありません。噂だけが未だに一人歩きしている様なのですが』
じゃあ、あれは何だったんだよ?――僕は眉を顰めつつも先を読んだ。
『只、貴方が雨宿りをしていたと言う待合所は確かに林の前にあります。利用者の激減もあって実際にはもうバスも運行されておらず、放置されているだけなのですが』
そうだったのか。時刻表は見たものの、その年代迄は見た覚えがなかった。道理で落書きだらけ、ゴミだらけな筈だ。
更に続きを読んで、僕は思わずあっと声を上げた。
『そして、いつからか、その廃墟と化した待合所の窓からはそれを覗いた人が恐れるものが見えるという噂が流れています……』
僕は廃墟に潜むかも知れないものを、口ではどう言っていても、内心では恐れていたのか。あの窓に見えたのは、こうだったら怖いと密かに思っているもの。
しかし……それでも未だ、僕は確かにそれに惹かれている。危険を承知しながらも、そこに近付かずにはいられない。丸で誘蛾灯に飛び込む虫の様だ。
口元に苦い笑みを刻むと、僕は次の目的地を探してネットの海に彷徨い出た。
―了―
ね~む~い~♪
絶叫マシーンなんかが流行るのも、その所為なんだとか。
私ゃ~、お金払ってまで、バンジージャンプする人の気が知れませ~ん。
それにしても物好きだよねぇ。
巽さんって、こういう話多いよね~。
ひょっとして巽さんも、そっち系の人?(笑)
流石に出掛ける気にはなりませんって。勿論バンジージャンプなんてやるもんかいな(笑)
廃墟、写真とかで見る分には趣があっていいんですけどね~。虫とか居そうだし~。
自分で行くのは嫌だけど、テレビでやってるとちょっぴり見たい、とか?(それは私だ・笑)
怖いもの、怖いんだけど惹かれてしまうもの、色々ありますよね~。