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今日夜霧は他人を疑う事の是非を問おうとしたのかも――という僕の推測に、京はにべもなく、頭を振った。
あれは単に教頭の言い分が癪に障ったから噛み付いただけだろう、と。
事の起こりは朝。
各々登校し、授業開始迄の一時の休息を――時計を気にしつつも――楽しんでいた時だった。
不意に教頭先生が教室を訪れ、教壇に立つなり宣ったのだ。
学期末の試験問題を盗み見ようとした者が居るらしい。よもやこのクラスの者ではないとは思うが、もし、何か知っている事があれば早々に申し出て欲しい、と。
そしてざわつく教室を後に、さっさと隣の教室へ行ってしまった。どうやら、この並びの教室全てに、言って回っているらしい。
「何なんだ?」京の眉間にいつもより深い皺が寄る。
無理もない。よもやと言いつつも、教頭の声は何か知っているだろうとでも言いたげだったのだ。責任感の強い京としては自分のクラスにそんな不届き者が居るなど、言語道断。疑いを掛けられるのさえ、嘆かわしくも腹立たしいという所だろう。
大体、詳しい話もなしにそんな事を一方的に告げられても……。
そう困惑していると、夜霧――我がクラスの担任、夜原霧絵先生――がやって来た。
「先生、どういう事なんですか? あれは」という京の問いも耳を摺り抜けたらしく、夜霧はつかつかと、隣の教室から出て来た教頭に詰め寄った。
「教頭先生、未だ本当に誰かが試験問題を盗もうとしたかもはっきりしていないのに、やり過ぎではありませんか?」柳眉を逆立て、夜霧は言った。
「夜原先生、期末迄もう時間がないのですよ。幸い試験問題の用紙そのものはちゃんとしまい込まれた時の枚数分、ありました。けれど最近では超小型のカメラも簡単に手に入りますからねぇ。問題という情報そのものが盗まれていないかどうかは判然としません」
「けれど、鍵が開いていたのは教員の誰かが閉め忘れた可能性だってあるじゃないですか」
「夜原先生。幾ら何でも、その様な迂闊な教師が居るとは……」教頭は肩を竦め、冷笑した。
「私としては、幾ら何でも試験問題を盗み出して、その痕跡を隠そうとしないおバカさんが居るとは思い難いんですけど?」
どうやら試験問題を収めた金庫の鍵が開いていたらしい。そして教頭は生徒の誰かが問題を盗もうとしたのだろうと疑っている様だが……。
珍しく一理あるな、夜霧。
試験問題を盗み出せたとして、盗まれたと察した先生達に新たな問題を作られてしまっては意味がないではないか。やるなら金庫が開けられた事さえ窺わせな様にしなければ……って、いやいや、やっちゃ駄目だって、そんな事。
「兎に角、早々に犯人を突き止め、更なる情報の漏洩を防がなければならないんですよ」と、教頭。「問題を作成した先生方には万が一を考えて、問題の見直しも進めて貰っていますがね」
万が一って……要するに誰かが盗み出した問題を、更に買う奴が居るかも知れないって事か? 然も教頭の想定ではそれは結構な数に上りそうだ。
我知らず、僕の眉間にも皺が寄っていた。
「教頭先生、本当に生徒がその様な真似を働いたとお考えですか?」夜霧は未だ、教頭に噛み付いている。「自分達の生徒が信じられませんか?」
「信じていますよ」けろりと、教頭は言う。「大多数の生徒は不正など働かない、いい子達です。けれど、これだけの人数が居れば中には……不正を働いて迄もいい成績を修めたいと思う者も居るかも知れません。現に金庫の鍵は開いていた。我が校としては前代未聞の不祥事ですよ。早々に、我々の手で治めなければ」
「だからそれって、信じてないじゃないですか!」
教室に居た者の殆どが、夜霧の突っ込みに頷いている。
「では何故、鍵が開いていたと言うんです?」いい加減煩そうに、教頭は眉を顰めた。「鍵は校長室にあり、番号は教師にしか教えられてはいませんが、備忘としてやはり校長室にメモが保管されています。金庫の開放を知った直後に確認した際には、どちらも元の場所にありましたが……。誰かがそれを盗み出し、金庫を開けた。その目的として考えられるのはやはり試験問題。そうではありませんか?」
「そんな者がもし居たとして、では何故閉めずに立ち去ったのですか? 痕跡も残さずに校長室に忍び込み、鍵とメモを手に入れたり、元の場所に戻せるのなら、金庫にも痕跡を残さずに情報を盗み出して逃げる事も出来たのでは?」
「では、夜原先生は教員の誰かが、うっかり閉め忘れたと? それなら何故名乗り出ないのです?」
「大事になって名乗り出難くなったんじゃないですか?」
「子供じゃあるまいし」教頭はまた冷笑する。「まぁ、確かにそんな粗忽な教員が居たとしたら、校長と私できついお説教を食らわせる事になりそうですが」
真逆貴女じゃないでしょうね? という教頭の冷やかし紛れの問いに、夜霧は白い頬を紅潮させて怒鳴った。
「教頭先生? 生徒も教員も信じない貴方にはきっと事件は解決出来ませんよ!」
じゃあ誰が解決するんだ、と思っていたら、何とこちらにお鉢が回って来た。より正確に言うと、京と僕、そして栗栖と勇輝という、いつもの顔触れだ。
「状況は解ったわね? 朝、職員が登校して見たら職員室にある金庫が開いていた。中身は試験問題。鍵と番号は校長室」夜霧は念を押した。「それで、私としては生徒犯人説は否定してるから」
いや、夜霧が否定しても必ずしもそれが事実とは――僕は突っ込みたいのを懸命に堪えた。
しかし、確かに今回は夜霧に分があるだろう。そう思わせて……なんて偽装工作ででもなければ。でも、本当に順調に事を終えてしまいさえすれば、そんな偽装をする理由もない。却って問題を変更されるリスクが増すだけだ。
かと言って、先生の誰かが閉め忘れて、然もそれを言い出せないでいるとも……。僕は首を捻った。
「最後に金庫を開閉したのはいつですか?」兎も角捜査を進めようと、京が尋ねた。「その後直ぐ、鍵は校長室に?」
「昨日の放課後、教頭が帰る時に確認して、鍵も直ぐに返したそうよ。勿論、持ち出し禁止」
「校長室はその……先生方なら簡単に出入り可能ですか?」
「職員室からも入れるしね」夜霧は頷いた。「校長は昨日は早めに帰ったから、戸締りも教頭がしたみたい」
真逆、教頭先生が怪しいなんて事は……? 彼自身が閉め忘れて、それを他人の所為にしようと……。
いやいや――僕は浮かんだ考えを振り払った――それにしたってこんな騒ぎにする事はないだろう。もっと誤魔化し様がある筈だ。
ふと、栗栖が口開いた。
「先生は全科目、問題見はったんですか?」相変わらずの関西弁だ。
真逆、と夜霧は頭を振った。自分の作成した問題なら確認するが、他人の迄は見ない、と。顔が強張っている所を見ると、見たくもない教科もあるらしい。
「試験はもう直ぐ。先生方もこの年の瀬に大忙しやろうなぁ」と、栗栖。「試験問題、印刷する前に何度も見返すんやろうけど、それでも見落とした問題があったら……? 問題のミスとか。印刷する前やったら直ぐに差し替え出来るやろうけど、気付いたのが印刷後で、また差し替えてから大量に印刷となったら、大変やろうなぁ。時間もないし。教頭辺りからも何やってんねん、言われるやろうな」
教頭は何やってんねんとは言わないだろうが、くどくどとお説教は食らいそうだ。
「じゃあ、やっぱり先生の誰かが?」勇輝が目を丸くする。夜霧の言い分が当たっていたのが意外だったのだろう。「けど、それなら閉め忘れるなんて……」
「閉め忘れたんとちゃう。開けといただけや」
「どういう事だ?」京が噛み付く。
「開けといただけで用は足りるんや。それだけで疑い深い教頭は試験問題の盗難を想像する。態々試験の問題用紙そのものを盗み出して、大量の紙束の処分に悩まんでもええんや。教頭は何て言うてた? 万が一を考えて先生方には問題の見直しを進めて貰っている……そう言うてたやろ? 詰まり、事によったら作成し直し――ミスった先生にしてみれば、公然と問題差し替え出来る機会や」
ま、誰がミスったかは元の問題を見れば解るわな、と栗栖は笑う。
「変わるかも知れないとは言え、それは俺達が触れるものじゃないから……」京が唸る。「先生、試験問題の確認はお願いします」
う、と夜霧が唸ったのは空耳だったろうか。流石にこれは手伝えとも言えず……夜霧は各種試験問題と格闘する羽目と相成った。成績は――訊かないで置こう。
結局、化学の問題に致命的なミスが発覚し、夜霧に問い詰められた問題の教師は泣く泣く、事の次第を認めたそうだ。
この騒ぎで問題も殆ど作り直され――後日、僕達を悩ませるのだった。
―了―
もう終わってるけどね~。期末テスト(^^;)
真面目な話。
今回の期末で職員室に入り込んだ生徒が
先生の机の中にあった期末テスト問題を
写メ。
みんなに回すと言う事件が起きたのですよ。
事前に発覚してキツ〜い処分が下されたのですが…
困った輩が多いですw
たまんないよなぁ…
最近は本当、携帯電話という名の小型カメラ、殆どの子が持ってるものねぇ。
管理も気を付けなきゃいけないけど、本当に写メるか~☆
油断大敵ですね(・_・;)
教頭から嫌味は言われただろうけどね( ̄▽ ̄)
大学の入試問題とか、共通テストとかでもミスあるし、つきみぃさんには悪いけど、教師って社会を経験しないままなる人が多くって、格好もジャージのままとか、意外とルーズが罷り通ってそうだけどw。
ともあれ栗栖君は何者?(爆)
そう言えば毎年、センター試験とかでもありますよね、出題ミスとか、ヒアリング用の機材の不調とか。何度もチェックするんでしょうにねぇ(・_・;)