〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「あそこにあんな店、あったっけ?」早くも夕闇が忍び寄り始めた下校路で、ふと立ち止まってそんな声を上げたのは亮太だった。四年間使ってすっかり痛んだランドセルの背を見遣ると、上から覗く頭は小さな路地に向けられている。
本当に小さな路地――商店街の店と店の隙間でしかない、僕達子供が通るのが精一杯の小道。
そこを抜けた先に、洋風の屋根の乗った、白い何かの店らしき建物が細く見えていた。店らしいと思ったのは道路側に向けてショーウインドーが展開されていたからだ。けれど何が並んでいるのか迄は、此処からでははっきりと窺えなかった。何だか細々した細工物みたいだ、とは思ったけれど。そのどこか女の子が喜びそうな外観からしても、人形とか小物とかそんな物を扱ってるんじゃないか?――そんなイメージの所為もあるかも知れないけど。
だから僕は大して興味も無さそうに「さあ?」と首を傾げただけだった。他の男子達もそんなもんだ。
「けど、この間そっちの駅通り、通ったけど、あんな店あったかなぁ?」亮太は納得行かない様子で首を捻る。
この商店街は何本かの通りが平行してあり、今居るのは端から二番目――この路地を通ると一番端の通りに抜けるのだった。そこは駅の前に位置し、だから駅通りとも呼ばれている。
「他の通りだったんじゃないのか? それとも大急ぎで造ったとか」健治が言った。「真逆一夜にして出来たとは言わないよな?」
「確か……一週間は経ってないと思うんだけどなぁ」自信無さげに、それでも亮太は言った。「一週間で建てられるものじゃないよなぁ。記憶違いなんだろうな、きっと」
一週間じゃ無理に決まってんじゃんか――そんな声を四方八方から浴びながら、ばつが悪そうに苦笑いする。そんな他愛もないやり取りを挟みながらも、皆の脚はそれぞれの自宅へと進む。
本当に小さな路地――商店街の店と店の隙間でしかない、僕達子供が通るのが精一杯の小道。
そこを抜けた先に、洋風の屋根の乗った、白い何かの店らしき建物が細く見えていた。店らしいと思ったのは道路側に向けてショーウインドーが展開されていたからだ。けれど何が並んでいるのか迄は、此処からでははっきりと窺えなかった。何だか細々した細工物みたいだ、とは思ったけれど。そのどこか女の子が喜びそうな外観からしても、人形とか小物とかそんな物を扱ってるんじゃないか?――そんなイメージの所為もあるかも知れないけど。
だから僕は大して興味も無さそうに「さあ?」と首を傾げただけだった。他の男子達もそんなもんだ。
「けど、この間そっちの駅通り、通ったけど、あんな店あったかなぁ?」亮太は納得行かない様子で首を捻る。
この商店街は何本かの通りが平行してあり、今居るのは端から二番目――この路地を通ると一番端の通りに抜けるのだった。そこは駅の前に位置し、だから駅通りとも呼ばれている。
「他の通りだったんじゃないのか? それとも大急ぎで造ったとか」健治が言った。「真逆一夜にして出来たとは言わないよな?」
「確か……一週間は経ってないと思うんだけどなぁ」自信無さげに、それでも亮太は言った。「一週間で建てられるものじゃないよなぁ。記憶違いなんだろうな、きっと」
一週間じゃ無理に決まってんじゃんか――そんな声を四方八方から浴びながら、ばつが悪そうに苦笑いする。そんな他愛もないやり取りを挟みながらも、皆の脚はそれぞれの自宅へと進む。
けど――と僕はふと気になって、路地の前に脚を止めた。
さっきから見ているけれど、この路地の向こう、誰も通らない。車も、人も、バイクも……。
本当なら向こうの通りは駅から繋がっている駅通り。人通りは多い筈だった。況してや今は夕方。僕等よりもっと上の学校や、会社から帰る人が列を成している筈の時間帯だ。
なのに誰も通らない。
いや……。薄暗い闇によくよく目を凝らして見て、僕はやっと解ったのだけど、路地の先の風景に、駅通りは含まれていなかった。丸でこの路地が店への長いアプローチででもあるかの様に、路地の終わりは店の真ん前に当たっていたのだ。
馬鹿な。そんな建て方が許可される筈がない。これでは道の真ん中にあの店が建っている事になってしまうじゃないか。
それでも――自分でも信じられない思いながらも――亮太達にその事を告げると、彼等は一斉に色めき立った。
「向こう側はどうなってるんだ? 俺、見て来る!」駆け出したのは健治だった。問題の路地よりも広い、それぞれの通りを繋ぐ道を抜けて、駅通りに抜ける。何人かもそれに続いた。
「元気だなぁ、あいつ等」僕はやはり残った亮太に言った。「五時間目の体育、マラソンだったって言うのに」
「思い出させるなよ。また疲れがぶり返してきた」
「風邪じゃあるまいし、ぶり返すかよ」そんな他愛も無い事を話しながら、一行の帰りを待っていたのだ。
が、帰って来た時、彼等は狐に摘まれた様な表情で、頻りと首を捻っていた。
「どうした?」僕が訊くと、健治はまたも路地を覗き込んで、やっぱり首を捻っている。「どんな店だったんだ?」
「それが……それらしき店、無いんだよ。なぁ?」一緒に行った一同に、同意を求める。次々と頷きが返った。
「そこに見えてるじゃないか」白い店を指差して、僕は言った。「んー、向こうから見ると全く違う外観だとか?」
路地から見えるのは所詮建物の一部。他の部分が違っていれば、見落とす事もあるかも知れない。
「いや、それ以前に……この路地の先に建物なんて無かった」自分の目が信じられないとでも言う様に幾度も瞬きを繰り返しながらも、健治は言った。「向こうからこの路地を見てみた。確かにお前等が居たし、五時限目がマラソンだったとかそんな話、してただろう」
思わず息を呑みながらも、僕達は頷いた。向こうに回ったら、丁度この路地の反対側に居でもしなければ聞こえる筈のない会話。そして向こうは車の通りも人通りも、いつも通りにあったと言う。
「どうなってるんだよ……」些か薄気味悪い思いで、僕達は件の路地を、その先の白い店を見遣った。
「こうなったら直接行ってみるしかないんじゃないか?」そう言い出したのは健治だった。「この路地を通って」
でも、とか、もう遅いし、とか、逡巡の声が広まる。かく言う僕だって、この路地に脚を踏み出すのは……好奇心と僅かな警戒心が鬩ぎ合っている。
僕達の様な子供しか通れない路地、詰まり子供しか入れない店。
それは不思議の国に通じている様でもあり、また何かの罠にも思われた。
けれど――僕は一歩、路地に足を踏み入れていた。心なしか、空気がひんやりとしている。
皆が呼ぶのに、不敵な笑みだけを一つ残して、僕は脚を進めた。
何の店か。何が並んでいるのか、見たいという思いもあった。それは夕陽を浴びてキラキラ輝いている様にも見えて……。
だから僕はそっと手を伸ばしたドアノブに掛かった札を目にして、思わず大きな息をついた。
《CLOSED》
「何だ、もう閉店か……」どこか安堵している。それが自分でも解っているのに、態と詰まらなさそうに口を尖らせて呟く。
それでもカーテンの下ろされていないショーウインドーだけでも見て帰ろうとしていると、路地の方から皆の大声。戻れ!――切羽詰った声でそう喚いている様だ。
何なのかは解らなかった。
けれどその声は次々と打ち鳴らされる警鐘の様に僕の心臓を震わせ、僕は咄嗟に店から離れる事を選んでいた。
狭い路地を精一杯の速さで走り、皆の元へ。
そして激しい息の下、振り返った時、その道の先に白い店はありはしなかった……。
皆に訊けば、僕がウインドーを見ようと近付いた瞬間、店の辺りの景色が希薄になったと言うか、揺らぎ始めたのだと言う。丸で蜃気楼の様に。
そして一度だけ、掛ける僕を追うかの様に開いたドアから、人形の様な白い腕が伸びて――最後の揺らぎと共に消えた、と言う。
今でもあれが何だったのか、解らない。
只、やはり何かの罠だったのではないかという感覚は残っている。
僕は間一髪、逃げ出せたのだ。
友達の声で。
―了―
はーい、小学生の皆さん、寄り道はいけませんよぉ?(^^;)
さっきから見ているけれど、この路地の向こう、誰も通らない。車も、人も、バイクも……。
本当なら向こうの通りは駅から繋がっている駅通り。人通りは多い筈だった。況してや今は夕方。僕等よりもっと上の学校や、会社から帰る人が列を成している筈の時間帯だ。
なのに誰も通らない。
いや……。薄暗い闇によくよく目を凝らして見て、僕はやっと解ったのだけど、路地の先の風景に、駅通りは含まれていなかった。丸でこの路地が店への長いアプローチででもあるかの様に、路地の終わりは店の真ん前に当たっていたのだ。
馬鹿な。そんな建て方が許可される筈がない。これでは道の真ん中にあの店が建っている事になってしまうじゃないか。
それでも――自分でも信じられない思いながらも――亮太達にその事を告げると、彼等は一斉に色めき立った。
「向こう側はどうなってるんだ? 俺、見て来る!」駆け出したのは健治だった。問題の路地よりも広い、それぞれの通りを繋ぐ道を抜けて、駅通りに抜ける。何人かもそれに続いた。
「元気だなぁ、あいつ等」僕はやはり残った亮太に言った。「五時間目の体育、マラソンだったって言うのに」
「思い出させるなよ。また疲れがぶり返してきた」
「風邪じゃあるまいし、ぶり返すかよ」そんな他愛も無い事を話しながら、一行の帰りを待っていたのだ。
が、帰って来た時、彼等は狐に摘まれた様な表情で、頻りと首を捻っていた。
「どうした?」僕が訊くと、健治はまたも路地を覗き込んで、やっぱり首を捻っている。「どんな店だったんだ?」
「それが……それらしき店、無いんだよ。なぁ?」一緒に行った一同に、同意を求める。次々と頷きが返った。
「そこに見えてるじゃないか」白い店を指差して、僕は言った。「んー、向こうから見ると全く違う外観だとか?」
路地から見えるのは所詮建物の一部。他の部分が違っていれば、見落とす事もあるかも知れない。
「いや、それ以前に……この路地の先に建物なんて無かった」自分の目が信じられないとでも言う様に幾度も瞬きを繰り返しながらも、健治は言った。「向こうからこの路地を見てみた。確かにお前等が居たし、五時限目がマラソンだったとかそんな話、してただろう」
思わず息を呑みながらも、僕達は頷いた。向こうに回ったら、丁度この路地の反対側に居でもしなければ聞こえる筈のない会話。そして向こうは車の通りも人通りも、いつも通りにあったと言う。
「どうなってるんだよ……」些か薄気味悪い思いで、僕達は件の路地を、その先の白い店を見遣った。
「こうなったら直接行ってみるしかないんじゃないか?」そう言い出したのは健治だった。「この路地を通って」
でも、とか、もう遅いし、とか、逡巡の声が広まる。かく言う僕だって、この路地に脚を踏み出すのは……好奇心と僅かな警戒心が鬩ぎ合っている。
僕達の様な子供しか通れない路地、詰まり子供しか入れない店。
それは不思議の国に通じている様でもあり、また何かの罠にも思われた。
けれど――僕は一歩、路地に足を踏み入れていた。心なしか、空気がひんやりとしている。
皆が呼ぶのに、不敵な笑みだけを一つ残して、僕は脚を進めた。
何の店か。何が並んでいるのか、見たいという思いもあった。それは夕陽を浴びてキラキラ輝いている様にも見えて……。
だから僕はそっと手を伸ばしたドアノブに掛かった札を目にして、思わず大きな息をついた。
《CLOSED》
「何だ、もう閉店か……」どこか安堵している。それが自分でも解っているのに、態と詰まらなさそうに口を尖らせて呟く。
それでもカーテンの下ろされていないショーウインドーだけでも見て帰ろうとしていると、路地の方から皆の大声。戻れ!――切羽詰った声でそう喚いている様だ。
何なのかは解らなかった。
けれどその声は次々と打ち鳴らされる警鐘の様に僕の心臓を震わせ、僕は咄嗟に店から離れる事を選んでいた。
狭い路地を精一杯の速さで走り、皆の元へ。
そして激しい息の下、振り返った時、その道の先に白い店はありはしなかった……。
皆に訊けば、僕がウインドーを見ようと近付いた瞬間、店の辺りの景色が希薄になったと言うか、揺らぎ始めたのだと言う。丸で蜃気楼の様に。
そして一度だけ、掛ける僕を追うかの様に開いたドアから、人形の様な白い腕が伸びて――最後の揺らぎと共に消えた、と言う。
今でもあれが何だったのか、解らない。
只、やはり何かの罠だったのではないかという感覚は残っている。
僕は間一髪、逃げ出せたのだ。
友達の声で。
―了―
はーい、小学生の皆さん、寄り道はいけませんよぉ?(^^;)
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Re:無題
何処へ行くかは謎ですが(苦笑)
猫の国だったら……行きます?(笑)
猫の国だったら……行きます?(笑)
Re:こんばんは
妖しげな場所には……何と無くクーピーさんが引っ掛かりそうな気がする(失礼)(^^;)
Re:こんばんは
お風呂……髪を洗う時とか、ついついどーでもいい事を思い出したりしません?( ̄ー ̄)ニヤリ
こんばんは!
ちょっと珍しい時間にお邪魔してます^^
呼び戻されるって良く聞くよね。
そう思うと、あっちの人?は、呼びこんでる訳で・・・どうも納得出来ないな~
なんて、死に呼び込むなんて意地悪でしょ・・・
悟りはないのか??(-_-;)
呼び戻されるって良く聞くよね。
そう思うと、あっちの人?は、呼びこんでる訳で・・・どうも納得出来ないな~
なんて、死に呼び込むなんて意地悪でしょ・・・
悟りはないのか??(-_-;)
Re:こんばんは!
死に呼び込むという意識は無くて、只寂しい、仲間が欲しい、だけなのかも?
何にしても迷惑な事には違いないですな。生者にとっては。
何にしても迷惑な事には違いないですな。生者にとっては。
Re:こんにちは♪
変な世界には踏み込まれませんように……。
(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
こ・・・こえええっ(逃)
なんだかんだ言って、『僕』が一番呼ばれてたってことでしょうか(^_^;
そのまま漂流教室よろしく見知らぬ世界に飛ばされたり、死後の世界とかに呼び込まれちゃったりしなくて良かったなぁ、と。
なんだかんだ言って、『僕』が一番呼ばれてたってことでしょうか(^_^;
そのまま漂流教室よろしく見知らぬ世界に飛ばされたり、死後の世界とかに呼び込まれちゃったりしなくて良かったなぁ、と。
Re:(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
呼ばれてますね。
怪しい店には要注意☆
怪しい店には要注意☆
Re:こんばんは
ん~と、商店街の路地の突き当りに店が見えてるんだけど、それがある筈の通りには何も無い、という……解り難かったかな。反省。
子供って不思議なもの好きだし~☆
子供って不思議なもの好きだし~☆
こんばんわ!
おおぉ……恐い!けど面白かったです^^
と、面白がってるだけじゃダメですね、寄り道はいけませんね←散歩好き
何か珍しい風景があるとフラフラ~っと行ってしまいますね^^;
引っ張られないようにしなければ。。
と、面白がってるだけじゃダメですね、寄り道はいけませんね←散歩好き
何か珍しい風景があるとフラフラ~っと行ってしまいますね^^;
引っ張られないようにしなければ。。
Re:こんばんわ!
見慣れた風景でもふと、あれ、こんな所あったっけ? な感覚に捉われたりしませんか?
そんな時は只のど忘れなのか、それとも……?
そんな時は只のど忘れなのか、それとも……?