〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「ねぇ!」久し振りに見た通行者に、彼は尻尾を振らんばかりに喜色満面、呼び掛けた。
「うわぁ!」声を掛けられた方は飛び上がらんばかり。「いきなり大声で吠え掛かるなよ!」
「吠え掛かるだなんて……。驚かせたのは悪かったよ」彼はしゅんとしつつも、話を続ける。「ねぇねぇ、君、僕の鍵、知らないかな?」
「鍵? 知らないな。必要ないもんだからな」
「そうかぁ……」心底残念な思いで、彼は俯く。「僕、もうずっと此処から動けないんだ。誰か知らないかなぁ」
「鍵の事なら、ありすに訊くんだな」
「ありす? どんな子?」
「茶色の髪で青いリボンと服で……」
「茶色? 青? それじゃ解らないよ」遮って、彼は悲しげな声を上げた。
「あー、兎に角、一見人間の女の子だ。腰に付けた鍵束ジャラジャラさせてるから、直ぐ解るよ!」
「ああ、それなら解る!」一転して自信満々。
感情の起伏の激しい奴だ、と通行者は呆れる。
「ありすに声を掛けるなら、さっきみたいに吠え掛かるんじゃないぞ? 怒らせたら大変だ。じゃあな」
尖った歯を見せてにやりと笑うと、未だ話をしたそうな彼をよそに通行者は行ってしまった。
暫くの後、項垂れていた彼は、金属の擦れ合う音を耳にして、顔を上げた。見れば、人間の女の子が歩いて来る。腰のベルトには数多の鍵。
ありすだ!ーー思わず大声で呼び掛けようとして、先程の忠告を思い出して止まる。
仕方なく彼女が近付いて来るのをジリジリしながら待ち、なるべく穏やかに声を掛けた。
「ありすさん、ありすさん、お腰に付けた……」
「吉備団子は持ってないわよ」
「は?」
「何でもないわ。聞き流して」涼しい顔で、少女は言う。「それより何の用?」
「その鍵の中に、僕の鍵が無いですか?」彼は勢いこんで尋ねた。
しかし、返ってきた答えは実にあっさりとーー。
「無いわ」
「そ、そんなぁ……。そんなにあるのに。せめて捜してから言って下さいよ! 僕、もうずっと此処で待ってるんです! 待ってるようにって言われて……それからずぅっと、此処から動けずに……」
「だって、鍵束に繋げる物じゃないもの。貴方の鍵は」
「え?」
「第一、貴方の鍵は貴方自身が作り出してる様なもの。待ってるように言われて、それを守るっていう貴方自身が鍵なんだもの」
「僕自身が鍵……」呆然と、彼は呟く。
「だから敢えて鍵を開けるなら、こう言ってあげるわ」少女は微笑む。「よし!」
ぴくり、凛々しくも半ばで切られた耳を立て、彼は一旦その場に正しい姿勢で座ると、少女に一声吠えて、駆け出した。何処とも知れぬ場所へと、楔を解かれて。
「ご苦労様……なのかな?」流石に少女も小首を傾げた。「まぁ、待ての命令一つで死後迄その場に留まれる、その忠誠心には脱帽だわ。ドーベルマン君」
一つ肩を竦めて、少女は再び歩き出したのだった。
―了―
短めに行ってみよう(・・)ノ
「うわぁ!」声を掛けられた方は飛び上がらんばかり。「いきなり大声で吠え掛かるなよ!」
「吠え掛かるだなんて……。驚かせたのは悪かったよ」彼はしゅんとしつつも、話を続ける。「ねぇねぇ、君、僕の鍵、知らないかな?」
「鍵? 知らないな。必要ないもんだからな」
「そうかぁ……」心底残念な思いで、彼は俯く。「僕、もうずっと此処から動けないんだ。誰か知らないかなぁ」
「鍵の事なら、ありすに訊くんだな」
「ありす? どんな子?」
「茶色の髪で青いリボンと服で……」
「茶色? 青? それじゃ解らないよ」遮って、彼は悲しげな声を上げた。
「あー、兎に角、一見人間の女の子だ。腰に付けた鍵束ジャラジャラさせてるから、直ぐ解るよ!」
「ああ、それなら解る!」一転して自信満々。
感情の起伏の激しい奴だ、と通行者は呆れる。
「ありすに声を掛けるなら、さっきみたいに吠え掛かるんじゃないぞ? 怒らせたら大変だ。じゃあな」
尖った歯を見せてにやりと笑うと、未だ話をしたそうな彼をよそに通行者は行ってしまった。
暫くの後、項垂れていた彼は、金属の擦れ合う音を耳にして、顔を上げた。見れば、人間の女の子が歩いて来る。腰のベルトには数多の鍵。
ありすだ!ーー思わず大声で呼び掛けようとして、先程の忠告を思い出して止まる。
仕方なく彼女が近付いて来るのをジリジリしながら待ち、なるべく穏やかに声を掛けた。
「ありすさん、ありすさん、お腰に付けた……」
「吉備団子は持ってないわよ」
「は?」
「何でもないわ。聞き流して」涼しい顔で、少女は言う。「それより何の用?」
「その鍵の中に、僕の鍵が無いですか?」彼は勢いこんで尋ねた。
しかし、返ってきた答えは実にあっさりとーー。
「無いわ」
「そ、そんなぁ……。そんなにあるのに。せめて捜してから言って下さいよ! 僕、もうずっと此処で待ってるんです! 待ってるようにって言われて……それからずぅっと、此処から動けずに……」
「だって、鍵束に繋げる物じゃないもの。貴方の鍵は」
「え?」
「第一、貴方の鍵は貴方自身が作り出してる様なもの。待ってるように言われて、それを守るっていう貴方自身が鍵なんだもの」
「僕自身が鍵……」呆然と、彼は呟く。
「だから敢えて鍵を開けるなら、こう言ってあげるわ」少女は微笑む。「よし!」
ぴくり、凛々しくも半ばで切られた耳を立て、彼は一旦その場に正しい姿勢で座ると、少女に一声吠えて、駆け出した。何処とも知れぬ場所へと、楔を解かれて。
「ご苦労様……なのかな?」流石に少女も小首を傾げた。「まぁ、待ての命令一つで死後迄その場に留まれる、その忠誠心には脱帽だわ。ドーベルマン君」
一つ肩を竦めて、少女は再び歩き出したのだった。
―了―
短めに行ってみよう(・・)ノ
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Re:こんばんは☆
あ、ありすや謎の通行者(人とは言ってない)と話が出来る時点で、この世のものじゃないです(^^;)
ちょっと説明が足りなかったかな(汗)
ちょっと説明が足りなかったかな(汗)
Re:ありすちゃん~。
一応、わんこが自分で閉じた鍵も鍵の内かな~、と。
開錠は音声入力で(笑)
開錠は音声入力で(笑)
Re:こんにちは
ハチ公みたいな犬だったら待ってるかも(^^;)
多分、彼は軍用犬。
多分、彼は軍用犬。
Re:こんばんは
時に馬鹿正直に、時に切ない程に忠実なわんこ……も可愛いですが、私はやっぱり猫が好き~(←おい)
吉備団子、何かノリで言わせてしまった(^^;)
吉備団子、何かノリで言わせてしまった(^^;)
Re:無題
餌をくれる人も居たんだろうけど……(^^;)
やっぱり「忠犬」って事で!
やっぱり「忠犬」って事で!
(T_T) ウルウル・・・
健気だねぇ~!
死んでも、その場を動かずに待ってるなんて!
耳を半分切られてるって事で軍用犬だと分かった
けど、爆弾かなんかで吹き飛ばされて死んだの
かなぁ~?それでも、そこに居続けたなんて、
すごく切ないネ!
死んでも、その場を動かずに待ってるなんて!
耳を半分切られてるって事で軍用犬だと分かった
けど、爆弾かなんかで吹き飛ばされて死んだの
かなぁ~?それでも、そこに居続けたなんて、
すごく切ないネ!
Re:(T_T) ウルウル・・・
多分ずっとご主人を待っていたかと……。
もうちょい融通利かせてもいいんじゃないかと思う程の忠実さを犬に見るのはヒトの幻影か希望か?
もうちょい融通利かせてもいいんじゃないかと思う程の忠実さを犬に見るのはヒトの幻影か希望か?