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だけど、部員達は勿論、夜霧が気付くよりは先に彼の変化に気付いていたし、例年とは段違いに穏やかな練習内容に安心してもいたかも知れない。
勿論、これ迄だって先生だけが熱心に部活をしていた訳ではない。部長を始めとして、部員一同、頑張ってきた筈だ。でも、やはり偶には日も高い内に帰る事や寄り道で息抜きしたかった様だ。
でも、野球部マネージャーの嬬恋鈴は、送球の際の指先は鈍りはしないかと心配し、少し厳しい指導をお願いする心算だったのだろうか? 以前、顧問に直訴したらしいけど。
だけど、今日夜霧が、丸で日本人形が自立して動いているみたいに愛らしい彼女が部のマネージャーを解雇されたらしいとぼやいていた。勿論、部活のマネージャーなんて、職業じゃないんだから、解雇って言うのはおかしいんだけど――それとなく部から距離を置くように言われたと、鈴は語ったらしい。
さぞかし、口惜しがっているだろう、と夜霧の話を聞いた時には誰もが思ったものだった。
だけど、学園近くの雑貨店亀池屋で会った時は――因みにその場に居たのは僕と京と栗栖で――そんな僕達の想像とは比例しなかった。
「え? 先生の事ですか?」京に経緯を問われ、彼女は目を瞬かせて答えた。「それは……まぁ、腹が立ちましたけど、ちゃんと私の言い分も聞いて貰った上で、先生のお話も伺いましたから。一応は……納得しましたし」
「しかし、夜霧の話では一方的に部を辞めるよう言われた、みたいな事を言ってたぞ?」京は眉を顰める。「部の為を思っての進言を退ける様な顧問なら、今後の部活動にも妨げになるだろう。何なら夜霧や他の先生方を通して、会議に……」
「い、いえ、大丈夫です!」些か慌てて、鈴は言った。「今朝、夜霧先生に会った時には未だちょっと頭が混乱してて……感情的になっちゃいましたけど、決して頭ごなしにという訳でもありませんでしたし、一応、私も籍は置いた儘ですから。ちょっと、休暇みたいなものですよ」
そう言って笑う頬が少し、引き攣っている。何かを隠しているのでは、と僕達は顔を見合わせた。
「ならいいが……」訝しげな面持ちながら、京は言った。「気兼ねはしなくていいと思うぞ? 顧問に対して」
「気兼ねなんてしてませんよ」鈴は笑う。「じゃ、この後用事があるので、失礼します」
ぺこり、と深く腰を折ってレジへと向かう彼女を、僕達は並んで見送った。
確かに、可愛い。
いや、そうじゃなくて。
何かを隠していそうだ。だが、何を?
その後も暫く様子を見ていたが、彼女は買い物を終えると女子寮へと帰って行き、当然僕達の視線はそこ迄は届かないのだった。
只、栗栖の言う事には――。
「確かに彼女、野球部から離れる気はないみたいやなぁ」
「どうしてそう言える?」京が眉間に皺を作りつつ、訊く。いや、僕も同じ事を訊きたいけど、何でそう喧嘩腰なんだ? 京?
「彼女の買い物、見てたか?」
「他人の買い物なんぞ、じろじろ見るか!」
そやろなぁ、と苦笑しつつも、栗栖は話を続ける。
「亀池屋、古本も少し扱うてるやろ。先輩方が売って行った物とか、置いて行った物とか。彼女が抱えとったんは、運動後のケアとか、そういったタイトルの本、数冊やった。そういった知識もマネージャーに必要やと思ったんやないか?」
なるほど、体育系の部のマネージャーなら知っていても損はない知識だろう。
筋肉や骨にある程度の負荷を掛ける運動は、発育や強化には欠かせないだろうが、程度を誤れば怪我の元。適度ではあっても後のケアを怠れば回復には余計に時間が掛かるだろう。運動部も昔みたいに根性だけでは、強くはなれないのだ。
「もしかして、野球部の顧問が厳しくしないのは、怪我を恐れての事なのかな?」僕は首を傾げた。「部活中に部員に怪我がないようにしてるとか……。だから、前みたいにもう少し厳しくしたい彼女は『これなら大丈夫』って言えるように、知識を付けようとして、一時退いたとか……?」
うーん、と京が唸っている。未だ何か、納得がいかない様だ。
「そうだとして、何故顧問を庇う?」京は言った。「確かにそれなら、彼女の方から退く理由も解らないではないが――やはりそんな消極的な顧問を替えて貰うよう働き掛けるのもありだと、俺は思うがなぁ」
「その顧問に、頼まれたんやとしたら?」と、栗栖。
「頼まれた? 何を?」眉間の皺が深くなる。
「部員達のケアの事とか、自分がノック練習出来んようになった事を周りに言わんようにとか」
『ノック練習が出来ない?』僕達は声を揃えて、そう訊き返したのだった。
「去年迄熱心やった先生が、急に消極的になる――普通、どんな場合が考えられる?」栗栖はそう、僕達に問い返した。
「やる気がなくなったとか……」自信なく、僕。
「過度の練習で部員に怪我人が出たので控え目にする、とか」と、京。「だが、そんな話は聞いていないな……」
野球部員は当然ながら、マネージャーを除き、男子だ。無論、京が纏め役を務める男子寮生でもある。そんな事態があれば知らない筈がない! と自負する京だった。
「もし、先生がやりたくても出来へんようになったとしたら?」
「だから、出来ないとはどういう事だ?」京が噛み付く。
「京、寮生の事は把握してても、先生の体調やら怪我迄は――特に関係ない限りは――知らへんやろう?」
それはまぁ、と京は頷く。俺が心配する筋合いでもないし、と。
「そんなものは本人が把握し、良好に保つよう、努めるもんだ。いい大人なんだから」
「ところがそれが出来へんかったら? 例えば肩を傷めたとか、腕を痛めたとか。普通にしてる分にはそない目立たへんけど、激しい運動には無理やとしたら?」
「それは……ノックの打球の打ち上げとか、か?」
「それぞれのポジションに打ち分けよう思うたら、腕、肩、肘、手首……色々と負荷が掛かるやろうな。それぞれを反射的にコントロールする為の神経にも。それを傷めたとしたら?」
「なら、尚更一時的にでも替わって貰うべきだろう」ふぅ、と溜息を漏らして、京は言った。「自分が出来ない事で、部員達の練習も遅れ、迷惑が掛かるんだからな」
「本人もこうして普通にしながら治すより、ちゃんと徹底して休みをとって治療した方がいいんじゃないかな」僕は言った。
「けど、休みたくない――そう言うたんやろうな。顧問は。元々熱心な先生や。自分でも早う治して、前みたいに指導したい、そう言うたんやろ。せやから、彼女は少しでも早く治して貰おうと、知識蓄える事にしたんやろう。まぁ、覚えといて損はないしな」
「復活したら厳しくなるだろうしね」僕は苦笑した。「その時の怪我の予防にも役立ちそうだ」
と、不意に京が踵を返した。寮はもう目の前だと言うのに。
忘れ物? と問う僕に、京はちょっと振り返ってこう言った。
「夜霧にだけは言って置かないと、拙いだろう。ま、怪我が治る迄待ってくれという顧問も我が儘だが……夜霧はもっと我が儘で気紛れだからな。夜霧の訴えで職員会議になど掛けられては、元も子もない」
どの途、どう転んだとしても嬬恋鈴の努力は、無駄にはならないだろうけれど、と苦笑を残して京は学園へと戻って行った。
―了―
新キャラ登場(笑)
嬬恋鈴って(爆)
もろに家の内情を示してくれたみたいっすねww
野球部のマネージャーがマッサージなんかの本を買うのはあるだろうけど、それが部員のためってより顧問のためなんですね(笑)
まぁ後々役に立つだろうから、吸収して損する事じゃないけどね♪
猫バカさんは真里ちゃんがマッサージしてくれるのかしら?^^
夜霧の投稿を消化するだけで、二段落を要したか。(笑)
ところで、月夜は何処行った?(笑)
長なったね~、ご苦労様。
ノックで怪我する様じゃ、どっちにしろ別の顧問探した方が良いかもよ。
強い打球を打つだけが能じゃないし。(笑)
夜霧サン、せめて短文にして下さい☆(や、切に)
シーズンにノックと来たら野球しか思い浮かばなかった。余り知らんのに(爆)
でも冒頭に限らなくてもいいのでは。
尤も、夜霧は猫仲間などに聞かれて
「ああ、あのブログね、わてが巽に書かせとるんよ、つまりわてがオーナーのブログ」などと口幅ったいんだろうな(笑)
私が書かなきゃ言葉覚えられない癖に~(どっちもどっち)
や、散らばらせて所々に入れようかなとも思ったんですが、それはそれで取り止めがなくなりそうで(^^;)
やっぱり長文は厳しいです(^^;)
だって、夜霧のお友達なんだから、この先も時々、出番があるでしょ。(笑)
巽さん自体が、野球の勉強をしなければいけなくなるかも。(笑)