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「時子や、また髪が伸びたねぇ」愛しむ様に微笑みながら、老女は時子の艶やかな黒髪を撫でた。「綺麗に整えてあげるからね」
鋏を手にし、伸びた分長さにばらつきの出た毛先をカットする。
元々の肩先程だった長さが、切り揃えられるライン徐々に下がり、今では時子の背中辺り迄を黒髪が覆っている。
「これでいいわ」老婆は満足げに頷いた。
そうして正面から時子の顔を見詰め、懐かしげに、いつもの昔話を始める。
長男夫婦が共に居た頃の事、孫の時子が生まれた時の事、そして彼女の成長……。
だが、時子が小学校に上がった辺りで、老婆は口を閉ざした。
それから先の事は、彼女の記憶にはないから。
「時子や……」老婆はじっと時子の顔を――いや、その先の空間を見詰め、深い吐息を漏らした。「お前は、いつ迄も小さいねぇ……」
「義母さんは、あれを手放す気はないみたいね」諦めを含んだ溜息を零して、女は襖を閉じた。「今日も『時子』と話をしているわ」
「それだけ、兄さん家族、取り分け時子の死が応えたんだろうな」
「解らなくはないけれど……。時子ちゃんは私にとっても可愛い姪っ子だったし。でも……」
「気味が悪いからって、取り上げる訳にも行かないだろう。母さんは、あれを時子の代わり、いや、時子そのものと思っているんだから」
亡き時子の霊が宿ってでもいるのか、それとも時子を懐かしむ老婆の想いの成せる業か、髪が伸び続ける日本人形――それが時子、だった。
老婆は今日も、愛しげにその髪を撫で、話し掛ける。
「時子や、春になったらお祖母ちゃんが小学校に連れて行ってあげようね……」
来ない春を夢見て。
―了―
怖い話を目指して、何か悲しい話になった?(・・;)
老婆心の周りって?――と、老婆心ながらツッコミ入れておこう(笑)
恐るべし(爆)