〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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京はその時の事を脳裏にメモしたのだろうか?
それでいて――頼まれた通りに――夜霧にも伝える事はせず、放課後の美術室で独り、手に怪我をしながらも創作を続けようとする友人の手当てもしようとはしなかった様だ。
夜霧への連絡事項を持って美術準備室に向かった儘、なかなか戻って来ない京を捜して、美術室に行った時、京は只呆然と、机や床に散った血痕を拭き取る友人の背を見詰めていた。
因みに美術部の顧問の夜霧こと夜原霧枝先生は部員がそんな事になっているとは露知らぬのか、準備室にさえ居なかった。
結局、僕が半ば無理矢理彼を保健室へと引っ張って行った。大事な手に怪我をして、今無理をして化膿でもしたら、後々大変事になる、と。絵が描けなくなってもいいのかと、不本意ながらも脅す様な事迄言って。
彼は不承不承という面持ちながらも保険医の手当てを受け、それでも懲りずに美術室へと戻って行った。僕は溜息をついてその背中を見送った。幸い思った程深い傷でもなく、県内の秋の芸術祭も近いから、力が入っているのは解るけど……。
それよりも、と僕は矛先を転じた。
それでいて――頼まれた通りに――夜霧にも伝える事はせず、放課後の美術室で独り、手に怪我をしながらも創作を続けようとする友人の手当てもしようとはしなかった様だ。
夜霧への連絡事項を持って美術準備室に向かった儘、なかなか戻って来ない京を捜して、美術室に行った時、京は只呆然と、机や床に散った血痕を拭き取る友人の背を見詰めていた。
因みに美術部の顧問の夜霧こと夜原霧枝先生は部員がそんな事になっているとは露知らぬのか、準備室にさえ居なかった。
結局、僕が半ば無理矢理彼を保健室へと引っ張って行った。大事な手に怪我をして、今無理をして化膿でもしたら、後々大変事になる、と。絵が描けなくなってもいいのかと、不本意ながらも脅す様な事迄言って。
彼は不承不承という面持ちながらも保険医の手当てを受け、それでも懲りずに美術室へと戻って行った。僕は溜息をついてその背中を見送った。幸い思った程深い傷でもなく、県内の秋の芸術祭も近いから、力が入っているのは解るけど……。
それよりも、と僕は矛先を転じた。
「京! どうしたんだよ? 目の前でクラスメートが怪我したって言うのに、何もしないなんて京らしくないじゃないか」僕は双子の兄に言い募った。恐らく、今の僕の眉間には兄貴そっくりの皺が寄っている。
「誰にも、何も言うなと頼まれた」
納得行かない、という視線で僕は京を睨む。それ位で引き下がる京ではない筈だ。
「真逆と思うけど、彼の怪我に京が関係してる訳じゃないんだろう?」
「当たり前だ!」京は僅かに色を為す。「それなら何をどう頼まれようと、保健室に引き摺って行くさ!」
だろうな。
「じゃあ、どうしたんだよ? あの怪我は。それにどうして言えないんだよ? 彼も保健の先生に訊かれても曖昧な返答ばかりしていたし。パレットナイフで誤って切ったって言ってたけど、自分で使っていてあんな怪我をするなんてあり得ないだろう?」
「……」珍しく、口籠る京。「俺が行った時にはもう、奴は独りで、手を押さえていた。慌てて準備室に駆け込んだが、夜霧は居なくて、奴にもそれ以上騒ぐなと釘を刺された」
「彼も彼だよ。あんな状態で迄、絵を描き続けようとするなんて。県の芸術祭があるからだろうけど、あの手じゃあ……」
「それが嫌なんだって、言ってた」ぽつり、京は呟いた。
「?」僕はきょとんと、彼を見返す。
「怪我をしてるから、間に合わないとか、出来が悪いんだとか、言われたくないって。例え怪我をしていても、精一杯の自分の力を出したいって。だから、その上で間に合わなかったり、不出来だったとしても、それは自分の力量不足なんだ、と」
「……」僕は溜息をついた。どうやら兄貴はそんな友人に共感してしまったらしい。無理もない。試験前に風邪をひいても、成績悪化をその所為にしたくない、そんな兄なのだから。
僕だって解らないではない。けれど、あんな怪我をしていて迄、と思うのは僕が彼程、懸命になれる何かを持っていないからだろうか。
それにしてもあの怪我は放置しては拙いだろう。雑菌が侵入して化膿でもしたら、当分絵筆も持てなくなるかも知れない。そうなったら幾ら彼が自分の力量を信じていても、どうにもならないだろう。
これはやはり……誰かを庇っている?
先程京が話した事も事実だろう。だが、事実が一つとは限らない。
「京が行った時、もう他には誰も居なかったんだよね?」
「ああ。少なくとも俺が見た限りでは」京は頷く。
そして予想外の事を言い出した。
この件はこれで終わりにしないか、と。
「……京らしくない」眉間に皺。ああ、そこは似たくないって言うのに。「未だ何か言われたのかい?」
「傷害事件なんか表沙汰になったら、夜霧――いや、部の統括者は一般的にどうすると思う?」
「大会や芸術祭への参加辞退、だね。普通は」僕は三度、溜息。「こんな大事な時期に怪我をさせられて悔しい思いもあるだろうに……。そこ迄して出品したいのかなぁ」
「それだけ真剣なんだろう」
「……それで京は納得したの?」
京はにやりと、笑った。
「するか」
その日、誰が残っていたかなんて、ちょいと調べれば判るものだ。
部で特に熱心に作品を仕上げようと遅く迄残っていたのは、件の友人ともう一人、同学年の生徒だった。元からこの二人、何かと張り合っていたらしい。それがあの日以来、部にも出て来なくなったと言う。
京はその生徒を呼び出し、例によって尋問に取り掛かり――意外にも早々に、彼は落ちた。元々、怪我を負わせてしまって以来、びくびくと毎日を送っていた様だ。
「どうやら自由選択の絵のモチーフが似ているとかいないとか、そんな事から口論になったらしい。真似したんだろう! ってな」京は言った。「それでつい向きになってその内……頭がかっとなって気が付いたら、パレットナイフを振るってしまっていたそうだ」
「本人も吃驚しただろうね」きっと、相手を本当に傷付ける気などなかったのだろう。「それで? どうするの?」
「傷害として届ければ芸術祭への参加は辞退という事になるだろう。それは出来れば避けたい。だから……その生徒には芸術祭への出品禁止を言い渡した。厳しい様だが、本来なら部ごと、出られなくなる所だったんだからな。まぁ、どの途本人も、気が落ち着く迄はパレットナイフなんか握れもしないだろう」
「だろうね」僕は頷いた。下手をすればこの先ずっと……。
相手に負わせた怪我以上に、消えない傷を負ってしまったのはその生徒本人かも知れない。
その後、件の友人は手の怪我も何のその、芸術祭への出品を果たし、それなりの好評を得たそうだ。
暫く、何も知らない夜霧の機嫌は良好だった。
―了―
メモメモ〆(。。)
「誰にも、何も言うなと頼まれた」
納得行かない、という視線で僕は京を睨む。それ位で引き下がる京ではない筈だ。
「真逆と思うけど、彼の怪我に京が関係してる訳じゃないんだろう?」
「当たり前だ!」京は僅かに色を為す。「それなら何をどう頼まれようと、保健室に引き摺って行くさ!」
だろうな。
「じゃあ、どうしたんだよ? あの怪我は。それにどうして言えないんだよ? 彼も保健の先生に訊かれても曖昧な返答ばかりしていたし。パレットナイフで誤って切ったって言ってたけど、自分で使っていてあんな怪我をするなんてあり得ないだろう?」
「……」珍しく、口籠る京。「俺が行った時にはもう、奴は独りで、手を押さえていた。慌てて準備室に駆け込んだが、夜霧は居なくて、奴にもそれ以上騒ぐなと釘を刺された」
「彼も彼だよ。あんな状態で迄、絵を描き続けようとするなんて。県の芸術祭があるからだろうけど、あの手じゃあ……」
「それが嫌なんだって、言ってた」ぽつり、京は呟いた。
「?」僕はきょとんと、彼を見返す。
「怪我をしてるから、間に合わないとか、出来が悪いんだとか、言われたくないって。例え怪我をしていても、精一杯の自分の力を出したいって。だから、その上で間に合わなかったり、不出来だったとしても、それは自分の力量不足なんだ、と」
「……」僕は溜息をついた。どうやら兄貴はそんな友人に共感してしまったらしい。無理もない。試験前に風邪をひいても、成績悪化をその所為にしたくない、そんな兄なのだから。
僕だって解らないではない。けれど、あんな怪我をしていて迄、と思うのは僕が彼程、懸命になれる何かを持っていないからだろうか。
それにしてもあの怪我は放置しては拙いだろう。雑菌が侵入して化膿でもしたら、当分絵筆も持てなくなるかも知れない。そうなったら幾ら彼が自分の力量を信じていても、どうにもならないだろう。
これはやはり……誰かを庇っている?
先程京が話した事も事実だろう。だが、事実が一つとは限らない。
「京が行った時、もう他には誰も居なかったんだよね?」
「ああ。少なくとも俺が見た限りでは」京は頷く。
そして予想外の事を言い出した。
この件はこれで終わりにしないか、と。
「……京らしくない」眉間に皺。ああ、そこは似たくないって言うのに。「未だ何か言われたのかい?」
「傷害事件なんか表沙汰になったら、夜霧――いや、部の統括者は一般的にどうすると思う?」
「大会や芸術祭への参加辞退、だね。普通は」僕は三度、溜息。「こんな大事な時期に怪我をさせられて悔しい思いもあるだろうに……。そこ迄して出品したいのかなぁ」
「それだけ真剣なんだろう」
「……それで京は納得したの?」
京はにやりと、笑った。
「するか」
その日、誰が残っていたかなんて、ちょいと調べれば判るものだ。
部で特に熱心に作品を仕上げようと遅く迄残っていたのは、件の友人ともう一人、同学年の生徒だった。元からこの二人、何かと張り合っていたらしい。それがあの日以来、部にも出て来なくなったと言う。
京はその生徒を呼び出し、例によって尋問に取り掛かり――意外にも早々に、彼は落ちた。元々、怪我を負わせてしまって以来、びくびくと毎日を送っていた様だ。
「どうやら自由選択の絵のモチーフが似ているとかいないとか、そんな事から口論になったらしい。真似したんだろう! ってな」京は言った。「それでつい向きになってその内……頭がかっとなって気が付いたら、パレットナイフを振るってしまっていたそうだ」
「本人も吃驚しただろうね」きっと、相手を本当に傷付ける気などなかったのだろう。「それで? どうするの?」
「傷害として届ければ芸術祭への参加は辞退という事になるだろう。それは出来れば避けたい。だから……その生徒には芸術祭への出品禁止を言い渡した。厳しい様だが、本来なら部ごと、出られなくなる所だったんだからな。まぁ、どの途本人も、気が落ち着く迄はパレットナイフなんか握れもしないだろう」
「だろうね」僕は頷いた。下手をすればこの先ずっと……。
相手に負わせた怪我以上に、消えない傷を負ってしまったのはその生徒本人かも知れない。
その後、件の友人は手の怪我も何のその、芸術祭への出品を果たし、それなりの好評を得たそうだ。
暫く、何も知らない夜霧の機嫌は良好だった。
―了―
メモメモ〆(。。)
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Re:こんばんは
基本的には住んでるブログで使われた単語から拾っているらしいんだけど……時々、そんな単語使ったっけ? ってなのを拾ってる事がある(^^;)
Re:おはよ~
手、その後大丈夫ですか~?
や、手当てと言ったら怪我だろうと(^^;)
美術部ならやっぱり困るのは手とか目だろうし、目だったら流石に誤魔化せないだろうし。
や、手当てと言ったら怪我だろうと(^^;)
美術部ならやっぱり困るのは手とか目だろうし、目だったら流石に誤魔化せないだろうし。
こんにちは♪
その彼も、京君も何と言ったらいいか?
月並みな言葉しか出てこないけど偉いネ!
体の不調を理由にしないという姿勢は凄いと
思うよぉ~!
私なんか直ぐ、そのせいにしてしまうもん!
でも手の怪我は気の毒だったねぇ、怪我をさせて
しまった方も気の毒だけどねぇ~!
はずみってヤツなんだろうねぇ・・・・・
月並みな言葉しか出てこないけど偉いネ!
体の不調を理由にしないという姿勢は凄いと
思うよぉ~!
私なんか直ぐ、そのせいにしてしまうもん!
でも手の怪我は気の毒だったねぇ、怪我をさせて
しまった方も気の毒だけどねぇ~!
はずみってヤツなんだろうねぇ・・・・・
Re:こんにちは♪
ものの弾みというのは時に大変な事態に繋がりますな(--;)
京曰く「身体の不調を言い訳にしようとすれば何とでも言い逃れは出来るし、楽だ。但し、成長は出来ない。だから逃げ道には頼らない」だそうで……。
京曰く「身体の不調を言い訳にしようとすれば何とでも言い逃れは出来るし、楽だ。但し、成長は出来ない。だから逃げ道には頼らない」だそうで……。
Re:こんばんわ~
本人も「やっちまった!」って感じなので、逆恨みはしないでしょう(^^;)
反省は充分にしているかと。
反省は充分にしているかと。
Re:こんばんは(^^)
いい奴なんだけど、ずれている。それが京クオリティ(笑)