〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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「すばるお姉ちゃん」その声と共に、ふと、袖を引かれた気がして、私は傍らを振り返った。
いつもの図書館の、すっかり馴染んだ書見台。少しの間、物語の世界に没頭していた私を現実に呼び戻したのは、しかし余り現実的とは言えない存在だった。
この町立鹿嶋記念図書館の創設者の息子にして、七歳でこの世を去った――鹿嶋良介君の幽霊。幼い頃その儘の姿で、もう何十年もこの図書館に住み着いていた彼が見えるのは、私と友人の島谷君だけだ。
当然会話が出来るのも私達だけ。
私は周囲から奇異に映らないように何気ない風を装って、こっそりと尋ねた。
「どうかしたの? 良介君」確か新しく大量の本が寄贈されたからと、それを見に行った筈だけれど。「何か面白そうな本があった? それとも……おかしな本でもあった?」冗談半分、恐れ半分で訊いてみると、良介君は神妙な顔で頷いた。どうやら後の方らしい。
「おかしな本って言うか――あ、別に危なそうな本じゃないよ?――何て言うか、寂しそうな本、かな」
「寂しそう? 本が?」私は僅かに眉根を寄せる。「そういうお話っていう意味じゃなくて、本が?」
「うん。本が」良介君はこっくりと頷いた。
「……まぁ、書き手の念が籠った本だとか、借りられて行った家での扱いが気に入らなくてこの図書館に帰りたがる本だとか、これ迄にもあったし……。今更驚かないけど……本が?」
「驚いてるじゃない。すばるお姉ちゃん」甚く冷静に突っ込む良介君。
それは兎も角、私はすっかり馴染みになってしまった司書さんのつてもあって、問題の本を見せて貰う事になった。
良介君が寂しそうな本、と言ったのは一冊や二冊ではなかった。どうやら大量に寄贈された本の半数程が、該当する様だ。そしてその殆どが児童書や子供向けの図鑑の類だった。
「この本、何処から寄贈されたんですか?」最古参の司書、山名さんに尋ねると、彼はちょっと複雑そうな顔をして、答えてくれた。
「先日、隣町の小学校が閉校になりましてね。少子化の影響って奴でしょうね。児童が減る一方で……。それで図書室にあった本を、せめて此処に置いてくれないかと、寄贈下さったんですよ。学校の校舎は取り壊し予定だし、保管する場所も無いそうで」
「なるほど……」私は頷いた。本が寂しそうだというその理由も、解った気がする。「という事はこの本達は、閉校になってから読まれる機会がなかったんですね?」
「ええ」
そういう事なら、と私は殊更首を突っ込むのは止める事にした。
この本達は子供達に読まれるという本来の役目が果たせずにいたのだ。それが良介君の言う寂しさの理由だとすれば、この図書館にある以上は大丈夫だろう。
「早く表の棚に並ぶといいですね」山名さんにとも、本達にともなく、私は言った。
それなら、と山名さんが微笑む。
「早々に並べられると思いますよ。子供達、大事に読んでいた様で、傷みも少ないですから。ここでも皆さん、大事に読んでくれるでしょう」
それだけ大事にされていた本だから、余計に子供達に去られて寂しかったのかも知れない。
でも――。
「もう大丈夫だからね」良介君がそっと本に話し掛ける声が、聞こえた。
―了―
久し振り良介君(^^;)
いつもの図書館の、すっかり馴染んだ書見台。少しの間、物語の世界に没頭していた私を現実に呼び戻したのは、しかし余り現実的とは言えない存在だった。
この町立鹿嶋記念図書館の創設者の息子にして、七歳でこの世を去った――鹿嶋良介君の幽霊。幼い頃その儘の姿で、もう何十年もこの図書館に住み着いていた彼が見えるのは、私と友人の島谷君だけだ。
当然会話が出来るのも私達だけ。
私は周囲から奇異に映らないように何気ない風を装って、こっそりと尋ねた。
「どうかしたの? 良介君」確か新しく大量の本が寄贈されたからと、それを見に行った筈だけれど。「何か面白そうな本があった? それとも……おかしな本でもあった?」冗談半分、恐れ半分で訊いてみると、良介君は神妙な顔で頷いた。どうやら後の方らしい。
「おかしな本って言うか――あ、別に危なそうな本じゃないよ?――何て言うか、寂しそうな本、かな」
「寂しそう? 本が?」私は僅かに眉根を寄せる。「そういうお話っていう意味じゃなくて、本が?」
「うん。本が」良介君はこっくりと頷いた。
「……まぁ、書き手の念が籠った本だとか、借りられて行った家での扱いが気に入らなくてこの図書館に帰りたがる本だとか、これ迄にもあったし……。今更驚かないけど……本が?」
「驚いてるじゃない。すばるお姉ちゃん」甚く冷静に突っ込む良介君。
それは兎も角、私はすっかり馴染みになってしまった司書さんのつてもあって、問題の本を見せて貰う事になった。
良介君が寂しそうな本、と言ったのは一冊や二冊ではなかった。どうやら大量に寄贈された本の半数程が、該当する様だ。そしてその殆どが児童書や子供向けの図鑑の類だった。
「この本、何処から寄贈されたんですか?」最古参の司書、山名さんに尋ねると、彼はちょっと複雑そうな顔をして、答えてくれた。
「先日、隣町の小学校が閉校になりましてね。少子化の影響って奴でしょうね。児童が減る一方で……。それで図書室にあった本を、せめて此処に置いてくれないかと、寄贈下さったんですよ。学校の校舎は取り壊し予定だし、保管する場所も無いそうで」
「なるほど……」私は頷いた。本が寂しそうだというその理由も、解った気がする。「という事はこの本達は、閉校になってから読まれる機会がなかったんですね?」
「ええ」
そういう事なら、と私は殊更首を突っ込むのは止める事にした。
この本達は子供達に読まれるという本来の役目が果たせずにいたのだ。それが良介君の言う寂しさの理由だとすれば、この図書館にある以上は大丈夫だろう。
「早く表の棚に並ぶといいですね」山名さんにとも、本達にともなく、私は言った。
それなら、と山名さんが微笑む。
「早々に並べられると思いますよ。子供達、大事に読んでいた様で、傷みも少ないですから。ここでも皆さん、大事に読んでくれるでしょう」
それだけ大事にされていた本だから、余計に子供達に去られて寂しかったのかも知れない。
でも――。
「もう大丈夫だからね」良介君がそっと本に話し掛ける声が、聞こえた。
―了―
久し振り良介君(^^;)
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Re:無題
積ん読……それは半永久的に無くならないもの(←おい)
そして万が一無くなると寂しいもの(←おいおい)
そして万が一無くなると寂しいもの(←おいおい)
Re:こんばんは(^^)
携帯ゲームで勉強もいいけれど、やはりゆったりと本を読む時間も必要ではなかろうか。
読むだけなら確かに電子ブックでも事足りるのだろうけれど……。本の重さとか質感とか、装丁とか……そういったものも味わって欲しいなぁ。
読むだけなら確かに電子ブックでも事足りるのだろうけれど……。本の重さとか質感とか、装丁とか……そういったものも味わって欲しいなぁ。
無題
子供の頃、読んだ児童書は文章が簡略化されてることがあって、大人になってちゃんとした物を読むと内容が濃くて驚くことがありましたね。
もっとも、たくさんの子供たちに熱心に読みつがれた児童書の方が本としては愛されてるんだろうなあと思います!
もっとも、たくさんの子供たちに熱心に読みつがれた児童書の方が本としては愛されてるんだろうなあと思います!
Re:無題
確かに、子供向けの物語集等に集録されてるのは、簡略化されてますね~。原作からすれば途中迄だったり。