〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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そうそう、もう一度だけ、あんたの罪については、話したいなぁ。
そう嫌な顔しなさんな。
多分これで最後だから……。
俺が十一か二だったから……五十年程前だっけ? 大叔母の家に初めて親族一同が集まったのは。
姉である俺等の祖母とも早くに縁を切り、ずっと独りで暮らしてきたって言う大叔母から手紙を貰った時は、正直ピンと来なかったよなぁ。親父達でさえ、訝しそうにしてた。本物だろうか、本物だとしても今頃何の用だろうか、とね。
それでも結局俺達の家族――俺と両親、そしてあんたとその両親と妹――だけは集まったのは……お互い、欲が深かったのかねぇ。
祖母の実家はその当時としては裕福な方だった。祖母は金の無い男に嫁いで、家の援助を受けるのも遠慮していたけれど、もしかしたら大叔母はそれらの財産を継いでいて、この招待は遺産相続に関与しているのかも知れない――そんな夢を見てしまったのかもな。実際、大叔母は嫁ぎもせず、子供も居ないという話だった。当時の六十代と言えばもしもの時の事を考えて、遺産の行き先を考えてもおかしくない歳だったしな。
そうして訪ねた大叔母の家は、想像した通りの豪邸でこそなかったけれど、置かれた調度品は質も良くて、いい暮らしをしている事が窺えた。あんただって、俺と一緒にはしゃいでたじゃないか。壷だとか絵だとかを見ては幾ら位するんだろうって。
そしてそんな大叔母が親族を集めた理由は、案の定、それらの財産の先行きについて、だった。
そう嫌な顔しなさんな。
多分これで最後だから……。
俺が十一か二だったから……五十年程前だっけ? 大叔母の家に初めて親族一同が集まったのは。
姉である俺等の祖母とも早くに縁を切り、ずっと独りで暮らしてきたって言う大叔母から手紙を貰った時は、正直ピンと来なかったよなぁ。親父達でさえ、訝しそうにしてた。本物だろうか、本物だとしても今頃何の用だろうか、とね。
それでも結局俺達の家族――俺と両親、そしてあんたとその両親と妹――だけは集まったのは……お互い、欲が深かったのかねぇ。
祖母の実家はその当時としては裕福な方だった。祖母は金の無い男に嫁いで、家の援助を受けるのも遠慮していたけれど、もしかしたら大叔母はそれらの財産を継いでいて、この招待は遺産相続に関与しているのかも知れない――そんな夢を見てしまったのかもな。実際、大叔母は嫁ぎもせず、子供も居ないという話だった。当時の六十代と言えばもしもの時の事を考えて、遺産の行き先を考えてもおかしくない歳だったしな。
そうして訪ねた大叔母の家は、想像した通りの豪邸でこそなかったけれど、置かれた調度品は質も良くて、いい暮らしをしている事が窺えた。あんただって、俺と一緒にはしゃいでたじゃないか。壷だとか絵だとかを見ては幾ら位するんだろうって。
そしてそんな大叔母が親族を集めた理由は、案の定、それらの財産の先行きについて、だった。
今迄何の面倒も見てこなかった私達が、遺産を受け継ぐなんてとんでもない――こういう時、大人は心にもない事も言わなきゃならないんだなって、両親の対応を見ながら思ったよ。あんたも陰で苦笑してたよな。
そうしたら大叔母は、勘違いするな、遺産は子供の一人に譲るんだと来た。集まった三人の内のたった一人だけに。然も、決まらない場合は施設に寄付するよう手配してあるときた。
いや、あれは迷惑千万だったね。
少しでも我が子が大叔母に気に入られるようにと血眼になったお互いの両親に、いい子を演じさせられたんだから。
お行儀良くしなさい、愛想良くしなさい、言葉遣いにも気を付けなさい……。普段の放任主義が嘘の様だったねぇ。その癖陰ではうちの両親、あんたや妹の悪口をそれとなく吹き込んでたらしい。ま、そこもお互い様だったそうだけど。
二、三日、大叔母の家に泊まる事になって、俺らはぞっとしたっけ。いい子ごっこが未だ続くのかと。
ところが、実際にはそれはたった一日で終わった。
夜、大叔母が死んだからだ。
死因は――当時は詳しくは教えて貰えなかったが――脳挫傷だろうな。階段で足を滑らせて殆ど最上段から落下し、頭を打った。物音に驚いた俺等が駆け付けた時にはもう、どうしようもなかった。唯一傍に居たあんたの妹は未だ小さくて、只震えるばかりだった。親父達は一緒に呑んででもいたのか、やけに来るのが遅かった。
未だ遺産を誰に譲るとも明言されない儘の急死に、親父達は戸惑い、怒った。
もしかしたら既に遺言が書かれているかも知れないと血眼になって家捜ししていたが……あれは怒りのやり場を探してたのかもな。高そうな調度品は兎も角、大叔母の日用品なんぞは投げ散らかしてたからな。
それでも、無い物は無い。それが解るのに、一、二時間は掛かったっけ。
その後の呆けた様は、いや、滑稽だったねぇ。
ところで……俺は確かに見た。親父達が駆け付ける迄の、死体と子供三人しか居なかったあの時、あんたが大叔母の手にあった何かを隠したのを。
あれは親父達が必死に捜していた物じゃなかったのかい? そう、遺言状。
結局あれ以降、元々素行もよくなかった親父達は荒れに荒れ、酒に溺れる羽目になっちまった。一攫千金の機会が目の前に訪れて、あっと言う間に消え去った。元々手に入る筈の金でもなかったと思えばいいものを、諦め切れなかったんだろうなぁ。俺も散々、当り散らされたよ。さっさと気に入られて遺言を書かせていればよかったのにって。それ迄見も知らなかった婆さんに、こっちだってそうそう馴染めるかってんだよな。
遺言状さえあれば……子供心にもそう悔やんだものさ。尤も、諸刃の刃だがね。
なぁに、あんたが隠したものがそれだったとしても、恨みやしないさ。そこに俺の名前が無ければ、同じ事――いや、さっきも言った様に諸刃の刃、もっと悪い事になったかも知れない。
それでも、もし俺の名前が書かれていたらって、時々思うがね。あんたの所為で、俺はこんな目に遭ってるんじゃないかって。
事故とは言え、現場から物を持ち去り、何より俺等の暮らしを乱した――これは充分に、罪だよ。
おや、結局恨み言になっちまったな。
まぁ、これも最後だ。
何? 最後だから言いたい事がある? 何だい?
大叔母の手から取ったのは遺言状なんかじゃない?
妹の……紙風船? 階段の上で、大叔母と遊んでいた?
じゃ、何か。大叔母が階段から足を滑らせたのは、紙風船に気を取られた末だと? ははぁ、そんな事が両親に知れれば、えらい事になるからな。それで隠したという訳か。
え? 違う?
紙風船に気を取られた大叔母が上を見上げた瞬間――妹が階段から突き落とした……だと!?
馬鹿な! あんな小さな子に……。
上を見上げ、紙風船に視界を塞がれた大叔母は無防備になる。その足元を押せば簡単に落とせる――そう、妹に吹き込んだ、だと……。いい子ごっこにはうんざりしていた、と?
では、あんたが……あんたが……!
ああ、あんたの本当の罪はそれだったのか。
だが、俺にはもう時間も無い。やはりこの話をするのも最後の様だ。
あんたに盛られた毒が効いてき……た……。
―了―
長くなった~。
そうしたら大叔母は、勘違いするな、遺産は子供の一人に譲るんだと来た。集まった三人の内のたった一人だけに。然も、決まらない場合は施設に寄付するよう手配してあるときた。
いや、あれは迷惑千万だったね。
少しでも我が子が大叔母に気に入られるようにと血眼になったお互いの両親に、いい子を演じさせられたんだから。
お行儀良くしなさい、愛想良くしなさい、言葉遣いにも気を付けなさい……。普段の放任主義が嘘の様だったねぇ。その癖陰ではうちの両親、あんたや妹の悪口をそれとなく吹き込んでたらしい。ま、そこもお互い様だったそうだけど。
二、三日、大叔母の家に泊まる事になって、俺らはぞっとしたっけ。いい子ごっこが未だ続くのかと。
ところが、実際にはそれはたった一日で終わった。
夜、大叔母が死んだからだ。
死因は――当時は詳しくは教えて貰えなかったが――脳挫傷だろうな。階段で足を滑らせて殆ど最上段から落下し、頭を打った。物音に驚いた俺等が駆け付けた時にはもう、どうしようもなかった。唯一傍に居たあんたの妹は未だ小さくて、只震えるばかりだった。親父達は一緒に呑んででもいたのか、やけに来るのが遅かった。
未だ遺産を誰に譲るとも明言されない儘の急死に、親父達は戸惑い、怒った。
もしかしたら既に遺言が書かれているかも知れないと血眼になって家捜ししていたが……あれは怒りのやり場を探してたのかもな。高そうな調度品は兎も角、大叔母の日用品なんぞは投げ散らかしてたからな。
それでも、無い物は無い。それが解るのに、一、二時間は掛かったっけ。
その後の呆けた様は、いや、滑稽だったねぇ。
ところで……俺は確かに見た。親父達が駆け付ける迄の、死体と子供三人しか居なかったあの時、あんたが大叔母の手にあった何かを隠したのを。
あれは親父達が必死に捜していた物じゃなかったのかい? そう、遺言状。
結局あれ以降、元々素行もよくなかった親父達は荒れに荒れ、酒に溺れる羽目になっちまった。一攫千金の機会が目の前に訪れて、あっと言う間に消え去った。元々手に入る筈の金でもなかったと思えばいいものを、諦め切れなかったんだろうなぁ。俺も散々、当り散らされたよ。さっさと気に入られて遺言を書かせていればよかったのにって。それ迄見も知らなかった婆さんに、こっちだってそうそう馴染めるかってんだよな。
遺言状さえあれば……子供心にもそう悔やんだものさ。尤も、諸刃の刃だがね。
なぁに、あんたが隠したものがそれだったとしても、恨みやしないさ。そこに俺の名前が無ければ、同じ事――いや、さっきも言った様に諸刃の刃、もっと悪い事になったかも知れない。
それでも、もし俺の名前が書かれていたらって、時々思うがね。あんたの所為で、俺はこんな目に遭ってるんじゃないかって。
事故とは言え、現場から物を持ち去り、何より俺等の暮らしを乱した――これは充分に、罪だよ。
おや、結局恨み言になっちまったな。
まぁ、これも最後だ。
何? 最後だから言いたい事がある? 何だい?
大叔母の手から取ったのは遺言状なんかじゃない?
妹の……紙風船? 階段の上で、大叔母と遊んでいた?
じゃ、何か。大叔母が階段から足を滑らせたのは、紙風船に気を取られた末だと? ははぁ、そんな事が両親に知れれば、えらい事になるからな。それで隠したという訳か。
え? 違う?
紙風船に気を取られた大叔母が上を見上げた瞬間――妹が階段から突き落とした……だと!?
馬鹿な! あんな小さな子に……。
上を見上げ、紙風船に視界を塞がれた大叔母は無防備になる。その足元を押せば簡単に落とせる――そう、妹に吹き込んだ、だと……。いい子ごっこにはうんざりしていた、と?
では、あんたが……あんたが……!
ああ、あんたの本当の罪はそれだったのか。
だが、俺にはもう時間も無い。やはりこの話をするのも最後の様だ。
あんたに盛られた毒が効いてき……た……。
―了―
長くなった~。
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Re:こんばんは☆
「あんた」恐ろしい奴になってしまった(^^;)
こんにちは
死神かなんかかと思った。
毒殺か~、ん~、なんかなぁ~。
所で、何で今更、毒殺する必要があったの?
だって、遺産は継げなかったみたいだし。
殺人教唆も恐らく時効?
そもそも、相手が子供だし。
毒殺か~、ん~、なんかなぁ~。
所で、何で今更、毒殺する必要があったの?
だって、遺産は継げなかったみたいだし。
殺人教唆も恐らく時効?
そもそも、相手が子供だし。
Re:こんにちは
時効でも自分の罪を折に触れ話されるのは苛付くものです(^^;)
「あんた」……邪魔なら消そうって考えの奴なので、割と殺意のボーダーラインは低いかも。
「あんた」……邪魔なら消そうって考えの奴なので、割と殺意のボーダーラインは低いかも。
Re:こんにちは♪
うんうん、碌な死に方しないでしょうねぇ(^^;)
Re:こんばんわ~
この手の人間に長生きして欲しくはないですが……。
その内、ありすでも派遣するかぁ(笑)
その内、ありすでも派遣するかぁ(笑)