〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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昨日の件は結局何か解ったのかと尋ねたけれど、栗栖は後ろを歩く僕を振り返ってこう言っただけだった――訳解らん! と。
そして僕は途方に暮れた。栗栖に解らないものが僕に解るだろうか……。
「それで、あの手荷物の持ち主は仮想するしかないんですが……」未だ思考の淵に沈む僕の横で、京が話を繋いでいた。「恐らくは学外の人間じゃないかと。手荷物とは言っても一抱え程の大きさのある物ですし、生徒が正門を通って持ち込んだ物なら、風紀委員の誰かが見ている筈です。聞いてみた所、誰も見ていないそうですが。これが学外の――例えば各種出入り業者なら、車で持ち込む事も出来ますから」
それで夜霧への一応の説明としたかったみたいだ。
だけど、夜霧は納得行かない様子で、美術準備室に保管された件の手荷物を眺めている。
餌を食べて落ち着いた様子で眠る一匹の黒猫の入った、バスケットを。
事の起こりは昨日、終礼を終えた夜霧が最早学内の私室扱いとも言える美術準備室へと赴いた時だった。そのドアの前に問題のバスケットがあったのだ。訝しく思いながらも夜霧がそれを開けてみると、そこに黒猫が居たという訳だ。
バスケットはごく普通の市販品。元々ペットキャリアーとしてのものなのか、上ではなく片側が大きく開くようになっている。保温の為だろう、中に敷かれたバスタオルもこれと言って特徴のない品物だった。猫に関しては生後半年位だろうか? 健康状態は良好で、愛らしい猫だけれど、首輪も着けられていないから、手掛かりは全くない。
どうしたもんだろう、と思った夜霧が先ず取った行動は、京と僕を呼び出して――猫の餌を買いに行かせる事だった。
「兎に角、こんな所に放置したいい加減な飼い主を捜さないと」柳眉を逆立てる夜霧に煽られて、僕達は未だ学校に残っていた栗栖と勇輝の手も借りて調査に当たったのだけれど、放課後という事もあり、それは思いの他捗らなかった。
尤も、これは全寮制の利点と言うべきか、寮に帰りさえすれば、少なくとも男子とは容易に連絡が取れる。女子の方はどうしよう、と思っていたら京がちゃっかりと月夜とキャラメルに連絡を取っていた。元風紀委員の貴田月夜はそちらに顔が利くし、新聞部副部長のキャラメルこと不破りえは情報通。いい人選だ――他に頼める女子が居ない所為でもあるけれど。
ところがその体制で挑んでも、件の猫入りバスケットに関する情報は皆無だったのだ。
生きた猫が入っている以上、鳴く事もあるだろうし、餌や水、トイレも必要だ。なのにそれらを窺わせる様な情報は一切なく、学園の正門の主、風紀委員達も京が言った様にそれを学園の持ち込む者を見ていないと言う。
そんな事もあってか、栗栖でさえもどこかカリカリした風で「解らん」と宣った訳だが……。
「やっぱり学外からの持ち込みなのかなぁ」所要で準備室を出て行った夜霧に代わって猫の様子を見ながら、僕は呟いた。「でも、態々猫を学園内に持ち込むなんて、一体どんな訳が……」
「解るか」京はにべもない。眉間に皺寄せて、起きた時に与える餌の用意をしながら、唸る。「だが、生徒や教師――正門を歩いて通る者なら、誰かの目に付く筈だ。この移動教室棟に入ってしまえば、時間次第では殆ど人目に付かずに動く事も可能だろうが……。教職員用駐車場はこの棟とは本棟を挟んで反対側。此処迄の移動中、生徒に見付かるリスクは大だ。そこ迄して……いや、そもそもペット持ち込み禁止である学内に猫を持ち込む理由がない」
「然も何で美術準備室前なんだか……」僕は首を捻る。
「祥、そこ迄考えたんやったら、もうちょい頑張ってみようや」そう言いながら準備室に入って来たのは――その関西弁で最早説明不要とは思うが――間宮栗栖だった。
「何だ。栗栖も解らなかったんじゃないのか?」と、京。どこか、嬉しげだ。
「や、持ち込んだ犯人やったら――美術部の連中に聞き込んだ所――昨日の放課後からこの上の階の階段辺りで、時々この教室前の廊下を見に降りたりうろちょろしとった二年生やと思うんやけど」
「何ぃ!?」京が吠えた。その声にびくりと飛び上がる様にして起きた猫を、僕が慌てて宥める。「生徒だと? どうやって……」
「いや、悪戯やったとしたら、その成果を確かめたがるもんやろう? せやから見える所に居るやろうと思って、この辺りを普通に通る美術部員に、普通じゃない奴がおらへんかって訊いてみたんや。そしたら、案の定……」
「どうやって持ち込んだと言うんだ?」
「このバスケットやけど……」傍らにしゃがみ込み、猫の頭を撫でながらも栗栖は言った。「蝶番の所からばらしたら、そこそこ薄い部品にならへんか? 上蓋式やったら、蓋を外してもボックス部分がどうしても目ぇに付く大きさやろうけど、これは横開き……。一番底は元々別に作って付けてるみたいやし、それもばらしてしもうたら鞄にも入るんちゃうか?」
「確かに……」各部品にばらしての大きさを想像し、京は唸る。「しかし、猫は……!?」
「夜霧が見付けた時、猫は眠っとった。例えば麻酔でも使うたとしたら……」
『何ぃ!?』僕と京の声が揃う。
「大した知識もないだろうに、生き物に麻酔なんか使って、何かあったらどうするんだ!」京が憤る。
「全くだよ! 元気にしているからいい様なものの……」
「いや、それは結果論だ。元気に目覚めるかどうか、それは本当に目覚めるのを見る迄解らない。それを……」京の眉間の皺が深く、険しくなっていく。「栗栖! 今すぐその馬鹿どものクラス、氏名を教えろ!」
栗栖は「ほい」っと、一枚のメモを京に寄越した。
目を通すなり、京は駆け出し掛けて――精一杯の早足に切り替える。廊下は走るな。
それにしても、と僕は首を傾げて栗栖を見た。
解らん、って言ってたのに。
僕がそれを質すと、栗栖は苦笑を浮かべて言った。
「ああ、それやったら……猫に麻酔使うてこんな手間迄掛けて、夜霧に悪戯し掛ける阿呆の思考回路が訳解らん、思うたんや」
なるほど、と頷く僕には、勿論、そんなもの解る訳がない。
ともあれ――京が向かったからには、件の二年生、存分に雷を食らう事だろう。
―了―
長くなったー(--;)
バスケットはごく普通の市販品。元々ペットキャリアーとしてのものなのか、上ではなく片側が大きく開くようになっている。保温の為だろう、中に敷かれたバスタオルもこれと言って特徴のない品物だった。猫に関しては生後半年位だろうか? 健康状態は良好で、愛らしい猫だけれど、首輪も着けられていないから、手掛かりは全くない。
どうしたもんだろう、と思った夜霧が先ず取った行動は、京と僕を呼び出して――猫の餌を買いに行かせる事だった。
「兎に角、こんな所に放置したいい加減な飼い主を捜さないと」柳眉を逆立てる夜霧に煽られて、僕達は未だ学校に残っていた栗栖と勇輝の手も借りて調査に当たったのだけれど、放課後という事もあり、それは思いの他捗らなかった。
尤も、これは全寮制の利点と言うべきか、寮に帰りさえすれば、少なくとも男子とは容易に連絡が取れる。女子の方はどうしよう、と思っていたら京がちゃっかりと月夜とキャラメルに連絡を取っていた。元風紀委員の貴田月夜はそちらに顔が利くし、新聞部副部長のキャラメルこと不破りえは情報通。いい人選だ――他に頼める女子が居ない所為でもあるけれど。
ところがその体制で挑んでも、件の猫入りバスケットに関する情報は皆無だったのだ。
生きた猫が入っている以上、鳴く事もあるだろうし、餌や水、トイレも必要だ。なのにそれらを窺わせる様な情報は一切なく、学園の正門の主、風紀委員達も京が言った様にそれを学園の持ち込む者を見ていないと言う。
そんな事もあってか、栗栖でさえもどこかカリカリした風で「解らん」と宣った訳だが……。
「やっぱり学外からの持ち込みなのかなぁ」所要で準備室を出て行った夜霧に代わって猫の様子を見ながら、僕は呟いた。「でも、態々猫を学園内に持ち込むなんて、一体どんな訳が……」
「解るか」京はにべもない。眉間に皺寄せて、起きた時に与える餌の用意をしながら、唸る。「だが、生徒や教師――正門を歩いて通る者なら、誰かの目に付く筈だ。この移動教室棟に入ってしまえば、時間次第では殆ど人目に付かずに動く事も可能だろうが……。教職員用駐車場はこの棟とは本棟を挟んで反対側。此処迄の移動中、生徒に見付かるリスクは大だ。そこ迄して……いや、そもそもペット持ち込み禁止である学内に猫を持ち込む理由がない」
「然も何で美術準備室前なんだか……」僕は首を捻る。
「祥、そこ迄考えたんやったら、もうちょい頑張ってみようや」そう言いながら準備室に入って来たのは――その関西弁で最早説明不要とは思うが――間宮栗栖だった。
「何だ。栗栖も解らなかったんじゃないのか?」と、京。どこか、嬉しげだ。
「や、持ち込んだ犯人やったら――美術部の連中に聞き込んだ所――昨日の放課後からこの上の階の階段辺りで、時々この教室前の廊下を見に降りたりうろちょろしとった二年生やと思うんやけど」
「何ぃ!?」京が吠えた。その声にびくりと飛び上がる様にして起きた猫を、僕が慌てて宥める。「生徒だと? どうやって……」
「いや、悪戯やったとしたら、その成果を確かめたがるもんやろう? せやから見える所に居るやろうと思って、この辺りを普通に通る美術部員に、普通じゃない奴がおらへんかって訊いてみたんや。そしたら、案の定……」
「どうやって持ち込んだと言うんだ?」
「このバスケットやけど……」傍らにしゃがみ込み、猫の頭を撫でながらも栗栖は言った。「蝶番の所からばらしたら、そこそこ薄い部品にならへんか? 上蓋式やったら、蓋を外してもボックス部分がどうしても目ぇに付く大きさやろうけど、これは横開き……。一番底は元々別に作って付けてるみたいやし、それもばらしてしもうたら鞄にも入るんちゃうか?」
「確かに……」各部品にばらしての大きさを想像し、京は唸る。「しかし、猫は……!?」
「夜霧が見付けた時、猫は眠っとった。例えば麻酔でも使うたとしたら……」
『何ぃ!?』僕と京の声が揃う。
「大した知識もないだろうに、生き物に麻酔なんか使って、何かあったらどうするんだ!」京が憤る。
「全くだよ! 元気にしているからいい様なものの……」
「いや、それは結果論だ。元気に目覚めるかどうか、それは本当に目覚めるのを見る迄解らない。それを……」京の眉間の皺が深く、険しくなっていく。「栗栖! 今すぐその馬鹿どものクラス、氏名を教えろ!」
栗栖は「ほい」っと、一枚のメモを京に寄越した。
目を通すなり、京は駆け出し掛けて――精一杯の早足に切り替える。廊下は走るな。
それにしても、と僕は首を傾げて栗栖を見た。
解らん、って言ってたのに。
僕がそれを質すと、栗栖は苦笑を浮かべて言った。
「ああ、それやったら……猫に麻酔使うてこんな手間迄掛けて、夜霧に悪戯し掛ける阿呆の思考回路が訳解らん、思うたんや」
なるほど、と頷く僕には、勿論、そんなもの解る訳がない。
ともあれ――京が向かったからには、件の二年生、存分に雷を食らう事だろう。
―了―
長くなったー(--;)
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Re:こんばんは
要するに夜霧の反応を見たかっただけと思われますな(--;)
それだけに「解らんー!」
それだけに「解らんー!」
Re:無題
何せ夜霧も「解らんー!」ですから(^^;)
Re:こんにちは♪
それはもうきっちりと
その上、きっと卒業する迄、マークされると思われます(--;)
その上、きっと卒業する迄、マークされると思われます(--;)
Re:(‐_‐)
夜霧先生、これはもう頑張ってペットOKのマンションに引っ越すしかない!?(爆)
Re:こんばんは
そりゃもう、特大の雷&嫌味攻撃を!(^^;)