〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin
Link
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
月を見上げる――ゆっくりと流れる雲に遮られながらも、冴え冴えとした光で地上を照らしている。
地を見下ろす――雲の影から出て、月光に照らされた森は、それでも尚、黒々としていた。
その中間に当たる空中に身を置いて、黒衣の少女は黒い手帳を繰った。長い黒髪が風にたゆたう。
「こんな森の中でも、人は住んでるのね」風に紛れる程の、呟き。「まぁ、もう直ぐ、誰も居なくなる訳だけど」
そうして少女は、丸で階段を一歩一歩降りるかの様に、地上へと降りて行った。
黒い森の中、ぽっかりと開かれた空間に瀟洒な屋敷。
こんな所でも、いや、こんな所だからこそ必需品なのだろう。車道は意外にも綺麗に整備されている。近くの街へと続く、たった一本の、迷い様もない道。
だが、この家が建てられ、人が暮らすようになってから、この道を通る車は公用車を除いては幾らも無い。ここ数年に至ってはたった一台の車が往復しているに過ぎないのではないだろうか。
そんな道を踏み締めて歩きながら、少女は考えた――此処に来るのは何度目だろう、と。
死神としての役目を負ってから。
地を見下ろす――雲の影から出て、月光に照らされた森は、それでも尚、黒々としていた。
その中間に当たる空中に身を置いて、黒衣の少女は黒い手帳を繰った。長い黒髪が風にたゆたう。
「こんな森の中でも、人は住んでるのね」風に紛れる程の、呟き。「まぁ、もう直ぐ、誰も居なくなる訳だけど」
そうして少女は、丸で階段を一歩一歩降りるかの様に、地上へと降りて行った。
黒い森の中、ぽっかりと開かれた空間に瀟洒な屋敷。
こんな所でも、いや、こんな所だからこそ必需品なのだろう。車道は意外にも綺麗に整備されている。近くの街へと続く、たった一本の、迷い様もない道。
だが、この家が建てられ、人が暮らすようになってから、この道を通る車は公用車を除いては幾らも無い。ここ数年に至ってはたった一台の車が往復しているに過ぎないのではないだろうか。
そんな道を踏み締めて歩きながら、少女は考えた――此処に来るのは何度目だろう、と。
死神としての役目を負ってから。
一度目はその当時の当主たる老人だった。手帳によれば全く不審な所も無い、齢百に届こうかという大往生だった。彼女はその魂を受け取り、手帳に完了の印を付けた。
ところがその一個月後、彼の息子が事故で亡くなった。五十代とは言え、階段から足を踏み外した位で身罷るとは思えぬ程、頑強な人物であったのに、余程打ち所が悪かったのか。
手帳に記された予定寿命とも合わない――黒衣の少女は眉根を寄せながらも、仕事を全うした。
だが、数日前、その息子の忘れ形見である孫娘が、二十歳という若さで死線を彷徨った。病気、との事だったが、死神の手帳にはそんな事は記されていない。
彼女は何とか回復したものの、療養の為に屋敷から出る事も無くなってしまった。
出入りするのは彼女の面倒を見ている、母親とその友人の医師だけとなっている。だが、その母親も、実は生さぬ仲である事を、少女は聞いていた。生みの母の魂は、前任者が引き取って来たとある。
「詰まり、あの老人の唯一血を引いた後継者という訳ね」屋敷を見上げながら、黒衣の少女は呟いた。「そして彼女が居なくなれば、この家の財産は後家となる後妻の物……」
然も彼女の『友人』は医師だ。無茶をしなければ、徐々に娘を弱らせ、死亡診断書を偽造する事も可能だろう。
けれど――と、少女は黒い手帳を開いた。
本来の孫娘の寿命は未だ数十年ある……筈だった。だが最近ではその数値も揺らぎ、後数箇月となる事もある。寿命は常に一定ではなく、流動的なものなのだ。
それでも、余計な手が加わりさえしなければ、彼女には未だ長い未来が待っている筈だった。
そして今、何も手を加えなければ……彼女は短い人生を終えるだろう。
死神にとってはどっちでもいい事だった。
だが、二階のベランダから様子を窺い、この深夜にも拘らずベッドの上に身を起こしている彼女を見て、少女はそっと彼女から遠ざかった。彼女の様は丸で、幼い子供がこの儘眠ってしまっては次の朝を迎えられないのではないかと恐れている様に、か細く、弱く見えたから。
その夜、屋敷からは死人が出た。久し振りに呼ばれた救急車両は一組の男女を運んで行き――二人は戻る事はなかった。二人揃っての急性アルコール中毒――医師が居ながら、と救急隊員は首を捻ったが、現状を見る限り間違いは無かった。
そして残された娘は一人、病院へと移され、急速に回復していると言う。この先はあの屋敷を処分し、街へと移動する心算だと言う。
またいじったね?――そんな声に答えるでもなく、黒衣の少女は手帳を閉じた。
「彼女は死を恐れていたもの。未だ生きたいと願っていたもの。それに彼女の寿命は未だ尽きてはいない……」
だからあの二人の寿命で補った?
「補い切れるものじゃないけれどね。彼女の死を目前にあれだけ勝手に祝杯を上げていれば、いずれこうなった事でしょうよ」嘯き、少女は黒衣を黒髪を翻して、闇の中へと紛れて行った。
―了―
忘れてるかも知れないけど、死神さん(^^;)
や、何と無く書きたくなっただけ。
ところがその一個月後、彼の息子が事故で亡くなった。五十代とは言え、階段から足を踏み外した位で身罷るとは思えぬ程、頑強な人物であったのに、余程打ち所が悪かったのか。
手帳に記された予定寿命とも合わない――黒衣の少女は眉根を寄せながらも、仕事を全うした。
だが、数日前、その息子の忘れ形見である孫娘が、二十歳という若さで死線を彷徨った。病気、との事だったが、死神の手帳にはそんな事は記されていない。
彼女は何とか回復したものの、療養の為に屋敷から出る事も無くなってしまった。
出入りするのは彼女の面倒を見ている、母親とその友人の医師だけとなっている。だが、その母親も、実は生さぬ仲である事を、少女は聞いていた。生みの母の魂は、前任者が引き取って来たとある。
「詰まり、あの老人の唯一血を引いた後継者という訳ね」屋敷を見上げながら、黒衣の少女は呟いた。「そして彼女が居なくなれば、この家の財産は後家となる後妻の物……」
然も彼女の『友人』は医師だ。無茶をしなければ、徐々に娘を弱らせ、死亡診断書を偽造する事も可能だろう。
けれど――と、少女は黒い手帳を開いた。
本来の孫娘の寿命は未だ数十年ある……筈だった。だが最近ではその数値も揺らぎ、後数箇月となる事もある。寿命は常に一定ではなく、流動的なものなのだ。
それでも、余計な手が加わりさえしなければ、彼女には未だ長い未来が待っている筈だった。
そして今、何も手を加えなければ……彼女は短い人生を終えるだろう。
死神にとってはどっちでもいい事だった。
だが、二階のベランダから様子を窺い、この深夜にも拘らずベッドの上に身を起こしている彼女を見て、少女はそっと彼女から遠ざかった。彼女の様は丸で、幼い子供がこの儘眠ってしまっては次の朝を迎えられないのではないかと恐れている様に、か細く、弱く見えたから。
その夜、屋敷からは死人が出た。久し振りに呼ばれた救急車両は一組の男女を運んで行き――二人は戻る事はなかった。二人揃っての急性アルコール中毒――医師が居ながら、と救急隊員は首を捻ったが、現状を見る限り間違いは無かった。
そして残された娘は一人、病院へと移され、急速に回復していると言う。この先はあの屋敷を処分し、街へと移動する心算だと言う。
またいじったね?――そんな声に答えるでもなく、黒衣の少女は手帳を閉じた。
「彼女は死を恐れていたもの。未だ生きたいと願っていたもの。それに彼女の寿命は未だ尽きてはいない……」
だからあの二人の寿命で補った?
「補い切れるものじゃないけれどね。彼女の死を目前にあれだけ勝手に祝杯を上げていれば、いずれこうなった事でしょうよ」嘯き、少女は黒衣を黒髪を翻して、闇の中へと紛れて行った。
―了―
忘れてるかも知れないけど、死神さん(^^;)
や、何と無く書きたくなっただけ。
PR
この記事にコメントする
Re:お?
三回目~。でもカテゴリー分けしてないからなぁ(^^;)
うーん、分けるべきか、しかし続くのか?
うーん、分けるべきか、しかし続くのか?
こんにちは
読み反そうにもどれが前の作品だったか分からへん。(笑)
死神でブログ内検索してみるかぁ?
確か、親だか何だかに恨みがあって、苦労して死神になったとか何とか、そんな作品があったよねぇ。
あれかな?
死神でブログ内検索してみるかぁ?
確か、親だか何だかに恨みがあって、苦労して死神になったとか何とか、そんな作品があったよねぇ。
あれかな?
Re:こんにちは
>あれかな?
それです(^^;)
うーん、シリーズとしてカテゴリー分けする程続くかどうか微妙だし、小話に埋もれてると前の話が解らないだろうし……むむむ☆
それです(^^;)
うーん、シリーズとしてカテゴリー分けする程続くかどうか微妙だし、小話に埋もれてると前の話が解らないだろうし……むむむ☆
こんにちは♪
そう言えば父親が原因で死神になってしまったん
でしったけ?
ちょっとお嬢様を連想してしまいました。
死神なんて言うと、ちょっと禍禍しいイメージ
だけど、この死神さんは情もあって良いですネ♪
ほっ!とする終わり方で良かったです。
でしったけ?
ちょっとお嬢様を連想してしまいました。
死神なんて言うと、ちょっと禍禍しいイメージ
だけど、この死神さんは情もあって良いですネ♪
ほっ!とする終わり方で良かったです。
Re:こんにちは♪
原因は祖父ちゃんです(^^;)
もし未だこのシリーズ思い付く様だったら、カテゴリー分けしますね。
もし未だこのシリーズ思い付く様だったら、カテゴリー分けしますね。
Re:無題
外れると言うか、流動的な面があるという事で^^;
別の要素――主に他人からの作用――が加わる事で変わってしまったり。
別の要素――主に他人からの作用――が加わる事で変わってしまったり。
Re:財産
あっても困らないけど、あり過ぎて惑わされる様になると……死神より質悪いかも。