〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「ねえ、もし私が警察に知らせたら……どうなるの?」一度鏡を見て化粧の出来を確認し、玄関口で振り返って彼女は訊いた。
「俺は捕まるだろうな。だが、あんたの妹の命は保障しない」廊下の奥をそれとなく視線で示し、男は低い声で答えた。「それと……もし俺がムショから出る様な事が万が一にでもあったら、あんたの命も保障出来なくなるな。ま、強盗殺人の上に逃走中に病人を人質に取って、然もそれを殺したとあっちゃ、出られるとは思ってねぇがな」
「……」何処か遠くを走り回っているらしいサイレンの音を聞きながら、彼女はドアノブに手を掛けた。未明に忍び込んで来た男に、今日は大事な仕事がある、自分が行かなければ不審に思われ、例え仮病を使ったとしても社の誰かが様子を見に来る――そう言って外出の許可を取り付ける事は出来たのだが……敦美には足枷があった。
幼い頃から身体の弱い、一つ下の妹、春奈。今も床に臥せっている。
だが……。
「俺は捕まるだろうな。だが、あんたの妹の命は保障しない」廊下の奥をそれとなく視線で示し、男は低い声で答えた。「それと……もし俺がムショから出る様な事が万が一にでもあったら、あんたの命も保障出来なくなるな。ま、強盗殺人の上に逃走中に病人を人質に取って、然もそれを殺したとあっちゃ、出られるとは思ってねぇがな」
「……」何処か遠くを走り回っているらしいサイレンの音を聞きながら、彼女はドアノブに手を掛けた。未明に忍び込んで来た男に、今日は大事な仕事がある、自分が行かなければ不審に思われ、例え仮病を使ったとしても社の誰かが様子を見に来る――そう言って外出の許可を取り付ける事は出来たのだが……敦美には足枷があった。
幼い頃から身体の弱い、一つ下の妹、春奈。今も床に臥せっている。
だが……。
「いい事を教えて上げましょうか」ドアノブを握り、彼女は言った。「春奈とはね、異母姉妹なの。私の母は行方不明だし、あの子の母親は既に故人だけどね。そして父は糸の切れた凧――もう何箇月も帰ってないわ」
「詰まりこの家に常に居るのはあんたとあの妹の二人だけ。確かにそれは俺にとっちゃいい話だな」男は哂う。
「でもね、私がもし……半分しか血の繋がってない、病弱な妹との暮らしに飽き飽きしていたら?」ふと、不敵な笑みが返された。「互いに奔放な両親に代わって二十年以上もあの子の面倒を見てきたのよ? そろそろ自由になりたいって思っているとしたら?」
「……妹に人質としての価値が無いって言いたいのかい? よしなよ、もしそれが本心なら、何故此処でそれを言う? 此処を出てから通報するなりして、俺が腹いせに妹を殺すのを待てばいいじゃねぇか」男は浅知恵を嘲笑うかの様に頬を歪ませた。「第一、此処でも未だあんたをとっ捕まえる事位、造作も無いぜ? せめてそのドアを抜けてから言うんだな。寝言は」
「あら、寝言は寝て言うものよ」ゆっくりとドアノブを回しながら、彼女は言った。
男の目がその手を、足取りを追う。その言葉を嘲笑いつつも、外に出た途端に彼女が駆け出し、近くの家に駆け込むかも知れない――その疑念が頭を占める。一瞬にして身を翻し駆け出す前兆は無いか、その喉は大声を出す準備に震えていないか、そして彼女の目に、本当に笑いは浮かんでいないか……。疑念を持たれるのを恐れて判断を誤ったのではないか? 今からでも彼女を拘束するべきではないか?
その思考が、後方への注意を奪った。
がつん、という重い衝撃を後頭部に受け、男はその場に昏倒した。
床に伏せっていた筈の、この家のもう一人の住人が振るったブロンズ製の女性像によって。
「ごめんね、春奈。凶器になりそうな物探すのに手間取っちゃって」一抱えもあるブロンズ像を下ろしながら、敦美は言った。
「い、いいけど、大丈夫なの? そんな物で殴っちゃって……」ドアノブから離した手を口に添え、春奈は危ぶむ。「嫌よ? 姉さんが捕まるなんて」
「大丈夫よ。それより、巧く出来たね。私の振り」
「うん、でも、もし後ろから忍び寄ってる姉さんに気付かれたら……って、心臓が飛び出しそうだったわ」
それは大変とばかりに、敦美は手早く男をガムテープでぐるぐる巻きにすると、警察への通報と同時に妹の掛かり付けの医師へ、電話を入れた。
男が忍び込んだ時、敦美は妹を少しでも外へ逃す為にと、彼女と入れ替わる事を決めたのだった。
春奈が彼女として男の注意を引く間に武器を探し、男を襲撃する。もし失敗したとしても玄関口に居る春奈には、家の中に残るよりは逃げる機会がある――そう考えての、配役だった。
「ねえ、姉さん、私が姉さんとして言った事……」あの台詞も敦美が考えたものだった。あれは本心だったのではないか? 芝居をしながらそう考えた春奈だったが、やはりそんな事はない、と頭を振った。もし本心なら、入れ替わる事無く、非力な春奈に失敗を覚悟の上でブロンズ像を振るわせただろうから。
近くなるサイレンの音を聞きながら、姉妹は急場の作戦の成功を祝った。
―了―
因みにぐるぐる巻きにしたので解ると思いますが、男は死んでませんので(^^;)
「詰まりこの家に常に居るのはあんたとあの妹の二人だけ。確かにそれは俺にとっちゃいい話だな」男は哂う。
「でもね、私がもし……半分しか血の繋がってない、病弱な妹との暮らしに飽き飽きしていたら?」ふと、不敵な笑みが返された。「互いに奔放な両親に代わって二十年以上もあの子の面倒を見てきたのよ? そろそろ自由になりたいって思っているとしたら?」
「……妹に人質としての価値が無いって言いたいのかい? よしなよ、もしそれが本心なら、何故此処でそれを言う? 此処を出てから通報するなりして、俺が腹いせに妹を殺すのを待てばいいじゃねぇか」男は浅知恵を嘲笑うかの様に頬を歪ませた。「第一、此処でも未だあんたをとっ捕まえる事位、造作も無いぜ? せめてそのドアを抜けてから言うんだな。寝言は」
「あら、寝言は寝て言うものよ」ゆっくりとドアノブを回しながら、彼女は言った。
男の目がその手を、足取りを追う。その言葉を嘲笑いつつも、外に出た途端に彼女が駆け出し、近くの家に駆け込むかも知れない――その疑念が頭を占める。一瞬にして身を翻し駆け出す前兆は無いか、その喉は大声を出す準備に震えていないか、そして彼女の目に、本当に笑いは浮かんでいないか……。疑念を持たれるのを恐れて判断を誤ったのではないか? 今からでも彼女を拘束するべきではないか?
その思考が、後方への注意を奪った。
がつん、という重い衝撃を後頭部に受け、男はその場に昏倒した。
床に伏せっていた筈の、この家のもう一人の住人が振るったブロンズ製の女性像によって。
「ごめんね、春奈。凶器になりそうな物探すのに手間取っちゃって」一抱えもあるブロンズ像を下ろしながら、敦美は言った。
「い、いいけど、大丈夫なの? そんな物で殴っちゃって……」ドアノブから離した手を口に添え、春奈は危ぶむ。「嫌よ? 姉さんが捕まるなんて」
「大丈夫よ。それより、巧く出来たね。私の振り」
「うん、でも、もし後ろから忍び寄ってる姉さんに気付かれたら……って、心臓が飛び出しそうだったわ」
それは大変とばかりに、敦美は手早く男をガムテープでぐるぐる巻きにすると、警察への通報と同時に妹の掛かり付けの医師へ、電話を入れた。
男が忍び込んだ時、敦美は妹を少しでも外へ逃す為にと、彼女と入れ替わる事を決めたのだった。
春奈が彼女として男の注意を引く間に武器を探し、男を襲撃する。もし失敗したとしても玄関口に居る春奈には、家の中に残るよりは逃げる機会がある――そう考えての、配役だった。
「ねえ、姉さん、私が姉さんとして言った事……」あの台詞も敦美が考えたものだった。あれは本心だったのではないか? 芝居をしながらそう考えた春奈だったが、やはりそんな事はない、と頭を振った。もし本心なら、入れ替わる事無く、非力な春奈に失敗を覚悟の上でブロンズ像を振るわせただろうから。
近くなるサイレンの音を聞きながら、姉妹は急場の作戦の成功を祝った。
―了―
因みにぐるぐる巻きにしたので解ると思いますが、男は死んでませんので(^^;)
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Re:お姉さんの。。。
ぐーるぐーる(笑)
や、ロープが一般家庭にあるかどうかと思ってガムテープに(^^;)
や、ロープが一般家庭にあるかどうかと思ってガムテープに(^^;)
Re:冬猫
色んな意味で微妙っすね。
足枷になりたくもなく、足枷と思われたくもなく……。
足枷になりたくもなく、足枷と思われたくもなく……。
Re:無題
微妙ですね(^^;)
何処かしら思う所があったのかも。
何処かしら思う所があったのかも。
Re:無題
や、確かに(笑)
他人の立場になってみる事で、自分が見えてくる事もありますよね。
他人の立場になってみる事で、自分が見えてくる事もありますよね。
Re:おはよう!
妹を守りたいのも本心、足枷と感じるのも本心……。
矛盾している様でもそれが両立してしまうのが人間の心……かも。
矛盾している様でもそれが両立してしまうのが人間の心……かも。
Re:お~
一体どんな訓練を積んでいたんでしょうか(笑)
まぁ、女性の二人暮しだし……スタンガンでも買おか~。
まぁ、女性の二人暮しだし……スタンガンでも買おか~。
Re:咄嗟の判断
間抜けな強盗殺人犯を殺して、自分が罪に問われるなんて馬鹿馬鹿しいものね。死なない程度で(笑)
Re:こんにちは
そうね~。生きていればしがらみやら足枷やら……。まぁ、それが全く無い――周囲との繋がりが無いのも寂しい話だけど。
作戦大成功♪
作戦大成功♪
Re:こんばんわっ
確かに(笑)
春奈はそっちを見ないようにするの大変だったろうな(^^;)
逆に男の注意を自分に引き付けて置かなきゃならないし。
春奈はそっちを見ないようにするの大変だったろうな(^^;)
逆に男の注意を自分に引き付けて置かなきゃならないし。
Re:きりきりばんっ
おおう! いつの間にやら踏まれてました(^^;)
カウンターのキリ番ログ確認したよー♪ 夜霧がまた怪しい事言ってた様ですが(苦笑)
ごめんなんてとんでもない。いつも来てくれて有難うですm(_ _)m
丁度パソコンからだったんですね。ナイスタイミング♪![](/emoji/V/104.gif)
カウンターのキリ番ログ確認したよー♪ 夜霧がまた怪しい事言ってた様ですが(苦笑)
ごめんなんてとんでもない。いつも来てくれて有難うですm(_ _)m
丁度パソコンからだったんですね。ナイスタイミング♪
![](/emoji/V/104.gif)
無題
どもども!
犯人にとって不運だったのは、腰紐でグルグル巻きにされなかった事だな!!
ガムテープだと味も素っ気もないし、摑まった後の孤独感は予想以上のものでしょうね。
せめて腰紐だったら…そう考えると死んでも死にきれないっすよ(笑)
犯人にとって不運だったのは、腰紐でグルグル巻きにされなかった事だな!!
ガムテープだと味も素っ気もないし、摑まった後の孤独感は予想以上のものでしょうね。
せめて腰紐だったら…そう考えると死んでも死にきれないっすよ(笑)
Re:無題
は。味も素っ気も無いガムテープです(笑)
然も布テープなんか使ったら、剥がした跡もベタベタです(爆)
最悪な気分でしょっ引かれた事でしょう(^^)
然も布テープなんか使ったら、剥がした跡もベタベタです(爆)
最悪な気分でしょっ引かれた事でしょう(^^)
Re:こんばんは♪
足枷が無いのも寂しいものだしね~。