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「あ、この本、入ったんですね」私はいつもの図書館のカウンターに詰まれた本の中に、一本のタイトルを見付けて声を上げた。
「ああ、佐内さん、いらっしゃい」古株司書の山名さんが微笑んで答えた。「昨日、寄贈頂きましてね。棚に並べるには、もう少し、お待ち下さいね」
私は頷いて、いつもの様に本を探すべく、棚の林に入り込んだ。
「すばるお姉ちゃん、あの本捜してたの? 何か嬉しそう」いつもの窓際の書見台に着くなり、良介君が話し掛けてきた。
「ええ。随分前に絶版になった本でね。前にどこかで紹介記事を読んで以来、面白そうだなって捜してたんだけど、なかなか見付からなくて……」
「そうだったんだ。よかったね」丸で自分の事の様な、喜びの笑顔。
「有難う。この図書館のお陰ね」
町立鹿嶋記念図書館――故鹿嶋氏が私財で創り、死後町に寄付されたこの図書館には未だ寄贈される本も数多い。中にはおかしな本もあるけれど……。
そして此処には、私と友人約一名にしか見えない、幽霊が居た。
鹿嶋氏の、幼くして亡くなった一人息子、良介君が。
まぁ、本好きな、とってもいい子なんだけどね。
「そんなに見付からなかったの? あの本」良介君は目を丸くしている。「此処にはこんなに本があるのに……未だ未だ、此処に無い本もあるんだ……」
「そうねぇ」私は思わず苦笑する。確かに此処は元が私設の図書館としては広く、収容された本も豊富だ。けれど、この国にある本だけに限ったとしても、それを全部収容しようとしたら、どれ程の規模が要るものやら。国会図書館みたいに地下スペースも作る?「あ、そう言えば一度だけ、あの本、見掛けた事があったわ。古本屋さんで」
絶版本を探すなら、古書店巡りは外せない。最近の物を扱っているリサイクル店では、先ず無いだろうとは思いつつも万が一と、老舗の古本屋ではもしかしたらと、何れも目を皿の様にして捜したものだった。
そしてとある一軒の、古風な佇まいの古書店で、それを見付けたのだけれど……。
「どうして買わなかったの?」良介君は小首を傾げた。「高かったの?」
「値段的には、まぁ、その時の手持ちでも買える額だったんだけどね……。何か、手に取り辛かったの」
よく解らない、という顔で良介君はますます、首を傾げる。
それはそうだろう。私自身もあの時の感覚は、理解し兼ねる。捜し求めていた本を前に、手が伸びないなんて。
「カウンターに積んであった本は? 手に取り辛い?」
「直ぐにでも借りたい位よ」
「んー、じゃあ、別に目的の本を見付けたからそこで満足しちゃったって訳でもないんだ。保存状態が良くなかったとか?」
「保存状態は悪くなかったと思うわ。何年も前の事だから、細かくは覚えてないけど……寧ろ、丁寧に読んでたんだなぁって、感心した覚えはあるわ。日焼けも殆どしてなかったし」
「丁寧に読んでた……そうか、古本屋さんの本って事は、前にそれを持っていた人が居たって事なんだ」ふと、気付いた様に良介君は言った。「此処に寄贈された本もそうだけど、此処のとはちょっと、違うよね。古本屋さんの本は」
「違うの?」今度は私が首を傾げた。
「違う……んじゃないかなぁ?」自信なさ気に、それでも良介君は説明してくれた。「誰かが持っていた本っていう時点では同じだけど、古本屋さんの本は、何れまた誰かの本になる訳じゃない? 誰かが買って行って、今度はその人の本になる。けど、図書館の本は図書館のもの――図書館に来る皆のものじゃない?何て言うか……所有の密度が違うかなって」
「所有の密度?」
「誰か一人のものじゃなくて、皆のもの。逆に言えば自分のものじゃないもの。すばるお姉ちゃんだって、自分の家にある本と此処にある本、愛着が違うんじゃない? 勿論、此処のもとっても大事に読んでくれるけど」
それはまぁ、と私は頷いた。基本的に図書館を利用する私としては、買い求めた本は特に気に入って手元に置きたいと思った本達だもの。
此処の本は此処の本で、公共物でもあり、本好きの性として、大事にしているけれどね。
「それが……所有の密度?」
良介君は頷いた。
「それで……本にとってもそれはあるんじゃないかなって……。自分の持ち主はこの人なんだって」
「本が?」私は目を丸くした。
けれど、この図書館で出会った本を思い出してみれば、本がその持ち主に対して想いを持っていたって不思議ではない。
「じゃあ、あの古本屋で見付けた本は……元の持ち主さんへの想いが強かったから、私に買われたくなかった……?」
「多分、誰にもね」良介君は頷いた。「もしかしたら、元の持ち主さんが買い戻しに来るのを待っていたのかも知れないね」
「……ちょっと健気かも」それだけ大事にされ、愛読されていたのだろう。
でも、それなら此処に寄贈された本だって、大切にされていた本は数多くある。それはどうして平気なのだろう? やはりあの時の本が特別……?
私がそう問うと、良介君は微苦笑を浮かべた。
「だって此処は図書館だもの。本としては借りられるだけ。元の持ち主さん以外の誰かの所有物になる訳じゃない。また此処に返って来るんだから」
それが図書館と古書店の違い、なのだろう。
取り敢えず、元の持ち主さん、そして大事にされてきたであろう本達――大事に、大事に拝借させて頂きます。
―了―
何か、長くなったー(--;)
私ってば図書館の本は余り好きじゃないです。
所有の密度を濃くしたいからかなあ??
今はブックオフとかいろいろあるから
古本にも手が出しやすいよね(^^)
本も持ち主を選ぶ!本に好かれる持ち主になるには…??
うちは図書館が近くに無いので、どうしても買う事に……。そして積読本が増えるのです(--;)
偶に読み返すのも面白いですよね♪
本に限らないけど、借りた物って汚さないように
傷をつけないようにって必要以上に神経を使うので・・・・本の場合、没頭出来なくて・・・・
なので本は買ってしまいます。
本に好かれる持ち主かぁ・・・・
もうちょっと本を大切にしよう!(笑)
埃被ってる本なんてのもあるからねぇ~!
ヾ(´▽`;)ゝ ウヘヘ
逆に扱い雑になるタイプの人も居ますけど。特に公共物。人の物、皆の物は大事にっていうモラルは大事ですよね。
調べ物をしたい時なんか、近くに充実した図書館が欲しいですよね~。