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最悪だ――琢也は幾度目かの溜息を漏らした。
何だってこんな日に、こんな場所に来てしまったんだろう。大学の先輩に誘われて、断り難かったというのは確かだが。
選りに選って、ミステリースポットとして地元でも有名な廃墟マンションで、突然の雷雨に降り込められてしまうなんて。
幸い、鉄筋コンクリート四階建ての建物は所々窓が破れてはいるものの、壁や天井はしっかりしている。開口部にさえ近付かなければ、雨に濡れる事もない。だが、当然ながら重く雲の垂れ込めた暗い空に対抗し得る電灯は無く、人の住まぬ建物は思いの他、冷たい。足元からしんしんと冷気が這い登ってくる様だ。
時折、稲光が閃いては壁に書かれた様々な悪戯書きを照らし出す。琢也達の様な地元の少しやんちゃな連中の浮かれた走り書きもあれば、態々染料を用意して来たらしい、妙に凝ったもの迄ある。心霊スポットの壁に自棄にリアルな髑髏を描き込む神経が、琢也には理解出来なかった。
「悪ぃな、琢也。俺が誘ったばっかりに」近くのドアノブをガチャガチャ言わせながら、卓也を誘った張本人、松山は言った。
「いえ……運が悪かったっすね」全くだよ、と悪態をつくのに気がひける程には、世話になっている自覚があった。「それより、何してるんですか?」
松山はまた別のドアノブに取り掛かっていた。
「いや、廊下って思ったより冷たいし、部屋の中の方が少しはマシかなって……。畜生、此処も開いてねぇな」
「そりゃ、廃墟とは言っても不動産屋か誰かの持ち物ですし……。俺達みたいな侵入者に荒らされないように、締めてるんじゃないっすか?」仮にも心霊スポットと噂される廃墟のドアを、気軽に開けようとする先輩に僅かに顔を引き攣らせつつ、卓也は言った。
「そうかも知れねぇが……。廊下なんかもう荒らされ放題じゃねぇか」
確かに、と卓也は苦笑した。前の侵入者の出したゴミだろうか、コンビニの袋に入った空き缶やらスナックの袋、果ては弁当の食べ残し迄が散乱している。道理でさっきから蝿の姿が目に付くと思った訳だ。
「雨、止まないっすね……」未だ暗い空を窺って、卓也はまた、溜息をついた。「せめて雷が遠ざかってくれればいいのに」
二人共、此処迄は各自のバイクで来ている。建物内を散策している時に突然の雨に気付いて、大慌てで玄関のロビー内に運び込んでいた。雨は兎も角、落雷でも受けたら事だ。
「おっ!」
不意に松山が声を上げ、卓也は何事かと振り返った。
松山は一枚のドアの前に立ち、彼の方を向いて笑っていた。
「此処、開くぞ」
ぎぃ、と軋る様な音を立てて開いたドアに、卓也は鼓動が早まるのを感じた。
部屋はワンルームで、幸いな事に窓硝子は無事だった。畳は色褪せ、埃でぼこぼこになっていたが、一先ず座れない事もない。二人は土足の儘、上がり込んだ。
入って直ぐ、卓也は違和感を覚えた。
家具は撤去され、ガスコンロさえ残されていない。畳同様色褪せた壁紙が端々から破れて垂れ下がり、丸で白い幽霊の手の様だと卓也は思った。だが、他にこれと言って目立つ物も無く、何に違和感を覚えたのか、卓也は自身でも解らず、首を捻った。
松山はそんな様子にも気付かぬ顔で、既に畳にどっかりと腰を下ろしている。
「しまったなぁ。来る時に何か買って来るんだった」煙草とライターを取り出しつつも、松山は愚痴った。「喉が渇いてきちまった」
「仕方ないっすね。こんな所、水も通ってないし……」苦笑しながら捻った台所の流しのカランは、意外にすんなりと回り、細いながらも、水が出た。卓也は慌てて締める。「……で、出たとしてもこんな所の水、飲めませんよ。きっとずぅっと水道管に残ってたとか、そんなんですって」
それにしては鉄錆の臭いもなく、水は澄んでいた。
何かおかしい――再び、卓也は違和感に不安を掻き立てられた。
そして、再度辺りを見回して、気付いた。
鍵の掛けられていない部屋だと言うのに、此処は外の廊下の様には荒らされていない。壁には落書きも無いし、自分達以外の誰かが土足で上がり込んだ様子もない。こんな所に肝試しに来ようなんて奴は、手当たり次第、部屋を開けてみるものだろう。そしてやはり自分達の様に、態々靴を脱いで上がったりはしない。それに、水……。
「せ、先輩、此処、もしかしたら、誰か住んでるんじゃないっすか?」
「こんな廃墟にか?」松山が眉を顰めた、その時だった。
一際激しい雷鳴と共にドアが開き、黒い雨具を纏った警官が数人、部屋に雪崩れ込んで来た。
驚きに身を竦ませていた俺達は、手も無く、彼等に捕まった。現有住居侵入罪で。
何でも、あの廃墟マンションには、極度の人嫌いの芸術家が、きちんと家賃を払って、済んでいるんだそうだ。
普段なら外出時には戸締りをして行くあの部屋に、あの時ばかりは何故か鍵を掛け忘れ、慌てて帰ってみたら見知らぬ男二人が寛いでいたので通報したのだとか。あの部屋は無心にアイデアを練る、彼にとっては大事な場所で、他の部屋にはちゃんと家財道具もあったらしい。
それにしては廊下など、荒れるに任せているではないかと俺達が噛み付くと、警官も些か呆れ顔でこう言った。
「あの廃墟の荒れ加減が、インスピレーションを与えてくれるんだそうだ。だから敢えて廊下などは侵入者の好きにさせていたらしい。彼のテーマは一貫した人間の文明の否定だそうだ。ま、そう言いつつ部屋には家財道具があったり、しっかり文明の恩恵も享受していた様だから……我々凡人には全く、解らんがね」
全くだ。
水道の通っている廃墟なんて、あるもんか。
幸い、俺達は少しのお小言で、放免された。
―了―
今日は朝から雷雨~(--;)
や、最近幽霊ネタとか多かったから(^^;)
溺れる程は水溜まってないっす(^^;)
うむむ。。。こ、これは、おかしい。。。
なにか、違和感が残るではないか><v
まず、芸術家といっても、そんなに有名人じゃないはず><;;;;
ということは、収入は。。。年金か生活保護かぁ。。。
あ!分かった!
この老人は、ヒキニートだぁーー( ̄□ ̄;)ガビィーン
よく観察すると、荒れ果てた老化にはアマゾンの箱やらがあったに違いない w(°0°)w ホッホー
そりゃ、人間嫌いなのも分かる気がするっていうか。。。働けよっていいたい^^;;;;wwwwwwwwww
ではではー^^/
人嫌いで引き篭もって好きな創作だけしてるんだから、ある意味そうかも知れん(^^;)
てか、きっとマニア向けの作品しか作ってなさそう★
部屋に入る時、二人は土足の儘、上がり込んだ とあって、後の主観では 自分達の様に、態々靴を脱いで上がったりはしないとあるような、視力よくないから見間違えかも。
![](/emoji/E/330.gif)
ん? 区切りが悪かったかな?
態々靴を脱いで上がったりしないのが自分達の様だと……(^^;)