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崖にぶつかり砕けた波頭が飛沫となり、足元迄達する勢いだ。
そんな断崖を歩きながら、私は後を追って来た二人に語り掛ける。
確かに二人の指摘通り、私が教授を殺した犯人である事。
尊敬していた教授に殺意を抱くに至った経緯。
罪から逃れる為に仕掛けたトリックの数々。尤もそれらは、二人によって解明されてしまい……事ここに及んでいるのだけれど。
そして、それを知った私はこうして断崖へと、自ら全てを終わらせるべくやって来た……そんな非常にありがちなシーン。
うちのサークルの脚本家、二時間ドラマの見過ぎだわ。自主製作のムービーなんて、セットにお金掛けられないのは解るけど。
『美和子さん、未だ終わりじゃないわ! どうか罪を償って。教授もきっとそれを望んでいる筈だわ!』今回の主役、女探偵が波の音に負けじと叫ぶ。どこかで見た様な、ありきたりな演技。隣で如何にも非常事態に備えてますって顔をした助手役も、別に彼でなくてもいいんじゃない? 見た目はちょっと、いいけどね。
私は……私が本当にこの犯人の立場だったら、どんな顔をするだろう? 勿論、台詞も含め、脚本は決まっている。それを変える気はない。皆で作って来た作品だもの。私だって、大事に演じている。
それだけに完璧な演技を、私は自分に求めた。
彼女、いや、私はどうするだろう? どうしたいだろう? 脚本では説得に応じ、この場でくずおれ、二人に保護される事になっている。
でも、それは本心だろうか? 本当は……。
それでも応じるとすれば、きっとどこか諦めた風でいながらも、遠くを見詰めて……よし、私の演技はこれだ。
そして、僅かの間を置いて、私が台詞を喋ろうとした時……。
「カーット!」監督役の部長が、ヘッドホンを乱暴に外しながら声を張り上げた。「カットだ! 誰だよ、変な台詞入れたのは!?」
変な台詞?
私はきょとんとして、部長を見詰めた。探偵役の彼女や、周りに控えたメンバーも同様。
「どうしたんですか?」私は尋ねた。「変な台詞なんて、誰も入れてませんけど」
他のメンバーも頷く。
只一人、部長と共に録音をチェックしていた音声担当だけが、訝しげな顔で、部長に確認している。
聞きましたよね? と。
何を、という問いに、部長と音声担当が声を揃えた。
『こっちに来ればいいのに』
その声は海側にセットしたマイクが拾ったものだった。
再生してみると、確かに入っている。けれど、生で聞いた者は、居なかった。
タイミング的には、私が犯人役になり切ろうと思慮していた、僅かの間。
それはきっと、追い詰められた犯人役の私に向けられた言葉だったのだろう。
なのに肝心の私が聞こえなかったのは、所謂霊感のなさ故か、私のなり切り方が足りなかったのか……。
そう思うと、少し、悔しい。
一時場が騒然としたものの、撮り直してムービーは無事に完成した。その晩の打ち上げでそう言った私は、メンバーから思い切り呆れられたのだった。
―了―
今夜も天井裏から、音が聞こえる。もう何日も続く、あの音が。
* * *
越して来たばかりで、乱雑ながらも殺風景な、そして初めての俺一人の部屋にそれは夜毎流れていた。引っ掻く様な、かじる様な音。
「鼠でも居るんじゃないの?」そう言って眉を顰めた彼女は、以来何かと理由を付けて、来なくなった。
派手で自堕落だった母への反発が捨てられない俺が選んだその娘は、几帳面で、いつもこざっぱりとした服装。そしてやや潔癖症だった。
「鼠? これ迄そんな苦情は来た事がない。不衛生にしてるんじゃないですか? 困りますよ」そう言って、俺を疑わしげに見た大家は、しかし駆除業者に依頼してはくれた。痕を残されては困るからだろう。
「鼠の痕跡は見つかりませんでしたよ」天井裏を這い回った挙げ句に、そう報告した業者は、しかし一つ気になる事が……と声を潜めた。
軍手をはめた掌に載せた何か小さな物を、当惑顔で差し出す。立ち会った大家と共に覗き込むと、薄汚れた軍手には不釣り合いなカラフルな色彩。
……爪、だった。
念入りに彩色を施された、しかし付け爪などではない本物の、人の……多分、女の爪。
俺はすぐに、部屋を引き払った。
逃げなければ……その一心で。
何故ならそれは、俺を金づるとしか見ない、派手で自堕落な母の爪……。金絡みの諍いから意識不明の重体に陥りつつも、俺を追って来る、その女の証だったから。
カリ……カリカリ……。
今夜も天井裏から、音が聞こえる。
幾度転居してもついて来る、あの音が……。
―了―
夜、髪洗いながら考えたネタ投下~(・_・)
携帯にメモって書いたから記号が変かも!?
昨夜は遠くの山の更に向こうの空が、いつ迄も稲光に照らされていた。
時折くっきりとした光の筋が、触手を伸ばす様に雲間を這う。
それでも、窓辺に立って空を見上げるこの僕に、音は届かない――それが、あの光の下に眠る町と、今の僕との距離。余りにも遠く、それは感じられた。
数年前迄、僕はその町に居た。
山間の盆地に広がる、小さな町だった。住人の殆どが高齢化し、若い者は職や利便性を求めて町を去った。
それでも僕は、そこから出る事を拒んでいた。お前も出たらどうかと勧められた事も、何度もあったが。
とある夏の夜、小さな診療所の前に捨てられていた、赤子。それが僕だった。診療所の先生が気付いたのは、雷雨に怯える僕の泣き声だったと言うから、僕を捨てた親というのはきっと酷い人なのだろう。よりによって、そんな夜に……。だからこそ、親捜しは当初からしなかったと、先生も言っていた。任せられない、と。
ともあれ、僕は先生に保護され、育てられた。小さな町の小さな診療所の事、決して楽ではなかっただろうに。
その先生も歳を取り……それでも他に医療機関もない小さな町では、引退する事も出来ず、診療所を続けていた。
当時の僕は、その手助けをしながら、勉強に励んだものだった。いずれは医師の免許を取り、跡を継ごうと。それなら尚更、将来こんな小さな町で苦労する事はないと、養父には苦笑されたけれど。
只、大学への進学を考えなければならない頃になると、町の近辺には相応の大学がない事に悩んだ。一時的にではあるが、町を出なければならない、と。養父を残して。
そんな時、養父に一喝された。待っていてやるからとっとと行って来い、と。
結局、僕は町を出た。
その町がダムに沈む事になったとニュースで知ったのは、大学二年の時だったか……。
慌てて帰ろうとした僕に、養父から電話があった。
帰って来るな、と。
思えば、僕を送り出す前から、町では寄り合いの回数が増えていた。あるいはあの時点で、ダム開発の話は持ち込まれていて、養父はそれを知っていたから尚更、僕を外に出そうとしていたのかも知れない。
僕は養父に、自分の所に来るよう、言った。当時は下宿暮らしだったが、二人で住むなら部屋を借りてもいい。
だが、町にはダムに反対して居座る住人も少なからず居て、養父は彼等を見放す事は出来ないと言った。養父自身は、決まった事は決まった事だと、達観した体があったけれど。
彼らが去ったら、町を出る――そう言ったのは、もう随分前の事。
反対派は折れず、着工は遅々として進まず、そして、いつしか町は徐々に住人を減らしつつ、国からも世間からも、置き去りとなっていった。
そして世間からは忘れ去られた頃に、町はダムに沈んだ。抵抗に疲れ果てた住人の思い出と――養父の墓を水底に封じて。
何度も迎えに行きつつも、養父を連れ出す事の出来なかった僕は、今でもあの町に心の一部を置き去りにした儘だ。
しかし、いつ迄もこうしていても仕方がない。
カーテンを閉め、僕は明日に備える為にベッドに入った。
明日は大事なオペが控えている。
急激なエネルギー政策転換の為に町を潰し、町の人々をばらばらにしたダムを提案しながら、補償も何も丸投げにした無責任な政治屋の、命の懸かったオペが行われるのだ。
この手の下で……。
―了―
リハビリの心算が長くなったんですけどー(--;)
