〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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闇に濃く蟠る夜霧は、僕の視覚も惑わせた。だからこれはきっと……錯覚なんだ!――岩場に腰を落とし、頭を抱えて僕は自分にそう言い聞かせた。錯覚に過ぎない、と。
「この山間で霧に遭遇したらけっして殺生をしちゃいかん……この近辺には、そう昔から伝えられておるよ。それが人であれ獣であれ、どれ程小さなものでもいかん。どんなものであったとしても」
そんな山の麓に張り付く様に広がる村の、古老の言葉が脳裏に蘇った。山の天候や危険箇所といった地元の人間の生きた情報を貰い、さて出立しようかと腰を上げた所に掛かった言葉だった。僕はぎくりとして振り返ったものだ。それが不吉な警告の様な気がして。
だが、彼の無自覚な警告は活かされる事なく、僕は当初からの計画を実行してしまった。
詰まり、山頂の湖にて、別の登山口から登頂して来た旧友を――突き落とした。彼は決して金鎚ではなかったが厚い防寒ジャケットや荷物が自由を奪い、程無く、水に没した。
お誂え向きの霧に紛れ、僕は冷たい湖面を後にした。
数年振りの再会の演出としてそれぞれ別の登山ルートを取るよう計画した事、霧の多い山間を選んだ事、全てがこの為だったのだ。かつての僕への仕打ちを忘れ、軽々と誘いに応じて来た彼の愚かさに口角が歪む。
未だ、親友だなどと思っていたとは……。
「昔、裏切ったのはお前の方じゃないか」霧に巻かれ、道を失い、僕は一人、呻く様に言った。「……虐めに遭っていたクラスメートを、一人一人なら非力でも、二人なら助けられるとか何とか言って……先に逃げ出したのはお前の方だった。結局僕はそのクラスメートと共に、高校の三年間、ターゲットにされ続けた。お前もそれが怖くなって逃げたんだよなぁ? そして僕の助けを求める視線をお前は避け続けた。卑怯者だよ、お前は」
それでも、その視線が耐えられずに苦しんでいたんだ――奴がそう言った様な気がした。
「だから? 僕以上に苦しんだとでも言うのか? あの下らない連中に毎日毎日、嫌な目に遭わされてきた僕より?」
なら、俺よりその連中を……。
「殺せって? どこ迄も逃げる気かよ。確かに奴等は今でも憎い。けど……それ以上に、お前が憎いんだよ! 虐められてた奴を庇えば、今度は僕達がターゲットにされるかも知れない、それはお前もよく解ってたよな。そして実際に矛先がこっちに向いてきたら、さっさと尻尾を巻いて逃げたんだよ、お前は! 解っていて僕を誘い、解っていて僕を見捨てた――奴ら以上に、お前が憎い」
…………。
「それなのに、この間電話したらあんなに喜んで!」遂に僕は叫んでいた。「殺す為の呼び出しだったんだぜ!?
この数年間ずっと忘れられなかった恨みを晴らす為の……! なのに、こんなほいほいと誘いに乗って……! お前は忘れてたとでも言うのか? 僕にした仕打ちを! 僕の恨みの籠もった視線を!」
忘れてなんかいない……だからこそ、連絡があって、嬉しかった。赦してくれた訳じゃない……そう解っていても。
「解っていても……?」僕は顔を顰めた。「いいや、解っている筈がない。解っていたら来なかった筈だ。こんな霧の多い山、それも湖の畔なんかに……。況して僕に背を向ける事なんて……解っていたら……」
呼吸が苦しい。頭が混乱する。
もしかしたらあいつは僕に恨まれている事、それが殺意に迄達している事、全て解っていたのかも知れない。解っていて――いや、そんな馬鹿な!
激しく打ち振った頭から、汗の雫が落ちる。嫌な汗だ。
僕はゆっくりと顔を上げ、口を開いた。
「お前は……何で来たんだよ!?」
来なければよかったのに。いっそ忘れていてくれたら……。殺さずに済んだのに。
僕は、我知らず獣の様な咆哮を上げていた。
錯覚に違いない。きっとブロッケン現象か何かだ――そう思うのに、思いたいのにそう見えてしまう、霧の空に浮かんだあいつの顔に向かって。
―了―
夜霧の視界は360度錯覚ー!(笑)
「この山間で霧に遭遇したらけっして殺生をしちゃいかん……この近辺には、そう昔から伝えられておるよ。それが人であれ獣であれ、どれ程小さなものでもいかん。どんなものであったとしても」
そんな山の麓に張り付く様に広がる村の、古老の言葉が脳裏に蘇った。山の天候や危険箇所といった地元の人間の生きた情報を貰い、さて出立しようかと腰を上げた所に掛かった言葉だった。僕はぎくりとして振り返ったものだ。それが不吉な警告の様な気がして。
だが、彼の無自覚な警告は活かされる事なく、僕は当初からの計画を実行してしまった。
詰まり、山頂の湖にて、別の登山口から登頂して来た旧友を――突き落とした。彼は決して金鎚ではなかったが厚い防寒ジャケットや荷物が自由を奪い、程無く、水に没した。
お誂え向きの霧に紛れ、僕は冷たい湖面を後にした。
数年振りの再会の演出としてそれぞれ別の登山ルートを取るよう計画した事、霧の多い山間を選んだ事、全てがこの為だったのだ。かつての僕への仕打ちを忘れ、軽々と誘いに応じて来た彼の愚かさに口角が歪む。
未だ、親友だなどと思っていたとは……。
「昔、裏切ったのはお前の方じゃないか」霧に巻かれ、道を失い、僕は一人、呻く様に言った。「……虐めに遭っていたクラスメートを、一人一人なら非力でも、二人なら助けられるとか何とか言って……先に逃げ出したのはお前の方だった。結局僕はそのクラスメートと共に、高校の三年間、ターゲットにされ続けた。お前もそれが怖くなって逃げたんだよなぁ? そして僕の助けを求める視線をお前は避け続けた。卑怯者だよ、お前は」
それでも、その視線が耐えられずに苦しんでいたんだ――奴がそう言った様な気がした。
「だから? 僕以上に苦しんだとでも言うのか? あの下らない連中に毎日毎日、嫌な目に遭わされてきた僕より?」
なら、俺よりその連中を……。
「殺せって? どこ迄も逃げる気かよ。確かに奴等は今でも憎い。けど……それ以上に、お前が憎いんだよ! 虐められてた奴を庇えば、今度は僕達がターゲットにされるかも知れない、それはお前もよく解ってたよな。そして実際に矛先がこっちに向いてきたら、さっさと尻尾を巻いて逃げたんだよ、お前は! 解っていて僕を誘い、解っていて僕を見捨てた――奴ら以上に、お前が憎い」
…………。
「それなのに、この間電話したらあんなに喜んで!」遂に僕は叫んでいた。「殺す為の呼び出しだったんだぜ!?
この数年間ずっと忘れられなかった恨みを晴らす為の……! なのに、こんなほいほいと誘いに乗って……! お前は忘れてたとでも言うのか? 僕にした仕打ちを! 僕の恨みの籠もった視線を!」
忘れてなんかいない……だからこそ、連絡があって、嬉しかった。赦してくれた訳じゃない……そう解っていても。
「解っていても……?」僕は顔を顰めた。「いいや、解っている筈がない。解っていたら来なかった筈だ。こんな霧の多い山、それも湖の畔なんかに……。況して僕に背を向ける事なんて……解っていたら……」
呼吸が苦しい。頭が混乱する。
もしかしたらあいつは僕に恨まれている事、それが殺意に迄達している事、全て解っていたのかも知れない。解っていて――いや、そんな馬鹿な!
激しく打ち振った頭から、汗の雫が落ちる。嫌な汗だ。
僕はゆっくりと顔を上げ、口を開いた。
「お前は……何で来たんだよ!?」
来なければよかったのに。いっそ忘れていてくれたら……。殺さずに済んだのに。
僕は、我知らず獣の様な咆哮を上げていた。
錯覚に違いない。きっとブロッケン現象か何かだ――そう思うのに、思いたいのにそう見えてしまう、霧の空に浮かんだあいつの顔に向かって。
―了―
夜霧の視界は360度錯覚ー!(笑)
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Re:無題
気付いた人には「いえ、錯覚です」とか言ってみたり(笑)
Re:こんばんは
殺したらあかんし、そんな事しても晴れないのは承知の上でも、やっちまうのが人間の哀しさ……かな。長年に亘って育った殺意って、記憶喪失にでもならないと消えなさそうだし(←おい)
Re:こんばんは☆
それを言ったらミステリーやサスペンスはいきなり行き詰まりますって(^^;)
それとも……社会的に抹殺するか(←おい)
それとも……社会的に抹殺するか(←おい)
こんにちは
う~ん、個人的には残念かなぁ。
夜霧のお題にしちゃあ、かなりまともで、意味も通っていたからねぇ。(笑)
出来れば、もっと、原型に近い形で入れて欲しかった気もするし、もっと幻想的な話になるかなぁとも、思ったんだけどねぇ。
まっ、それは兎も角、確かに虐めてるヤツより、傍観してるヤツの方が憎いって気持ち、分からんでも無いかな。
よく思うんだけど、自殺した生徒の葬儀に出てるクラスメートって、何を思っているんだろうって思う。
自分も虐められた経験から言うと、死んだ生徒は、葬儀なんかに、出てきて欲しくなかっただろうなって思う。
まっ、でも、殺しても気は晴れないと思うけどね~。
夜霧のお題にしちゃあ、かなりまともで、意味も通っていたからねぇ。(笑)
出来れば、もっと、原型に近い形で入れて欲しかった気もするし、もっと幻想的な話になるかなぁとも、思ったんだけどねぇ。
まっ、それは兎も角、確かに虐めてるヤツより、傍観してるヤツの方が憎いって気持ち、分からんでも無いかな。
よく思うんだけど、自殺した生徒の葬儀に出てるクラスメートって、何を思っているんだろうって思う。
自分も虐められた経験から言うと、死んだ生徒は、葬儀なんかに、出てきて欲しくなかっただろうなって思う。
まっ、でも、殺しても気は晴れないと思うけどね~。
Re:こんにちは
実際に殺して晴れる様なものでもないだろうけどね~。だから霧に惑わされてる面もあるし。
あれを原型に近い形でっすか~(笑)
視覚も錯覚ー!――もが気になるっす(^^;)
あれを原型に近い形でっすか~(笑)
視覚も錯覚ー!――もが気になるっす(^^;)
こんにちは♪
夜霧ちゃんの、あの不思議なお言葉から、このようなサスペンスが誕生したなんて!凄いネ♪
確かに殺しちゃいけないと思うけど、殺したくなる気持は分からなくもないかなぁ・・・・・
でも、殺しても気持は晴れないと思うけどねぇ!
虐めって嫌なもんだよねぇ・・・・・
確かに殺しちゃいけないと思うけど、殺したくなる気持は分からなくもないかなぁ・・・・・
でも、殺しても気持は晴れないと思うけどねぇ!
虐めって嫌なもんだよねぇ・・・・・
Re:こんにちは♪
殺しても気が晴れないのは解るんだけど……虐めてる奴等は何が面白いのか、それが全く解らないわ(--;)