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「どうかしたの? 良介君。この本、面白くなかった?」潜めた声で、私は訊いた。
だって此処は他にも沢山の人が思い思いに本を読んでいる、町立鹿嶋記念図書館。静かにしなきゃいけないのは勿論の事――私と友人位にしか見えない、幽霊の良介君と普通に話していたら、誰も居ない所に話し掛けるおかしな人に見られ兼ねない。
この図書館の創立者、鹿嶋氏の一人息子であり、たった七歳で他界した鹿嶋良介君は、確かに此処に居るけれど。
その良介君は勢いよく頭を振って、本が面白くない訳でも、私の読み聞かせが下手な訳でもない事を示した。大体が本好きな子なのだ。
「ごめん、ちょっと気になる事があって……」
「何? 気になる事って」仮にも幽霊にそんな事言われたら、私も気になるじゃない。「また変な本が入荷した訳じゃないでしょうね?」
この図書館、何やら曰く因縁のある本が集まり易い……気がする。
案の定と言うべきか、良介君はちょっと小首を傾げて、唸っている。
「うーん……。変な本と言うか……気になる本、かな。危険な感じはしないんだけど」
それは何より。読むと死にたくなる本なんて、もう御免だわ。
「それ、今借りられる本なの?」
「うん」頷いて、良介君は先に立って私を案内した。
いや、借りたい訳じゃないんだけどね――気になるじゃない。
好奇心は猫をも殺す、そんな言葉がちらりと、頭に浮かんだけれど。
この本、と言って良介君が指し示したのは一冊の古い昆虫図鑑だった。
本の虫ではあるけれど、虫、というものが凡そ苦手な私が、先ず手に取る事のない類だ。
「これの、何処が気になるのかな?」触りもせず、私は訊いた。
「音がするんだ」と、良介君は言った。「夜になるとね。虫の声って言うけど、鈴虫でも蝉でも、羽を擦り合わせたりして音を出してるんでしょ? だから音でいいんだよね?」
私は頷く。それは間違いないわよ、良介君。
それは兎も角、本から虫の音?
「真逆、虫の幽霊なんて言わないでしょうね?」流石にそれは嫌だ。幽霊だとか言う以前に、嫌だ。
良介君は深く首を傾げて、考えている。どう言えばいいだろう、それを考えている様子だ。
「幽霊じゃあ、ないと思うんだけど……。やっぱり何かの念と言うか想いが関わってるんじゃないかなぁって」
兎に角、見てみてよ、と言う良介君に、私は渋々、本を手に取った。
「大丈夫だよ。その本、図鑑って言っても写真は無いから。皆、絵なんだよ」
「絵?」
意を決して開いて見れば、確かにそれは絵による図鑑だった。
写真並みに写実的なんだけど……。
兎に角私達はその本を手に、いつもの窓際の席に戻り、詳しく見てみる事にした。
本は極めて詳細に、それでいて平易に書かれた良書だった。虫嫌いな私でも、この虫にはそんな特徴があったのか、などと感心させられる。やはり、新しい知識を得る事は楽しいのだ。
余りに写実的かつ詳細な絵は、ちょっと勘弁願いたかったけれど。顕微鏡を覗いて描いたのだろうそれは、かなり細かな所迄描き込まれ、虫達の素顔を露にしている。
「この監修者さん、どれだけ虫の事を人に知らせたかったんだろう……」そう、微苦笑してしまう程に。「でも、流石に音を出す様な仕掛けは無いわね。子供用の図鑑なんかだと、ボタンを押したら音が出る、みたいなのもあるけど、それらしきボタンも無いし、何より使用されてる紙にそんな厚みもないわ」
「それに夜中に音が鳴ったってしょうがないよね」
そう、此処は夜には当然、無人――良介君が居る事もあるけれど――だし、個人でこの本を持っていたとしても、勝手に鳴られても困る。
更に本を矯めつ眇めつし、私はふと、思い当たった事を口にした。
「この本、結構古いわよね。それに詳細な分、ページ数もそれなりにあるわ。これに音を出す様な仕掛けを付加しようとしたら……その当時の技術じゃ巧く出来なかったんじゃないかしら? 厚みも必要になるから、かなり分厚くなってしまうとか……。この監修者さん、かなり虫の事を調べて、然もそれを他人にも教えたくて仕方ないって感じがするのよね。もう、こんなに楽しいんだよって」
虫への愛情、というと陳腐だけれど、兎に角、虫に対する一途な好奇心と、そしてそれを人に分かちたいという思い――それが行間から感じられる様な、おかしな昆虫図鑑。
普通、図鑑なんて形式的に情報を載せてるだけなのにね。思わず、私は微苦笑を浮かべた。
「じゃあ、もしかしてその監修者さんの、本当なら音も聞かせたいっていう想いが……?」良介君は目を丸くした。
「突拍子もないけどね」私は笑う。「この監修者さんなら、その位の念は込められそう」
虫バカよね――私達は顔を見合わせて苦笑した。
「それなら夜中に鳴ってても問題なさそうだね」安堵した様子で、良介君は言った。
「そうね。私は借り出すのは御免だけど」
「うん、その方がいいよ、すばるお姉ちゃん」良介君は頷いた。「鈴虫の音とかはいいけど、カサカサって這い回る様な音もするから……」
「絶対借りない!」
思わず大声を出してしまい、周囲の視線に頬を熱くしながら、私はそそくさと図鑑を元の棚に戻しに行ったのだった。
この本、ある意味、恐怖の本かも知れない……。
―了―
超お久し振りのすばるさん&良介君(^^;)
島谷君欠席(笑)
それ嫌だよぉ~!怖いよぉ~!
私も虫の類は超苦手なので・・・・ゾゾ~っと
鳥肌です。
幽霊も怖いけど、それとは別の怖さがあるなぁ!
良介君、久しぶりですネ♪
カサカサ、は嫌だよね~!(>_<)
そうそう、幽霊とは別の怖さ(^^;)
すばるさんにとっては虫の方が怖い?(笑)
夜中にカサカサ言ったら、そりゃ気になるよねぇ(^^;)
況しては虫系のカサカサは……!(゜Д゜∥)
あれはもう……無条件に拒絶反応が……!!