〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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俺、祭りの屋台で売ってるお面って奴、苦手なんだよね。
何でかって言われると、何となく、なんだけど……強いて挙げるなら、やっぱり顔が見えないからかな。
暗い境内に夜店が一杯立ってて、遠くから見てる分には、ああ、明るいな、楽しそうだなって思えるんだけどさ、中に入っちまうと、何でかこう……闇が際立つんだよね。
いつもと違う境内、裸電球の明かりの届かない薮、ビニールテントの陰、明かりに釣られて来た蛾の落とす影、石畳の継ぎ目……色んな所に蟠ってる。
そんな中で顔の見えない人間に囲まれるなんて、ぞっとしないか?
え? そんなに皆が皆お面を被っちゃいないだろう?
まあ、な。
けど、俺は一度だけ、そんな光景に出会った事がある。一度だけ、だ。何しろそれ以来、夜店になんか行ってないからな。
何でかって言われると、何となく、なんだけど……強いて挙げるなら、やっぱり顔が見えないからかな。
暗い境内に夜店が一杯立ってて、遠くから見てる分には、ああ、明るいな、楽しそうだなって思えるんだけどさ、中に入っちまうと、何でかこう……闇が際立つんだよね。
いつもと違う境内、裸電球の明かりの届かない薮、ビニールテントの陰、明かりに釣られて来た蛾の落とす影、石畳の継ぎ目……色んな所に蟠ってる。
そんな中で顔の見えない人間に囲まれるなんて、ぞっとしないか?
え? そんなに皆が皆お面を被っちゃいないだろう?
まあ、な。
けど、俺は一度だけ、そんな光景に出会った事がある。一度だけ、だ。何しろそれ以来、夜店になんか行ってないからな。
当時子供だった俺は、祖母ちゃんに田舎の夏祭りに連れて行って貰ったんだ。
ところが金魚掬いやらヨーヨー釣りやら、粉ばっかりなのに何故かああいう場所じゃあ美味しそうに見えるお好み焼きやらたこ焼き、そういった物に目を奪われて走り回ってる内に、はぐれちまった。よくある事さ。
けど、辺りは知らない人ばかりで、話し掛けるのさえ躊躇している内に、ふと、気付いたんだ。
いつの間にか、皆、面をしている……って。
それも、屋台で売ってる様な薄っぺらいプラスチック製の面もあれば、普通壁に飾ってる様な狐の面、お多福の面、ひょっとこの面もあった。そのどれにしても、表情が全く読めなくて、唯一覗く眼は冷たく見えて、当時の俺は本当に尻込みしちまって、結局祖母ちゃんを知らないかの一言も言えずに夜店の連なる参道を入り口の方へと走り出した。
ところが、それに付いて来る足音が一つ。
恐る恐る振り返ってみたら当時の俺と同い年位の子供だった。やっぱり、白い狐のお面を被ってたけど。白い着物を着てて、確か髪も白かった様な……? その髪が長かったんで、女の子だと思った。
「君ぃ」自棄にのんびりした声でその子供は言ったよ。「帰るんならお参りして行かないと、ちゃんと帰れないよ?」
お参りって言ったって、お祖母ちゃんも居ないしよく解らない――そんな様な事を答えたと思う。
「だからぁ、そのお祖母ちゃんの所に帰れないんだよ」そう言ってその子はころころと笑った。
そんな事ない、と俺は反抗した。だって、帰れないってその時の俺にはすっごい怖い言葉だったんだぜ? それを言われたもんだから、ムキになって否定した。一人でも帰れる、お祖母ちゃんだって俺がどこにも居なかったら、もしかしたらと家に帰って来るって。
するとそいつはふと、眉を顰めた――おかしいだろう? 面を被ってるのに、その子が眉を顰めたのを見た記憶があるんだ。そんな気配だったのかも知れないけど……。
兎も角、そいつが言うにはさ。
「君をこの人込みの中見失って、どれだけ捜しても見付からない……。お祖母ちゃん、君に何かあったんじゃないかって、それが自分の所為なんじゃないかって……思うだろうねぇ。おめおめと家に帰れるかなぁ?」
どきり、とした。お祖母ちゃんは責任感の強い人だったし、その夜だって、旅行の疲れからか熱を出して一緒に行けなかったお袋からくれぐれも宜しくって、俺の事を頼まれてた。それなのに俺を見失い、見付ける事も出来なかったら……。今みたいに携帯電話なんで普及してない頃の事だ。今何処? なんて気軽に訊く事も出来やしない。
どうすれば会えるんだ?――俺はその子に訊いたよ。何となく、その子が知ってる様な気がして。
その子は俺を、境内の方へ引っ張って行った。
「小難しい作法は問わないであげるからさぁ、此処で手を合わせて、お祖母ちゃんに会いたいって念じてみなよ」所々に古風な提灯の吊るされた境内。その本堂を前にしてその子は言った。「本気で、ね。余計な事は考えちゃ駄目だよぉ?」
半信半疑じゃ駄目だ、と自分に言い聞かせて、俺は真剣に念じたよ。ぎゅっと目を瞑って、手を力一杯合わせて。
そして――不意に後ろから名前を呼ばれて振り返ったら、裸電球に照らされた境内を、お祖母ちゃんが俺に向かって駆けて来る所だった。
例の狐面の子供は居なくなってたよ。
それで俺は「ああ、帰れたんだ」って思った。何処に? 勿論、自分の世界に。
あの儘お参りせずに参道を下っていたら、今頃どうなっていたんだろうなぁ。
件の白髪の狐面の子には感謝しているよ。結局有難うも言えなかったけどさ。
けど、やっぱりあの子以外のお面姿は苦手なんだよな。
だから悪いけど誘いには乗れないんだ。お祭りには行かないよ。
見知らぬお面の誰かさん。
―了―
暑い~。
ところが金魚掬いやらヨーヨー釣りやら、粉ばっかりなのに何故かああいう場所じゃあ美味しそうに見えるお好み焼きやらたこ焼き、そういった物に目を奪われて走り回ってる内に、はぐれちまった。よくある事さ。
けど、辺りは知らない人ばかりで、話し掛けるのさえ躊躇している内に、ふと、気付いたんだ。
いつの間にか、皆、面をしている……って。
それも、屋台で売ってる様な薄っぺらいプラスチック製の面もあれば、普通壁に飾ってる様な狐の面、お多福の面、ひょっとこの面もあった。そのどれにしても、表情が全く読めなくて、唯一覗く眼は冷たく見えて、当時の俺は本当に尻込みしちまって、結局祖母ちゃんを知らないかの一言も言えずに夜店の連なる参道を入り口の方へと走り出した。
ところが、それに付いて来る足音が一つ。
恐る恐る振り返ってみたら当時の俺と同い年位の子供だった。やっぱり、白い狐のお面を被ってたけど。白い着物を着てて、確か髪も白かった様な……? その髪が長かったんで、女の子だと思った。
「君ぃ」自棄にのんびりした声でその子供は言ったよ。「帰るんならお参りして行かないと、ちゃんと帰れないよ?」
お参りって言ったって、お祖母ちゃんも居ないしよく解らない――そんな様な事を答えたと思う。
「だからぁ、そのお祖母ちゃんの所に帰れないんだよ」そう言ってその子はころころと笑った。
そんな事ない、と俺は反抗した。だって、帰れないってその時の俺にはすっごい怖い言葉だったんだぜ? それを言われたもんだから、ムキになって否定した。一人でも帰れる、お祖母ちゃんだって俺がどこにも居なかったら、もしかしたらと家に帰って来るって。
するとそいつはふと、眉を顰めた――おかしいだろう? 面を被ってるのに、その子が眉を顰めたのを見た記憶があるんだ。そんな気配だったのかも知れないけど……。
兎も角、そいつが言うにはさ。
「君をこの人込みの中見失って、どれだけ捜しても見付からない……。お祖母ちゃん、君に何かあったんじゃないかって、それが自分の所為なんじゃないかって……思うだろうねぇ。おめおめと家に帰れるかなぁ?」
どきり、とした。お祖母ちゃんは責任感の強い人だったし、その夜だって、旅行の疲れからか熱を出して一緒に行けなかったお袋からくれぐれも宜しくって、俺の事を頼まれてた。それなのに俺を見失い、見付ける事も出来なかったら……。今みたいに携帯電話なんで普及してない頃の事だ。今何処? なんて気軽に訊く事も出来やしない。
どうすれば会えるんだ?――俺はその子に訊いたよ。何となく、その子が知ってる様な気がして。
その子は俺を、境内の方へ引っ張って行った。
「小難しい作法は問わないであげるからさぁ、此処で手を合わせて、お祖母ちゃんに会いたいって念じてみなよ」所々に古風な提灯の吊るされた境内。その本堂を前にしてその子は言った。「本気で、ね。余計な事は考えちゃ駄目だよぉ?」
半信半疑じゃ駄目だ、と自分に言い聞かせて、俺は真剣に念じたよ。ぎゅっと目を瞑って、手を力一杯合わせて。
そして――不意に後ろから名前を呼ばれて振り返ったら、裸電球に照らされた境内を、お祖母ちゃんが俺に向かって駆けて来る所だった。
例の狐面の子供は居なくなってたよ。
それで俺は「ああ、帰れたんだ」って思った。何処に? 勿論、自分の世界に。
あの儘お参りせずに参道を下っていたら、今頃どうなっていたんだろうなぁ。
件の白髪の狐面の子には感謝しているよ。結局有難うも言えなかったけどさ。
けど、やっぱりあの子以外のお面姿は苦手なんだよな。
だから悪いけど誘いには乗れないんだ。お祭りには行かないよ。
見知らぬお面の誰かさん。
―了―
暑い~。
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Re:こんばんは
何故でしょうね。
あの日逃した子供を……とか☆
あの日逃した子供を……とか☆
Re:おはようございます(^^)
壁にお面がずらり……とか、ちょっと怖いかも(^^;)
おはよう!
そのお祭りは、お稲荷さんだったのかい?(笑)
お面ね、欲しかったけど、高いから買えなかったな。
限られたお小遣いで、鉄板のワタアメは外せないしぃ、とか思いながら。(笑)
持ってる子って、大抵、頭の上に乗せてるよね。
だって、お面してると食べられないから。(笑)
しかし、態とお面を被って集会する事もあるようで。
大人の話だけどね。
仮面舞踏会ってか、テレビの見過ぎです。(笑)
お面ね、欲しかったけど、高いから買えなかったな。
限られたお小遣いで、鉄板のワタアメは外せないしぃ、とか思いながら。(笑)
持ってる子って、大抵、頭の上に乗せてるよね。
だって、お面してると食べられないから。(笑)
しかし、態とお面を被って集会する事もあるようで。
大人の話だけどね。
仮面舞踏会ってか、テレビの見過ぎです。(笑)
Re:おはよう!
限られたお小遣いで如何に楽しむか! 子供に課せられた重要な命題ですな(笑)
やっぱり綿飴は外せませんよね。その日の内に食べないとぺしゃってなっちゃうけど(^^;)
やっぱり綿飴は外せませんよね。その日の内に食べないとぺしゃってなっちゃうけど(^^;)
こんにちは♪
想像したらゾクゾクとしました。
それは怖いよネ!
お面って壁に飾ってあったりするのでも、
ちょっと気味が悪いものねぇ~!
ちゃんと手を合わせて、無事に戻れて良かった!
もしも、そのまま走り続けたらどうなってたん
だろうねぇ~?
それは怖いよネ!
お面って壁に飾ってあったりするのでも、
ちょっと気味が悪いものねぇ~!
ちゃんと手を合わせて、無事に戻れて良かった!
もしも、そのまま走り続けたらどうなってたん
だろうねぇ~?
Re:こんにちは♪
走り続けてたら……迷い込んだ世界の中、一人でずっと彷徨い続けてた……?(・・∥)
お面、何か怖いですよね。
お面、何か怖いですよね。
Re:おーい
心配有難うございます(^-^)
竹田市の方とか、酷いみたいなんだけど、こっちは降ったり止んだりで、それ程酷い雨じゃないです。今の所。
竹田市の方とか、酷いみたいなんだけど、こっちは降ったり止んだりで、それ程酷い雨じゃないです。今の所。