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「じゃあ、その代わりの鍵を持って来てくれるかしら?」悪戯っぽい、少女の声が脳裏に蘇った。
茶色い髪に青いリボンが似合う、青い服の少女。十歳になったかどうか――彼と同い年位だろうか。同級生の女の子達とは全く違った雰囲気を纏っていたが。
夕暮れの公園で出会ったその少女は名を訊いた彼に「ありす」と名乗り、一週間前に彼が失くした鍵を、数々の雑多な鍵と一緒に、その小柄な身体には不似合いな程頑丈な鍵束に繋いで持っていた。
古い鍵、使われなくなった鍵をコレクションしていると言う彼女に、少年はそれを返してくれるように頼んだ。
今、必要なのだ、と。
だが、彼が鍵を失くした経緯、そして必要としている理由の説明を渋った所為か、彼女は先の様な注文を出したのだった。
当然、現在使われている鍵は駄目だと言う。防犯上の理由がどうのと言うより、興味が無いらしい。だから、彼の自宅の鍵は先ず断られた。
どんな鍵が好みなのだろうと、彼女の鍵束を見るが、それは余りに雑多で、如何にも古いアンティークな飾りの付いたものもあれば、未だ新しそうなもの迄ある。凝った飾り付けのものも、素っ気無い程にシンプルなものも。
「ありすの好みって解んねぇよ」明日もあの公園に来ると言う彼女と別れ、帰路に着きながら彼は愚痴った。
いつも相談している相手に話し掛ける事も出来ないというのは辛い、と彼は悟った。尤もだからこそ、あの鍵を返して貰わなければならず、それには相談したい事が……と思考がループに入ってしまっている。
兎に角使われていない鍵だ――と、彼は授業中にも考える。
昔から住んでいる家の鍵は駄目。彼は生まれた時からこの街に、そしてあの家に住んでいるから、前の家の鍵なんてものも無い。家の倉庫の鍵だって、使われている鍵には違いない。
でも、そうと言わずに昔の倉庫の鍵だと言って渡したらどうだろう? 態々家に来て確かめたりはしないだろうし――しかし、そんなずるい考えは直ぐに萎んで行った。彼女には何故か嘘が通用しない気がする。
「兎に角使ってない鍵、使ってない鍵……」ぶつぶつと呟く彼を、隣の席の生徒が教科書の端からそっと見ていた。
探してみれば、身の回りに鍵は一杯あった。
家の鍵、倉庫の鍵、学校の教室の鍵、飼育小屋の鍵、自転車の鍵……。
だが、そのどれにも、用途があり、対となる錠があった。普段使われていない鍵ならあっても、最早使われる事の無い鍵となると難しい。
「でも、それを言ったらあの鍵だって……確かに錠は無いけどさ」下校しながら、一人で愚痴る。「使われる事が無い訳じゃないじゃないか。実際、あいつには大事な物だし……」
なのにそれをからかい半分に持ち出して、更には失くしてしまったのは完全に彼の落ち度だった。然も悪い事に彼は素直に謝るという事が出来ずにいた。いつも一緒に居た、幼馴染みだったのに。
失くしたんだからしようがないだろう!? いつか買って返してやるよ、あんな物位!――恨めしげな目を向ける相手に、そんな言い方で誤魔化す事しか出来なかった。買って返せば済む、そんなもんじゃないと解っている癖に。
兎に角、代わりになる鍵は見付からない。少女にはそう正直に言って、何としても返してくれるよう、頼もう。言葉を尽くし、彼に出来る事なら何でもして。
そんな覚悟で足を踏み入れた公園には、既に少女が居た。
「ありす、悪いんだけど……」
「代わりの鍵は見付からなかったのね?」あっさりと先読みして、少女は言った。尤も、気分を害している風も無い。「それでも、鍵を返して欲しいって?」
彼は深く頷いた。
「俺、何でもするからさ。だからその鍵だけは返してくれよ」
「いいわよ。別に下僕にならなくても」
「……は?」余りのあっさりした返答に、彼は一瞬茫然とした。「な、何で? 昨日は……」
「状況が変わったの」鍵束から問題の鍵を外しながら、少女は言った。
「何だよ、それ! 俺はあれから一生懸命、もう使われない様な鍵を探してだなぁ!」思わず相手に指を突き付けながら、彼は怒鳴る。
「対になる錠が出来ちゃったのよ。君の所為で」その手を取って、そっと開かせた掌に鍵を乗せながら、少女は微苦笑する。「これが無いと開けないんでしょう? これの本当の持ち主の心――と言うか、君の意地っ張りの扉」
かぁっと顔に朱が差した。どこ迄見透かされていたものか、そして知っていながら一日、彼を悩ませたのか、この少女は。
「これから未だ幾度も開けるものがある鍵は持ち主の手に……」呟く様に、謡う様に少女は言う。「最期の鍵は我が手に……。この鍵は未だ未だ若いわ」
「どういう意味だよ?」彼は眉を顰めたが、少女はくすくすと笑うだけだった。「鍵が若いって……年寄りくせー事言うなぁ、ありすは」
「やっぱり返さない!」
「冗談だって! ごめんってば!」手の中の鍵を取り返されそうになり、慌てて握り込む。「ごめん、ごめん。ありすも若いって」
「当然でしょ。全く、ちゃんと『ごめん』って言えるんじゃない」青い服の裾を翻して、少女は踵を返した。「さっさとそれの持ち主に謝るのね。その鍵は……その分じゃ未だ未だ君達の役に立ちそうだし」
じゃあね、と一言残して、少女は黄昏時の闇に紛れた。
残された少年は、鍵を握り締めて公園から駆け出した。一刻でも早く、鍵を開けたかった。
喧嘩した幼馴染みとの心の垣根の鍵を。
その幼馴染みの女の子にはちょっと大人っぽいデザインの、鍵をモチーフとしたペンダントを持って。
―了―
対になる錠の無い鍵、でも使うもの=キーモチーフのアクセという事でした~。
ありすに歳の事でツッコミ入れてはいけません。恐ろしい事になりますよ(?)
怖いのはエネルギー使うのでまた今度(笑)
ありすも子供相手だとそれなりに歳相応?(え? そうでもない?)
何の鍵になるかは……その人次第☆
今回のは、あの分じゃ未だ未だ用途がありそう?(笑)
ちょっとほのぼのし過ぎた感もあるかな。
でも、子供相手だから、偶にはいいか♪
取り敢えず見た目は十歳前後です。見た目は(笑)
今回相手が子供の所為か、ありすも結構子供っぽくなってる?(でもないか……)
この間特に使う予定も無いのにちっちゃい南京錠を買ってしまった。鍵のデザインが気に入っただけ(笑)
ありす行き?^^;
男の子だと思い込んでた。
そうか、ちょっとした恋心なのか
![](/emoji/D/167.gif)
「好きな子をいじめる」心理ですかね。
ありすちゃんの「恐ろしいことになる」というのはどんなこと?
あえて突っ込んでみよう!(←チャレンジャーな私)
「ありすよ、あんたはまだ若いだろ!
![](/emoji/D/229.gif)
「あら、当然よ。見て解らない?」とか言って笑うんだろうな、ありす(笑)
幼馴染み、敢えて「彼」とも「彼女」とも書いてない辺り、引っ掛ける気満々な私(笑)
ありすがちょっぴり見た目相応(な所もある)☆
年寄りくさいとか言ってはいけません(笑)
私もキーモチーフのアクセサリー好きです。アンティークな感じだと尚よし。古めかしいシルバーの鍵とか、わくわくします。お店で見るだけでも楽しい♪
ありすちゃんがたくさんの鍵たちをどうするのか、気になります…!!
飾りが凝ってたり、逆にシンプルな機能美だったり。
ありすが別の鍵束に繋いだ鍵は……どうなるんでしょうね? ふふふ^^