〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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爪を翻し、獲物を捉える。間髪入れずそれを引き寄せ、急所と思しき場所に牙を突き立て、顎の力で締め付ける――これでもう、こいつはこの俺、夜護郎のものだ。
と思っていたら、横から伸びてきた前足にはたかれ、あっさりと持って行かれた。噛みが甘かったか!
「ミトン! それは俺のネズミだぞ!」掻っ攫って行った姉に、抗議の声を上げる。ネズミ、と言っても毛玉の様な玩具のそれだが。
「皆で遊ぶようにって美夜ちゃんのお祖母ちゃんがくれたんだもん」前脚でネズミをしっかりと押さえ込んだ儘、興奮に目を輝かせ、白黒斑のミトンが言う。「ねー、しらは」
部屋には後一匹、俺達の弟が居た。名前はしらは。無毛猫の母親の影響だろうか、白い毛は薄く、全体的なイメージはぼんやりとしている。俺の艶のある黒い被毛とは対照的だ。額の白斑の色とも、ちょっと違う。その体質上、紫外線には弱く、普段は同居人宅の二階の特殊硝子の窓で保護された部屋から出る事はない。
だが、今回はキャリーに入れられて、この俺が同居しているとんぼ堂へと、やって来たのだった。
因みにミトンは普段から自由を満喫しており、今日もいつの間にか、遊びに来ていた。同居人のZは兎も角、親父達が捜してるんじゃないか?
「大丈夫、大丈夫。いつもの事だから」あっけらかんと、言うミトン。全く……。
「それにしてもミトンは兎も角、しらはが連れて来られるなんて珍しいな。『らんぽ』で何かあったのか?」
『らんぽ』というのはしらはの同居人が営んでいる喫茶店だ。手作りの菓子が好評らしく、時には俺達猫用のものも作ってくれる。だが、たった二人で営業しているだけに忙しいらしく、しらはを遊びに連れ出す時間的な余裕は余り無い様だったが……。
しらはは俺の問いに、ちょこんと首を傾げた。
「暫くこっちにご厄介になる……のかな?」
と思っていたら、横から伸びてきた前足にはたかれ、あっさりと持って行かれた。噛みが甘かったか!
「ミトン! それは俺のネズミだぞ!」掻っ攫って行った姉に、抗議の声を上げる。ネズミ、と言っても毛玉の様な玩具のそれだが。
「皆で遊ぶようにって美夜ちゃんのお祖母ちゃんがくれたんだもん」前脚でネズミをしっかりと押さえ込んだ儘、興奮に目を輝かせ、白黒斑のミトンが言う。「ねー、しらは」
部屋には後一匹、俺達の弟が居た。名前はしらは。無毛猫の母親の影響だろうか、白い毛は薄く、全体的なイメージはぼんやりとしている。俺の艶のある黒い被毛とは対照的だ。額の白斑の色とも、ちょっと違う。その体質上、紫外線には弱く、普段は同居人宅の二階の特殊硝子の窓で保護された部屋から出る事はない。
だが、今回はキャリーに入れられて、この俺が同居しているとんぼ堂へと、やって来たのだった。
因みにミトンは普段から自由を満喫しており、今日もいつの間にか、遊びに来ていた。同居人のZは兎も角、親父達が捜してるんじゃないか?
「大丈夫、大丈夫。いつもの事だから」あっけらかんと、言うミトン。全く……。
「それにしてもミトンは兎も角、しらはが連れて来られるなんて珍しいな。『らんぽ』で何かあったのか?」
『らんぽ』というのはしらはの同居人が営んでいる喫茶店だ。手作りの菓子が好評らしく、時には俺達猫用のものも作ってくれる。だが、たった二人で営業しているだけに忙しいらしく、しらはを遊びに連れ出す時間的な余裕は余り無い様だったが……。
しらはは俺の問いに、ちょこんと首を傾げた。
「暫くこっちにご厄介になる……のかな?」
「かなって何だよ、かなって」俺も首を捻る。
「僕も今日いきなりキャリーに入れって言われたし」と、しらは。「病院かと思ったら此処に来て、僕も途惑ってる所だよ」
キャリーと言えば病院だよな。あの嫌な臭いを思い出して、俺は顔を顰める。消毒薬の臭い、薬の臭い、様々な動物の臭い……それらが入り混じり、神経を刺激された俺はいつも耳を伏せては、美夜に「イかさんみたい」と笑われている。挙げ句に検温や、予防接種や……兎に角、いい思い出の無い場所だ。
だから、美夜達がキャリーを用意し始めたら、俺は姿を隠す事にしている。尤も、餌や玩具の誘惑に勝てた事は、未だないが。
「それで、暫く厄介に……って、何だよ?」
「キャリーだけじゃなく、僕がいつも食べてるご飯や、ほら、このお気に入りの揺り籠迄、持って来てるんだよ」そう言うしらはは、なるほどいつもの揺り籠に納まっている。「となると、ちょっと遊びに来ただけとは考えられないよね?」
「真逆、しらは……!」ミトンが大きな目を丸くして言う。「あんた、ここんちの子になるの!?」
ええっ!?――俺とした事が、思わずしらはと揃って声を上げちまった。
『らんぽ』の経営者、宮下氏は決していい加減な男ではない――と、俺は思う。
同居する事になった子猫の為に、態々部屋の硝子を総取り返したり、食べ物にもかなり気を遣っている様だ。そんな人が果たして、最期迄面倒を見ると確約して引き取ったしらはを、他人に渡すものだろうか。まぁ、うちには兄弟の俺が居る。また『らんぽ』には客用に本も置かれており、この『とんぼ堂』との付き合いもある。そんな気安さはあるのだろうが……。
いや、俺は宮下氏を信じる! 彼は決してしらはを捨てるような事はしない筈だ!
俺は――爆弾発言は何処へやら――未だネズミでの遊びに熱中しているミトンと、首を傾げた儘固まっているしらはを残して部屋を出ようとして……閉まっている襖に阻まれてしまった。くっ、この程度の襖、親父なら容易に開けるのだろうが……。俺は声を上げて、美夜を呼んだ。情けない。
「にゃごろう、どうしたの?」美夜は未だ幼稚園児だ。人間としてもとても幼い。だから夜護郎と言えずににゃごろうになってしまうのも、まあ、許す。「美夜ね、今幼稚園の宿題で絵日記描いてたんだよ」そうか、いい子だ。「にゃごろう、一緒に読んでくれる?」いや、俺にはやる事が……まあ、いいか。
畳にぺたんと座った美夜はクレヨンの臭いのする絵日記帳を広げ、読み上げ始めた。その横に座る俺をミトンが何やらにやけた目で見ているが、今は気にしない事にする。
「○月×日、喫茶店のおじさんと、かおるお姉さんがしらはちゃんを連れて遊びに来ました。しらはちゃんはにゃごろうの兄弟です。でも、全然似てません。しらはちゃんは少しの間、うちに居るそうです」
ぴくぴく、とヒゲが動く。やはりしらははうちで暮らすのか?
「おじさんとかおるお姉さんは忙しそうに帰って行きました。しらはちゃんの事を宜しくと言っていました」
しらは……やはり……。俺は慣れた家を失った弟を痛ましい思いで見やった。
「どうして忙しいかと言うと、おじさん達はお店が忙しい時期になる前に、旅行に行くので、電車の時間があるのだそうです。三泊四日だそうです。だからしらはちゃんも、うちに三泊四日します」
…………。
俺は元々撫で肩ながらも肩を落として、ぽかんと間抜け面を晒してしまった。
「だから暫くって言ってなかったかな?」こちらのやり取りをそれとなく聞いていたしらはが小首を傾げる。「まぁ、ずっとではないと思ってはいたよ。僕は」
僕は、を強調するんじゃねぇ!――思わずしらはに飛び掛かり、連続猫キックを浴びせているとそこにミトンが加わって俺は猫パンチを食らい……三匹でじゃれている内に、どうでもよくなった。
さて、玩具のネズミでも狩るか。勿論、これは俺の獲物だ。
―了―
超お久し振りの猫シリーズ。
今回は記述・夜護郎でお届け致しました。ハードボイルド気取りつつ……抜けてます(笑)
「僕も今日いきなりキャリーに入れって言われたし」と、しらは。「病院かと思ったら此処に来て、僕も途惑ってる所だよ」
キャリーと言えば病院だよな。あの嫌な臭いを思い出して、俺は顔を顰める。消毒薬の臭い、薬の臭い、様々な動物の臭い……それらが入り混じり、神経を刺激された俺はいつも耳を伏せては、美夜に「イかさんみたい」と笑われている。挙げ句に検温や、予防接種や……兎に角、いい思い出の無い場所だ。
だから、美夜達がキャリーを用意し始めたら、俺は姿を隠す事にしている。尤も、餌や玩具の誘惑に勝てた事は、未だないが。
「それで、暫く厄介に……って、何だよ?」
「キャリーだけじゃなく、僕がいつも食べてるご飯や、ほら、このお気に入りの揺り籠迄、持って来てるんだよ」そう言うしらはは、なるほどいつもの揺り籠に納まっている。「となると、ちょっと遊びに来ただけとは考えられないよね?」
「真逆、しらは……!」ミトンが大きな目を丸くして言う。「あんた、ここんちの子になるの!?」
ええっ!?――俺とした事が、思わずしらはと揃って声を上げちまった。
『らんぽ』の経営者、宮下氏は決していい加減な男ではない――と、俺は思う。
同居する事になった子猫の為に、態々部屋の硝子を総取り返したり、食べ物にもかなり気を遣っている様だ。そんな人が果たして、最期迄面倒を見ると確約して引き取ったしらはを、他人に渡すものだろうか。まぁ、うちには兄弟の俺が居る。また『らんぽ』には客用に本も置かれており、この『とんぼ堂』との付き合いもある。そんな気安さはあるのだろうが……。
いや、俺は宮下氏を信じる! 彼は決してしらはを捨てるような事はしない筈だ!
俺は――爆弾発言は何処へやら――未だネズミでの遊びに熱中しているミトンと、首を傾げた儘固まっているしらはを残して部屋を出ようとして……閉まっている襖に阻まれてしまった。くっ、この程度の襖、親父なら容易に開けるのだろうが……。俺は声を上げて、美夜を呼んだ。情けない。
「にゃごろう、どうしたの?」美夜は未だ幼稚園児だ。人間としてもとても幼い。だから夜護郎と言えずににゃごろうになってしまうのも、まあ、許す。「美夜ね、今幼稚園の宿題で絵日記描いてたんだよ」そうか、いい子だ。「にゃごろう、一緒に読んでくれる?」いや、俺にはやる事が……まあ、いいか。
畳にぺたんと座った美夜はクレヨンの臭いのする絵日記帳を広げ、読み上げ始めた。その横に座る俺をミトンが何やらにやけた目で見ているが、今は気にしない事にする。
「○月×日、喫茶店のおじさんと、かおるお姉さんがしらはちゃんを連れて遊びに来ました。しらはちゃんはにゃごろうの兄弟です。でも、全然似てません。しらはちゃんは少しの間、うちに居るそうです」
ぴくぴく、とヒゲが動く。やはりしらははうちで暮らすのか?
「おじさんとかおるお姉さんは忙しそうに帰って行きました。しらはちゃんの事を宜しくと言っていました」
しらは……やはり……。俺は慣れた家を失った弟を痛ましい思いで見やった。
「どうして忙しいかと言うと、おじさん達はお店が忙しい時期になる前に、旅行に行くので、電車の時間があるのだそうです。三泊四日だそうです。だからしらはちゃんも、うちに三泊四日します」
…………。
俺は元々撫で肩ながらも肩を落として、ぽかんと間抜け面を晒してしまった。
「だから暫くって言ってなかったかな?」こちらのやり取りをそれとなく聞いていたしらはが小首を傾げる。「まぁ、ずっとではないと思ってはいたよ。僕は」
僕は、を強調するんじゃねぇ!――思わずしらはに飛び掛かり、連続猫キックを浴びせているとそこにミトンが加わって俺は猫パンチを食らい……三匹でじゃれている内に、どうでもよくなった。
さて、玩具のネズミでも狩るか。勿論、これは俺の獲物だ。
―了―
超お久し振りの猫シリーズ。
今回は記述・夜護郎でお届け致しました。ハードボイルド気取りつつ……抜けてます(笑)
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この記事にコメントする
こんにちは♪
いやぁ~夜護郎君!良いねぇ♪
黒猫って、そんな感じあるよね!
精悍な一面もあるんだけど、どこかとぼけた感じもあって、先代の黒猫を思い出して笑ってしまいました。
獲物を捕らえる時は本当に黒豹みたいだったの
よぉ~精悍で思わず見とれてしまうくらい!
人間の傍にいる時は、まったくだらしないの!
(^m^ )クスッ♪
黒猫って、そんな感じあるよね!
精悍な一面もあるんだけど、どこかとぼけた感じもあって、先代の黒猫を思い出して笑ってしまいました。
獲物を捕らえる時は本当に黒豹みたいだったの
よぉ~精悍で思わず見とれてしまうくらい!
人間の傍にいる時は、まったくだらしないの!
(^m^ )クスッ♪
Re:こんにちは♪
黒猫さん、カッコイイですよね♪
でも、甘えん坊の猫さんは……可愛い(〃▽〃)
でも、甘えん坊の猫さんは……可愛い(〃▽〃)
Re:こんばんは
うおう!∑( ̄□ ̄;)
いや~、お別れに……とかいう場合も……?
いや~、お別れに……とかいう場合も……?
Re:無題
フィドルパパは……未だ未だ遠いかも知れません(笑)
Re:こんにちは
格好付けてるけど、どっか抜けてる、とかね~(笑)
そしていちいち何か大袈裟だったり(^^;)
そしていちいち何か大袈裟だったり(^^;)
Re:にゃぁ~
う~む、流石にデグーさんとコミミは……(^^;)
ペットと一緒に入れる温泉~とか、入らなさそうだし(笑)
ペットと一緒に入れる温泉~とか、入らなさそうだし(笑)