〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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一、二、三、四、五……未だ音はしない。
稲光が閃いてから雷鳴がする迄、その間の秒数に大気中での平均的な音速――約三四〇メートルを掛ける。
そんな計算をして気を紛らわせると同時に、未だ雷雲の本体迄遠い、と安心していたのだけれど、カウントは徐々に短く――近くなっていく。
私は帰路を急いだ。辺りは真新しい家やマンションが立ち並ぶ住宅街。午後四時という、夏としては十二分に明るい時刻だったが、垂れ込めた雨雲の為に周囲は暗い。私のマンションはこの住宅街のほぼ中心に位置していた。駅からの距離は結構、ある。
一、二、三、四、五――そこ迄数えて、地を這う様に響く雷鳴に身を竦めた。
硬直が解けると共に、私は半ば小走りになっていた。
私は雷が怖かった。
誰だって怖い? そうだろう。けれど――私は決して、追い付かれてはいけないのだ。雷に。
稲光が閃いてから雷鳴がする迄、その間の秒数に大気中での平均的な音速――約三四〇メートルを掛ける。
そんな計算をして気を紛らわせると同時に、未だ雷雲の本体迄遠い、と安心していたのだけれど、カウントは徐々に短く――近くなっていく。
私は帰路を急いだ。辺りは真新しい家やマンションが立ち並ぶ住宅街。午後四時という、夏としては十二分に明るい時刻だったが、垂れ込めた雨雲の為に周囲は暗い。私のマンションはこの住宅街のほぼ中心に位置していた。駅からの距離は結構、ある。
一、二、三、四、五――そこ迄数えて、地を這う様に響く雷鳴に身を竦めた。
硬直が解けると共に、私は半ば小走りになっていた。
私は雷が怖かった。
誰だって怖い? そうだろう。けれど――私は決して、追い付かれてはいけないのだ。雷に。
二年前の夏、天候も思わしくないと言うのに、私と友人は海に出掛けた。それぞれの仕事があって、その日しか日程の都合が付かなかったという事もある。折角立てた予定を、天気が荒れるかも知れない、という予報だけで撤回するのは勿体無い――特に私が、そう主張してしまった。
その結果、海という逃げる場所も無い、避雷針になりそうな私達よりも高い物も無い、然も通電し易い、そんな最悪の場所で、私達は雷雨に遭ってしまった。
他の――やはり私達と同じ様な――観光客達が急いで水から上がる中、それでも私達は大粒の雨をシャワーの様に浴びて、はしゃいでいた。その緊張感の無さが、逃げ遅れる原因となったと言うのに。
そして、私の目の前で友人は落雷の直撃を受けた。
私自身も海水を伝わった雷にやられたのだろう、刹那に強い衝撃を受け、海に倒れ込んだ。
幸いにも私はその直後に助けられた。けれど脚には通電した時のものだろう、火傷の痕が残り、そして友人は――黒焦げの遺体の、それでも身元を確認したその夜、私は眠る事無く、泣き続けた。友人の誕生日に私が贈ったブレスレット、友情の証の筈が、彼女の死の証となってしまった。
それ以来、私は雷を恐れている。
彼女が、追って来ている様な気がして。
後少し、位置が違えば、黒焦げになっていたのは私の方だったかも知れない。いや、そもそも私が強引に主張せず、計画を見送っていれば……。
引き攣れ感のある火傷の痕を見る度に、私は悔やみ、恐れた。もうスカートを穿かなくなって久しい。
彼女はきっと、私を恨んでいるに違いない、と。
だからこそ、私は雷に追い付かれる訳には行かない。
一、二、三――ガラガラと、天の割れた様な音が降り来たり、私は思わず悲鳴を上げた。
急がなきゃ! 私はもう、駆け足になっていた。降り出した大粒の雨に濡れるのも構わず、傘など差していられないと畳んで持つ。
あの時の様な大粒の雨は、どこか焦げ臭い空気を纏っている気がした。
また、天が光る。
一……次を数える間は無かった。爆音の様なスパークが起こり、私はその場にしゃがみ込んだ。
追い付かれる! 私は恐怖に駆られ、直ぐ様目を開けて走り出そうとした。そして――その場に固まった。
焦げ臭い匂いは更に強くなっていた。それはイオン臭と共に、動物性蛋白質特有の臭いも混じり……私の前に蟠っていた。
遂に、追い付かれた――目の前に佇むヒトガタをしたもの。その腕のブレスレットを目にして、私の膝から力が抜けた。
それと同時に、どこかほっとするものを感じてもいた。もう、罪悪感に怯えなくていい。彼女と一緒に行けばいい。恨み言なんて幾らでも聞いて上げる。彼女が突然この世から居なくなった事に比べたら、どんな悪態だって耐えられる。
私は、あの日の様に雨に打たれ、ずぶ濡れになりながら、彼女に手を伸ばした。
彼女も手を伸ばし――ブレスレットを嵌めた手を頭上に差し上げた。
「!?」その行動の意味を測り兼ねている内に、その腕に、金属製のブレスレットに、近付いていた雷が、落ちた。
咄嗟に彼女の名を呼んだものの、私は結局あの時と同じ様にどうする事も出来ず、只、倒れ伏した。
やがて目を覚ましたのは病院の一室だった。近くでの落雷と悲鳴に、心配になって出て来た付近の住人が通報してくれたらしい。
結局、私はまた、無事だった。それどころか、二年前の火傷の痕さえも、消え去っていた。
私は――発見者が拾って置いてくれたという――黒焦げになったブレスレットを見詰め、一頻り、涙に暮れた。
彼女は確かに私を追っていた。
けれどそれは私に復讐する為ではなくて、私を救う為だったのだ。
それが解って、私は尚更悲しくなった。
一、二、三、四、五、六……未だ音はしない。
近付いて来ない雷鳴に、私はそっと溜め息をついた。
あれ一度切りの奇跡だったのかも知れない。けれど、もし会えるのなら今度こそお礼が言いたい。
けれど――ううん、近付かないのが一番ね。私だって、彼女のあんな姿はもう、見たくない。
だから、私は結局届かなかった雷鳴に、ほっと胸を撫で下ろした。
―了―
夕方、雷雨(ちょっとだけ!)
それより大分・犬飼の方では39℃だとか……あっつーーー!!(--;)
その結果、海という逃げる場所も無い、避雷針になりそうな私達よりも高い物も無い、然も通電し易い、そんな最悪の場所で、私達は雷雨に遭ってしまった。
他の――やはり私達と同じ様な――観光客達が急いで水から上がる中、それでも私達は大粒の雨をシャワーの様に浴びて、はしゃいでいた。その緊張感の無さが、逃げ遅れる原因となったと言うのに。
そして、私の目の前で友人は落雷の直撃を受けた。
私自身も海水を伝わった雷にやられたのだろう、刹那に強い衝撃を受け、海に倒れ込んだ。
幸いにも私はその直後に助けられた。けれど脚には通電した時のものだろう、火傷の痕が残り、そして友人は――黒焦げの遺体の、それでも身元を確認したその夜、私は眠る事無く、泣き続けた。友人の誕生日に私が贈ったブレスレット、友情の証の筈が、彼女の死の証となってしまった。
それ以来、私は雷を恐れている。
彼女が、追って来ている様な気がして。
後少し、位置が違えば、黒焦げになっていたのは私の方だったかも知れない。いや、そもそも私が強引に主張せず、計画を見送っていれば……。
引き攣れ感のある火傷の痕を見る度に、私は悔やみ、恐れた。もうスカートを穿かなくなって久しい。
彼女はきっと、私を恨んでいるに違いない、と。
だからこそ、私は雷に追い付かれる訳には行かない。
一、二、三――ガラガラと、天の割れた様な音が降り来たり、私は思わず悲鳴を上げた。
急がなきゃ! 私はもう、駆け足になっていた。降り出した大粒の雨に濡れるのも構わず、傘など差していられないと畳んで持つ。
あの時の様な大粒の雨は、どこか焦げ臭い空気を纏っている気がした。
また、天が光る。
一……次を数える間は無かった。爆音の様なスパークが起こり、私はその場にしゃがみ込んだ。
追い付かれる! 私は恐怖に駆られ、直ぐ様目を開けて走り出そうとした。そして――その場に固まった。
焦げ臭い匂いは更に強くなっていた。それはイオン臭と共に、動物性蛋白質特有の臭いも混じり……私の前に蟠っていた。
遂に、追い付かれた――目の前に佇むヒトガタをしたもの。その腕のブレスレットを目にして、私の膝から力が抜けた。
それと同時に、どこかほっとするものを感じてもいた。もう、罪悪感に怯えなくていい。彼女と一緒に行けばいい。恨み言なんて幾らでも聞いて上げる。彼女が突然この世から居なくなった事に比べたら、どんな悪態だって耐えられる。
私は、あの日の様に雨に打たれ、ずぶ濡れになりながら、彼女に手を伸ばした。
彼女も手を伸ばし――ブレスレットを嵌めた手を頭上に差し上げた。
「!?」その行動の意味を測り兼ねている内に、その腕に、金属製のブレスレットに、近付いていた雷が、落ちた。
咄嗟に彼女の名を呼んだものの、私は結局あの時と同じ様にどうする事も出来ず、只、倒れ伏した。
やがて目を覚ましたのは病院の一室だった。近くでの落雷と悲鳴に、心配になって出て来た付近の住人が通報してくれたらしい。
結局、私はまた、無事だった。それどころか、二年前の火傷の痕さえも、消え去っていた。
私は――発見者が拾って置いてくれたという――黒焦げになったブレスレットを見詰め、一頻り、涙に暮れた。
彼女は確かに私を追っていた。
けれどそれは私に復讐する為ではなくて、私を救う為だったのだ。
それが解って、私は尚更悲しくなった。
一、二、三、四、五、六……未だ音はしない。
近付いて来ない雷鳴に、私はそっと溜め息をついた。
あれ一度切りの奇跡だったのかも知れない。けれど、もし会えるのなら今度こそお礼が言いたい。
けれど――ううん、近付かないのが一番ね。私だって、彼女のあんな姿はもう、見たくない。
だから、私は結局届かなかった雷鳴に、ほっと胸を撫で下ろした。
―了―
夕方、雷雨(ちょっとだけ!)
それより大分・犬飼の方では39℃だとか……あっつーーー!!(--;)
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こんばんは♪
今、afoolさんのところで見たんだけど、大分39度なんだってねぇ~!尋常じゃない暑さだよね!
猛暑お見舞い申し上げます♪(笑)
稲光を見てから1,2,3・・・・って数えるの私も時々、やります!
ここのところこちらは連日雷雨です。
雷はすさまじいんだけど雨の方はたいした事ない
ですけど・・・・それでも、おかげで夜は涼しくて助かっています。
海での落雷は怖いだろうなぁ!
それにしても友情って良いもんだね♪
猛暑お見舞い申し上げます♪(笑)
稲光を見てから1,2,3・・・・って数えるの私も時々、やります!
ここのところこちらは連日雷雨です。
雷はすさまじいんだけど雨の方はたいした事ない
ですけど・・・・それでも、おかげで夜は涼しくて助かっています。
海での落雷は怖いだろうなぁ!
それにしても友情って良いもんだね♪
Re:こんばんは♪
連日雷雨ですか~
という事はキキちゃんはクーピーママの傍かな?^^
本当、今日も暑いです~☆

という事はキキちゃんはクーピーママの傍かな?^^
本当、今日も暑いです~☆
Re:こんばんは
それは住宅街だから~(笑)
お店とかだと、取り敢えず飛び込めるけど、他人の家はねぇ(^^;)
お店とかだと、取り敢えず飛び込めるけど、他人の家はねぇ(^^;)
Re:雷
遠くで閃いてる稲光を見るのは好きなんだけど……近くで鳴ってるのはヤダ(笑)
39℃……エアコンの利いた室内から出られない(^^;)
39℃……エアコンの利いた室内から出られない(^^;)
Re:それで・・・
うんうん、数読んじゃいますよね~☆
ほっ、未だ遠い、とか。
ブレスレットは彼女だという身元証明でもあります。
ほっ、未だ遠い、とか。
ブレスレットは彼女だという身元証明でもあります。
おはよう!
今、雷鳴ってる。(笑)
さっき、ちょっとだけ雨が降った。
今日は涼しい。(笑)
う~ん、昼間の4時ごろ、まだ遠雷のうちだと、さほど暗くはならないんじゃないかなぁ。
雷の閃光までは、見えないんじゃないかと。
って昨日、散歩の途中で、雷雨にあったばかりだからさぁ。(笑)
猛暑お見舞い申し上げます~。(笑)
さっき、ちょっとだけ雨が降った。
今日は涼しい。(笑)
う~ん、昼間の4時ごろ、まだ遠雷のうちだと、さほど暗くはならないんじゃないかなぁ。
雷の閃光までは、見えないんじゃないかと。
って昨日、散歩の途中で、雷雨にあったばかりだからさぁ。(笑)
猛暑お見舞い申し上げます~。(笑)
Re:おはよう!
もう止んだかな?(^^;)
う~ん、近く迄来ると俄かに暗くなるんだけどね~。
こっちは殆ど夕立も来ないよ~☆暑いよ~☆
う~ん、近く迄来ると俄かに暗くなるんだけどね~。
こっちは殆ど夕立も来ないよ~☆暑いよ~☆
Re:無題
虹ですか! いいですね~
こっちは雷がゴロゴロ鳴ったものの……音だけ。お湿りすら無しでしたよ~(--;)
あの窓ガラスがいつ迄もビリビリビリ……って振動してるのが嫌ですね(>_<)

こっちは雷がゴロゴロ鳴ったものの……音だけ。お湿りすら無しでしたよ~(--;)
あの窓ガラスがいつ迄もビリビリビリ……って振動してるのが嫌ですね(>_<)
Re:こんばんは
こっちは音だけー(--;)
少し位降って欲しかったかも……。余所で集中豪雨する位なら満遍なく降ってよ!?
雷の時はやっぱり外出したくないなぁ。
少し位降って欲しかったかも……。余所で集中豪雨する位なら満遍なく降ってよ!?
雷の時はやっぱり外出したくないなぁ。
Re:無題
ふふふ……こうして色々恐怖症を増やしていくのです(何がしたいねん・笑)
でも、やっぱり恐怖症迄は行かなくても雷は怖いよ~(>_<)
でも、やっぱり恐怖症迄は行かなくても雷は怖いよ~(>_<)
こんばんは。
彼女の友人さん、いい奴でちょっぴり切ないです。
恨み言を言いに来たんじゃなくて、守ってくれたというのが……
雷、遠目に眺めるのはキレイだし好きですが、落ちたら怖いですよねぇ。
とか言いながら、高校のとき、自分の乗った電車に雷が落ちて、数時間閉じ込められたことがあります。
しかも、田んぼの真ん中で……
恨み言を言いに来たんじゃなくて、守ってくれたというのが……
雷、遠目に眺めるのはキレイだし好きですが、落ちたら怖いですよねぇ。
とか言いながら、高校のとき、自分の乗った電車に雷が落ちて、数時間閉じ込められたことがあります。
しかも、田んぼの真ん中で……
Re:こんばんは。
うわ☆それは災難(>_<)
電車って落雷なんかで停まると、空調関連の電源も落ちるんでしょうか? だとしたら……ううう、そんな所に数時間(--。)
やっぱり落雷は怖いよぉ。
電車って落雷なんかで停まると、空調関連の電源も落ちるんでしょうか? だとしたら……ううう、そんな所に数時間(--。)
やっぱり落雷は怖いよぉ。
Re:これは恐い!
幽霊よりやっぱり、地震、雷、火事、親父!?(^^;)
こちらは今日も雨降りそうにないです(--;)
雷雲も育ってないなぁ。
こちらは今日も雨降りそうにないです(--;)
雷雲も育ってないなぁ。
無題
まさか、巽さんにそんな雷体験が?
雷落ちるのは金属だからとか、背の高さとかあまり関係ないとか。室内、車内ならまず大丈夫。
野外は高いものから離れて、両足を少し離して和式トイレスタイルがよいようです。すると万一直撃されても素早く地面に電気が抜けるので助かるとか。
雷落ちるのは金属だからとか、背の高さとかあまり関係ないとか。室内、車内ならまず大丈夫。
野外は高いものから離れて、両足を少し離して和式トイレスタイルがよいようです。すると万一直撃されても素早く地面に電気が抜けるので助かるとか。
Re:無題
はは、落雷を直に見た事も無いですよ(^^;)
昔は金属製の物を着けていると危ない、と言ってましたけど、運が良ければその金属側に電気が流れて身体の中心部を通らずに抜けてくれる事もあるとか。あくまで運が良ければ、ですが。
やはり雷雨の時は極力外出しないのが一番ですね~。
昔は金属製の物を着けていると危ない、と言ってましたけど、運が良ければその金属側に電気が流れて身体の中心部を通らずに抜けてくれる事もあるとか。あくまで運が良ければ、ですが。
やはり雷雨の時は極力外出しないのが一番ですね~。