〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
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昨日夜霧が、誤作動を起こした火災警報機をなかなか解除しなかったのは、何故だろう。
廊下に設置された赤いランプに目を止めて、僕はふと、首を傾げた。
騒ぎが起こったのは昨日の五時限目。突然のけたたましい音に、一瞬、教室内に緊張が走った。尤も、直ぐにどうせ誤作動だろうって緩んだ空気が広がり、確認を取りに教科担当の先生が教室を出ても、廊下の窓からその先を見ていたのも僕位だったみたいだけど。
だから先に警報機の所に駆け込んで来た夜霧――夜原霧絵先生――が警報機を止めもせずに不機嫌そうに佇んでいたのも、僕は見ていたんだ。
「どないしたんや?」帰り際、ぼーっと突っ立って赤いランプを見ている僕に、柔らかい関西弁がそう尋ねた。
「栗栖、それが……」僕は昨日の出来事を話して聞かせた。勿論、同級生の間宮栗栖は同じ教室に居て、同じ騒ぎに遭遇していた訳だけれど、生憎と彼の席は校庭を見下ろす窓際だ。僕とは視界が違う。
因みに昨日、僕の双子の兄、京に同じ事を話したら、彼は例によって眉間に皺を寄せて僕を暇人扱いしてくれた。
けれど栗栖は僕の話を聞くと、暫し考えた後にこう言った。
「近い内に避難訓練でもあるかも知れへんな」と。
廊下に設置された赤いランプに目を止めて、僕はふと、首を傾げた。
騒ぎが起こったのは昨日の五時限目。突然のけたたましい音に、一瞬、教室内に緊張が走った。尤も、直ぐにどうせ誤作動だろうって緩んだ空気が広がり、確認を取りに教科担当の先生が教室を出ても、廊下の窓からその先を見ていたのも僕位だったみたいだけど。
だから先に警報機の所に駆け込んで来た夜霧――夜原霧絵先生――が警報機を止めもせずに不機嫌そうに佇んでいたのも、僕は見ていたんだ。
「どないしたんや?」帰り際、ぼーっと突っ立って赤いランプを見ている僕に、柔らかい関西弁がそう尋ねた。
「栗栖、それが……」僕は昨日の出来事を話して聞かせた。勿論、同級生の間宮栗栖は同じ教室に居て、同じ騒ぎに遭遇していた訳だけれど、生憎と彼の席は校庭を見下ろす窓際だ。僕とは視界が違う。
因みに昨日、僕の双子の兄、京に同じ事を話したら、彼は例によって眉間に皺を寄せて僕を暇人扱いしてくれた。
けれど栗栖は僕の話を聞くと、暫し考えた後にこう言った。
「近い内に避難訓練でもあるかも知れへんな」と。
そして三日後、栗栖の予言通り、抜き打ちの避難訓練があった。
「どうして解ったんだい?」避難場所の校庭から教室へとぞろぞろ戻りながら、僕は栗栖に質した。
「夜霧、不機嫌そうやったんやろ? せやから」
せやからと言われても――僕は詳しい説明を求めた。
「あの日、警報が鳴った時、皆はどないしとった?」
「どうせ誤作動だろうって、皆緊張したのは一瞬だけだったね」
後は煩そうに耳を塞ぐ者、緊張が緩んだ反動か妙にハイになる者、一応は不安そうに周囲を窺う者も居たけれど……。
「何にしても、直ぐ様避難しようとしたもんはおらへんかったな。あれが本当の火事やったら……どないなってたと思う? ま、俺も窓から眺めて何の異変も見られへんかったから、動かへんかった一人やけど」
因みに僕達の教室は三階だ。勿論火災の発生場所や規模にもよるけれど、あんなにのんびりしていたら……。
「廊下に向こうた先生もそない急いでる様子もなかったし。それで夜霧は不機嫌やったんやろう」
「僕達が騒げばよかったの?」
「そういう訳やないけど……火事かどうかを確かめる事もせえへんかったやろ?」
確かに。どうせ誤作動だっていう空気がそれこそ野火の様に広がって、直ぐ様それが大勢を占めてしまった。
「危機に遭遇した時の心理として、先ず余りの事にそれが現実やないと拒否反応を示してしまう心理、そして周囲の人間に同調する心理が働くそうや。目の前に煙が迫ってるのに、逃げずに座りこんどった――そんな事件も海外であったやろ? その煙が現実やとは、自分の身にこんな事件が降り掛かるとは思われへんかった……生存者の証言や。そして周りも慌てずに座ってるから……ちゅうのも。今回もどうせ誤作動やって感じになったら誰も確かめにも行かへん。こんな状態で本当の火事が起こったら――夜霧はそれを懸念したんやろう」
「だから注意喚起に避難訓練を……」
「そういう事やな。まぁ、これも慣れてしもうたらやっぱり『またか』って、緊張感無くなるやろうけど」
「人間の心理ってややこしいね。危険なら危険でさっさと逃げればいいのに、その危険を認められないなんて……」
「緊急時こそ、冷静な状況判断が必要やな」
栗栖の言葉に僕は頷く。
今回の避難警報が訓練だと解った途端に冷静さを取り戻した我が兄には特に贈りたい言葉だった。
―了―
非常ベルって……結構ないがしろにされてません?(^^;)
ま、誤作動もありますけど。
因みに今回の心理について詳しく知りたい方は『多数同調性バイアス』もしくは『正常性バイアス』で検索!
「どうして解ったんだい?」避難場所の校庭から教室へとぞろぞろ戻りながら、僕は栗栖に質した。
「夜霧、不機嫌そうやったんやろ? せやから」
せやからと言われても――僕は詳しい説明を求めた。
「あの日、警報が鳴った時、皆はどないしとった?」
「どうせ誤作動だろうって、皆緊張したのは一瞬だけだったね」
後は煩そうに耳を塞ぐ者、緊張が緩んだ反動か妙にハイになる者、一応は不安そうに周囲を窺う者も居たけれど……。
「何にしても、直ぐ様避難しようとしたもんはおらへんかったな。あれが本当の火事やったら……どないなってたと思う? ま、俺も窓から眺めて何の異変も見られへんかったから、動かへんかった一人やけど」
因みに僕達の教室は三階だ。勿論火災の発生場所や規模にもよるけれど、あんなにのんびりしていたら……。
「廊下に向こうた先生もそない急いでる様子もなかったし。それで夜霧は不機嫌やったんやろう」
「僕達が騒げばよかったの?」
「そういう訳やないけど……火事かどうかを確かめる事もせえへんかったやろ?」
確かに。どうせ誤作動だっていう空気がそれこそ野火の様に広がって、直ぐ様それが大勢を占めてしまった。
「危機に遭遇した時の心理として、先ず余りの事にそれが現実やないと拒否反応を示してしまう心理、そして周囲の人間に同調する心理が働くそうや。目の前に煙が迫ってるのに、逃げずに座りこんどった――そんな事件も海外であったやろ? その煙が現実やとは、自分の身にこんな事件が降り掛かるとは思われへんかった……生存者の証言や。そして周りも慌てずに座ってるから……ちゅうのも。今回もどうせ誤作動やって感じになったら誰も確かめにも行かへん。こんな状態で本当の火事が起こったら――夜霧はそれを懸念したんやろう」
「だから注意喚起に避難訓練を……」
「そういう事やな。まぁ、これも慣れてしもうたらやっぱり『またか』って、緊張感無くなるやろうけど」
「人間の心理ってややこしいね。危険なら危険でさっさと逃げればいいのに、その危険を認められないなんて……」
「緊急時こそ、冷静な状況判断が必要やな」
栗栖の言葉に僕は頷く。
今回の避難警報が訓練だと解った途端に冷静さを取り戻した我が兄には特に贈りたい言葉だった。
―了―
非常ベルって……結構ないがしろにされてません?(^^;)
ま、誤作動もありますけど。
因みに今回の心理について詳しく知りたい方は『多数同調性バイアス』もしくは『正常性バイアス』で検索!
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Re:火災報知器
一瞬びくっとするけどね。直ぐどうせ誤作動だろう、あるいは悪戯だろうって、気を抜いちゃうんですよね(^^;)
殆どの場合はそれなんだけど、もし本当の火事だったら……って考えるとヤバイかも☆
殆どの場合はそれなんだけど、もし本当の火事だったら……って考えるとヤバイかも☆
こんにちは
あんまり原形を留めてないな。(笑)
この件に関しては、日本人は特に良くないらしいね。
誤動作とかが起きたときに、不快感を示して、実際に文句をいったりする人が居るらしい。
そのため、警報機を停止していて、被害が拡大したっていう実例もあるらしい。
しかし、誤動作、多いんだよなぁ。
そして、イタズラも多い。
私が住んでいるマンションの周り、年に1回は消防車が10台ぐらい集まるよ。
マンションが並んでいる所為もあるだろうけど、そのうちボヤも含めて、実際に火災があったのは1/10ぐらいかなぁ。
この件に関しては、日本人は特に良くないらしいね。
誤動作とかが起きたときに、不快感を示して、実際に文句をいったりする人が居るらしい。
そのため、警報機を停止していて、被害が拡大したっていう実例もあるらしい。
しかし、誤動作、多いんだよなぁ。
そして、イタズラも多い。
私が住んでいるマンションの周り、年に1回は消防車が10台ぐらい集まるよ。
マンションが並んでいる所為もあるだろうけど、そのうちボヤも含めて、実際に火災があったのは1/10ぐらいかなぁ。
Re:こんにちは
警報機、切ってたら意味ないけど、実際誤作動や悪戯も多いですからねぇ(--;)
だから余計に「ああ、どうせ……」って、原因を確かめる前に気を抜いちゃう。真逆火事なんて、っていうのもあるんでしょうけど。
油断大敵☆
だから余計に「ああ、どうせ……」って、原因を確かめる前に気を抜いちゃう。真逆火事なんて、っていうのもあるんでしょうけど。
油断大敵☆
Re:巽が話したの?
誰に? 何を? いつ?
Re:こんばんは
ボタンを見たら押したくなるのが人情ですからね(笑)
訓練に慣れ過ぎてもいけないけど、心構えだけは持って置かないと、いざって時に狼狽えちゃいますからねぇ。
訓練に慣れ過ぎてもいけないけど、心構えだけは持って置かないと、いざって時に狼狽えちゃいますからねぇ。
無題
どもども!
火災報知器の誤作動ってのは仕方ないけど、その時の反応に不満を持って避難訓練を実施しちゃうのはどうでしょう?
仮にも夜霧は美術教師であって、訓練の実施を決定できる立場じゃないと思うんですけどね~。
それとも、校長の弱みでも握ってるのかな?(爆)
火災報知器の誤作動ってのは仕方ないけど、その時の反応に不満を持って避難訓練を実施しちゃうのはどうでしょう?
仮にも夜霧は美術教師であって、訓練の実施を決定できる立場じゃないと思うんですけどね~。
それとも、校長の弱みでも握ってるのかな?(爆)
Re:無題
夜霧ですからねぇ(笑)
思い付いた自分の意見は意地でも通しますよぉ?(爆)
校長の弱味? あれかな?(笑)
思い付いた自分の意見は意地でも通しますよぉ?(爆)
校長の弱味? あれかな?(笑)
Re:こんばんは♪
あんまり心配性過ぎても困るけどね(^^;)
起こり得ない、という思い込みは捨てた方が……? という話。
起こり得ない、という思い込みは捨てた方が……? という話。