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雨が傘を叩く。
その音だけを聞きながら、私は駅前の待ち合わせの場所に居た。噴水前の時計台の下。幾重もの蔦の絡まりを模した柱の上に、四面に向けて設えられた円形の時計。
現在の時刻は午後三時、二分。待ち合わせの時刻を二分、過ぎている。
相変わらずルーズな人だと溜め息をつきながら、この待ち合わせ場所は失敗だったかも知れない、と思った。然もそのルーズな人は今時携帯電話さえ、持っていないと言う。連絡さえつけば、屋内に場所を変える事だって出来るのに。
晴れた日には陽光を浴びた水滴を空に散らし、虹を掛けてくれる噴水も、この曇天の下では鈍色の雨と同化して、憂鬱さと肌寒さを増すだけ。未だ午後三時だと言うのに厚い雲の所為で辺りは暗く、雨は容赦なく私の足元を濡らす。
最悪な待ち合わせだわ――同級生のお見舞いに行くのにどうしてこんな目に遭うのだろう?
老婆はその広さを測ろうとでもする様に両手を広げて、その空間へ足を踏み出した。
花さえ咲かぬ一面の荒れ野原。赤茶けた土が水を吸って、所々黒ずんで見える。遠くに窺える山々も、未だ靄を纏っていた。
「昨日は雨で残念だったわ」呟き、振り返った彼女は連れの表情を見遣って微苦笑した。「どうしてこんな所に、然も態々買い取って、と思ってるんでしょう?」
「あ……はい」途惑い顔で、彼女の側近を務める中年の男は頷いた。「子供達を連れて行くのならもっとこう……明るい所の方が良いのではありませんか?」
「そうね。植物園で花を愛でるのもいいでしょう。動物園で小動物と触れ合うのも……。どちらも情操教育にはいいとされているわ」
「ならば何故?」
その問いに、老婆は微笑んで、答えた。
「あの子達を、生かす為」
「なぁ、大丈夫? 弘政君」
「大丈夫だって。一こ違う道から帰るだけじゃないか」
「でも、通学路じゃないし……」
「裕也、お前本当に気が小さいな。学校から帰るだけだぜ? それも学校は去年迄通ってた幼稚園の隣。慣れた道じゃないか」
「でも、去年はお母さん達が一緒だったし……。それにそっちの道は通った事無いじゃない。車の通行量も多いから気を付けるようにって言われてるし!」
「あーもう。じゃ、俺一人でこっちから帰るから。家の近所で落ち合おうぜ」
「え? ちょっと、弘政君てば! もう! 知らないよ!?」
「本当、気が小さいな。裕也の奴」
か細く柔らかい雨が、やはり柔らかい新緑に跳ねる音から、雨滴が硬い葉を、地面を、鋭く打つ音に変わりつつある。いずれこれに雷の伴奏が付く頃がまた、来るのだろう。雷の音は演奏中の突然のシンバルの様で、いつもどきりとさせられるけれど。
そしていずれは枯葉を落とす秋の長雨がしっとりと降り……音も無く降り積もる雪へと変化するのだ。
それにしても雨の多い街――父と此処へ来てから、雨音で季節を判じられる程に、街は雨に包まれている。
父は時折、その雨の中に佇んでいる様だ。
雨を受け、雨を流す為に。
母を亡くし、私の視力を失くしたあの事故への、追悼の涙を流す為に。
今日も雨は降り続く。此処は雨の街。
私を力強く励ます父が、自らの涙を悟らせまいと選んだ雨の街。
けれどね……視力を失くした私の耳は、それを聞き分けてしまうの。
だってそれは私の流していた涙と同じ音だから。
だから今度は、私が父の涙を止める番。季節が移ろう様に、天気が変わる様に、私だっていつ迄も泣いていたあの頃の私ではないのだから。
―了―
特に落ちも無い短文になりました(^^;)
ちょっと疲れ気味っぽい★
「自分が殺した相手が目の前に現れる事って、ある?」笑みさえ含まずに言われた言葉に、頼子は息を詰まらせた。
「……夢の中でなら……」やがて、周囲を気にしながらも、ぼそりとそう答える。実際、半年に一度はあの時の夢を見ては飛び起きる。十七歳の夜、無理心中を図った父を、揉み合う内に逆に刺してしまったあの時から。かれこれ十年間。
未成年、正当防衛――様々な理由で彼女は罪に問われなかった。身寄りも無くなった為、施設には保護されたけれど。
そして問いを発した相手、永久子(とわこ)ともそこで出会った。
彼女は十二歳の時に転校したばかりのクラスで、虐めをしていた子を殺した。十三年前の事だ。調べてみればそれ迄の学校でも、殺害迄は行かないもののそういった子供達と問題を起こし、それ故に転々としていたと言う。
お互い施設を出てからも、こうして時折会っては近況を話し合ったりしている仲だった。
「永久子は……あるの?」頼子は訊き返した。
でも、援助を行う事で、身内という関係へ変化したかった。ええ、迷惑な話だとは重々承知だけれど。
でも、どの途昨日は彼と、動揺する羽目になる筈だったみたい。
あんな事が起こっては。
祖父の還暦祝いのパーティーの夜だった。若くして会社を興し、妻を迎え、子を生(な)し……駆け足で生き抜いて来た祖父。その祖父が還暦を機に、社長の椅子を早々に父に譲り、会長職に退くと言う。その発表の場でもあった。どこ迄も、駆け足な人だ。
そんな事情だから、集まったのは主に会社の人間と取引先の人間。そして数少ない友人達――それもやはり仕事が縁だった様だけれど。
私も友人を呼んでいいと言われたけれど、高校の友達はこんな場には余りに不似合いで、何より彼女等とのパーティーならもっと小規模でも楽しくやりたかった。第一、こんな人の多い所に彼やその家族を呼ぶ訳にも行かないし。ご馳走は一杯あるけれど。
その、招待しなかった筈の彼の姿を見掛けたのは、挨拶攻めに疲れて屋内へと退避した時だった。
かぁってうれしい花一匁
田舎での休日。朝食後に新聞を読み終え、散歩にと林の中の小道を歩いていると、何処からか、幼い子供達の歌声が聞こえて来た。
まけぇてくやしい花一匁。
対面して列をなし、交互に前進後退する様が懐かしく脳裏に浮かび、彼は思わず口元をほころばせた。そう言えば自分はじゃんけんが弱かった所為か、矢鱈呼ばれたものだ。雅人君が欲しい、と。
たんすながもち どのこがほしい
あのこがほしい
あのこじゃわからん
そうだんしましょ
そうしましょ
