〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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昨日夜霧――夜原霧枝先生――が、クリスマスローズでのガーデニングを予定したかったのに、と同僚の先生に零しているのを聞いたのは日直日誌を取りに行った知多勇輝だった。残念そうだったその様子から、どうやら断念した様だった、と。
夜霧の家はマンションの一室だから、精々ベランダでの小規模なガーデニングだろう。
それにしても検索して見た限りではそれ程大きな植物ではないみたいだけど? サイズ的には鉢植えで充分みたいだ。これならベランダでもそれなりに並べられるだろう。
なのに何故断念したんだろう――美術の授業中、指先に絆創膏の数枚張られた手で扱い難そうにペンを握っている夜霧を見ながら、僕は首を傾げていた。
夜霧の家はマンションの一室だから、精々ベランダでの小規模なガーデニングだろう。
それにしても検索して見た限りではそれ程大きな植物ではないみたいだけど? サイズ的には鉢植えで充分みたいだ。これならベランダでもそれなりに並べられるだろう。
なのに何故断念したんだろう――美術の授業中、指先に絆創膏の数枚張られた手で扱い難そうにペンを握っている夜霧を見ながら、僕は首を傾げていた。
「気分屋の夜霧の事だからな、毎日の水遣りが面倒臭くなったんじゃないのか?」とは、僕の双子の兄、真田京の弁。気分屋、に関して人の事を言えた義理じゃないだろう、と思うのは僕だけじゃないと思う。
「でも、残念そうだったぜ?」直接聞いていた勇輝が言う。「それだけ育てたかったら、水遣り位面倒臭がらないだろう、幾ら夜霧でも」
夜霧、何だか散々な言われ様だ。
「だったら、植物そのものに問題があったんじゃないかな?」僕は言ってみた。「ほら、今日夜霧、手に絆創膏巻いてたじゃないか。何枚も」
「そう言えば……」京が頷く。「いつになく不器用そうにペンや筆を握っていたな」
あれでも美術教師だ。ペンだの筆だのは言わば商売道具。扱いには慣れていた。
「クリスマスローズって位だし、棘にでもやられたんじゃないのか? それで懲りたとか」勇輝が笑う。
だけど、僕は頭を振った。検索して見た時、その茎に目立つ様な棘は無かった。大体、ローズとは言ってもバラ科じゃあないんだ。
「確かキンポウゲ科って載ってたよ」
「キンポウゲゆうたら……」同じ教室に居ながら聞くともなしに話を聞いていたらしい間宮栗栖が、ふと本から顔を上げて言った。「毒草やな」
「毒があるのか?」眉間に皺を作りつつ、京が訊き返した。
「根っことか茎とかにな」
夜霧、何でそんなものを育てようと……。思わず三人の顔にそんな表情が浮かび掛けたけど、栗栖は手を振って苦笑いした。
「栽培種はそない毒性強うないって。そんな危険なもんやったら園芸店で売られへんやろ?」
それはそうだ。そう言えば検索した時にも――画像メインで説明読み飛ばしてたんだけど――沢山食すとかしなければ、みたいな事を書いてあった様な気がする。
「しかし……じゃあ、夜霧はその毒が原因で栽培を諦めたのか?」勇輝が首を捻る。「食べなければ――観賞用なら問題ないんだろう?」
「根っこはな」と、栗栖。「根っこにあるのは『アコニチン』アルカロイドの一種でトリカブトにも含まれとるそうやな。けど、そんなもんそれこそ食べへんやろう」
トリカブトと聞いて、流石に僕等は顔色を失う。それだけ有名な毒草と同じ成分があるなんて。可愛らしい花だと思ってたのに。
けど、それは食用にしなければ問題ない事だ。なのに何故?
「それと、草の汁にも『ラナクリン』っちゅう毒があるらしい。こっちは酸化すると『プロトアネモネン』っちゅう、刺激性の強い成分に変化して……皮膚やら粘膜やらに炎症を起こさせるらしい」
「皮膚に……」僕は夜霧の絆創膏だらけの手を思い出していた。あれはもしかして……。
「栽培するとなったら傷んだ葉を摘み取ったり、植え替えしたり、手で触れる作業も多うなるやろうな」
「詰まり、栽培しようとしたけれど、その成分にやられて炎症が出来て、これは駄目だと……」
「多分な」栗栖は僕の問いに頷く。
「その毒はどうにか出来ないのか?」勇輝が訊いた。「普通に栽培されてるんだから、手はあるんだろう?」
「乾燥すると毒成分は薄れるそうやで。後、素手で触らへんようにするだけでも違うやろうな。ゴム手袋するとか」
「なるほど」そう唸った勇輝は、果たして夜霧に教える心算なのだろうか?
まぁ、勇輝が教えなかったとしても、夜霧と妙に相性のいい京が教えそうだけど。そう思って兄貴を見遣ると、何やら先程迄栗栖が読んでいた本を覗き込んでいた。
『毒草の成分について』――そんな感じの本だった。
「カンニングだな。没収だ没収」そう言って本を一時預かった京が夜霧の所に行ったのは言う迄もない。まぁ、栗栖から借りたんだけど、とは言ったみたいだけど。
僕等は苦笑しつつも、その背を見送った。
そんな訳で、気分屋の夜霧が「もういいわ」って言わなければ、いずれベランダに愛らしい花が咲く日が来る予定だ。
―了―
あっちこっちと調べつつ書いてみました(笑)
クリスマスローズ、此処で言うのはヘレボレス属の一種、ニゲル。(開花時期は冬)
日本で言われるのはレンテンローズ(開花時期は春)が多いみたいですが。
因みに属名の「Helleborus(ヘレボルス)」はギリシャ語の「helein――殺す」と「bore――食べ物」に由来するとか。
こわっ(--;)
「でも、残念そうだったぜ?」直接聞いていた勇輝が言う。「それだけ育てたかったら、水遣り位面倒臭がらないだろう、幾ら夜霧でも」
夜霧、何だか散々な言われ様だ。
「だったら、植物そのものに問題があったんじゃないかな?」僕は言ってみた。「ほら、今日夜霧、手に絆創膏巻いてたじゃないか。何枚も」
「そう言えば……」京が頷く。「いつになく不器用そうにペンや筆を握っていたな」
あれでも美術教師だ。ペンだの筆だのは言わば商売道具。扱いには慣れていた。
「クリスマスローズって位だし、棘にでもやられたんじゃないのか? それで懲りたとか」勇輝が笑う。
だけど、僕は頭を振った。検索して見た時、その茎に目立つ様な棘は無かった。大体、ローズとは言ってもバラ科じゃあないんだ。
「確かキンポウゲ科って載ってたよ」
「キンポウゲゆうたら……」同じ教室に居ながら聞くともなしに話を聞いていたらしい間宮栗栖が、ふと本から顔を上げて言った。「毒草やな」
「毒があるのか?」眉間に皺を作りつつ、京が訊き返した。
「根っことか茎とかにな」
夜霧、何でそんなものを育てようと……。思わず三人の顔にそんな表情が浮かび掛けたけど、栗栖は手を振って苦笑いした。
「栽培種はそない毒性強うないって。そんな危険なもんやったら園芸店で売られへんやろ?」
それはそうだ。そう言えば検索した時にも――画像メインで説明読み飛ばしてたんだけど――沢山食すとかしなければ、みたいな事を書いてあった様な気がする。
「しかし……じゃあ、夜霧はその毒が原因で栽培を諦めたのか?」勇輝が首を捻る。「食べなければ――観賞用なら問題ないんだろう?」
「根っこはな」と、栗栖。「根っこにあるのは『アコニチン』アルカロイドの一種でトリカブトにも含まれとるそうやな。けど、そんなもんそれこそ食べへんやろう」
トリカブトと聞いて、流石に僕等は顔色を失う。それだけ有名な毒草と同じ成分があるなんて。可愛らしい花だと思ってたのに。
けど、それは食用にしなければ問題ない事だ。なのに何故?
「それと、草の汁にも『ラナクリン』っちゅう毒があるらしい。こっちは酸化すると『プロトアネモネン』っちゅう、刺激性の強い成分に変化して……皮膚やら粘膜やらに炎症を起こさせるらしい」
「皮膚に……」僕は夜霧の絆創膏だらけの手を思い出していた。あれはもしかして……。
「栽培するとなったら傷んだ葉を摘み取ったり、植え替えしたり、手で触れる作業も多うなるやろうな」
「詰まり、栽培しようとしたけれど、その成分にやられて炎症が出来て、これは駄目だと……」
「多分な」栗栖は僕の問いに頷く。
「その毒はどうにか出来ないのか?」勇輝が訊いた。「普通に栽培されてるんだから、手はあるんだろう?」
「乾燥すると毒成分は薄れるそうやで。後、素手で触らへんようにするだけでも違うやろうな。ゴム手袋するとか」
「なるほど」そう唸った勇輝は、果たして夜霧に教える心算なのだろうか?
まぁ、勇輝が教えなかったとしても、夜霧と妙に相性のいい京が教えそうだけど。そう思って兄貴を見遣ると、何やら先程迄栗栖が読んでいた本を覗き込んでいた。
『毒草の成分について』――そんな感じの本だった。
「カンニングだな。没収だ没収」そう言って本を一時預かった京が夜霧の所に行ったのは言う迄もない。まぁ、栗栖から借りたんだけど、とは言ったみたいだけど。
僕等は苦笑しつつも、その背を見送った。
そんな訳で、気分屋の夜霧が「もういいわ」って言わなければ、いずれベランダに愛らしい花が咲く日が来る予定だ。
―了―
あっちこっちと調べつつ書いてみました(笑)
クリスマスローズ、此処で言うのはヘレボレス属の一種、ニゲル。(開花時期は冬)
日本で言われるのはレンテンローズ(開花時期は春)が多いみたいですが。
因みに属名の「Helleborus(ヘレボルス)」はギリシャ語の「helein――殺す」と「bore――食べ物」に由来するとか。
こわっ(--;)
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無題
どもども!
夜霧の投稿から、ここまで話が発展したんですね~。
オジサン思わず感動しちゃったよw
へぇ~、クリスマスローズって毒性があったんだ!!
その昔、花屋で働いてた事があるんだけど…そこまで勉強しなかったっすねw
夜霧の投稿から、ここまで話が発展したんですね~。
オジサン思わず感動しちゃったよw
へぇ~、クリスマスローズって毒性があったんだ!!
その昔、花屋で働いてた事があるんだけど…そこまで勉強しなかったっすねw
Re:無題
有難うございます(^^)
植物って結構意外なものにも毒性があったりしますね。
紫陽花の葉を調理して食べて食中毒……っていうニュースもありましたね、そう言えば。
猫バカさん、お花屋さんもしてたんですか~^^
植物って結構意外なものにも毒性があったりしますね。
紫陽花の葉を調理して食べて食中毒……っていうニュースもありましたね、そう言えば。
猫バカさん、お花屋さんもしてたんですか~^^
こんばんは
クリスマスローズは咲かすのも難しい花だからね。確か2、3年に一回しか咲かないんじゃなかった?
夜霧先生が緑の指を持っていても難しかったんじゃないかな……多分。
クリスをクリスマスローズにしたんだね。お疲れ様(笑)
夜霧先生が緑の指を持っていても難しかったんじゃないかな……多分。
クリスをクリスマスローズにしたんだね。お疲れ様(笑)
Re:こんばんは
はーい、疲れたよ(笑)
元々気分屋の夜霧先生にガーデニングが向くのかどうかと言う疑問もありますが(笑)
元々気分屋の夜霧先生にガーデニングが向くのかどうかと言う疑問もありますが(笑)
こんばんは♪
クリスマスローズって12月13日の誕生花なので、
記事にした事があったんだけど、毒があるってのは知りませんでした。
花言葉が「中毒」って言うのも、それを知ると
頷けるね!
家もベランダに一鉢欲しかったんだけど、
やめとこう!
結構、知らずに買って育てている植物の中にも
毒があるものってあるみたいねぇ!
事前にちゃんと調べておかないといけないネ!
記事にした事があったんだけど、毒があるってのは知りませんでした。
花言葉が「中毒」って言うのも、それを知ると
頷けるね!
家もベランダに一鉢欲しかったんだけど、
やめとこう!
結構、知らずに買って育てている植物の中にも
毒があるものってあるみたいねぇ!
事前にちゃんと調べておかないといけないネ!
Re:こんばんは♪
そう言えば一年、続いてましたね! 誕生花(^-^)
中毒……確かにね~。
うんうん、意外と身近なものにも毒性があったりするみたい。人間はそれを知って気を付けていればいいんだけど、キキちゃんとか何でも興味津々で齧っちゃいそうだものねぇ、注意が必要かも。
中毒……確かにね~。
うんうん、意外と身近なものにも毒性があったりするみたい。人間はそれを知って気を付けていればいいんだけど、キキちゃんとか何でも興味津々で齧っちゃいそうだものねぇ、注意が必要かも。
Re:こんにちは
関西弁やし(笑)
色黒やないけど(^^;)
クリスマスローズ、確か毒があったよなぁ、でもこのシリーズで殺人事件は……と考えてああなりしてんわ(笑)
色黒やないけど(^^;)
クリスマスローズ、確か毒があったよなぁ、でもこのシリーズで殺人事件は……と考えてああなりしてんわ(笑)
Re:こんにちは~
それは有難い様な有難くない様な(笑)
と言いつつ、自分の誕生花もちょっと気になる……後でクーピーさんちに行ってみよっと(^^;)
と言いつつ、自分の誕生花もちょっと気になる……後でクーピーさんちに行ってみよっと(^^;)
Re:調べたのね^^
夜霧先生、一応は美術教師ですから^^;
綺麗なものは好きなのかも。
トリカブトにしても、植物の殆どは害虫から身を守る為に何かしらアルカロイドを持っていたり、棘を持っていたり……。それが薬になる場合もあるし、毒になる場合も。
結局は用いる人間次第で、花それ自体は美しいのです。
綺麗なものは好きなのかも。
トリカブトにしても、植物の殆どは害虫から身を守る為に何かしらアルカロイドを持っていたり、棘を持っていたり……。それが薬になる場合もあるし、毒になる場合も。
結局は用いる人間次第で、花それ自体は美しいのです。
Re:こんばんわ~
まぁ、ゴム手袋なんかで防御は可能ですし(^^;)
夜霧は多分テキトーに傷んだ葉とかブチブチやってたんですよ(笑)
夜霧は多分テキトーに傷んだ葉とかブチブチやってたんですよ(笑)
Re:花の名前
身近な花でも案外名前は知らないものって、ありますよね(^^;)
取り敢えず知らない草花は食さないのが一番!?(当たり前だ!)
取り敢えず知らない草花は食さないのが一番!?(当たり前だ!)