〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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梅雨空を見上げると、鈍色の空から落ちた雨滴が僕の目の前で形を崩して広がった。眼鏡越しの風景が滲んでぼやける。
いや、水滴に滲んだのはレンズのこちら側だろうか。
どっちでもいい――僕は只、雨の街角で、空を見上げて佇んでいた。
小一時間程前、僕はこの街角で懐かしい顔を見掛けた。
中学生時代の同級生。いつ迄も子供っぽく馬鹿な事をやっていた僕達を呆れた様な冷ややかな目で見詰めながらも、何かあるとクラスメートの誰よりもフォローの手を差し伸べてくれた委員長。格好付けてるって言う友達も居たけど、僕はそれなりに、いい友人だと思っていた。
まぁ、高校は――お互いの成績の差を考えれば当然ながら――違ってしまい、今日迄会う事もなかったのだけど。
僕は懐かしくなって、彼に声を掛けた。
ところが、その声は届かなかったのか、彼は足取りを緩める事もなく、行ってしまった。
花束を抱えていたから、もしかしたら大事な待ち合わせがあって、他人の声なんて耳に入らない状態だったのかも知れない。けど……花束に掛けられたリボンの色が何だか……?
僕は首を傾げつつも、彼を見送った。
更に三十分程前だろうか。その中学時代の恩師の姿を見掛けた。
あの頃より頭が薄くなっているのを確認して、僕は思わず口元を緩めた。だけど、いつも草臥れた背広を着ていたあの先生が、今日はぴしっとしたスーツ姿――彼も何か大事な用があるみたいだ。
声を掛けそびれている間に、その黒い背中は行ってしまった。
そして十分前、僕は、あの頃一緒に馬鹿をやっていた連中を見掛けた。
彼等とは高校に進んでからも付き合いがあったけれど……進学してから髪を染めた奴も、ピアス穴を幾つも開けてた奴も、今日は妙に大人しい格好だった。
そして妙に懐かしげに、僕の話をしていた。
「もうあれから一年になるんだなぁ」
「ああ、一緒に下らない事してた時は楽しかったよな」
「そうそう、あいつは大人しい方だったけどさ、やる時は結構無茶やってたよな」
「でも……俺達に付き合ってバイクの免許なんて取らなかったら、あいつは未だ元気でいたかも……」
「……」
皆、思い思いに花束や缶ジュースやお菓子を持って、些か浮かない足取りで歩いて行く。
委員長や、先生の向かったのと同じ方向へ。
街角の、そこだけが新しいガードレール。
その前に供えられた花束や缶ジュースやお菓子――どれも、見覚えがあった。ついさっき見たものだ。
そしてそれらに囲まれる様にして、黒いリボンの掛けられた、一枚の、遺影。
紛れもなく、僕の顔だった。
そうだ、僕は一年前、この街角でバイク事故を起こして……声を掛けても気付いて貰えない筈だ。
僕は遺影を囲む一同の姿を目に焼き付け、その場を後にした。
ぽつぽつと、雨が降り始めた。
そして僕は梅雨空を見上げる。
幽霊なのに、雨を感じるのが可笑しくて、喉の奥から引き攣った笑いが込み上げてきた。あるいは泣き声だったのかも知れない。自分でも……どっちでもよかった。
けれど、いつしか雨は止み、破れた雲間からは透明な光の梯子「天使の階段」が……。
僕は、それに向かってゆっくりと歩き出した。
―了―
ん、暗い。
いや、水滴に滲んだのはレンズのこちら側だろうか。
どっちでもいい――僕は只、雨の街角で、空を見上げて佇んでいた。
小一時間程前、僕はこの街角で懐かしい顔を見掛けた。
中学生時代の同級生。いつ迄も子供っぽく馬鹿な事をやっていた僕達を呆れた様な冷ややかな目で見詰めながらも、何かあるとクラスメートの誰よりもフォローの手を差し伸べてくれた委員長。格好付けてるって言う友達も居たけど、僕はそれなりに、いい友人だと思っていた。
まぁ、高校は――お互いの成績の差を考えれば当然ながら――違ってしまい、今日迄会う事もなかったのだけど。
僕は懐かしくなって、彼に声を掛けた。
ところが、その声は届かなかったのか、彼は足取りを緩める事もなく、行ってしまった。
花束を抱えていたから、もしかしたら大事な待ち合わせがあって、他人の声なんて耳に入らない状態だったのかも知れない。けど……花束に掛けられたリボンの色が何だか……?
僕は首を傾げつつも、彼を見送った。
更に三十分程前だろうか。その中学時代の恩師の姿を見掛けた。
あの頃より頭が薄くなっているのを確認して、僕は思わず口元を緩めた。だけど、いつも草臥れた背広を着ていたあの先生が、今日はぴしっとしたスーツ姿――彼も何か大事な用があるみたいだ。
声を掛けそびれている間に、その黒い背中は行ってしまった。
そして十分前、僕は、あの頃一緒に馬鹿をやっていた連中を見掛けた。
彼等とは高校に進んでからも付き合いがあったけれど……進学してから髪を染めた奴も、ピアス穴を幾つも開けてた奴も、今日は妙に大人しい格好だった。
そして妙に懐かしげに、僕の話をしていた。
「もうあれから一年になるんだなぁ」
「ああ、一緒に下らない事してた時は楽しかったよな」
「そうそう、あいつは大人しい方だったけどさ、やる時は結構無茶やってたよな」
「でも……俺達に付き合ってバイクの免許なんて取らなかったら、あいつは未だ元気でいたかも……」
「……」
皆、思い思いに花束や缶ジュースやお菓子を持って、些か浮かない足取りで歩いて行く。
委員長や、先生の向かったのと同じ方向へ。
街角の、そこだけが新しいガードレール。
その前に供えられた花束や缶ジュースやお菓子――どれも、見覚えがあった。ついさっき見たものだ。
そしてそれらに囲まれる様にして、黒いリボンの掛けられた、一枚の、遺影。
紛れもなく、僕の顔だった。
そうだ、僕は一年前、この街角でバイク事故を起こして……声を掛けても気付いて貰えない筈だ。
僕は遺影を囲む一同の姿を目に焼き付け、その場を後にした。
ぽつぽつと、雨が降り始めた。
そして僕は梅雨空を見上げる。
幽霊なのに、雨を感じるのが可笑しくて、喉の奥から引き攣った笑いが込み上げてきた。あるいは泣き声だったのかも知れない。自分でも……どっちでもよかった。
けれど、いつしか雨は止み、破れた雲間からは透明な光の梯子「天使の階段」が……。
僕は、それに向かってゆっくりと歩き出した。
―了―
ん、暗い。
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Re:こんばんは
やっと気付いた(思い出した?)様で、無事成仏した様です(v人v)
無題
どもども!
今日は急なパソコン修理の仕事が入っちゃって、帰ってくるのが遅くなっちゃいました。。。
読み逃げになっちゃいますけど許して下さいね!
1年前に死んだ事に、ようやく気付く事が出来たんですね!
これで成仏できるだろうし、彼にとっては良かったんだろうね♪
今日は急なパソコン修理の仕事が入っちゃって、帰ってくるのが遅くなっちゃいました。。。
読み逃げになっちゃいますけど許して下さいね!
1年前に死んだ事に、ようやく気付く事が出来たんですね!
これで成仏できるだろうし、彼にとっては良かったんだろうね♪
Re:無題
お疲れ様です!
ええ、これでやっと行くとこ行けそうです☆
ええ、これでやっと行くとこ行けそうです☆
Re:こんばんは♪
突然の死……一番信じられないのは、実は本人だったりして。
Re:こんばんは♪
馬鹿やっててもそれなりに友達多かったのかな(^^;)
取り敢えず無事に上がれそうですな、彼は。
取り敢えず無事に上がれそうですな、彼は。
こんにちは
私も、委員長に声を掛けても気付かないって辺りから、ひょっとしたらって思ったよ。
ちょっと、死者の出る話が続いてるかも。
ん~、眼が滲んだっていうのは、ナシかも。(^_^;)
ところで、中学卒業以来、付き合いの無い人が、お悔やみに来てくれる自信ある?
私は無いな。
教師すら来ない気がする。
ちょっと、死者の出る話が続いてるかも。
ん~、眼が滲んだっていうのは、ナシかも。(^_^;)
ところで、中学卒業以来、付き合いの無い人が、お悔やみに来てくれる自信ある?
私は無いな。
教師すら来ない気がする。
Re:こんにちは
う、死者が続いたか。序でに雨も続いてる様な(^^;)
お悔やみに来てくれるかどうか以前に……遠くに来た所為もあって、逆の立場で自分が行く自信がない(←おい)
どうせここ迄は連絡も来ないけどね~。
お悔やみに来てくれるかどうか以前に……遠くに来た所為もあって、逆の立場で自分が行く自信がない(←おい)
どうせここ迄は連絡も来ないけどね~。
Re:こんばんわっ
気付く事が出来たのも、一応の気持ちの整理が付いたのも、皆のお陰……かな^^
Re:こんばんは
そそ、喪服~☆
花束のリボンの色も勿論、黒と白でした。
花束のリボンの色も勿論、黒と白でした。