〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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春先の連休を利用しての旅は、それなりに順調だった。
細かいコースは現地で決める、本当に気儘な一人旅。勿論、それだけに宿や移動手段の手配迄、自分一人でしなければならないし、飛込みでの泊まりを満室だからと断られる事もあったが。それでも概ね、順調だった。
この田園風景広がる、長閑な村で足止めを食う迄は。
「あれ? バス停……」俺は記憶を検めながら、周囲を見回した。
田を休ませている間だけなのだろう、赤紫の蓮華の花が咲き揃った田圃の中をやや広めの道が一本。更にそこから枝分かれする様に、畦道が規則正しく延びている。その延び行く先は点在する古民家だったり、新緑の林だったり……。
その広い道の真ん中に突っ立って、俺は途方に暮れていた。
この村に俺を運んで来たバス。特に行く当ても無く、一面の蓮華に誘われる様に此処で途中下車したのだが――そのバス停が、無い。
記憶違いだろうか? 村の景色は殆どが緑に彩られている。初めての村で、あちらこちらと散策していたのだ。戻る道を間違えても不思議は無いのかも知れない。
しかし、これ程の広い道は他には無かった筈なのだが?
「おっかしいなぁ」頭を掻き、ぼやきつつも俺は辿って来た道順を思い起こす。「……やっぱりこの道だよなぁ」
しかし、どう見ても、道にはバス停の跡も、その傍らに設置と言うより放置されている様な錆の浮いたベンチも、見当たらないのだった。
俺は溜め息をついて、正しい道を訊く為に一番近い民家を目指した。
「すみませーん」庭を覗き込んで、俺は声を掛けた。門柱はあるが、インターホンは見当たらなかった。
しかし、庭にも縁側にも人の姿は無く、俺の声に応えてくれる者も無かった。只長閑に、鶏が草を食んでいるだけだ。
再度声を掛けつつも、庭に足を踏み入れる。昔造りの広い家だ。聞こえないのかも知れない。
と――いつからそこに居たのか、門柱の陰に老婆が一人、佇んでいた。余りにひっそりとした登場に、俺は飛び上がった。さっきから居たのに気付かなかったのか……?
「あ、す、済みません。道を教えて頂きたくて……」慌てて頭を下げる。「勝手に入って済みません。それであの……バス停がどこか、教えて頂けないでしょうか?」
す、と手を伸ばし、老婆は俺が元来た道を、指差した。
帰れ、という事なのかと――機嫌を損ねてしまったかと焦ったが、釣られて見遣った先には、確かにバス停。
え? そこは確かにさっきの広い道で……さっき無かった筈の物が、今はある。バス停も。ベンチも。
内心首を捻りながらも、俺は無口な老婆に礼を言って、その家を後にした。
「おかしいよなぁ。俺の目、どうかしたんだろうか」足元の悪い畦道を辿りながら、俺はぶつくさと呟く。「それにしたってあんな大きな物が見えないなんて事……あれ?」
広い道にぶち当たり、顔を上げたそこには、またも何も無い、道。
「な、何で……」きょろきょろと辺りを見回すも、先程あの家から見たバス停もベンチも、その欠片すらも見当たらない。「どうなってるんだよ……?」
足元に留意して、下を向いて歩いている内に消えた?――そんな馬鹿な!
もう一度、さっきの家で訊いてみようか。そうも思ったが、何も言わずにこの道を指差した老婆への薄気味悪さが心に浮かび、俺は別の小道を辿る事にした。
その別の民家でも先程と同じ対応を受け、更に言い知れぬ気味の悪さを感じながら、俺は元の道に戻った。
そう、その家からも、この道にバス停が見えたのだ。確かに。
そして今度は多少の足元の悪さも我慢しつつ、バス停を視界に捉えた儘、真っ直ぐ歩いて来た。
だが、いつからなのか、俺の意識が捉えない内に、またもやバス停とベンチは跡形も無く、消え失せていた。
「どうなってるんだよ?」辺りの蓮華畑に、都会よりも早く夕闇が忍び寄る中、俺は頭を抱えた。「何で? いつ消えた? 何故……!」
遠くから見ればあるのに、いざ来て見ると無い。そんな騙し絵の様な、バス停。
しかしそれを見付けなければ、俺はこの村から出られない。いや、この道を辿って行けば、いずれは出られる筈なのだが――そんな気がしなかった。
今の俺には、この道そのものが騙し絵で、どこ迄歩いても何処にも辿り着けない様な……そんな気がしてならなかった。
徐々に深くなる夕闇を頭上に、どこかに宿を請うべきだろうかと考えたが、あの無言の人々に、そして夕闇迫りつつあると言うのに灯一つ点かない家々に、俺が感じるのはやはり、薄気味の悪さだけだった。
そして俺の脚がやっと踏み出した一歩は……。
道はどこ迄も延びている。
村を囲んでいるらしい林を突き抜け、只々、真っ直ぐ――左右に規則正しく枝分かれする畦道を延ばしながら。
バス停は、未だ見付からない。
―了―
こんな村嫌だー(--;)
細かいコースは現地で決める、本当に気儘な一人旅。勿論、それだけに宿や移動手段の手配迄、自分一人でしなければならないし、飛込みでの泊まりを満室だからと断られる事もあったが。それでも概ね、順調だった。
この田園風景広がる、長閑な村で足止めを食う迄は。
「あれ? バス停……」俺は記憶を検めながら、周囲を見回した。
田を休ませている間だけなのだろう、赤紫の蓮華の花が咲き揃った田圃の中をやや広めの道が一本。更にそこから枝分かれする様に、畦道が規則正しく延びている。その延び行く先は点在する古民家だったり、新緑の林だったり……。
その広い道の真ん中に突っ立って、俺は途方に暮れていた。
この村に俺を運んで来たバス。特に行く当ても無く、一面の蓮華に誘われる様に此処で途中下車したのだが――そのバス停が、無い。
記憶違いだろうか? 村の景色は殆どが緑に彩られている。初めての村で、あちらこちらと散策していたのだ。戻る道を間違えても不思議は無いのかも知れない。
しかし、これ程の広い道は他には無かった筈なのだが?
「おっかしいなぁ」頭を掻き、ぼやきつつも俺は辿って来た道順を思い起こす。「……やっぱりこの道だよなぁ」
しかし、どう見ても、道にはバス停の跡も、その傍らに設置と言うより放置されている様な錆の浮いたベンチも、見当たらないのだった。
俺は溜め息をついて、正しい道を訊く為に一番近い民家を目指した。
「すみませーん」庭を覗き込んで、俺は声を掛けた。門柱はあるが、インターホンは見当たらなかった。
しかし、庭にも縁側にも人の姿は無く、俺の声に応えてくれる者も無かった。只長閑に、鶏が草を食んでいるだけだ。
再度声を掛けつつも、庭に足を踏み入れる。昔造りの広い家だ。聞こえないのかも知れない。
と――いつからそこに居たのか、門柱の陰に老婆が一人、佇んでいた。余りにひっそりとした登場に、俺は飛び上がった。さっきから居たのに気付かなかったのか……?
「あ、す、済みません。道を教えて頂きたくて……」慌てて頭を下げる。「勝手に入って済みません。それであの……バス停がどこか、教えて頂けないでしょうか?」
す、と手を伸ばし、老婆は俺が元来た道を、指差した。
帰れ、という事なのかと――機嫌を損ねてしまったかと焦ったが、釣られて見遣った先には、確かにバス停。
え? そこは確かにさっきの広い道で……さっき無かった筈の物が、今はある。バス停も。ベンチも。
内心首を捻りながらも、俺は無口な老婆に礼を言って、その家を後にした。
「おかしいよなぁ。俺の目、どうかしたんだろうか」足元の悪い畦道を辿りながら、俺はぶつくさと呟く。「それにしたってあんな大きな物が見えないなんて事……あれ?」
広い道にぶち当たり、顔を上げたそこには、またも何も無い、道。
「な、何で……」きょろきょろと辺りを見回すも、先程あの家から見たバス停もベンチも、その欠片すらも見当たらない。「どうなってるんだよ……?」
足元に留意して、下を向いて歩いている内に消えた?――そんな馬鹿な!
もう一度、さっきの家で訊いてみようか。そうも思ったが、何も言わずにこの道を指差した老婆への薄気味悪さが心に浮かび、俺は別の小道を辿る事にした。
その別の民家でも先程と同じ対応を受け、更に言い知れぬ気味の悪さを感じながら、俺は元の道に戻った。
そう、その家からも、この道にバス停が見えたのだ。確かに。
そして今度は多少の足元の悪さも我慢しつつ、バス停を視界に捉えた儘、真っ直ぐ歩いて来た。
だが、いつからなのか、俺の意識が捉えない内に、またもやバス停とベンチは跡形も無く、消え失せていた。
「どうなってるんだよ?」辺りの蓮華畑に、都会よりも早く夕闇が忍び寄る中、俺は頭を抱えた。「何で? いつ消えた? 何故……!」
遠くから見ればあるのに、いざ来て見ると無い。そんな騙し絵の様な、バス停。
しかしそれを見付けなければ、俺はこの村から出られない。いや、この道を辿って行けば、いずれは出られる筈なのだが――そんな気がしなかった。
今の俺には、この道そのものが騙し絵で、どこ迄歩いても何処にも辿り着けない様な……そんな気がしてならなかった。
徐々に深くなる夕闇を頭上に、どこかに宿を請うべきだろうかと考えたが、あの無言の人々に、そして夕闇迫りつつあると言うのに灯一つ点かない家々に、俺が感じるのはやはり、薄気味の悪さだけだった。
そして俺の脚がやっと踏み出した一歩は……。
道はどこ迄も延びている。
村を囲んでいるらしい林を突き抜け、只々、真っ直ぐ――左右に規則正しく枝分かれする畦道を延ばしながら。
バス停は、未だ見付からない。
―了―
こんな村嫌だー(--;)
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Re:無題
無限ループしてたり
無題
どもども!
遠くから見たらあるのに、近付くに連れて見えなくなるバス停…。
そのまま大通りで待ってたとしても、車一台通らなかったんじゃないかな?
自分の足で歩き出したのはいいけど、きっと今頃は…老婆が包丁を砥いでる最中っすよ!w
遠くから見たらあるのに、近付くに連れて見えなくなるバス停…。
そのまま大通りで待ってたとしても、車一台通らなかったんじゃないかな?
自分の足で歩き出したのはいいけど、きっと今頃は…老婆が包丁を砥いでる最中っすよ!w
Re:無題
しゃーこ、しゃーこ……(←研いでる)
これって外から見たら……神隠しかも?(^^;)
逃げ水みたいなバス停、やですね~☆
これって外から見たら……神隠しかも?(^^;)
逃げ水みたいなバス停、やですね~☆
Re:こんばんは
ご旅行は計画的に(←そういう事でもない・笑)
Re:こんばんは♪
隠れ里かな♪
無限ループしてたら、かなりヤダ☆
無限ループしてたら、かなりヤダ☆
Re:こんにちは
(笑)
死ぬ迄歩く以前に食料、飲料が尽きますな。民家の住民は気味悪いし~(^^;)
やっぱりこんな村嫌だー(笑)
死ぬ迄歩く以前に食料、飲料が尽きますな。民家の住民は気味悪いし~(^^;)
やっぱりこんな村嫌だー(笑)
Re:こんばんは!
夢で迷い込んでも焦りそう(゜□゜;)
夢は覚めるから、未だ救いはあるけど……。
夢は覚めるから、未だ救いはあるけど……。