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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 雨に打たれる桜を見詰めながら、真新しいランドセルを膝に抱えて真由子は物思いに耽っていた。
 入学式、晴れるといいな……それ迄、桜が散らないといいな……そんで、それ迄に……。
 ドアがスライドして、母親が入って来た。笑顔を作り、これまた真新しい洋服を腕に掛けている。
「真由子、良かったら着てみて頂戴」持って来たのはブラウスにプリーツスカート、そしてブレザー。地元の小学校には制服は無かったが、入学式用として買い求めたのだろう。
 真由子は嬉々として、新しい服に袖を通す。ほっそりとした身体にふんわりと、それを纏う。
「よく似合うわよ。真由子」後ろから髪を整えてやりながら、母は胸を詰まらせた。

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 宵の白い月を窓辺に張り出した枝の隙間から見上げて、そっと溜め息をつく。
 もう十数年、春になる度に彼女が続けてきた事だ。勿論、続ける気など無いのだが。
 張り出した樹は桜。
 未だ春の装いには早く、樹皮は紅をその下に隠しながらも枯れ木を装っている。それでも冬の色合いとは違う、それが彼女にははっきりと解っていた。
 赤、紅、真紅……人の肌の下を通う血の如く、それは密やかに、しかし確かに桜を彩る時を待っていた。
 あるいは――と彼女は思う――本当にこの樹には血が通っているのではないだろうかと。
 

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「今日はメンテナンスに行って来るね」部屋に顔を出してそう言って笑った孫娘に、老人は僅かに顔を曇らせた。
「メンテナンスだなんて……機械じゃあるまいし、言葉が悪いんじゃないか? 絵真(えま)?」
 生まれ付き弱い身体を、時折自嘲的に語る癖が絵真にはあった。あちらこちらと修理している、などといった具合に。確かにその身にメスを入れた事も一度や二度ではない。人間の身体も実によく出来ていて、彼女の治療の為に説明を受けて、知れば知る程機械めいたシステムが見えてもくる。今の医学をもってしても、彼女を完全に治す事は出来ないと、かつて医師には言われたが。
 だが、それでも生きている、親から受け継いだ彼女の身体ではないか。老人は哀しそうにそう語る。
「ん、ごめんね、お祖父ちゃん。検査に行って来ます」絵真は素直にそう言い直して、部屋を出て行った。

「そろそろデータが溜まってきたものね」白く機能的な部屋の中で、絵真は呟いた。「お祖父ちゃんの話は同じものが多いから重複データが一杯……人間は楽でいいわね。何もしなくてもデータを消去、整理する機能があるんだから。選択出来ないのが最大の難点だけど……」
 五年前に孫娘を長年患った病気で亡くし、ショックの為か老いの為かその事実を忘れ、彼女に似せて製造、データを移植された自動人形を贈られたあの老人の様に。
「でも、何だろう……? 消そうとしても消せないデータが一件……」ホスト・コンピューターに接続し、意識を委ねながら、絵真は見ない筈の夢を見ていた――身体を機械の様に言う「絵真」を見詰める老人の哀しげな顔。
 メンテナンスが無事に終了し、覚醒した時、目尻に残った水分に、彼女は小首を傾げた。

                      ―了―

 短っ! 本日は忍のメンテナンスがあったもので、それに掛けてちょいSF風ショートショート。
 因みに身体のメンテナンスは時々自分で思う事(苦笑)

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 声が出なくなるなんて思ってもみなかった。
 それ迄二十数年、よく喋り、よく笑い、よく歌ってきた私が。
 ある朝、余りの喉の痛みに風邪だと思い、近くの医者へ行った私は、それが病気などではなく、誰かによって飲まされた薬が原因だと知らされた。そう言えば深夜の飲み会で、喉が焼け付く様なやけに強い酒を勧められた覚えがある。あれに混ぜられれば少々おかしなものでも気付かなかったかも知れない。
 あれは誰だったろう?――普通ならそんな強いお酒なんて飲まない筈なのに、もう相当酔いが回っていたのだろうか。全く前後の経緯を覚えていないなんて……。

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 その道を右に折れるだけでいい、と先程の老人は言った筈だった。痩せっぽちで背が高く、今時片眼鏡を掛けた古風な老人。
 僕が尋ねたのは郵便局への道だったんだけど……曲がった先は行き止まりだった。板塀が三方を取り囲んだ袋小路。
 場所をよく確かめもせず出発した僕も僕だけど、あのお爺さんもうろ覚えだったのかな。ぶつぶつ言いながらも、僕は道を引き返した。
 駅から放射状に広がる道の一本。然してややこしい地形じゃなかった筈なんだけど……。
 仕方ない。駅迄戻って駅員さんに訊けば先ず間違いないだろう。僕はとぼとぼと道を後戻りし始めた。

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 ジンクスなんて信じない、と彼は言った。
 黒猫が横切ろうと、夢見が悪かろうと、靴の紐が切れようと。
 それで何か悪い事が起こったなんていうのは只の思い込みで、寧ろ些細な悪い事なんて、日常に幾らでも転がっているじゃないか。それを偶々遭遇したそれらに原因を転嫁しているだけの事だ、と。
「実際の原因なんて、本人の不注意から来るミスだったり、意識し過ぎる事によって起こったものだったり……要は本人の気の持ち様だ。だから俺はジンクスなんて信じない」きっぱりとそう言い、鼻で哂う。
 なるほど、と僕は頷く。
 それはそれで一理あるかも知れないし、それによって彼が不都合を被ろうとも、その原因は彼自身という事だ。
 だから、彼が我が校に伝わるジンクスを無視したのも彼の自己責任という事だ。

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 夕陽の照り映える石畳の坂道を駆け下りる。
 その内、勢いが付いて止まれなくなり、たたらを踏んで転んでしまう。
 視界がぐるりと反転し、褐色の石畳が視界一杯に広がる。

 そんな夢をここ数日、続けて見た。
 あっ! と思った処で目が醒め、本当に走っていたかの様に汗びっしょりで朝を迎えるのだ。
「何なんだ……」僕は頭を振りながら、ベッドの上に身を起こした。「同じ夢を何度も見るなんて……」
 夢は脳が無意識下で記憶を整理しているのだとか、もっとスピリチュアルなものだとか、色々言われている。時に人はそれに意味を求め、それらしきものを見出すことも、偶に、ある。
 連日の夢なんて、尚更意味ありげじゃないか?

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