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今日夜霧が勇輝と一緒に、破損した図書館所蔵の画集数冊を修理する心算だったというのは本当だろうか?
結局、作業は延期、あるいは中止になった様だけど。
そもそも、何故勇輝と……?
確かに図書館には画集に限らず、傷んだ本も見受けられるけれど。夜霧は美術担当の教師だし、勇輝も図書委員でもない。
何故? と首を傾げていると、話を持ち込んできた京が呆れ顔で言った。
「訊けばいいだろう」と。
流石、単刀直入、一直線な我が兄だ。もう少し、思考を楽しむとかしてもいいんじゃないかと思うけれど。
その京は夜霧本人から予定変更の話を聞いたらしい。何でその時に訊かなかったんだと尋ねたら、興味がないからとの返答だった。
「どうせ勇輝の奴が本を傷めたかどうかして、反省を兼ねて命じられたんじゃないのか?」興味がないなりに、一応考えてはみたらしい。「夜霧は担任だからな。サボっていないか見届けるように頼まれたんだろう。図書館の管理責任者から」
因みに図書館の管理責任者は元々古文の教師でもあった教頭先生だ。
なるほど、筋は通っている様な気はする。
が、僕は一つ、気に掛かっていた。
何故、画集だけなのかと。
「勇輝が傷めたのが画集だったんじゃないのか?」京は面相臭そうに眉を顰める。どうでもいい事にいちいち拘る奴だ、と言いたげだ。
「画集数冊って言ったよね? 画集ばっかりそんなに傷めたのかい?」
「それは……勇輝でも考え難いな」
いや、そもそも勇輝はそんなに物を粗末にする奴じゃあない。悪戯好きな奴ではあるけれど、公共物に対して乱暴な扱いはしない。
「実際に傷めたのは一冊で、後は罰として、以前から傷んでいた物を……って所じゃないのか?」
「でも、それなら何の本でもよくないかな? 画集って大概は高価で装丁も凝ってて、大した道具も技術も無い人間に任せるのは不安なものじゃない? 敢えてそれを罰に使わなくてもいいんじゃないかな。図書館には安価な文庫本もあるし……」
それもそうか、と京は唸る。
破れたページにテープを張り、心無い落書きを修正ペンで消し、外れ掛けたページを慎重にボンドで貼り付ける。それ位ならば僕達でも――根気は必要かも知れないが――出来るだろう。でも、画集なんて……。
「ま、唸っていても仕方ないな」やおら、京は腰を上げた。「勇輝はもう帰ってるんだろ?」
結局直球勝負か、兄貴よ。
だが、勇輝は外出中で、彼の部屋に居たのはルームメイトと、彼と談笑する栗栖だった。
「何処に行ったんだ? 勇輝は」ぶつぶつと、京がぼやく。
「何でも、学園に戻ったそうやで」と、栗栖。「夜霧から連絡があったとかで」
「態々?」何だと、と喚く京を無視して、僕は目を丸くした。「余程、画集の修理を急いでるのかな?」
「画集の修理?」その事は聞いていなかったらしく、栗栖は訝しげに首を傾げた。
僕は先程の京都の会話を話して聞かせた。
「なるほど、一旦は中止になったけど、夜霧の都合が付いたかどうかして、今日やる事になったんやな」
「そういう事みたいだけど……。そもそも何で画集なのか、やっぱり解らないな」
「夜霧が美術教師やから?」
「かも知れないけど、美術教師だって、本の修理は……」
「そうやな」
栗栖は暫し考えて、こう言い出した。
「二人は勇輝が本の修理をするんを何かの罰やと考えてる様やけど、ちゃうんとちゃうか?」
毛むくじゃらの犬が頭の中をよぎったのは置いといて――僕は尋ねた。罰じゃないのか、と。
「そもそも、罰やったとしたら、夜霧の都合で一旦寮に帰したもんを態々呼び出すか? 幾ら何でもそこ迄せぇへんやろう。精々、明日は必ず、と釘を差す位や」
「という事は……勇輝が自主的にやってる、と?」京が疑わしげに眉を顰める。「一体どういう風の吹き回しで」
「それを推測するには情報が足りへんなぁ」栗栖は頭を掻いて苦笑する。
と、口を開いたのは勇輝のルームメイト。関係あるかどうか解らないけど、と前置きして。
「勇輝の奴、最近は卒業生の彼女の影響でボランティアに関心があるらしいよ。この間もネットで自分でも出来る事が無いかって情報収集してたみたいだし」
僕達の視線は勇輝の机に置かれたノートパソコンに集中した。
「ボランティア、なぁ……」栗栖はにやり、と笑った。
夕暮れの図書館は少し、不気味だった。元々夜間の使用は考えられていない所為か、棚が林立する室内を照らし出すには光量が足りず、影が蟠っている。
それでも、照明直下での作業には支障はなさそうだった。
夜霧と勇輝の二人は、そこで画集の選別作業をしていたのだった。勿論、その後修理をする予定で。
二人が探していたのは学園側に寄付を求めても断られない程傷んでいて、尚且つ彼等に修理可能なもの。そして絵画初心者にも解り易いもの、だった。
「学園にはこんだけ本があるんやから、傷んでるものもそれなりにあるわなぁ」僕達の登場に目を丸くしている二人を余所に、あくまでマイペースに栗栖は言った。「廃棄される位やったら、修理出来るものなら修理してボランティアに回したい――そういう事やろ? 勇輝」
勿論、僕達は他人のノートパソコンを覗いたりはしていない。公開されている勇輝の彼女、ハンドルネームみいにゃんさんのブログを栗栖のパソコンで見はしたけど。
「画集なら、日本語の読めない海外の子供達に贈っても問題ないしな」京が苦笑する。
「取り敢えず、二人でやるより……人手は多い方がいいんじゃないかな」僕は笑って言った。
「お節介どもめ」勇輝は照れくさそうにそう言って、作業に集中するぞとばかりに視線を手元に戻したけれど、その口元は微笑んでいた。
そして夜霧は――。
「ちょうどいい所に来たわねぇ。本当、人手は多い方がいいもの。宜しくね」そう言って、にやり、笑っている。
……もしかして、京に態々自分達の予定なんか話したのは……。
『嵌められた?』期せずして、僕と京は口を揃え、栗栖はその横で苦笑したのだった。
―了―
夜霧は長生きすると思う(笑)
夜霧が京達を巻き込まない訳もない(爆)
>京との会話だろうねぇ。(笑)
へぇ、そうどすなぁ(^^;)
勇輝とみぃにゃんさん、未だ続いてますよ~♪