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「此処から出たいの」硝子の扉に両手を添えて、彼女は懇願した。「お願い。この扉の鍵を……鍵を開けて頂戴!」
厚手の硝子扉の向こう、暗い廊下では一人の少女が小首を傾げて、彼女を見ている。茶色い髪に青いリボン、青い服の十歳ばかりの愛らしい少女。腰のベルトには幾つもの鍵の繋がれた鍵束を下げている。
だが、少女は値踏みする様に彼女を見るばかりで、動こうとはしない。
「ねえ! その中に此処の鍵があるんじゃないの? お願いよ! この扉を開けて!」苛立ちを抑えて、彼女は哀願する。「此処から出たいの! もう此処には居たくないのよ!」
「どうして?」悪戯っぽい笑みを浮かべつつ、少女が尋ねた。「そこは貴女のお部屋でしょう? 貴女はそこに居れば汚れる事もない。なのに何故外に出たいの? それに何故、貴女は自分の部屋の鍵を持っていないの?」
「それは……」彼女は口籠る。「誰も鍵をくれなかったからよ。外に出られるのはいつも誰か一緒の時だけ。皆が私を大事にしてくれていたのは解っているわ。でも、もう私は一人で大丈夫。それに最近ではもう誰も来ないのだもの。だから、一人で……外に出たいの」
違う、と少女は頭を振った。
「何が……違うと言うの?」
「貴女が鍵を持っていないのは、貴女が持つ理由が無いから。この鍵は貴女をそこに閉じ込める為だけのもの。だから貴女に渡ってはこの鍵の存在理由が無くなる――だから、渡す訳には行かないわ」
「何故!?」眼を吊り上げて、彼女は両手で扉を叩く。「何故私を閉じ込めるの!?」
「それはね」少女は言った。「貴女がこの家の人間を呪う為に政敵から贈られた人形だから」
余りの恨みの念に、こんな短期間で貴女自身が意思を持ってしまうなんて、私も驚きだわ――少女の言葉が耳を素通りして行く――厄介なものよね。貴女を粗末に扱えば凶事が起こるし、お寺や神社も匙を投げたらしいし。だから仕方なくこうして飾って祀り上げて……それでも、家は滅びたらしいけれど。
「私は……」彼女の黒い目が、小さな両手を見る。爪は模られているものの、生えている訳ではない。長い黒髪も、植えられたものだ。丁寧な作りの着物も、あくまで本物のミニチュア版。「人形……」
ちゃり、と音を立てて、少女は鍵束から一本の鍵を取り出した。
「家が滅びて、この鍵はこの家の人には必要なくなっちゃったわね。けど、貴女の中には深い恨みの念が封じられている……。出す訳には行かないの」
これ迄ご苦労様――そう言って、少女は別の鍵束に、鍵を繋いだ。
それはもうその鍵が手に入らない事を意味するのだと、彼女は直感した。
それでも、彼女は言った。白い顔に浮かぶ、紅を歪めて。
「お願い、此処を壊してもいいわ。私を出して。私は此処から出て――私にこの念を籠めた人達に、復讐に行くのよ」
頭を振って、少女は立ち去った。
「鍵が開かれる事はない。けれど……」一度だけ、僅かに振り返る。「人を呪えばそれは何れ返って来るもの。貴女を本当に閉じ込める事は、そんな扉じゃ無理かもね」
鍵が関わらなくなった今、もう私には関係ないけれどね――そう笑って、少女は暗闇に沈む屋敷から、姿を消した。
―了―
いつ、いつ、出やぁる(笑)
返しはやはり倍返しでしょうか(^^;)
夜霧……手に負えません(笑)