〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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今日夜霧――夜原霧枝先生――が放送部の幽霊部員、知多勇輝と一緒に放送室に入って行ったのは、例の事を告白する心算だったのだろうか?
結局、おざなりな春休み前の注意に終わって、問題に触れる事無く終わったけれど。
言わなかったのは生徒達の事を慮ったのか、彼女お得意の気紛れか……。ともあれ、休み前に一騒動あるかも知れないという、京の心配は杞憂に終わった様だ。
尤も、実際はそんなに騒ぎにはならなかったんじゃないかと、僕は思う。
だって、どの程度の人数の生徒が信じただろうか?――夜霧が学園内で幽霊を見ただなんて。
事の起こりは数日前、夜霧が珍しく遅く迄残っていた日だった。日が長くなってきたとは言うものの、辺りは既に暗く冷え込み、夜霧は帰りを急いでいたと言う。
と、一階迄降りて、ふと廊下の窓からグラウンドを見た時、校舎からの明かりが辛うじて届く薄闇の中に、デッサンの狂った人影を見た!――と彼女は語った。
その表現に話を聞かされた僕達は一様に首を捻ったものだったけれど、なるほど彼女は美術教師。さらさらと絵に起こした物を見れば、確かにそれは人体としてはバランスがおかしい。詰まりはデッサンが狂っているという訳だ。
それは妙に背が高く、首は短く殆ど肩に埋没し、頭が辛うじて認識出来る程度だった。そして異様に手足が長かった。
確かにおかしな風貌だったけれど、それでどうして幽霊という事になるのか、僕はやはり首を傾げた。
「だって、消えたんだもの」と、夜霧は語った。「変質者だったら大変だと思って、よくよく見直そうとしたんだけど、もうその場には居なくて……窓の外をどれだけ見回しても、居なかったんだもの。私に見られた事に気付いて逃げたとしても、速過ぎるわ」
だから幽霊っていうのも、短絡的じゃないかと思うけど、言って聞いてくれる夜霧じゃあない。
「兎も角、あんなのが居るなんて、黙っていられないわ」と、息巻いていたのだけれど……。
結局無事に終わった放送を受けて、京は胸を撫で下ろしていた。
「休み明けに登校拒否が増えたらどうするんだ」と。
いやいや、あんな目撃証言位で登校拒否する奴、居ないって――内心でツッコミを入れつつ、僕はこっそりと栗栖に話し掛けた。
「あれ、本当は何だったんだと思う?」栗栖も例の話は聞かされていたのだ。
「夜霧の見間違いやと思うで?」くすくす笑いながら、栗栖は言った。「この季節のグラウンドは部活も休みに入ってもうて、いつも以上に暗いからなぁ。不気味や思うてたら木の影でもお化けに見えるもんやろう?」
「けど、直ぐ消えたって言うのは?」夜霧を弁護する訳じゃないけど、僕はそう問うた。
「夜霧は影を見て幽霊やと思い込んで、あのデッサン狂った影を捜したんやろ? はっきりと見直してみたらそうは見えんもんが目の前にあったとしても、それをその影の正体とは思わんかったんかも知れへんな。思い込み激しいから。廊下の窓からはグラウンド外周に植えられた木が見えるし」
「そんなもんかなぁ?」流石に僕は首を傾げた。確かに夜霧は思い込み激しいけど、一旦幽霊だと思い込んだからって、目の前にあるものが認識出来ないなんて……。
もしそんな事があるとしたら……?
はっとして顔を上げた僕に、栗栖はすっかりお見通しといった様子で指を一本、口の前に立てた。
黙っとき、と。
夜霧が本当に告白すべき事は幽霊の目撃談なんかじゃないのかも知れない。
美術教師として特に必要な、視力に何らかの異常を来たしていたとしたら……?
思わず不安が顔に出たのだろう。栗栖が苦笑して言った。
「大丈夫や。幽霊や単純な見間違いやない事に夜霧も気付いてる。せやなかったら今日の放送で騒いでる所やろう。それでいてその問題の事も言わへんかったんやから、検査なり治療なり、目処は付いてる筈や。後は休み中にこっそり治して……。あれでも気ぃ遣うてんのかも知れへんな。心配掛けまい思うて」
せやから、見間違いやったいう事にしとこ、と栗栖は言った。夜霧本人が言わないのだからと。
僕はそっと頷いた。
因みに後日談として、休み明けの夜霧がどれだけ重い症状だったか――誇張三割り増し位はされていたんじゃないかと僕等は思っている――自分が如何に生徒に気を遣っていたか、吹聴しまくっていたけれど……。
ま、無事なら世は事もなし。
―了―
皆様、目は大事にしましょうね~(←先ず自分に言え)
結局、おざなりな春休み前の注意に終わって、問題に触れる事無く終わったけれど。
言わなかったのは生徒達の事を慮ったのか、彼女お得意の気紛れか……。ともあれ、休み前に一騒動あるかも知れないという、京の心配は杞憂に終わった様だ。
尤も、実際はそんなに騒ぎにはならなかったんじゃないかと、僕は思う。
だって、どの程度の人数の生徒が信じただろうか?――夜霧が学園内で幽霊を見ただなんて。
事の起こりは数日前、夜霧が珍しく遅く迄残っていた日だった。日が長くなってきたとは言うものの、辺りは既に暗く冷え込み、夜霧は帰りを急いでいたと言う。
と、一階迄降りて、ふと廊下の窓からグラウンドを見た時、校舎からの明かりが辛うじて届く薄闇の中に、デッサンの狂った人影を見た!――と彼女は語った。
その表現に話を聞かされた僕達は一様に首を捻ったものだったけれど、なるほど彼女は美術教師。さらさらと絵に起こした物を見れば、確かにそれは人体としてはバランスがおかしい。詰まりはデッサンが狂っているという訳だ。
それは妙に背が高く、首は短く殆ど肩に埋没し、頭が辛うじて認識出来る程度だった。そして異様に手足が長かった。
確かにおかしな風貌だったけれど、それでどうして幽霊という事になるのか、僕はやはり首を傾げた。
「だって、消えたんだもの」と、夜霧は語った。「変質者だったら大変だと思って、よくよく見直そうとしたんだけど、もうその場には居なくて……窓の外をどれだけ見回しても、居なかったんだもの。私に見られた事に気付いて逃げたとしても、速過ぎるわ」
だから幽霊っていうのも、短絡的じゃないかと思うけど、言って聞いてくれる夜霧じゃあない。
「兎も角、あんなのが居るなんて、黙っていられないわ」と、息巻いていたのだけれど……。
結局無事に終わった放送を受けて、京は胸を撫で下ろしていた。
「休み明けに登校拒否が増えたらどうするんだ」と。
いやいや、あんな目撃証言位で登校拒否する奴、居ないって――内心でツッコミを入れつつ、僕はこっそりと栗栖に話し掛けた。
「あれ、本当は何だったんだと思う?」栗栖も例の話は聞かされていたのだ。
「夜霧の見間違いやと思うで?」くすくす笑いながら、栗栖は言った。「この季節のグラウンドは部活も休みに入ってもうて、いつも以上に暗いからなぁ。不気味や思うてたら木の影でもお化けに見えるもんやろう?」
「けど、直ぐ消えたって言うのは?」夜霧を弁護する訳じゃないけど、僕はそう問うた。
「夜霧は影を見て幽霊やと思い込んで、あのデッサン狂った影を捜したんやろ? はっきりと見直してみたらそうは見えんもんが目の前にあったとしても、それをその影の正体とは思わんかったんかも知れへんな。思い込み激しいから。廊下の窓からはグラウンド外周に植えられた木が見えるし」
「そんなもんかなぁ?」流石に僕は首を傾げた。確かに夜霧は思い込み激しいけど、一旦幽霊だと思い込んだからって、目の前にあるものが認識出来ないなんて……。
もしそんな事があるとしたら……?
はっとして顔を上げた僕に、栗栖はすっかりお見通しといった様子で指を一本、口の前に立てた。
黙っとき、と。
夜霧が本当に告白すべき事は幽霊の目撃談なんかじゃないのかも知れない。
美術教師として特に必要な、視力に何らかの異常を来たしていたとしたら……?
思わず不安が顔に出たのだろう。栗栖が苦笑して言った。
「大丈夫や。幽霊や単純な見間違いやない事に夜霧も気付いてる。せやなかったら今日の放送で騒いでる所やろう。それでいてその問題の事も言わへんかったんやから、検査なり治療なり、目処は付いてる筈や。後は休み中にこっそり治して……。あれでも気ぃ遣うてんのかも知れへんな。心配掛けまい思うて」
せやから、見間違いやったいう事にしとこ、と栗栖は言った。夜霧本人が言わないのだからと。
僕はそっと頷いた。
因みに後日談として、休み明けの夜霧がどれだけ重い症状だったか――誇張三割り増し位はされていたんじゃないかと僕等は思っている――自分が如何に生徒に気を遣っていたか、吹聴しまくっていたけれど……。
ま、無事なら世は事もなし。
―了―
皆様、目は大事にしましょうね~(←先ず自分に言え)
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Re:無題
酷使注意~☆
Re:こんばんは☆
眼も機械に置き換えるのは困難な程、精密な器官ですからね~。
色々あるかと(^^;)
色々あるかと(^^;)