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いつぞや目を付けた一軒家を借りる事となり、それならばこの春休みの間に転居を済ませてしまおうという訳だ。まぁ、荷物の運搬は引越し屋に任せてしまえば済む事なんだけど……その片付けに関しては、夜霧は全て自分で監督したがった。
しかし、予め構想はあっても、実際に置いて見ると何か違う、というのはよくある事。一応家具を置いては貰ったものの、今一つ気に入らなかったらしく……しかし女手一つでは大幅な模様替えは無理、という理由で結局、春休みにも寮に残っていた僕達にお鉢が回って来たのだった。
やれやれ。
僕達――僕と双子の兄の京、間宮栗栖、知多勇輝といういつものメンバー、それと運悪く珍しく残っていた亀池が捕まった。力仕事が主なので、先ずは男子連中を集めた、と夜霧は言っていた。こりゃ、掃除の段階になったら女子にも招集掛かるかも。
それで皆で手分けして当たる事になったんだけど……亀池は自分からリビングを担当すると発言したんだっけ? リビング――と言っても和風の畳敷きだけど――は大きめの家具が少なく、楽そうではあったけど、その分ごちゃごちゃした物が多く、然も夜霧の指示も矢鱈と細かかったので、僕達は喜んで彼にその場を譲った。
そして、僕達はそれぞれの持ち場で仕事に就いていた。大型の家具が多い寝室は僕と京の二人が、その他を栗栖達が担当した。
単に指示通りに置いていけばいい、と思っていた僕達だったけれど、ちょっとした問題が持ち上がっていた。
夜霧が此処を借りる事にした理由の一つが、猫を飼う為、というものだったからだ。
詰まりは此処に生きた猫が加わる事となる。その猫に危険が無いように、そして夜霧の留守中も楽しく過ごせるように、それを考えて置いてみては修正、置いてみては修正を繰り返す事となったのだ。
それを終えてやっとリビングに戻ったのが一時間半程、後。
もう粗方片付いているだろうと思っていたリビングは、しかし一向に家具の移動も進んでおらず、そして亀池の姿も無かった。
「何処へ行ったんだ? 亀池は」京が眉間に皺を寄せた。「片付いてないじゃないか」
「一人で片付けしてて、怖くなって逃げたんじゃないか?」と、苦笑したのは勇輝だった。「ほら、此処、事実は兎も角幽霊屋敷の噂があるそうだし。あいつ怖がりだし」
確かに。極度の怖がりが元で、寮内でも幾度か問題を起こした亀池の事、幽霊屋敷の噂に怯え、此処に来るのもかなり嫌そうだった。夜霧にそんな泣き言は通用しないけれど。
「家の中には居ないみたいだし、誰か外見て来て」との、夜霧のお達しが下った。「後の三人は此処の片付け、宜しく。此処片付かないと、お茶も出せないから」
結局、僕が亀池を捜す事となった。
玄関を出ると、直ぐに彼は見付かった。
「何だ、亀池、此処に居たのか」僕は声を掛けた。「何してるんだ? こんな所で」
亀池は一瞬、びくりと肩を震わせて、しかし声を掛けたのが僕だと知るとほっと肩の力を抜いた。
「……真逆と思うけど、何か見たのかい?」何を怯えているんだろう、と考えた末に僕はそう尋ねた。
暫し、言うべきか言わざるべきか迷う素振りを見せた後、彼はぼそぼそと話し出した。
「見たって言うか……。荷物を置く前に畳の掃除を済ませてしまおうと思って、乾拭きしてたんだ。そうしたら、ちょっと、おかしな事に気が付いたんだ」
「おかしな事?」僕は訊き返した。
「真ん中辺り、畳が一部浮いてるんだ。ほら、一枚だけ、半畳の畳があっただろう? それが何か浮いてる。もしかして地下への入り口とか、怪しい通路とかだったら……」
「何で普通の一軒家に地下通路の入り口があるんだよ?」流石に僕は呆れて、そう質した。
「祥だって知ってるだろう? 此処、幽霊屋敷の噂があるって。もしかしたら地下に何か……誰かが埋められていて、それが……」亀池は両手を胸の前に構えた。所謂、お化けの手の形に。
「……開けて見たのかい?」少しだけ動揺しつつも、僕は更に尋ねた。「只の貯蔵庫かも……」
「開けてはないけど、食糧貯蔵庫なら、台所にあっただろう? あんなリビングの真ん中に、そんな物作らないよ。テーブル置いたりするだろうし」
それはそうだ。が、一般家庭のリビングに地下への入り口なんて考え難いし、以前新聞部の副部長から聞いた話では此処で取り分け事件など起こってもいないと言う。それとも、その地下の穴に葬られ、未だ表に出ていない事件が……?
僕迄もがおかしな想像に取り付かれ掛けていると、不意に玄関先から明るい笑い声が聞こえ、僕達は揃ってびくりと肩を震わせたのだった。
「なかなか帰ってけぇへん思うたら……」僕達を脅かした爆笑の後に、そう言ったのは栗栖だった。「祥迄、何してるんや」
「いや、あの……話、聞いてた? 栗栖」
「途中からやけどな。しかし、亀池……ほんまに怖がりやなぁ。おかしい思うたら、開けてみたらええのに。百聞は一見にしかず、や」
「おかしいと思ってるのに、開けられるかよ!」怖がりに関しては最早認めているらしく、亀池はその点だけ、抗議した。
「祥も……よう考えてみぃ。此処は古めの日本家屋や。然もここら辺、結構冬場は寒いよなぁ。これからは暖かくなる時期やけど、冬場には、アレ、置きたくなるわなぁ」
「アレ?」冬場のリビングを思い浮かべ、僕はああ、と声を上げた。「炬燵か」
「その炬燵の中には、今じゃ一般的な置炬燵と、予め床を切って熱源を置いた掘り炬燵があるやろ?」
予め床を……「あっ」と僕は声を上げた。
「じゃ、亀池の言ってたのが、その……?」
「使わへん時は当然やけど、畳で蓋してるんやで? 知らんかったんか?」
何だ、と僕と亀池は脱力した。
「幽霊屋敷の噂やら聞いて、怖いとか怪しいとか思うてるから、変な想像してしまうんや」栗栖は笑った。
僕は僅かに頬が赤らむのを感じながらも、ぞろぞろと問題のリビングに戻って行った。
その問題のリビングでは、夜霧が迷っていた。
元の家から持って来た置炬燵を置くべきか、折角の発見である掘り炬燵を利用するべきか。
……どっちでもいいから、早く片付けて帰りたい、という僕達共通の望みは、未だ叶いそうにはなかった。
―了―
掘り炬燵、姉が嫁いだ家で初めて見たなぁ(・・)
すいません。
なんかサボり癖がしっかりついてしまったみたいでして・・・・・(笑)
掘り炬燵かぁ~叔母の家にあったなぁ!
最初は物珍しさもあって喜んでいたんだけどね、
そのうち寝そべることが出来ないのがちょっと
不満になりました。
どうも怠惰な格好で寛ぐのが好きなもので・・・・
やっぱり炬燵に入ったら、寝そべって読書とかしたいかも☆
最初の内は物珍しさで使っても、結局置炬燵になったりして(笑)