〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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今日、勇輝はクリーニング店にも報告しなかった。
だけど、ホールでは如何にも野球部の選手っぽい生徒達が捜索隊を再編してなかったかな?
彼等の主将が失くしたと言う、写真を探して。
「勇輝、それは多分間違いなく、彼等が探している物だよ」指先で写真をぴらぴらと弄んでいる彼に、僕は言った。「クリーニング店から君の所に返って来た洗濯物に紛れ込んでたんだから、君の所為じゃないし……『紛れ込んでたよ』の一言でいいじゃないか」
知多勇輝はふい、と物も言わず席を立ってしまった。写真を届けるでもなく、自室に引き篭もってしまう。
おいおい――僕は溜め息をついた。
元はと言えば件の野球部主将が練習中に撮ったスナップ写真を、うっかりとユニホームのポケットに入れた儘、クリーニングに出してしまった所為だった。幸いそれは念入りな洗濯の前に店員に発見され、無事だったのだけど、返却の際に間違いがあったらしく、同時期にコートを出していた勇輝の所に、戻って来てしまったのだ。
勿論、同じ学校、同じ寮なのだし、さっき彼にも言った様に「紛れ込んでいた」と言って差し出せば何の問題も無い筈だ。なのに、勇輝の奴、何故……。
そしてその癖どうして僕にだけ教えるんだ? 寮の纏め役を勤める双子の兄、真田京なら兎も角、僕――詰まり真田祥にはさっきの助言が精一杯だ。尤も、京に話しても、きっと同じ事を、もっと怒りっぽく口にしただろう。まぁ、勇輝の態度如何では主将の所に引き摺って行きかねないけど。京だと。
僕は眉間に皺を寄せて、勇輝の消えたドアを見遣った。
「そないしてると京とおんなじやなぁ、顔」そう明るい声を掛けられて、僕は慌てて眉根を開いた。危ない危ない。幾ら双子でもこういう所は似たくないんだ。
声を掛けてきたのは間宮栗栖。未だ関西弁が抜けないどころか、周囲にうつしてさえいる、関西人だ。
「どないしたんや?」
勇輝は別に僕に口止めはしていない。京にも、野球部員にも、またその他の人間にも、話すなとは言っていない。只、僕が、彼が自主的に言い出すべきだと思っているだけだ。今気が付いたって顔でそう言えば、角も立たない筈だ。
僕はその思惑も含めて、栗栖に相談した。
「勇輝は何故、返そうとしないんだろう?」僕はほとほと理解し兼ねた。悪戯好きではあるけど、気のいい奴だし、野球部にも何の関わりも無い筈だ。
「その写真、何が写ってたんや? 祥、見たんやろ?」
「うん。何て事の無い練習風景みたいだった。野球部の部員達が、ランニングしてる所……だと思うんだけど、シャッターが遅かったのか殆ど走り抜けた後で、フェンスとその向こうの通路がよく写ってた」思い出して僕は笑う。「肝心の部員達はピンボケだったけど、街路樹の緑は綺麗だった」
「野球部のグラウンド脇の通路言うたら、三年の教室がある棟から正門への近道違うかったかな?」
「そうそう。女子も何人か写ってたなぁ。寧ろ部員よりよく写ってた」
「それやな」栗栖は一人、頷いた。
そして野球部主将に確かめる事があると、探し物中の筈の彼の姿を探し――彼等は直ぐに見付かった。纏めて京に捕まって、寮のロビーに集合していたから。
探し物をするのはいいが、その度が過ぎたものらしい。京が例によって怒鳴っている。眉間に皺寄せて……ああ、似たくない。
栗栖としては主将一人を呼び出したかったし、僕としても出来れば耳に入れたくはなかったのだが、京も付いて来てしまった。
「どういう事なんだ?」京は噛み付く様に言った。「野球部は傍迷惑な迄に一丸となって捜索を展開しているし、然も訊けばそれが写真一枚と言うじゃないか。そして栗栖! 何か知ってるのか?」
「その写真について主将さんにお訊きしたいんやけど」極めてマイペースに、栗栖は話を進めた。「何で、随分前に撮った練習風景の中の一枚、それもピンボケの物一枚にそれだけ拘りはるんや?」
主将が驚きの声を上げるよりも素早く、京の声が飛んだ。
「何故写真の内容を知っている!?」台詞を取られて、主将が口をパクパクさせていた。「見たのか? 何処で!? 知っているのなら話せ!」
「まぁまぁ」両手でその勢いを削ぎつつ、栗栖は主将に答えを求めた。「それより、本当に写したかったんはその選手達の向こう……通路を歩く生徒やったんやないですか? 特に、女子」
『……』僕と京は同じ顔をして、大柄な野球部主将の顔を見詰めた。
「そこで改めて質問なんやけど、あそこに写ってた中の誰が、本命なんです?」
今度は目を丸くして、僕達は栗栖を振り返る。そんな事を堂々と……。
「あ、いや……」流石に直球過ぎたと思ったか、栗栖は苦笑いした。「じゃ、これだけ……ある人やないと判れば、それでええから」
そう言って小声で上げたのは、当時三年女子の一人の名。それに対して主将は首を横に振った。彼女が本命の被写体ではないらしい。
「ほな、問題無いわ」にっこり、栗栖は笑った。
そして京達に待つように言うと、僕達は勇輝の部屋を訪ねた。
「勇輝、意地張らんでええで」笑って、彼は言った。「主将さんが写したかったんは、別のお人やから」
机に頬杖突いていた勇輝は振り返り、僕達を見比べて照れ臭そうな苦笑いを浮かべた。そして改めて差し出された写真を見れば、いつぞやの女生徒が通路を急ぐ一群の中に居た。
嫉妬かよ……。然も的外れ。
しかしそれが子供っぽい嫉妬だと自分でも解っているから、僕にだけ、言ったのだろう。京に言えば根掘り葉掘り訊かれるだろうし、栗栖ではこうしてあっさりと見透かされてしまう。いや、主将の真意を確かめる為にも見抜かれたかったのかも知れないが……。余りに直裁的に暴かれる事は望まなかったのだろう。それで僕を通して……。複雑だねぇ。恋心は。
ともあれ、写真は無事に主将の手に戻された。騒がせた事に頭を下げて、彼は部員達と共に引き上げて行った。
僕を問い詰めて全てを知った京は、やっぱり眉間に皺を寄せて、ふんと鼻を鳴らした。
『鶏を割(さ)くに焉んぞ(いずくんぞ)牛刀を用いん』
翌日、そう張り出したのは僕達よりも野球部に当ててのものかな? 小用に対して大袈裟な迄の扱いをするな、と。
ま、小用かどうかは、本人次第かも知れないけどね。
ともあれ、返却物の間違いには要注意。
―了―
またもや例外編。afoolさんとこからネタ拾って来ちゃいました。てへ♪
こんなんなりましたけど……(〃--〃)
勿論、同じ学校、同じ寮なのだし、さっき彼にも言った様に「紛れ込んでいた」と言って差し出せば何の問題も無い筈だ。なのに、勇輝の奴、何故……。
そしてその癖どうして僕にだけ教えるんだ? 寮の纏め役を勤める双子の兄、真田京なら兎も角、僕――詰まり真田祥にはさっきの助言が精一杯だ。尤も、京に話しても、きっと同じ事を、もっと怒りっぽく口にしただろう。まぁ、勇輝の態度如何では主将の所に引き摺って行きかねないけど。京だと。
僕は眉間に皺を寄せて、勇輝の消えたドアを見遣った。
「そないしてると京とおんなじやなぁ、顔」そう明るい声を掛けられて、僕は慌てて眉根を開いた。危ない危ない。幾ら双子でもこういう所は似たくないんだ。
声を掛けてきたのは間宮栗栖。未だ関西弁が抜けないどころか、周囲にうつしてさえいる、関西人だ。
「どないしたんや?」
勇輝は別に僕に口止めはしていない。京にも、野球部員にも、またその他の人間にも、話すなとは言っていない。只、僕が、彼が自主的に言い出すべきだと思っているだけだ。今気が付いたって顔でそう言えば、角も立たない筈だ。
僕はその思惑も含めて、栗栖に相談した。
「勇輝は何故、返そうとしないんだろう?」僕はほとほと理解し兼ねた。悪戯好きではあるけど、気のいい奴だし、野球部にも何の関わりも無い筈だ。
「その写真、何が写ってたんや? 祥、見たんやろ?」
「うん。何て事の無い練習風景みたいだった。野球部の部員達が、ランニングしてる所……だと思うんだけど、シャッターが遅かったのか殆ど走り抜けた後で、フェンスとその向こうの通路がよく写ってた」思い出して僕は笑う。「肝心の部員達はピンボケだったけど、街路樹の緑は綺麗だった」
「野球部のグラウンド脇の通路言うたら、三年の教室がある棟から正門への近道違うかったかな?」
「そうそう。女子も何人か写ってたなぁ。寧ろ部員よりよく写ってた」
「それやな」栗栖は一人、頷いた。
そして野球部主将に確かめる事があると、探し物中の筈の彼の姿を探し――彼等は直ぐに見付かった。纏めて京に捕まって、寮のロビーに集合していたから。
探し物をするのはいいが、その度が過ぎたものらしい。京が例によって怒鳴っている。眉間に皺寄せて……ああ、似たくない。
栗栖としては主将一人を呼び出したかったし、僕としても出来れば耳に入れたくはなかったのだが、京も付いて来てしまった。
「どういう事なんだ?」京は噛み付く様に言った。「野球部は傍迷惑な迄に一丸となって捜索を展開しているし、然も訊けばそれが写真一枚と言うじゃないか。そして栗栖! 何か知ってるのか?」
「その写真について主将さんにお訊きしたいんやけど」極めてマイペースに、栗栖は話を進めた。「何で、随分前に撮った練習風景の中の一枚、それもピンボケの物一枚にそれだけ拘りはるんや?」
主将が驚きの声を上げるよりも素早く、京の声が飛んだ。
「何故写真の内容を知っている!?」台詞を取られて、主将が口をパクパクさせていた。「見たのか? 何処で!? 知っているのなら話せ!」
「まぁまぁ」両手でその勢いを削ぎつつ、栗栖は主将に答えを求めた。「それより、本当に写したかったんはその選手達の向こう……通路を歩く生徒やったんやないですか? 特に、女子」
『……』僕と京は同じ顔をして、大柄な野球部主将の顔を見詰めた。
「そこで改めて質問なんやけど、あそこに写ってた中の誰が、本命なんです?」
今度は目を丸くして、僕達は栗栖を振り返る。そんな事を堂々と……。
「あ、いや……」流石に直球過ぎたと思ったか、栗栖は苦笑いした。「じゃ、これだけ……ある人やないと判れば、それでええから」
そう言って小声で上げたのは、当時三年女子の一人の名。それに対して主将は首を横に振った。彼女が本命の被写体ではないらしい。
「ほな、問題無いわ」にっこり、栗栖は笑った。
そして京達に待つように言うと、僕達は勇輝の部屋を訪ねた。
「勇輝、意地張らんでええで」笑って、彼は言った。「主将さんが写したかったんは、別のお人やから」
机に頬杖突いていた勇輝は振り返り、僕達を見比べて照れ臭そうな苦笑いを浮かべた。そして改めて差し出された写真を見れば、いつぞやの女生徒が通路を急ぐ一群の中に居た。
嫉妬かよ……。然も的外れ。
しかしそれが子供っぽい嫉妬だと自分でも解っているから、僕にだけ、言ったのだろう。京に言えば根掘り葉掘り訊かれるだろうし、栗栖ではこうしてあっさりと見透かされてしまう。いや、主将の真意を確かめる為にも見抜かれたかったのかも知れないが……。余りに直裁的に暴かれる事は望まなかったのだろう。それで僕を通して……。複雑だねぇ。恋心は。
ともあれ、写真は無事に主将の手に戻された。騒がせた事に頭を下げて、彼は部員達と共に引き上げて行った。
僕を問い詰めて全てを知った京は、やっぱり眉間に皺を寄せて、ふんと鼻を鳴らした。
『鶏を割(さ)くに焉んぞ(いずくんぞ)牛刀を用いん』
翌日、そう張り出したのは僕達よりも野球部に当ててのものかな? 小用に対して大袈裟な迄の扱いをするな、と。
ま、小用かどうかは、本人次第かも知れないけどね。
ともあれ、返却物の間違いには要注意。
―了―
またもや例外編。afoolさんとこからネタ拾って来ちゃいました。てへ♪
こんなんなりましたけど……(〃--〃)
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Re:無題
有難うございます~(^^)
何か大体キャラが決まってきた様な(笑)
勇輝君、いじられキャラか……(^^;)
もしかして年上女性にはこうして可愛がられるタイプ?(笑)
何か大体キャラが決まってきた様な(笑)
勇輝君、いじられキャラか……(^^;)
もしかして年上女性にはこうして可愛がられるタイプ?(笑)
Re:無題
ブログペットっぽさが出てますか!(笑)
普段うちの夜霧の意味不明投稿でやってるんですが、今回はブログペット友達のafoolさんちのこいぬのユウキ君の投稿でした~。
因みに栗栖君もモデル(?)はなっちさんちのこペンギンのクリス君(笑)
普段うちの夜霧の意味不明投稿でやってるんですが、今回はブログペット友達のafoolさんちのこいぬのユウキ君の投稿でした~。
因みに栗栖君もモデル(?)はなっちさんちのこペンギンのクリス君(笑)
青春ですねえ
うーん甘酸っぱい(笑)
好きな子の写ってる写真を、パスケースとかにも入れないで裸のまま持ち歩いてるところが如何にも男の子だわ。女子はちゃんと隠し持ってるよねえ(え?)
で、京クン、いつも思うけど、その張り紙の文句は高校生には難しくないかい?
はっ!自分で意味を調べて賢くなれってことですか!
好きな子の写ってる写真を、パスケースとかにも入れないで裸のまま持ち歩いてるところが如何にも男の子だわ。女子はちゃんと隠し持ってるよねえ(え?)
で、京クン、いつも思うけど、その張り紙の文句は高校生には難しくないかい?
はっ!自分で意味を調べて賢くなれってことですか!
Re:青春ですねえ
きっと、京君の本棚にはことわざ辞典が(笑)
果たしてあの張り紙を祥君以外が見ているかどうかは不明(爆)
何かこのシリーズ、青春コメディに走ってる?(^^;)
果たしてあの張り紙を祥君以外が見ているかどうかは不明(爆)
何かこのシリーズ、青春コメディに走ってる?(^^;)
Re:あはは
通風孔(笑)
取扱い説明書メーカー、冬猫さんでやってみました? 笑えますよ~(^^)
京君は……怒ってナンボなキャラになりつつある様な気がする(笑)
取扱い説明書メーカー、冬猫さんでやってみました? 笑えますよ~(^^)
京君は……怒ってナンボなキャラになりつつある様な気がする(笑)
Re:おぉ~出た出た間宮君!
何かシリーズ化し掛けてます(笑)
元はと言えば夜霧の投稿の所為(笑)
元はと言えば夜霧の投稿の所為(笑)
無題
今回も楽しませていただきました~。
探偵、栗栖!お手柄~
しかし何事につけても白黒ハッキリつけたいタイプなんですね~。京くんは・・・
人生には「グレーゾーン」もあるのだよ。
それにいつ気づくのか???
わたくし、京くんの恋話期待してます
探偵、栗栖!お手柄~
しかし何事につけても白黒ハッキリつけたいタイプなんですね~。京くんは・・・
人生には「グレーゾーン」もあるのだよ。
それにいつ気づくのか???
わたくし、京くんの恋話期待してます
Re:無題
京君の恋話!?(爆)
どないなる事やら(^^;)
白黒付けたい京君、そっちは意外となかなか白黒付かなかったりして?(笑)
どないなる事やら(^^;)
白黒付けたい京君、そっちは意外となかなか白黒付かなかったりして?(笑)
Re:こんにちは♪
有難うございまぁす(^^)
栗栖君、マイペースに美味しいとこ、持ってってますからねぇ(笑)
栗栖君、マイペースに美味しいとこ、持ってってますからねぇ(笑)
Re:あぁ!
どうだろう?(笑)
祥君イマイチ影薄いしな。記述役だから仕方ないけど(笑)
祥君イマイチ影薄いしな。記述役だから仕方ないけど(笑)
こんばんは
またやったのかぁ。よーやる。^^
私はホールになっちゃったのね。
甘酸っぱい思いでねぇ、ユウキ、私より先行ってる。^^;
それにしてもユウキ、しょうなんて言葉を、何処から拾ってきたんだろう。う~む、謎だ。
私はホールになっちゃったのね。
甘酸っぱい思いでねぇ、ユウキ、私より先行ってる。^^;
それにしてもユウキ、しょうなんて言葉を、何処から拾ってきたんだろう。う~む、謎だ。
Re:こんばんは
やっちゃいました☆凝りねー奴(笑)
「しょう」……そうだねぇ。「しょうも~」って言ってたから、双子の片割れが祥君になったんだし(笑)
何処で覚えたんでしょう?^^;
「しょう」……そうだねぇ。「しょうも~」って言ってたから、双子の片割れが祥君になったんだし(笑)
何処で覚えたんでしょう?^^;
Re:無題
何があったのかは追求しないで置こう(笑)
そっとしとくから……語りたかったら語ってもいいよ?(爆)
そっとしとくから……語りたかったら語ってもいいよ?(爆)
Re:こんばんわ★
今はにゃんこ写真が一杯ですね♪
ワンコさんは傍に居るからOK?
ワンコさんは傍に居るからOK?