〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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夜霧――僕達の担任の夜原霧枝先生――は校舎北側に広がる森を散策する時間が欲しいな、と呟いた。
「松の実――まつぼっくりも欲しいかな。秋らしく」楽しそうにそう言う夜霧だけど、未だ未だ九月に入ったばかり。然も、今年は真夏が長引いていると言うか、正直言って、暑い。
確かに北側の森はブナ等の大木が繁り、本当に秋になれば写生に出るにもいい雰囲気を醸し出している。
でも、幾ら夜霧の担当教科が美術でも、今の陽気じゃあとても、野外で秋の風景を写生しようなんて気分じゃないんだけど……。
「ま、確かに暑いな」眉間に皺が寄っているのは暑さの所為で不快指数が鰻上りなのか、また双子の弟――詰まりは僕だ――がどうでもいい事を言い出したと思っているのか不明ながら、京は頷いた。「だが、残念ながら、九月に入ったなんてのは人間のカレンダー上の事で、自然にはそれに従う理由もないしな」
「まぁね」
捲ったばかりの壁のカレンダーでは、数日前迄の抜ける様な青空と海とは打って変わった、赤や黄色に色付いた山々の写真が、実に解り易く季節を知らせてくれている。今の所、現実には程遠いけれど。
「こういう風景を描かせたいのかな、夜霧は」カレンダーを見遣って、僕は言った。
「だろうな。しかし、紅葉するにはある程度の寒波が必要な筈だ。当分、望めそうにないな。八月が九月になったからって、急に冷え込む訳じゃない」
「そうだよね」
この分では、夜霧の野外写生も未だ未だ先の事だろう。僕だって、森の木々にある程度日差しが遮られるとは言え、この暑い最中に野外活動なんてしたくない。
そう思っていたら、何と来週、空き時間に有志だけで森に行くと言う。
「有志でって事は、授業じゃあないんですか?」京が代表で尋ねた。
「授業じゃないわよ。空き時間にって言ってるでしょ?」事もなげに夜霧は言った。「散策に行くだけ。描きたいなら道具持って行って写生してもいいけど?」
「散策って……皆でですか?」僕は目を丸くした。散策なんて一人でも出来る、と言うか、一人の方がのんびり思う様、楽しめるのでは?
「だから、行きたい人だけ。この間、夕方帰ろうとしていたら、秋の虫の音がしてたのよ。だから、此処は山の中でもあるし、北側の森ならそろそろ秋らしくなってないかなって思ったのよ」自棄に楽しそうに、夜霧はそう言った。
確かに学園があるのは山の中。街に比べれば秋の訪れも早いだろう。相変わらず朝から響く蝉の音も、暴力的な程の大音声から、どこか侘しさを感じさせるものへと、その種類も移り変わっていた。
「小さい秋探し、かな?」僕は首を傾げた。
「ま、そんな所ね」夜霧は笑って頷いた。
参加者は現地集合、森の散策に適当な服装、靴で来る事……そんな説明が続いた後、夜霧はこれが本題とばかりに、言った。
「出来ればまつぼっくりとか、見付けて頂戴。見付かり難いだろうから、人海作戦よ。ある意味その為に誘ってるんだから」
「静物画の題材にでもするんですか?」京が尋ねた。
が、夜霧は「あ、それもいいわね」などと、言われてやっと気付いた様な顔をして、更にこう言った。
「取り敢えず、今回はうちの子へのお土産」
『…………』クラス全員、呆れ返ったのは言う迄もない。
「猫への土産か……」勇輝がばたりと、机に突っ伏した。
夜霧が猫好きな事は今やクラス全員、周知の事実だったが……猫バカ。
人海作戦と言われても、流石に、参加者が集うとは思えなかった。
が、僕は知っている。
夜霧に勝るとも劣らない猫バカな――うちの兄貴を。
取り敢えず僕が巻き込まれるのは決定事項の様だ。来週迄に少しでも涼しくなっていてくれる事を祈りつつ、僕は窓の外の空を仰いだ。
―了―
暑い。
本当に少しでも涼しくなってくれ(--;)
「松の実――まつぼっくりも欲しいかな。秋らしく」楽しそうにそう言う夜霧だけど、未だ未だ九月に入ったばかり。然も、今年は真夏が長引いていると言うか、正直言って、暑い。
確かに北側の森はブナ等の大木が繁り、本当に秋になれば写生に出るにもいい雰囲気を醸し出している。
でも、幾ら夜霧の担当教科が美術でも、今の陽気じゃあとても、野外で秋の風景を写生しようなんて気分じゃないんだけど……。
「ま、確かに暑いな」眉間に皺が寄っているのは暑さの所為で不快指数が鰻上りなのか、また双子の弟――詰まりは僕だ――がどうでもいい事を言い出したと思っているのか不明ながら、京は頷いた。「だが、残念ながら、九月に入ったなんてのは人間のカレンダー上の事で、自然にはそれに従う理由もないしな」
「まぁね」
捲ったばかりの壁のカレンダーでは、数日前迄の抜ける様な青空と海とは打って変わった、赤や黄色に色付いた山々の写真が、実に解り易く季節を知らせてくれている。今の所、現実には程遠いけれど。
「こういう風景を描かせたいのかな、夜霧は」カレンダーを見遣って、僕は言った。
「だろうな。しかし、紅葉するにはある程度の寒波が必要な筈だ。当分、望めそうにないな。八月が九月になったからって、急に冷え込む訳じゃない」
「そうだよね」
この分では、夜霧の野外写生も未だ未だ先の事だろう。僕だって、森の木々にある程度日差しが遮られるとは言え、この暑い最中に野外活動なんてしたくない。
そう思っていたら、何と来週、空き時間に有志だけで森に行くと言う。
「有志でって事は、授業じゃあないんですか?」京が代表で尋ねた。
「授業じゃないわよ。空き時間にって言ってるでしょ?」事もなげに夜霧は言った。「散策に行くだけ。描きたいなら道具持って行って写生してもいいけど?」
「散策って……皆でですか?」僕は目を丸くした。散策なんて一人でも出来る、と言うか、一人の方がのんびり思う様、楽しめるのでは?
「だから、行きたい人だけ。この間、夕方帰ろうとしていたら、秋の虫の音がしてたのよ。だから、此処は山の中でもあるし、北側の森ならそろそろ秋らしくなってないかなって思ったのよ」自棄に楽しそうに、夜霧はそう言った。
確かに学園があるのは山の中。街に比べれば秋の訪れも早いだろう。相変わらず朝から響く蝉の音も、暴力的な程の大音声から、どこか侘しさを感じさせるものへと、その種類も移り変わっていた。
「小さい秋探し、かな?」僕は首を傾げた。
「ま、そんな所ね」夜霧は笑って頷いた。
参加者は現地集合、森の散策に適当な服装、靴で来る事……そんな説明が続いた後、夜霧はこれが本題とばかりに、言った。
「出来ればまつぼっくりとか、見付けて頂戴。見付かり難いだろうから、人海作戦よ。ある意味その為に誘ってるんだから」
「静物画の題材にでもするんですか?」京が尋ねた。
が、夜霧は「あ、それもいいわね」などと、言われてやっと気付いた様な顔をして、更にこう言った。
「取り敢えず、今回はうちの子へのお土産」
『…………』クラス全員、呆れ返ったのは言う迄もない。
「猫への土産か……」勇輝がばたりと、机に突っ伏した。
夜霧が猫好きな事は今やクラス全員、周知の事実だったが……猫バカ。
人海作戦と言われても、流石に、参加者が集うとは思えなかった。
が、僕は知っている。
夜霧に勝るとも劣らない猫バカな――うちの兄貴を。
取り敢えず僕が巻き込まれるのは決定事項の様だ。来週迄に少しでも涼しくなっていてくれる事を祈りつつ、僕は窓の外の空を仰いだ。
―了―
暑い。
本当に少しでも涼しくなってくれ(--;)
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Re:本日
8月36日(笑)
本当、九月に入ったって言っても未だ未だ夏日……と言うより猛暑日!
早く涼しくなってくれい(--;)
本当、九月に入ったって言っても未だ未だ夏日……と言うより猛暑日!
早く涼しくなってくれい(--;)
Re:こんにちは
まつぼっくりもキーちゃんにとっては怪しい物体!?( ̄◇ ̄;)
何かもう暑過ぎて、残暑見舞いなんて風情もなく……(--;)
何かもう暑過ぎて、残暑見舞いなんて風情もなく……(--;)