〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「通気をよくしてても、流石に梅雨時は何と無く湿っぽいわね」いつもの図書館に僅かに湿りを帯びた埃の臭いを感じて、私は呟いた。
外は連日の雨が一旦止んで、曇り空。またいつ降り出すか解らない、そんな暗さに包まれている。
「山名さん達が除湿剤置いたりして、気を付けてくれてるんだけどね」そう答えたのはこの町立鹿嶋記念図書館付きの幽霊、鹿嶋良介君だった。数十年前に七歳で亡くなった姿の儘、この図書館に居る。最近はお出掛け先も増えた様だけど。「やっぱりこの時期は湿気対策に頭を痛めてるみたい」
「本の大敵だものねぇ。湿気とかカビとか……」私は小声で返す。相変わらず、良介君は私と同窓生の島谷君にしか――今の所は――見えていないし、その声も聞こえていない。他人に聞かれたら、怪しい人だわ。
「でも、今年は何だか湿気が多いみたい……。特別雨が多い様な気はしないんだけどな」
そう言った良介君は、何か気になる事でもあるのか、立ち並ぶ書架の狭間へと歩いて行ってしまった。
雨の所為か来客も少なく、どこかのんびりとした空気の流れる図書館で、私は暫し、本の世界に没頭した。
「すばるお姉ちゃん」と呼ぶ良介君の声に、本から顔を上げたのは、小一時間もした頃だったろうか。
どうかしたのかとその姿を探すと、彼は入り口近くに設えられた展示台の近くに居た。時折催されるイベント用の、移動式の展示台で、今はこの季節に合わせて「梅雨を楽しく過ごそう」特集だそうだ。具体的に言うと、雨の時期を描いた著作が大人向けから子供向けの絵本迄、取り揃えられている。良介君が立っているのは、絵本のコーナーの様だ。
「どうしたの?」私はごく自然に本を探しに行く様に、そちらへと移動した。「何かあった?」
読みたい本でも見付かったのかと訊いた心算だったのだけれど、良介君は一冊の絵本を指差しつつ、こう言った。
「湿気の原因、この本かも知れない」
「?」私は目を丸くしつつ、件の絵本の表紙を見詰める。「あれ、この本、この間読んだわよね?」
パステル調で描かれた厚い雲の下には窓から顔を出して頬杖ついている女の子。その雲の様にもくもくと湧き出した吹き出しには、彼女の願いなのだろう、色鮮やかな虹の橋。手前には紫陽花や蝸牛の描かれた、ごくごくありふれた構図。
ストーリーは梅雨を嫌う女の子が、雨になるとちょっと元気になる生物達――蛙とか、蝸牛とか――と会話しながら、ちょっとだけ、雨が好きになるといったもの。
これのどこが?――私は目で良介君に問い掛けた。
「この絵本作家さん、本当に雨が好きな人みたい」と、良介君は言った。「だから、皆にも雨を好きになって欲しいっていう思いが強いんだよ。お話の中では『ちょっとだけ』だけど、本当は一杯好きになって欲しいんだね」
「それが……湿気を呼んでるって言うの?」流石に私は不審げに眉を顰めた。「幾らその人が雨を好きだからって、そんな力があるものなの?」
良介君は頭を振った。
「直接じゃないよ。けど、この本を読んで『ちょっとだけ』雨が好きになった子が沢山居たり、作家さんの本当の思いを読み取って一杯好きになった子が居たら……その思いが湿気を呼んじゃうのかも」
私はしげしげと絵本を眺める。本当に、特別変わった絵本には見えないのだけれど……子供には特に訴えるものがあるのかも知れない。
でも、だからってどうすればいいの?――私は唸った。
この図書館の司書を勤める山名さんは生前の良介君の事も知っている。元々この図書館が私設だった頃からの古株なのだ。私は彼に相談してみた。
「良介さん、特に読んだ人に問題が起こる様なものではないんですね?」彼はそう確認した。
良介君は頷いたのを、私が伝える。
「なら、問題ないでしょう」彼は柔らかく笑った。「確かに湿気は我々にとっては頭の痛い問題ですが、お客様に害が無いなら。何、除湿剤を増量しておきますよ」
実際、展示台の下にはこっそりと、追加された除湿剤が並べられていた。
「それにしても、あの絵本の作家さん、余程雨が好きだったのかしら。読んだ人の思いも巻き込んじゃうなんて……。あの本だけでしょ? そんなの」水溜まりを避けながらの帰り道、私は良介君に言った。幸いお天気はもった様で、傘は私の手に下げられた儘。
「あの本には特に、雨好きなものが一杯描かれてたから……」そう言って、良介君は紫陽花の葉の上で触覚を伸ばす蝸牛をそっとつついた。「可愛いよね、蝸牛も」
そして「でんでんむしむし」と歌いながら、私の数歩前を歩いて行く。
良介君、もしかして君もあの本読んで影響されたんじゃあ……?――生者よりも思いの力が素直に出る幽霊が巻き込まれたらどうなるんだろう。
もしかして、今回の湿気の本当の原因は、君じゃないよね? 良介君!?
―了―
湿気取り、水が溜まるタイプのは置いたの忘れてると……∑( ̄□ ̄;)
どうかしたのかとその姿を探すと、彼は入り口近くに設えられた展示台の近くに居た。時折催されるイベント用の、移動式の展示台で、今はこの季節に合わせて「梅雨を楽しく過ごそう」特集だそうだ。具体的に言うと、雨の時期を描いた著作が大人向けから子供向けの絵本迄、取り揃えられている。良介君が立っているのは、絵本のコーナーの様だ。
「どうしたの?」私はごく自然に本を探しに行く様に、そちらへと移動した。「何かあった?」
読みたい本でも見付かったのかと訊いた心算だったのだけれど、良介君は一冊の絵本を指差しつつ、こう言った。
「湿気の原因、この本かも知れない」
「?」私は目を丸くしつつ、件の絵本の表紙を見詰める。「あれ、この本、この間読んだわよね?」
パステル調で描かれた厚い雲の下には窓から顔を出して頬杖ついている女の子。その雲の様にもくもくと湧き出した吹き出しには、彼女の願いなのだろう、色鮮やかな虹の橋。手前には紫陽花や蝸牛の描かれた、ごくごくありふれた構図。
ストーリーは梅雨を嫌う女の子が、雨になるとちょっと元気になる生物達――蛙とか、蝸牛とか――と会話しながら、ちょっとだけ、雨が好きになるといったもの。
これのどこが?――私は目で良介君に問い掛けた。
「この絵本作家さん、本当に雨が好きな人みたい」と、良介君は言った。「だから、皆にも雨を好きになって欲しいっていう思いが強いんだよ。お話の中では『ちょっとだけ』だけど、本当は一杯好きになって欲しいんだね」
「それが……湿気を呼んでるって言うの?」流石に私は不審げに眉を顰めた。「幾らその人が雨を好きだからって、そんな力があるものなの?」
良介君は頭を振った。
「直接じゃないよ。けど、この本を読んで『ちょっとだけ』雨が好きになった子が沢山居たり、作家さんの本当の思いを読み取って一杯好きになった子が居たら……その思いが湿気を呼んじゃうのかも」
私はしげしげと絵本を眺める。本当に、特別変わった絵本には見えないのだけれど……子供には特に訴えるものがあるのかも知れない。
でも、だからってどうすればいいの?――私は唸った。
この図書館の司書を勤める山名さんは生前の良介君の事も知っている。元々この図書館が私設だった頃からの古株なのだ。私は彼に相談してみた。
「良介さん、特に読んだ人に問題が起こる様なものではないんですね?」彼はそう確認した。
良介君は頷いたのを、私が伝える。
「なら、問題ないでしょう」彼は柔らかく笑った。「確かに湿気は我々にとっては頭の痛い問題ですが、お客様に害が無いなら。何、除湿剤を増量しておきますよ」
実際、展示台の下にはこっそりと、追加された除湿剤が並べられていた。
「それにしても、あの絵本の作家さん、余程雨が好きだったのかしら。読んだ人の思いも巻き込んじゃうなんて……。あの本だけでしょ? そんなの」水溜まりを避けながらの帰り道、私は良介君に言った。幸いお天気はもった様で、傘は私の手に下げられた儘。
「あの本には特に、雨好きなものが一杯描かれてたから……」そう言って、良介君は紫陽花の葉の上で触覚を伸ばす蝸牛をそっとつついた。「可愛いよね、蝸牛も」
そして「でんでんむしむし」と歌いながら、私の数歩前を歩いて行く。
良介君、もしかして君もあの本読んで影響されたんじゃあ……?――生者よりも思いの力が素直に出る幽霊が巻き込まれたらどうなるんだろう。
もしかして、今回の湿気の本当の原因は、君じゃないよね? 良介君!?
―了―
湿気取り、水が溜まるタイプのは置いたの忘れてると……∑( ̄□ ̄;)
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こんばんは
湿気取り…倒しでもしたら、さぁ大変?
炭が良いらしいよ♪
今日、大分35度~だって?暑そう(ι´О`ゞ)
雨は、昔好きだったかも?何となくだけど。
今は、嫌い~神経痛が、アタタタ(;^_^A
炭が良いらしいよ♪
今日、大分35度~だって?暑そう(ι´О`ゞ)
雨は、昔好きだったかも?何となくだけど。
今は、嫌い~神経痛が、アタタタ(;^_^A
Re:こんばんは
結局雨は朝方ちょっと降っただけで、蒸し暑かったよ~(>_<)
Re:こんにちは
いつ迄もじめじめ降られるのは陰鬱で嫌ですよね~(--;)
佐内さん、やっぱり怪しい人っすか(笑)
佐内さん、やっぱり怪しい人っすか(笑)
こんにちは♪
いやぁ~こちらも湿気が多くて参ってます。
で、水が溜まるタイプのものを使っていたんだけど・・・・思わずギャ~~!になって以来、
色が変ってお知らせタイプのものにしました。
雨が好きな人もいるんだねぇ~!
私は大の苦手、気分が滅入ってしまって、
体までだるいような感じでやる気が起きない!
スコールみたいに一時的にドカッ!と降って、
あとはカラリと晴れてくれると良いけどねぇ!
まだまだこの梅雨空が続きそうだなぁ・・・
で、水が溜まるタイプのものを使っていたんだけど・・・・思わずギャ~~!になって以来、
色が変ってお知らせタイプのものにしました。
雨が好きな人もいるんだねぇ~!
私は大の苦手、気分が滅入ってしまって、
体までだるいような感じでやる気が起きない!
スコールみたいに一時的にドカッ!と降って、
あとはカラリと晴れてくれると良いけどねぇ!
まだまだこの梅雨空が続きそうだなぁ・・・
Re:こんにちは♪
水が溜まるタイプは……やっぱり油断するとぎゃ~~! ですよね(^^;)
雨にも色々ありますよね♪
雨にも色々ありますよね♪
Re:こんばんは!
子供は意外と雨が好きかも?
水溜まりとか、葉っぱに付いた雨粒とか……基本雨の日にしか現れない遊び場かも。
水溜まりとか、葉っぱに付いた雨粒とか……基本雨の日にしか現れない遊び場かも。
Re:無題
そう言えば幽霊の出る部屋に盛り塩して置くと、いつの間にか湿気を帯びてびちゃびちゃになっていたとか……。
良介く~ん!?(笑)
良介く~ん!?(笑)
Re:湿気…
そうですね。良介君は傘も要らないけれど……子供って傘を回して、付いた雨粒を飛ばしたりするの、好きですよね。
それにしても……蒸し暑いっす(>_<)
曇り空で風も強かったのに、結局雨はほんのぱらぱら……。余計暑いわー!
それにしても……蒸し暑いっす(>_<)
曇り空で風も強かったのに、結局雨はほんのぱらぱら……。余計暑いわー!
Re:無題
moonさんは雨、と言うか雨音がお好きなんですね(^^)
雨音……いい感じに眠くなりますよね(笑)
雨音……いい感じに眠くなりますよね(笑)