〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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月の無い夜は闇でも視認出来る眼が欲しいな。
翼も欲しいかな?
闇に紛れる黒い翼。それで飛んで行けば彼等にはきっと見付からない。
何にしても、この開口部が天窓一つしか無い部屋から出られなければどうしようもないけれど。
入って来たドアは閉じられた儘。もう何日、いや十数日になるだろうか? 此処に連れて来られて以来、誰も来ない。誰の気配も感じない。
部屋に用意されていた大量の保存食を、勝手に食っていろと言われたから、食べ繋いではいるし、未だ未だ余分はあるけれど……。
唯一開閉するドアはユニットバス。外から見た時には廃屋の様だったのに、ちゃんと水もお湯も出る。クローゼットには着替え迄、何十着と用意されている。だから着た切り雀になる事もないのだけれど……。
夜を照らしてくれる灯は無いの。
天窓を通る、あの月しか。
翼も欲しいかな?
闇に紛れる黒い翼。それで飛んで行けば彼等にはきっと見付からない。
何にしても、この開口部が天窓一つしか無い部屋から出られなければどうしようもないけれど。
入って来たドアは閉じられた儘。もう何日、いや十数日になるだろうか? 此処に連れて来られて以来、誰も来ない。誰の気配も感じない。
部屋に用意されていた大量の保存食を、勝手に食っていろと言われたから、食べ繋いではいるし、未だ未だ余分はあるけれど……。
唯一開閉するドアはユニットバス。外から見た時には廃屋の様だったのに、ちゃんと水もお湯も出る。クローゼットには着替え迄、何十着と用意されている。だから着た切り雀になる事もないのだけれど……。
夜を照らしてくれる灯は無いの。
天窓を通る、あの月しか。
それにしても彼等は何故私を此処に連れて来たのだろう?
いつもの通りの中学校の帰り道、不意に車に押し込まれ、目隠しをされた儘、随分走った挙げ句此処に連れて来られ、この部屋に閉じ込められた。女子中学生としては充分不審者には注意していた心算だったけど、雨の日で、傘で視界が遮られていたのも災いした。
けれど彼等――感じでは二、三人だと思った――は私にこの部屋の説明をした後、さっさと出て行き、戻っても来ない。
営利目的の誘拐。というのが頭に浮かんだけれど、彼等は私に誰何しなかった。という事は交渉相手となる私の両親を、予め調べていたのだろうか。でも、それなら交渉相手として適当でない事も調べただろうに。娘の為に金なんて、出したくても出す余裕は無い。父はごく普通のサラリーマン、母はパートでレジを打っている。そんなごく普通で、毎日の生活に追われている様な家。親族にも身代金を取れそうな大金持ちなんて居ない。
それに妙なのは、この長期戦の構え。営利誘拐ならさっさと人質を金に変えて、行方を眩ませたい筈。
なのに一見廃屋の家に水道やガスを引き、大量の保存食や着替えを用意し……最初から長期間、私を此処に閉じ込めるのが目的みたいじゃない。電気が無いのは明かりが漏れて、近所の人に不審がられるのを警戒しての事かしら。目隠しされていたから、付近に住民が居るのかどうかも解らないけれど。
それにしたって、これじゃあ準備の方にお金が掛かり過ぎてるんじゃないの?
やっぱり、営利誘拐とも思えない。
天窓からの蒼い月明かりも無い夜、私は考えるとも無しに同じ事を考え続ける。辺りは真っ暗で、何も見えない。
誰からも――誘拐犯からも――忘れられているんじゃないかと、心細くなる。この世には、私一人しか居ない様な孤独感。でも、一方で……それでもいい、という感覚。両親から忘れられている位なら、誰からも忘れられている位なら、私一人の方がいい。
アナタダレ?――その言葉が一番、怖い。
未だたった十数日の筈なのに、どれだけドアに向かって大声で悪態をついても、天窓に上ろうとして詰んだ椅子を崩して大きな音を立てても、何の反応も無いと……私は自分の存在が希薄になるのを感じる一方だった。彼等からも、近所の誰かからも、何の声も掛からない。
私は本当に此処に居るんだろうか?
真っ暗闇の中、私は自分の手さえも眼に映らない。そこにある筈なのに。私は此処に居る筈なのに。
見たい!――私は強く願った。私は私の手が見たい、私を知る人を見たい、この部屋の外を見たい!
私は――缶詰を開ける為に用意されていた缶切りを手探りで探し当て、壁を辿って殺風景なバスルームに露出したガス管を見付け出し、それに傷を付けた。ガスの匂いが充満してくると、私は缶切りでガス管を打ち据えた。暗闇に一瞬火花が散り……。
圧倒的な音と熱に意識を失った私が目を覚ましたのは、薄緑の部屋だった。
白い病院でもない。が、同種の匂いがしていた。
ドア一つしか無い部屋。そのドアの向こうから聞こえる人の声に、私は耳をそばだてた。十数日振りの人の声! ドアに駆け寄りたかったけれど、身体が動かなくてそれは叶わなかった。
「じゃあ、実験は中止ですか?」
「仕方ありませんな。ヒトが衣食住を保障されながらも外界との接触を立たれるとどうなるか……興味深いテーマだったのですが……。火事を起こすとは想定外でした」
「まぁ、いきなり連れて来られてアレですからねぇ。無理もないんじゃないですか?」僅かに非難する様な声音。
だけど、相手は意に介した風も無く、言葉を続けた。
「そんな訳で今回はもう被験者をお返ししていいですから。ご両親に連絡を取って、引き取って頂いて」
「解りました。但し、もう少し回復してからの方がいいでしょう。危険は無い実験だと説明してあるんですから。しかし、金の為とは言え……娘を貸し出すとはね」
月の無い闇夜でも視認出来る眼が欲しいな。
今、周囲が見えないのは滲んだ涙の所為だけど。
人間の心の闇も見通せる、そんな眼が欲しい。両親の心さえ見えない、そんな眼より……。
―了―
暗くなった……。
元は裏の月夜の投稿
「月夜は視認がほしいな。
巽もほしいかな?」
だったんだけど……。何でこんな話に?(←おい)
いつもの通りの中学校の帰り道、不意に車に押し込まれ、目隠しをされた儘、随分走った挙げ句此処に連れて来られ、この部屋に閉じ込められた。女子中学生としては充分不審者には注意していた心算だったけど、雨の日で、傘で視界が遮られていたのも災いした。
けれど彼等――感じでは二、三人だと思った――は私にこの部屋の説明をした後、さっさと出て行き、戻っても来ない。
営利目的の誘拐。というのが頭に浮かんだけれど、彼等は私に誰何しなかった。という事は交渉相手となる私の両親を、予め調べていたのだろうか。でも、それなら交渉相手として適当でない事も調べただろうに。娘の為に金なんて、出したくても出す余裕は無い。父はごく普通のサラリーマン、母はパートでレジを打っている。そんなごく普通で、毎日の生活に追われている様な家。親族にも身代金を取れそうな大金持ちなんて居ない。
それに妙なのは、この長期戦の構え。営利誘拐ならさっさと人質を金に変えて、行方を眩ませたい筈。
なのに一見廃屋の家に水道やガスを引き、大量の保存食や着替えを用意し……最初から長期間、私を此処に閉じ込めるのが目的みたいじゃない。電気が無いのは明かりが漏れて、近所の人に不審がられるのを警戒しての事かしら。目隠しされていたから、付近に住民が居るのかどうかも解らないけれど。
それにしたって、これじゃあ準備の方にお金が掛かり過ぎてるんじゃないの?
やっぱり、営利誘拐とも思えない。
天窓からの蒼い月明かりも無い夜、私は考えるとも無しに同じ事を考え続ける。辺りは真っ暗で、何も見えない。
誰からも――誘拐犯からも――忘れられているんじゃないかと、心細くなる。この世には、私一人しか居ない様な孤独感。でも、一方で……それでもいい、という感覚。両親から忘れられている位なら、誰からも忘れられている位なら、私一人の方がいい。
アナタダレ?――その言葉が一番、怖い。
未だたった十数日の筈なのに、どれだけドアに向かって大声で悪態をついても、天窓に上ろうとして詰んだ椅子を崩して大きな音を立てても、何の反応も無いと……私は自分の存在が希薄になるのを感じる一方だった。彼等からも、近所の誰かからも、何の声も掛からない。
私は本当に此処に居るんだろうか?
真っ暗闇の中、私は自分の手さえも眼に映らない。そこにある筈なのに。私は此処に居る筈なのに。
見たい!――私は強く願った。私は私の手が見たい、私を知る人を見たい、この部屋の外を見たい!
私は――缶詰を開ける為に用意されていた缶切りを手探りで探し当て、壁を辿って殺風景なバスルームに露出したガス管を見付け出し、それに傷を付けた。ガスの匂いが充満してくると、私は缶切りでガス管を打ち据えた。暗闇に一瞬火花が散り……。
圧倒的な音と熱に意識を失った私が目を覚ましたのは、薄緑の部屋だった。
白い病院でもない。が、同種の匂いがしていた。
ドア一つしか無い部屋。そのドアの向こうから聞こえる人の声に、私は耳をそばだてた。十数日振りの人の声! ドアに駆け寄りたかったけれど、身体が動かなくてそれは叶わなかった。
「じゃあ、実験は中止ですか?」
「仕方ありませんな。ヒトが衣食住を保障されながらも外界との接触を立たれるとどうなるか……興味深いテーマだったのですが……。火事を起こすとは想定外でした」
「まぁ、いきなり連れて来られてアレですからねぇ。無理もないんじゃないですか?」僅かに非難する様な声音。
だけど、相手は意に介した風も無く、言葉を続けた。
「そんな訳で今回はもう被験者をお返ししていいですから。ご両親に連絡を取って、引き取って頂いて」
「解りました。但し、もう少し回復してからの方がいいでしょう。危険は無い実験だと説明してあるんですから。しかし、金の為とは言え……娘を貸し出すとはね」
月の無い闇夜でも視認出来る眼が欲しいな。
今、周囲が見えないのは滲んだ涙の所為だけど。
人間の心の闇も見通せる、そんな眼が欲しい。両親の心さえ見えない、そんな眼より……。
―了―
暗くなった……。
元は裏の月夜の投稿
「月夜は視認がほしいな。
巽もほしいかな?」
だったんだけど……。何でこんな話に?(←おい)
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Re:無題
有難うございます。
何か書いてる内に最低な親になってきました、彼女の両親(--。)
人見知りで人込み嫌いの私ですが、全く人の気配も反応も無い所に閉じ込められたら……ヤバイな。
何か書いてる内に最低な親になってきました、彼女の両親(--。)
人見知りで人込み嫌いの私ですが、全く人の気配も反応も無い所に閉じ込められたら……ヤバイな。
Re:やられました
人見知りの私でも完全に接触を断つのは先ず無理だろうな~。
何も反応が無いのはきついだろうし(--;)
むむむ、この両親、最低だな(←自分で書いといて)
何も反応が無いのはきついだろうし(--;)
むむむ、この両親、最低だな(←自分で書いといて)
Re:うわぁ
全く、何故こんな暗い話になったんだろう?(汗)
月夜の訳解らん投稿の所為だー(責任転嫁)
安全な実験ですから、って説明受けたからって娘貸し出すなよー★
月夜の訳解らん投稿の所為だー(責任転嫁)
安全な実験ですから、って説明受けたからって娘貸し出すなよー★
Re:こんばんは
あ、それいいですね(手、ポン)
両親それぞれ別の部屋に入れて、大丈夫ですよ、御主人(奥さん)は直ぐ隣の部屋に居ますから、とか言いながら実は全く声の届かない所に居るの。それで「何故返事をしてくれないの!?」とか……。
狂うな(--;)
両親それぞれ別の部屋に入れて、大丈夫ですよ、御主人(奥さん)は直ぐ隣の部屋に居ますから、とか言いながら実は全く声の届かない所に居るの。それで「何故返事をしてくれないの!?」とか……。
狂うな(--;)
Re:巽が視認したの?
何を?
なかなか・・・
人の心を読める目なんて見えたら、生きて行けなくなると思うな。
何も、ほんまに何も確認できない暗闇に、去年善光寺で体験したけど、怖いよ~! 普通に暗いとこなら、目が慣れて多少見えてくるけど、そんな微塵もない暗さ・・・あれは、初の経験でしたね。
いろんな実験も必要だけど・・・なんかアメリカとか有り得そうな実験やね^^;
何も、ほんまに何も確認できない暗闇に、去年善光寺で体験したけど、怖いよ~! 普通に暗いとこなら、目が慣れて多少見えてくるけど、そんな微塵もない暗さ・・・あれは、初の経験でしたね。
いろんな実験も必要だけど・・・なんかアメリカとか有り得そうな実験やね^^;
Re:なかなか・・・
善光寺? そういう体験実習みたいのがあるのかな? 瞑想でもしろとか……。
お寺の建物の暗さはまた格別な気がしますね~。天井が高い割に窓とか灯が少ない所為なのか、通常でも暗い。それもいい味なんですが。真っ暗闇は嫌ですね(>_<)
テレビで見る海外の寺院や教会は窓が多い所為かあれ程暗い感じはしないなぁ。
お寺の建物の暗さはまた格別な気がしますね~。天井が高い割に窓とか灯が少ない所為なのか、通常でも暗い。それもいい味なんですが。真っ暗闇は嫌ですね(>_<)
テレビで見る海外の寺院や教会は窓が多い所為かあれ程暗い感じはしないなぁ。
こんにちは
余程お金に困っているならともかく、普通の生活している親が、そんなことに貸し出しなんぞせんだろうとか思っちゃったよ。(笑)
これで、明かりがあったらどうだったんだろうね。
一人の寂しさよりも、闇の方が心理的な圧迫感は強いからねぇ。
これで、明かりがあったらどうだったんだろうね。
一人の寂しさよりも、闇の方が心理的な圧迫感は強いからねぇ。
Re:こんにちは
解りませんよぉ? 彼女の一人称ですからねぇ。娘の前では見栄張って普通に見せてて実は……とか(笑)
薄明かりでもあれば未だいいけど、目の前に翳した筈の自分の手さえも見えない様な真っ暗闇……例え睡眠時間でも落ち着いて寝られなさそう。
薄明かりでもあれば未だいいけど、目の前に翳した筈の自分の手さえも見えない様な真っ暗闇……例え睡眠時間でも落ち着いて寝られなさそう。
Re:こんにちはっ
暗闇で、然も何の反応も無いというのがね……。
精神的に追い詰められるよねぇ。
理由がアレだったり、ちょっと「私」には可哀想な話になりました★
精神的に追い詰められるよねぇ。
理由がアレだったり、ちょっと「私」には可哀想な話になりました★
こんばんは♪
うわぁ~自分の手さえ見えないほどの暗闇!
嫌だなぁ~!私だったら発狂するかもデス!
灯りと本があれば、いけそうだなぁ♪
衣食住事足りていたら・・・・・・
閉じこもり気味だからねぇ~σ(^_^;)ヘヘヘ♪
嫌だなぁ~!私だったら発狂するかもデス!
灯りと本があれば、いけそうだなぁ♪
衣食住事足りていたら・・・・・・
閉じこもり気味だからねぇ~σ(^_^;)ヘヘヘ♪
Re:こんばんは♪
私は衣食住足りて、明かりと本とペンと紙があれば……結構大丈夫かも知れない(笑)
でも、真っ暗はヤダ~(>_<)
でも、真っ暗はヤダ~(>_<)
Re:はう…
…………∑(-◇-;)
Re:再び!
ありがとうございます(^^)
へぇ~、極楽の錠前ですかぁ。地下の真っ暗な中で鍵に触るの?
見付からなかったら極楽行けないのかな(--;)
へぇ~、極楽の錠前ですかぁ。地下の真っ暗な中で鍵に触るの?
見付からなかったら極楽行けないのかな(--;)