〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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夜霧は、通称キャラメル――新聞部の不破りえ――の記事であの施設への妄想染みた噂を払拭する心算だったのだろうか?
あの施設、と言うのは演劇部の生徒達が夏休み中にボランティアとして訪問した介護施設だった。普段外出する事も少ない入居者の気慰みにでもなればと、ミニ喜劇を披露しに行ったのだ。
勿論、それ以外でも、家族や職員が世話するのを手伝う心算だったらしい。だが、それはきっぱりと断られた。拒絶、と言っていい程にきっぱりと。善意を否定された様でいい気分ではなかったと、部員の一人が言っていた。口には出さないものの、同調する者も居た様だ。
それで想像したのだろうか?
あの施設には何か外部には見せられない、影の部分があるのではないか、などと。
あの施設、と言うのは演劇部の生徒達が夏休み中にボランティアとして訪問した介護施設だった。普段外出する事も少ない入居者の気慰みにでもなればと、ミニ喜劇を披露しに行ったのだ。
勿論、それ以外でも、家族や職員が世話するのを手伝う心算だったらしい。だが、それはきっぱりと断られた。拒絶、と言っていい程にきっぱりと。善意を否定された様でいい気分ではなかったと、部員の一人が言っていた。口には出さないものの、同調する者も居た様だ。
それで想像したのだろうか?
あの施設には何か外部には見せられない、影の部分があるのではないか、などと。
「実はあそこは姥捨て山みたいなもので、あの時付き添っていた家族だって、ボランティアが来るから外面の為だけに態々来てたんだ」
「いや、そもそも本当の家族かどうかも怪しい。入居者の中には軽い認知症の患者も居たし」
「反応の鈍いお爺ちゃんお婆ちゃんも居たし……。もしかして薬漬けにされてるんじゃあ……」
「薬――新薬の実験場だったりして。然も無認可の」
そんな噂が演劇部を中心に一人歩きを始め――先生方の間でもこれは放って置けないという事になったのだろう。
しかし頭ごなしに「勝手な憶測や妄想を吹聴するな」と注意した所で、却って火種が燃え上がるのが噂の厄介な所だ。施設から学校側に圧力が掛かった、やはり何かあるんだと、一見信憑性を帯びた、しかしやはり憶測に過ぎないものが広まるだけだ。
だからこそ同じ生徒の目で見て来た事を校内新聞の記事として取り上げ、事実を持って噂を払拭しようとしたのだろう。
夜霧にそれを持ち掛けられたキャラメルは早速、施設に取材の申し込みをしたらしい。
ところが、その申し込みは断られ――取材を断られたという事実がまた、妄想を助長する結果となってしまった。
「事実を知って貰うのは施設にとっても悪い事じゃないと思うんだけどね? 疚しい事があるのでもなければ!」一日中不機嫌を露わにしていた夜霧に京が尋ねた所、彼女は愚痴を交えつつ事の詳細を語った挙げ句、そう言って口を引き結んだ。
噂は僕も聞いた事があったけど……本当に何故、そこ迄生徒の深入りを拒絶するのだろう? 施設側のその態度にはやはり何かしら、隠し事の臭いを感じてしまう。
「演劇部のボランティア――喜劇を演じる事は受け入れたのに、介助の手伝いは断られたんですね?」例によって眉間に皺寄せて、京は呟いた。
夜霧はこっくりと頷く。
「何だろうね? 直接接触されたくなかったとか?」僕も一応、考えてはみる。
「何故?」京に真顔で訊かれ、そこ迄考えていなかった僕は焦る。
「ええと……ほら、お年寄りは抵抗力弱いから、外から病原体を持ち込まれないように、とか」
「それなら訪問そのものを断った方が確実じゃないか?」
「それはそうだけど、やっぱり入居者にも偶には息抜きを……とか。劇を観るだけなら、ある程度の距離はあるから、許可が出たとか」
「だが、それならそうと言えば済む事じゃないか? 感染症が心配なので直接接触はお断りしますって」
「それはそれで言い難い様な気がするな……」特に、京の言い草だと。丸で保菌者みたいだと、演劇部の連中がまた気を悪くしそうだ。
とは言え、健康な人には一切害をなさない様な菌は幾らでも、何処にでも、僕達の周りに存在する。それでいて、それらも抵抗力が落ちた人間には、命取りとなる事もあるのだ。けれど、ああいった施設なら、出入り口に消毒薬は完備している筈だし、もうちょっと柔らかい言葉で説明する事も出来た筈だ。
「新聞部の取材拒否については? 何か説明はなかったんですか?」京は夜霧に尋ねた。
「不破さんも説明を求めたそうなんだけど、只スケジュールの都合としか言われなかったって、不満そうだったわ。スケジュールに空きがないなら、いつならいいかと尋ねても明確な答えはなかったそうよ」
介護施設のスケジュール――一体何があるんだろう? それは検診や入居者の為のイベントとか、色々あるんだろうけど、校内新聞の取材を受ける暇もない程、毎日びっしりという訳はないだろう。
下らない噂と思っていたのだけれど……何だか段々、怪しくなってくる。
とは言え、噂にある様な新薬云々は流石に眉唾だ。反応が鈍かったのは耳目弱ったお年寄り故なのか、それとも演劇部の演じた喜劇がその程度だったのか。
そうして三人で首を捻っていると、この美術準備室のドアががらりと開いて、キャラメルが駆け込んで来た。
「余りに納得行かないんで、施設の近所の方々に取材して来ました」と、彼女は言った。
何か解ったかと、僕達は勢い込んで彼女に詰め寄った。
「評判としてはですね、可もなく不可もない、標準的な介護施設、という事でした。病院とも連携していますし、デイサービスの利用者もおられましたが、対応はよかったそうです。只……」
『只?』
「最近、救急車が呼ばれる事が多いそうです。一晩に何台も来る事もあったそうで……」そう言って彼女は読み上げていた手帳から、不安そうな目を上げた。
「……もしかして、既に病気が流行っている……?」僕は先程の思い付きを百八十度回転させた。「外の人にうつさない為に、直接の接触を避けたんじゃないかな?」
先程も言った様に観劇ならある程度の距離は保てる。しかし介助の手伝いをするとなると、既に乾燥した感染者の嘔吐物等が付着しないとも限らない。よくこういった施設で院内感染として問題になるノロウイルスなどはそうやって感染が広まるらしい。
反応が鈍かったのも、もしかしたら――勿論発熱している入居者をベッドから起こしたりはしないだろうが――微熱でもあったのかも知れない。
新聞部の取材を断ったのはやはり近距離での接触を防ぎたかった為と、もしかしたら風評被害を恐れたのかも知れない。大規模な院内感染ともなると、施設そのものの質が問われる。対応はちゃんとしている様だけれど……。
「だとしたら……迂闊には書けないですねぇ」キャラメルは困った顔で溜め息をついた。「確証は無いですから。それこそ風評被害の原因になったら大変です」
しかし、この儘放って置いたら噂にどこ迄尾鰭が付くか……。
暫し四人で考えた挙げ句、結局キャラメルに記事を書いて貰う事になった。
「あくまで嘘は書けません。でも事実も書けないとなると……」そう唸りながら新聞部の部室に帰って行った彼女が、後日書いた記事はと言うと――。
『これから注意すべき感染症特集!――原因と対策を知って、二学期も元気に過ごそう!!』だった。
特に施設や学校など人が集まる場所での感染が懸念される症例について、かなり詳細かつ具体的に記載されたそれは、校内でも評価されると共に、介助施設などでの直接接触に関わるリスクを認知させるいい機会となった様だった。
それに加えて僕や京、夜霧がそれとなくながらもあの施設の噂ももしかしたら……などと仄めかした所為だろうか、件の噂もいつの間にか沈静化していった。
まぁ、人の噂も七十五日、だけどね。
―了―
長くなったー(--;)
「いや、そもそも本当の家族かどうかも怪しい。入居者の中には軽い認知症の患者も居たし」
「反応の鈍いお爺ちゃんお婆ちゃんも居たし……。もしかして薬漬けにされてるんじゃあ……」
「薬――新薬の実験場だったりして。然も無認可の」
そんな噂が演劇部を中心に一人歩きを始め――先生方の間でもこれは放って置けないという事になったのだろう。
しかし頭ごなしに「勝手な憶測や妄想を吹聴するな」と注意した所で、却って火種が燃え上がるのが噂の厄介な所だ。施設から学校側に圧力が掛かった、やはり何かあるんだと、一見信憑性を帯びた、しかしやはり憶測に過ぎないものが広まるだけだ。
だからこそ同じ生徒の目で見て来た事を校内新聞の記事として取り上げ、事実を持って噂を払拭しようとしたのだろう。
夜霧にそれを持ち掛けられたキャラメルは早速、施設に取材の申し込みをしたらしい。
ところが、その申し込みは断られ――取材を断られたという事実がまた、妄想を助長する結果となってしまった。
「事実を知って貰うのは施設にとっても悪い事じゃないと思うんだけどね? 疚しい事があるのでもなければ!」一日中不機嫌を露わにしていた夜霧に京が尋ねた所、彼女は愚痴を交えつつ事の詳細を語った挙げ句、そう言って口を引き結んだ。
噂は僕も聞いた事があったけど……本当に何故、そこ迄生徒の深入りを拒絶するのだろう? 施設側のその態度にはやはり何かしら、隠し事の臭いを感じてしまう。
「演劇部のボランティア――喜劇を演じる事は受け入れたのに、介助の手伝いは断られたんですね?」例によって眉間に皺寄せて、京は呟いた。
夜霧はこっくりと頷く。
「何だろうね? 直接接触されたくなかったとか?」僕も一応、考えてはみる。
「何故?」京に真顔で訊かれ、そこ迄考えていなかった僕は焦る。
「ええと……ほら、お年寄りは抵抗力弱いから、外から病原体を持ち込まれないように、とか」
「それなら訪問そのものを断った方が確実じゃないか?」
「それはそうだけど、やっぱり入居者にも偶には息抜きを……とか。劇を観るだけなら、ある程度の距離はあるから、許可が出たとか」
「だが、それならそうと言えば済む事じゃないか? 感染症が心配なので直接接触はお断りしますって」
「それはそれで言い難い様な気がするな……」特に、京の言い草だと。丸で保菌者みたいだと、演劇部の連中がまた気を悪くしそうだ。
とは言え、健康な人には一切害をなさない様な菌は幾らでも、何処にでも、僕達の周りに存在する。それでいて、それらも抵抗力が落ちた人間には、命取りとなる事もあるのだ。けれど、ああいった施設なら、出入り口に消毒薬は完備している筈だし、もうちょっと柔らかい言葉で説明する事も出来た筈だ。
「新聞部の取材拒否については? 何か説明はなかったんですか?」京は夜霧に尋ねた。
「不破さんも説明を求めたそうなんだけど、只スケジュールの都合としか言われなかったって、不満そうだったわ。スケジュールに空きがないなら、いつならいいかと尋ねても明確な答えはなかったそうよ」
介護施設のスケジュール――一体何があるんだろう? それは検診や入居者の為のイベントとか、色々あるんだろうけど、校内新聞の取材を受ける暇もない程、毎日びっしりという訳はないだろう。
下らない噂と思っていたのだけれど……何だか段々、怪しくなってくる。
とは言え、噂にある様な新薬云々は流石に眉唾だ。反応が鈍かったのは耳目弱ったお年寄り故なのか、それとも演劇部の演じた喜劇がその程度だったのか。
そうして三人で首を捻っていると、この美術準備室のドアががらりと開いて、キャラメルが駆け込んで来た。
「余りに納得行かないんで、施設の近所の方々に取材して来ました」と、彼女は言った。
何か解ったかと、僕達は勢い込んで彼女に詰め寄った。
「評判としてはですね、可もなく不可もない、標準的な介護施設、という事でした。病院とも連携していますし、デイサービスの利用者もおられましたが、対応はよかったそうです。只……」
『只?』
「最近、救急車が呼ばれる事が多いそうです。一晩に何台も来る事もあったそうで……」そう言って彼女は読み上げていた手帳から、不安そうな目を上げた。
「……もしかして、既に病気が流行っている……?」僕は先程の思い付きを百八十度回転させた。「外の人にうつさない為に、直接の接触を避けたんじゃないかな?」
先程も言った様に観劇ならある程度の距離は保てる。しかし介助の手伝いをするとなると、既に乾燥した感染者の嘔吐物等が付着しないとも限らない。よくこういった施設で院内感染として問題になるノロウイルスなどはそうやって感染が広まるらしい。
反応が鈍かったのも、もしかしたら――勿論発熱している入居者をベッドから起こしたりはしないだろうが――微熱でもあったのかも知れない。
新聞部の取材を断ったのはやはり近距離での接触を防ぎたかった為と、もしかしたら風評被害を恐れたのかも知れない。大規模な院内感染ともなると、施設そのものの質が問われる。対応はちゃんとしている様だけれど……。
「だとしたら……迂闊には書けないですねぇ」キャラメルは困った顔で溜め息をついた。「確証は無いですから。それこそ風評被害の原因になったら大変です」
しかし、この儘放って置いたら噂にどこ迄尾鰭が付くか……。
暫し四人で考えた挙げ句、結局キャラメルに記事を書いて貰う事になった。
「あくまで嘘は書けません。でも事実も書けないとなると……」そう唸りながら新聞部の部室に帰って行った彼女が、後日書いた記事はと言うと――。
『これから注意すべき感染症特集!――原因と対策を知って、二学期も元気に過ごそう!!』だった。
特に施設や学校など人が集まる場所での感染が懸念される症例について、かなり詳細かつ具体的に記載されたそれは、校内でも評価されると共に、介助施設などでの直接接触に関わるリスクを認知させるいい機会となった様だった。
それに加えて僕や京、夜霧がそれとなくながらもあの施設の噂ももしかしたら……などと仄めかした所為だろうか、件の噂もいつの間にか沈静化していった。
まぁ、人の噂も七十五日、だけどね。
―了―
長くなったー(--;)
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Re:お疲れ様ですm(__)m
有難うございますm(_ _)m
何とか、想像してみました(^^;)
うんうん、うがい手洗いが大事ですね。
何とか、想像してみました(^^;)
うんうん、うがい手洗いが大事ですね。
こんばんは
入所者が熱出してたら観劇はさせないよ~(可哀相だけどね)
施設はイベントとか大歓迎なんだけど、入所者の移動等対応する介護士が足りないから、その度毎に介護士が休み返上したり、ボランティアを入れて対応してます。
まだ解らない状態とはいえ、ボランティアを断る位なら、学生から学校全体に感染するのを防ぐ為に観劇は中止するかも?
その点で、この施設はだめだめ×ですね~。
施設はイベントとか大歓迎なんだけど、入所者の移動等対応する介護士が足りないから、その度毎に介護士が休み返上したり、ボランティアを入れて対応してます。
まだ解らない状態とはいえ、ボランティアを断る位なら、学生から学校全体に感染するのを防ぐ為に観劇は中止するかも?
その点で、この施設はだめだめ×ですね~。
Re:こんばんは
発熱してる患者は論外ですって(^^;)
症状出てなくても感染――潜伏期間中の人は居るかも知れないからねぇ。
症状出てなくても感染――潜伏期間中の人は居るかも知れないからねぇ。
おはよう!
>――一体何があるんだろう?
―と一が、また繋がってまっせ~。(笑)
もうちょっと違う話になるんじゃないかとイメージしていたんだけど、違った~。
施設の訪問って、難しいよね。
しかし、その新聞の内容だと、やっぱり施設に病気がって、勘繰りする人が出るんじゃないかなぁ?
―と一が、また繋がってまっせ~。(笑)
もうちょっと違う話になるんじゃないかとイメージしていたんだけど、違った~。
施設の訪問って、難しいよね。
しかし、その新聞の内容だと、やっぱり施設に病気がって、勘繰りする人が出るんじゃないかなぁ?
Re:おはよう!
――一、縦書きなら問題ないんだけどなぁ(^^;)
こういった施設に病原体は持ち込むのも持ち出すのも御法度ですな(--;)
こういった施設に病原体は持ち込むのも持ち出すのも御法度ですな(--;)
Re:演劇ってなに?
劇を演ずる事(--;)
こんにちは♪
人が多く集まる場所に保菌者がいたら、想像するとゾッとしますよね、次から次と広がっていったら収拾がつかなくなってしまいますよねぇ!
新型インフルエンザの集団感染があちこちで出始めましたね、予防に心掛けないとねぇ・・・
お互いに気をつけましょうネ♪
新型インフルエンザの集団感染があちこちで出始めましたね、予防に心掛けないとねぇ・・・
お互いに気をつけましょうネ♪
Re:こんにちは♪
はーい、クーピーさんも気を付けてね~(^0^)ノ
新型インフルエンザもまた流行りそうな感じで、不気味ですね。
新型インフルエンザもまた流行りそうな感じで、不気味ですね。
Re:無題
私らしいっすか!(爆)
一体どんな目で……(^^;)
一体どんな目で……(^^;)