〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「ここだけの話、販売店の経営者が怪しいと思うっすよ」声を潜めて言ったのは牧武だった。「高額の当たりくじが来たもんだから、欲を出して……」
いつもの行き付けのバー。すっかり馴染んだカウンターには並んだグラス。
「客をやっちまったってのかい?」些か呆れ顔で応じたのはいつもの様に瀧だ。「確か店は商店街の中にあったろう? 人通りもあるのにどうやって昼日中、人を消せるって言うんだい」
「そこはそれ。高額当選者用の手続きをしますから中に入って下さい、とか言って誘い込んで……」がつん、と殴る振り。
「窓口の姉ちゃんだかおばちゃんだって居たろう? その従業員が手続きをしようとしている間に居なくなったって言うんだから」
「じゃ、口止めするとか。共犯に仕立てるとか」
「そう巧く行くかよ。大体それなら何で警察に届けを出したりするんだい」
「そりゃ、届けを出しておけば当たりくじは遺失物で、半年経てば自分の物になるんすから」当然の事の様に武は言ったが、瀧は苦笑する。
それならそもそも自分が買い求めた物だと言えば済む事じゃないか、と。寧ろ、話が広まって、行方を晦ませた本人の家族や知人がもしかして、と名乗り出て来たら薮蛇もいい所だ。
「それは……そうっすねぇ」武は肩を落とした。「でも、それじゃ、どうしてこの当選者は居なくなっちまったんすか?」
いつもの行き付けのバー。すっかり馴染んだカウンターには並んだグラス。
「客をやっちまったってのかい?」些か呆れ顔で応じたのはいつもの様に瀧だ。「確か店は商店街の中にあったろう? 人通りもあるのにどうやって昼日中、人を消せるって言うんだい」
「そこはそれ。高額当選者用の手続きをしますから中に入って下さい、とか言って誘い込んで……」がつん、と殴る振り。
「窓口の姉ちゃんだかおばちゃんだって居たろう? その従業員が手続きをしようとしている間に居なくなったって言うんだから」
「じゃ、口止めするとか。共犯に仕立てるとか」
「そう巧く行くかよ。大体それなら何で警察に届けを出したりするんだい」
「そりゃ、届けを出しておけば当たりくじは遺失物で、半年経てば自分の物になるんすから」当然の事の様に武は言ったが、瀧は苦笑する。
それならそもそも自分が買い求めた物だと言えば済む事じゃないか、と。寧ろ、話が広まって、行方を晦ませた本人の家族や知人がもしかして、と名乗り出て来たら薮蛇もいい所だ。
「それは……そうっすねぇ」武は肩を落とした。「でも、それじゃ、どうしてこの当選者は居なくなっちまったんすか?」
年末を控えた某日、商店街の小さな宝くじ販売店を訪れた男の持ち込んだくじの当たり番号の照会。その内の一枚がなんと一千万円の当たりくじ。ところが男はくじを残した儘、姿を消した……。
「大体従業員だって何で目を離したんだか……」武は未だ拘っている様だった。
「流石に三百円やそこらとは訳が違うんだ。銀行に出す証明書や何かあったんだろう」生憎俺は拝んだ事も無いがな、と瀧は苦笑する。「従業員だってそんな高額くじ、そうそうお目に掛かれるもんじゃないだろうからな。舞い上がってたんだろうし、そもそも、そんなのが当たった奴が居なくなるなんて考えもしねぇだろ」
「それはそうっすね。俺なら一千万円当たりました、なんて言われたら、もうその場から動けないっすよ! 動こうと思ったら絶対右手と右足が一緒に出るっす!」
運動会の入場行進中の小学生の様だな、とちょっと想像して瀧は頭を振った。タケ坊ならあり得る、と。
しかし男は少なくとも武より冷静だったのか、痕跡さえ残さず、その場を立ち去っている。そして新聞に記事が出ても、今尚名乗り出ては来ていない様だ。
「名乗れない訳でもあるんでしょうかね?」おかわりを運びながら楡棗が話に加わった。「一千万という金を棒に振っても言えない様な」
「想像もつかねぇな。そもそも名乗り出られない位なら、店に行った時にさっさと受け取っておけばよかったんじゃねぇかい?」
「そんな店頭では払い戻せませんよ。だから証明出して貰って、銀行へ行くんじゃなかったですか?」僕も縁が無いからよく知りませんけど、と苦笑。「でも、証明出して貰うにも、多分本人を証明する必要があると思うんですよね。それだけの高額となると」
「ああ、そりゃあなぁ」瀧は頷く。「その為の手続きを進めてたんだろうな。店でも」
「ところが男は居なくなったっす」首を捻りつつ、武。「何が拙かったんすかねぇ?」
「身分を証明出来ない何かがあった、とか」と、棗。
「例え本名を名乗れなかったとして、偽名でも使うとか思い付かなかったんすかね?」
「それは無理じゃないでしょうか? 銀行ではその収入が非課税となる、宝くじによるものだという証明書を出すそうですから……そこ迄は偽名で通らないでしょう」棗は頭を振った。
「なるほど……じゃ、男は精々小額しか当たってないだろうと思って持ち込んだ。ところが意外にも大当たりで、名前が要ると言う。しかし名乗れず一千万を前に泣く泣く撤退した……と?」纏めて、瀧が麦酒で喉を湿す。
「だからそこ迄して名乗れない訳って何すか?」武が焦れた様に言う。
「それは……もしかしたらその当たりくじは知人に貰ったけど、高額当選が知れたら拙いと思った、とか」瀧が言う。「それか……実は盗んだ物で、出所とか洗われたら困る物だった、とか」
確かにそれなら名前を出せないのも解る。
別に公表される訳ではないから隠しておけばとも思うが、人の口に戸は立てられない。どこから噂が漏れるか解らない。数万円なら着服出来ても、一千万ともなると怖気付いたのかも知れない。
「とすると、あれですね」武が妙に声を潜めて言った。「店の経営者か、持ち込んだ男か、どちらかが犯罪者……」
「経営者、未だ捨ててなかったんですか」棗が呆れる。
しかし更に呆れた様に口を挟んだのは、やはりカウンターに並んで成り行きを面白そうに見ていた椚だった。
「犯罪者なら指紋が付かないように手袋するなりしてただろうよ」彼は言った。「経営者に関しては瀧さんが言った通り。全く怪しい所も無かったし」
「じゃ、どうして……」武が些か拗ねた様に口を尖らせつつ、問う。「椚さんは解るんすか?」
椚はゆっくりとグラスを回し……からん、と氷が音を立てた頃、カウンター奥に向き直った。
「楡、何かアイデア出せ」
楡庵は肩を竦めた。
「ご本人が出て来られない以上、想像に過ぎませんが……」彼はそう前置きして言った。「彼は字が書けなかったのかも知れませんよ? 少なくとも日本語は」
「それは……外人だった……という事か?」と椚。
「外国人か外国育ちかは判りませんが、日本語が得意ではなかったかも知れません。くじを店頭で照会する人も多いでしょうが、もしかしたら日本語の新聞を取っていなかった為かも知れませんし、従業員の言葉もよく解っていなかったのかも知れません。それこそ知人に貰ったかして、店に持ち込んだものの、店員が奥に持って入ってしまったので外れだったのだろうと、勝手に判断して行ってしまったか……。まぁ、全て想像の域を出ませんけれどね」
庵は微苦笑した。
「何でも事件に繋がるとは、限りませんよ?」
「何でもかんでも事件にしたがるのは……」瀧が苦笑して言った。「ここの常連の悪い癖だな」
貴方がその筆頭です――そんな視線が彼に集中した。
―了―
これ、書いてる間にテレビのニュースが……!(笑)
半ば迄書いたのに、やり難いやり難い(^^;)
えー、このお話はフィクションです。実際の事件・個人とは一切の関係はございません。
「大体従業員だって何で目を離したんだか……」武は未だ拘っている様だった。
「流石に三百円やそこらとは訳が違うんだ。銀行に出す証明書や何かあったんだろう」生憎俺は拝んだ事も無いがな、と瀧は苦笑する。「従業員だってそんな高額くじ、そうそうお目に掛かれるもんじゃないだろうからな。舞い上がってたんだろうし、そもそも、そんなのが当たった奴が居なくなるなんて考えもしねぇだろ」
「それはそうっすね。俺なら一千万円当たりました、なんて言われたら、もうその場から動けないっすよ! 動こうと思ったら絶対右手と右足が一緒に出るっす!」
運動会の入場行進中の小学生の様だな、とちょっと想像して瀧は頭を振った。タケ坊ならあり得る、と。
しかし男は少なくとも武より冷静だったのか、痕跡さえ残さず、その場を立ち去っている。そして新聞に記事が出ても、今尚名乗り出ては来ていない様だ。
「名乗れない訳でもあるんでしょうかね?」おかわりを運びながら楡棗が話に加わった。「一千万という金を棒に振っても言えない様な」
「想像もつかねぇな。そもそも名乗り出られない位なら、店に行った時にさっさと受け取っておけばよかったんじゃねぇかい?」
「そんな店頭では払い戻せませんよ。だから証明出して貰って、銀行へ行くんじゃなかったですか?」僕も縁が無いからよく知りませんけど、と苦笑。「でも、証明出して貰うにも、多分本人を証明する必要があると思うんですよね。それだけの高額となると」
「ああ、そりゃあなぁ」瀧は頷く。「その為の手続きを進めてたんだろうな。店でも」
「ところが男は居なくなったっす」首を捻りつつ、武。「何が拙かったんすかねぇ?」
「身分を証明出来ない何かがあった、とか」と、棗。
「例え本名を名乗れなかったとして、偽名でも使うとか思い付かなかったんすかね?」
「それは無理じゃないでしょうか? 銀行ではその収入が非課税となる、宝くじによるものだという証明書を出すそうですから……そこ迄は偽名で通らないでしょう」棗は頭を振った。
「なるほど……じゃ、男は精々小額しか当たってないだろうと思って持ち込んだ。ところが意外にも大当たりで、名前が要ると言う。しかし名乗れず一千万を前に泣く泣く撤退した……と?」纏めて、瀧が麦酒で喉を湿す。
「だからそこ迄して名乗れない訳って何すか?」武が焦れた様に言う。
「それは……もしかしたらその当たりくじは知人に貰ったけど、高額当選が知れたら拙いと思った、とか」瀧が言う。「それか……実は盗んだ物で、出所とか洗われたら困る物だった、とか」
確かにそれなら名前を出せないのも解る。
別に公表される訳ではないから隠しておけばとも思うが、人の口に戸は立てられない。どこから噂が漏れるか解らない。数万円なら着服出来ても、一千万ともなると怖気付いたのかも知れない。
「とすると、あれですね」武が妙に声を潜めて言った。「店の経営者か、持ち込んだ男か、どちらかが犯罪者……」
「経営者、未だ捨ててなかったんですか」棗が呆れる。
しかし更に呆れた様に口を挟んだのは、やはりカウンターに並んで成り行きを面白そうに見ていた椚だった。
「犯罪者なら指紋が付かないように手袋するなりしてただろうよ」彼は言った。「経営者に関しては瀧さんが言った通り。全く怪しい所も無かったし」
「じゃ、どうして……」武が些か拗ねた様に口を尖らせつつ、問う。「椚さんは解るんすか?」
椚はゆっくりとグラスを回し……からん、と氷が音を立てた頃、カウンター奥に向き直った。
「楡、何かアイデア出せ」
楡庵は肩を竦めた。
「ご本人が出て来られない以上、想像に過ぎませんが……」彼はそう前置きして言った。「彼は字が書けなかったのかも知れませんよ? 少なくとも日本語は」
「それは……外人だった……という事か?」と椚。
「外国人か外国育ちかは判りませんが、日本語が得意ではなかったかも知れません。くじを店頭で照会する人も多いでしょうが、もしかしたら日本語の新聞を取っていなかった為かも知れませんし、従業員の言葉もよく解っていなかったのかも知れません。それこそ知人に貰ったかして、店に持ち込んだものの、店員が奥に持って入ってしまったので外れだったのだろうと、勝手に判断して行ってしまったか……。まぁ、全て想像の域を出ませんけれどね」
庵は微苦笑した。
「何でも事件に繋がるとは、限りませんよ?」
「何でもかんでも事件にしたがるのは……」瀧が苦笑して言った。「ここの常連の悪い癖だな」
貴方がその筆頭です――そんな視線が彼に集中した。
―了―
これ、書いてる間にテレビのニュースが……!(笑)
半ば迄書いたのに、やり難いやり難い(^^;)
えー、このお話はフィクションです。実際の事件・個人とは一切の関係はございません。
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Re:?
いつぞやあすかさんに話を振られてしまったので(^^;)
実際には「先に幾らかの当たり分を換金されたので、それだけだと思って帰った」という勘違いだったそうで、今日名乗り出られたとか、さっきのニュースで言ってました。書きながら考えてる最中だったので、その後やり難い事この上無いっす!(笑)
そしてそれよりも前に「私かも知れない!」って名乗り出た人が十数人居たらしいっすよ(笑)
実際には「先に幾らかの当たり分を換金されたので、それだけだと思って帰った」という勘違いだったそうで、今日名乗り出られたとか、さっきのニュースで言ってました。書きながら考えてる最中だったので、その後やり難い事この上無いっす!(笑)
そしてそれよりも前に「私かも知れない!」って名乗り出た人が十数人居たらしいっすよ(笑)
わぁお☆
ありがとうございました~(^^)
詳しい事情は、私も今日の「見つかった」というニュース記事で知りました。
意外に早く見つかりましたね。しかも全然謎めいてない…からちょっとつまんな~い、と思ってしまった不謹慎人間(苦笑)
「事実は小説より奇なり」と言いますが、逆もまたしかり、といったところでしょうか。
詳しい事情は、私も今日の「見つかった」というニュース記事で知りました。
意外に早く見つかりましたね。しかも全然謎めいてない…からちょっとつまんな~い、と思ってしまった不謹慎人間(苦笑)
「事実は小説より奇なり」と言いますが、逆もまたしかり、といったところでしょうか。
Re:わぁお☆
不謹慎人間その2でございます(笑)
早いよ~。どうせならもうちょっと面白い理由とか……と勝手な事を言ってみる♪
早いよ~。どうせならもうちょっと面白い理由とか……と勝手な事を言ってみる♪
Re:無題
私もあすかさんに言われて新聞見て「えー?」と(^^;)
大金当たってるって言われて居なくなるなんてあり得ないでしょう! って(笑)
序盤のタケ坊&瀧さんの会話はまんま私の頭の中(笑)
大金当たってるって言われて居なくなるなんてあり得ないでしょう! って(笑)
序盤のタケ坊&瀧さんの会話はまんま私の頭の中(笑)
そんな事件が?
私もニュース自体知りませんでした\(◎o◎)/!
新聞も取ってないし(^^ゞ
いいなぁ・・・1000万円、当たったら定期にしよう♪(地味)買ったことないけど☆
さっき夜霧ちゃんに「女の子くれるの?」って聞かれました。事件のにおいが・・・
新聞も取ってないし(^^ゞ
いいなぁ・・・1000万円、当たったら定期にしよう♪(地味)買ったことないけど☆
さっき夜霧ちゃんに「女の子くれるの?」って聞かれました。事件のにおいが・・・
Re:そんな事件が?
夜霧……人身売買はやばいから! マジで犯罪だから!
あああ、誰か更正させてやって下さい
一千万円当たったら……やっぱり貯金かな?(笑)
あああ、誰か更正させてやって下さい

一千万円当たったら……やっぱり貯金かな?(笑)
Re:が、
6万円当たり! で舞い上がっちゃったんでしょうかね?
その上、一千万当たりと知ったら、ほっぺ抓りっ放しだったかも(笑)
確かにちょっと微笑ましい。
その上、一千万当たりと知ったら、ほっぺ抓りっ放しだったかも(笑)
確かにちょっと微笑ましい。
無題
んー。ニュースしらないかもしらない。
んーーーーーーーーーー。
そういや、宝くじの当たり金を貰わない額って毎年うん億円あるんだよね?(あいまい)
みんな、どうして……。
んー。しんも300円の当たりクジもらわないこと多いけど……。
ふぁぶぃ。
んーーーーーーーーーー。
そういや、宝くじの当たり金を貰わない額って毎年うん億円あるんだよね?(あいまい)
みんな、どうして……。
んー。しんも300円の当たりクジもらわないこと多いけど……。
ふぁぶぃ。
Re:無題
私も最初知らなかった~☆あすかさんのコメでそんな事件(?)があったんや~と新聞とかで見て。でも書いてる最中に解決しちゃった(笑)
宝くじ……結構高額当選者でも申し出て来ない人も多いとか……もったいねー!
宝くじ……結構高額当選者でも申し出て来ない人も多いとか……もったいねー!