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「何だ、死神ってもっとおっかなくって、鎌とか持ってるんだと思ってた」緋色のクロスを敷いた卓上のカードの一枚をひっくり返し、屈託なく、少女はそう言った。
白く華奢な手にあるのはタロットの十三番、死神のカード。襤褸布を纏った骸骨が、荒野を背景に大きな鎌を構えている。
「そんな無粋な物、今は必要ないでしょ?」卓を挟んで立つのは十五、六の少女。長い黒髪に黒い服、手にした手帳と万年筆迄が真っ黒だった。「貴女はすっかり覚悟を決めているし」
「そうね」カードを戻し、シャッフルしながらも少女は頷いた。「もう、解ってたから」
「……迎えに来た私が言うのも何だけど、諦めがいいのね。未だ十七年しか生きてないのに」
「解ってた事だから」再度そう言い、少女は慣れた手付きでカードを卓上に並べ始める。「本当は、何度も同じ事を短期間に占うのは駄目なんだけどね」悪戯っぽい上目遣いで黒衣の少女を見ながらも、一枚一枚、丁寧にカードを捲っていく。
最後にその手にあったのは、またも死神のカードだった。
「これでも当たるのよ? 私の占い。将来はプロになってね、いつか世界的な大事件を予言するのが夢だったの。あ、事件って言っても悪い事を期待してた訳じゃないのよ? 戦争がなくなるのだって歴史的大事件だし、新たなエネルギーの発見だって事件じゃない。そういうの……誰よりも早く、知りたかったな……」
だが、彼女に残された時間が少ない事を、黒衣の少女は知っていた。
「えっと……暗示としては『凶器』『暴力』……『理不尽な死』……。私、殺されるの? 貴女なら正解知ってるんでしょ? 死神さん」
それに対しては、少女は答えなかった。ルール違反だから、と。
「そうなの? でも、死神が来たって事は、もう余り時間もなさそうね」首を傾げて、少女はふと、耳を澄ませた。「お母さんもお父さんも遅くなるって言ってたから、戸締りはしっかりした筈だけど……庭に面した窓が硝子一枚っていうのはやっぱり安全面に問題あるかもね」
控え目ながらも硝子が割られる音を、彼女達の耳は捉えていた。
「……強盗が入ると察していたのなら、助けを求めるとかいう事は考えなかったの?」近付いて来る足音を聞きながら、黒衣の少女は尋ねた。
「占いが当たるとは言っても……周りの人も流石にこれは笑い飛ばすでしょうね。況してや警察は何かが起こってからじゃないと動いてくれないでしょ。今通報すれば来てくれるでしょうけど、間に合わないわ。結局私は死ぬんだもの」じっと、正面を向いた十三番のカードを見詰め、少女は言った。苦笑も皮肉もない、無表情で。
しかし、その手は、小刻みに震えている。
近付いて来る死に対し、逃げ出したい、叫び出したいのを必死に堪えているのが、黒衣の少女には解った。
未だ十七歳で、将来の夢を持つ少女がそれを断たれる事を、恐れない道理もない。如何にそれが自らが自信を持って占った結果とは言え、受け入れたいものではない筈だ。
それでも、少女は顔を上げてもう一度、言った。
「いいのよ。解ってた事なんだから」
その目の前で、ドアが乱暴に押し開けられた。
「……ばか」ぽつり、死神が言葉を零した。
次の瞬間、床に斃れ伏したのは大振りのナイフを握った二十代半ばと見える男だった。黒い目出し帽から覗く目が、驚きと恐怖に大きく見開かれた儘だった。
「……何だ……」椅子から腰を浮かせ、泣き笑いの様な表情で、少女は言った。「やっぱり、持ってるんじゃない……。鎌……」
黒衣の少女の手には、いつの間にか冷たく光る、しかし繊細な意匠の凝らされた一振りの鎌が握られていた。その一閃が、男の魂を刈り取ったのだ。
「これは……死を拒否する手の焼ける者用よ」
彼女が更にそれを一振りすると、刃は光と解け――彼女の手に残ったのは黒い万年筆。
それを手帳と共にポケットにしまうと、彼女は踵を返した。
「ちょ……あの、私を連れて行かなくていいの? 死神さん」少女は訊いた。「と言うか、これじゃあ、もう私が死ぬ理由が無いんだけど……。それに、この状況、どうしたらいいの?」
「彼には外傷は無いから、死因は急病か精神性のショックになるわ」足を止め、少女は言った。「楽をする事ばかりを考えて働きもせずに金を欲し、強盗に入った挙句が予想以上のプレッシャーに押し潰された、どうしようもない男……。それでも、貴女の分の穴埋めには出来るから」
「穴埋め……。いいの? それで」
「私は構わない。それとも……自分が死んででも、占いを的中させたかった?」
暫し、少女は黙した。
「ある意味……自分の死期を当てるのは占い師にとっても至難の業なの。どうしても、客観的に……自然には見られないから……」微苦笑を浮かべて、少女は言う。「うん、それが当てられたら凄いかなって、思いはした。でも……やっぱり未だ、死にたくない……!」
「なら、いいじゃない。貴女には、未だ占える未来がある……」そう言い残して、黒衣の少女は姿を消した。
通報する為に電話に手を伸ばした少女がふと見ると、彼女に相対していた筈の卓上の死神のカードはいつの間にか、逆位置になっていた。
―了―
また長くなった……。
上司……取り敢えずノルマは果たして来るからいいや~(笑)なんてのが居たり居なかったり?(^^;)
彼女は警察に連絡し、第一発見者として、重要参考人として、任意同行まで要求され、両脇を警察官に固められて部屋から連れ出されようとしていた。
ふと、振り返ると、死神のカードが正位置に戻っていたのだった。。。(><;)キャーーーーーーーーーーーーーーーーー!
こわいじょー(T_T) ウルウル
殺人を疑われても、遺体に外傷も何も無く、そもそも彼女は触れてもいないので、立証不可能ですな。
それとも――死神? そんなものの存在を認めろと言うのか?(笑)
何でしょうね?(^^;)
魂……とか言われたら……?( ̄▽ ̄)♪