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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「新入りなんだけど……」そう言って少女が連れて来たのは怯え切った男の子だった。目はおどおどと周囲を見回し、危険な物は無いか、生存可能な場所か、そんな根源的、本能的な探索に必死の様子だ。新入りにはよくある事だが。
「スイ」古びて、打ち捨てられたビルの奥に陣取っていた少年が答えた。「何でもかんでも拾って来るな。此処だって食料も乏しいんだからな」
「解ってるよ、キル」スイ、と呼ばれた少女は口を尖らせた。十三、四だろうか。未だあどけなさを残している。「でも、『街』の外をふらふら歩いてたんだもの。あたしだって拾われなかったらって思ったら……」
 目を伏せ、その儘過去の憐憫に沈みそうな少女に、女の涙には敵わないとでも言いたげに、キルは手を振って言った。
「解った解った。先ず何か食わせてやれ。それでも落ち着かない様なら『彼女』の所へ連れて行け」
 ぴくり、男の子の耳が反応した様だった。幾らかは知性が残っているのかと、キルは興味を持った。
「うん」頷いて、スイは優しく男の子の手を引いた。

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 いずれ世代交代を迎える事は周りの誰が自覚すればよかったのかしら?
 でも、昨日は少なくとも彼は家名相続の足場作りに成功しなかった? 選りによって彼が。
 それでも、勇気の無い私は未だに斜面を転がり、迷いの沼に浮き沈みする心算だったの?
 そんな自分にクリスタルを通して見る、下弦の月浮かぶ夜と共に苦笑しなかったっけ?
 自問しながらも、私は彼に相談した。
 それで……一族を水底に牽引する筈だったの。

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 この機能、都会(まち)の雑踏で試したかったのだが――携帯端末を弄びながら、男はゆっくりと川原に脚を運んだ。口角は攣り上がり、目には薄笑いが浮かんでいる。
 流石に試験運用で騒ぎになっては困る。警戒され、本番で使えなくなっては態々試験をする価値も無い。
 それにこの辺でも充分だろう、と彼は脚を止めた。
 そして携帯端末を操作した。
 感知されない程の空気の震え――音の一種がそこから流れ出した。音量は最大。
 涼しい顔で佇む男の周囲の叢で、物陰で、何かがざわめき出した。
 実験は大成功だった。

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「あら、勇伯父様。お薬? お水頂いて来ます」親戚筋の集まりの日、午後九時にお開きを迎えた会食の膳の片付けを手伝いながらも伯父の取り出した紙袋に気付いて、美朱(みあか)は言った。緑茶や酒、子供達用のジュースは未だ残っていたものの、水は台所に行かねば無かったのだ。
「ああ、済まないね」
「お茶でもいいんじゃない?」横に座った叔父が大袈裟なと言う様に肩を竦める。
「駄目ですよ、満叔父様。ちゃんと用法を守っらないと。直ぐに持って来ますから」
 その言葉通り、膳を運んで行った彼女は直ぐに取って返して来た。
「腎臓のお薬ですか?」グラスを差し出しながら、彼女は訊いた。伯父が慢性腎臓炎だという事は大分前から聞いていた。
「何、胃薬だよ。ちょっと荒れ気味なんだ」伯父は苦笑した。「夕食後はこれだけでいいんだよ。いっそ水無しでも飲める奴ならいいんだが、医者に相談したら腎臓の関係で駄目だと言われてね」
「そうですか。無理なさらないで下さいね」
「おいおい、年寄りみたいに言わないでくれよ。郁夫兄さん――美朱ちゃんの父さんとは同い年だよ? 何せ双子なんだから」実際、未だ四十代後半。スマートな体型に茶系のスーツがよく似合っている。グラスを返す左手薬指には金の指輪が光っていた。美朱の両親と同時期に彼も結婚し、また義理の姉妹となる二人の仲も良かった事から、それは美朱の父の嵌めているものと同じデザインのリングだった。
「はいはい」そのリングが彼等の仲の良さを物語っている様で、そして実際隣に居た父と楽しげに語り始めた伯父と、一人飲み続ける叔父を残して、美朱は笑って片付け作業に戻った。指輪の無い父の手を見て、あら? とは思ったが。

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 雨音が耳について眠れないと、キヨは小さな手で目を擦りながら囲炉裏端の母親に訴えた。
 長く続く激しい雨が、トタン屋根を叩いている。薄い窓硝子も雨滴が当たる度に音を立て、震える。幼いキヨにはそれが何か恐ろしいものが、手を伸ばして窓を叩いている様に思えて、安心して眠るどころではなかった。
「何でもないよ、キヨ」控え目に微笑んで、母はキヨの髪を撫でた。「あれは只の雨。家の周りには何にも怖いものなんて居やしないよ。さ、お休み」
 奥の部屋へと連れ戻し、捲れた布団の皺を伸ばしてキヨを寝かせ、優しく布団を掛けてやる。いつもの動作。いつもの優しい微笑み。
 それに安堵して、キヨは床に着く。
 一度は。

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 月は人を狂わせる――そんな言い伝えを俺は信じない。
 確かに満月や新月の夜には凶悪事件が増え、また出産も多いと聞く。人間の体内組織の60~70パーセントは水分で、それが月の引力で起こる潮の満ち干の様に、気分の浮き沈みや生体機能に影響するのだとも。
 そして実際に経験則から、人は月をどこか神秘的で妖しげなものと捉えているのかも知れない。
 満月の夜に変身する狼男の話など、その最たるものだ。
 だが、俺は信じない――信じたくない。
 俺が月に操られたなどと。
 俺は自分の意思と力で、彼女を殺したのだ。

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 山は新緑の彩りを取り戻し始めていた。それでも、沢を流れる水は雪解け水を含んで冷たく、長く浸かっていると足が痺れてきそうだった。
「こんな所に未だソメイヨシノが残ってるの?」滑る足場を気にしながら、由里子は尋ねた。「もう無いんじゃない?」
「いいから、いいから」前を行く昌樹は笑う。「此処は気温の所為で多分遅咲きだし。きっと未だ花が残ってるよ」
「残ってなかったら……帰りは色々奢って貰うからね」主にこの疲れを取る為の甘味を、と由里子は思った。
「はいはい」昌樹は苦笑して、四苦八苦している由里子に手を貸した。
 麓の里から見上げた一見なだらかな斜面は、その中に入り込んでしまうと意外に険しく、二人の人間の小ささを思い知らせてくれた。それでも、目標を目指して、彼等は登った。
 どうしても見たいものがある――その為なら多少の苦労は厭わない心算だった。
 多少どころじゃないけどね、と由里子は一人ごちた。

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