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「眼が色違いの白猫って珍しいんすか?」いつもの様に麦酒のグラスを傾けながら、牧武は隣に掛けた瀧に尋ねた。
「眼が色違い?」訊き返されただけだった。「何だい、そりゃ?」
「片目ずつ色が違う猫っすよ。何て言ったっけな。ヘテ……何とかって聞いたんすけど」
瀧はカウンター奥を見遣った。店主の楡庵がいつもの様に穏やかに口を開いた。
「ヘテロクロミア……もしくはオッドアイの事でしょう。金銀妖瞳、とも書き表しますね。遺伝的な原因で起こる現象です」
「……そのオッドアイがどうかしたのかい。タケ坊」一番簡単な呼び方を採択したらしい。目顔で庵に礼を示してから武に向き直って訊く。「あんまり見掛けた事は無いから、珍しいんじゃねぇか?」
「それを同僚の女の子が飼ってるんすけどね、ある写真家からモデルに貸してくれって頼まれたらしいんすよ」
「へぇ……。まぁ、珍しい猫ならそういう事もあるだろうさ」
「それが……何っか、その写真家、怪しい気がするんすよね」言って、武は眉を顰めた。
確かにその真っ白な猫は、青と金色の眼と相俟って美しいらしい。やや長毛で、彼女が携帯の待ち受けにしている画像を見た武にも、その愛らしさは一目瞭然だった。
「すっごい神経質らしいっすけどね。臆病だそうだし。飼い主の彼女が近付いただけでも、飛び上がる時があるそうっす」
「へぇ? それで、写真家が怪しいってのは?」
「何と言うか……自称、海外の雑誌なんかにも載ってる動物写真家だって話なんすけど、例の猫を預けて欲しいって言ってきたらしいんすよ」
「預ける? 撮影の為じゃないのかい?」
「その撮影の為に何日かその猫と親しむ時間が欲しいから、飼い主抜きで預けてくれって……。何か、怪しくないっすか?」心底疑わしそうに、武は言った。「そりゃあ、猫の自然な表情を撮ろうと思ったら馴らすのは当然かも知れないっすけど……飼い主抜きじゃ、猫だって落ち着かないっしょ」
問題の猫は雑種で、決して高価な猫ではない。だが、珍しい猫となればそこに価値を見出す人間も居るのではないか?――それが武の疑念だった。
「詰まり、その写真家が騙りで、撮影を名目に借り出して、盗む心算じゃないかって?」瀧は武の言いたい事を整理してみる。
「そういう事っす」武は頷いた。
「その人の写真が載ってる雑誌を見せて貰ったらどうですか?」店主の弟、棗が言った。「こちらでは無名なんでしょう? 身分証明にそれ位要求してもいいんじゃないですか?」
「見せては貰ったんすけど……海外も海外、ロシア語の雑誌っすよ。違う名前で載ってたって読めないっすよ」武は肩を落とした。「せめて英語なら……。その辺も何か態とらしく思えて……」
「なるほどなぁ」瀧が深々と頷く。「雑誌社に直接電話……喋りじゃ尚更解らないか」
「直ぐにでも返事が欲しいって言うんで、今から勉強して電話したり手紙出したりしてる暇は無いっす」
「向こうに実在する写真家の名前を騙っていないとも限りませんしね」と、棗。
「そうっすよ! 何か、見分ける方法無いっすかね?」
預けた後を見張っておく訳にも行かないし――と、武は歯噛みする。
「随分真剣じゃないか。同僚の女の子だって?」瀧が茶化す。
「べ、別に女の子だからじゃないっすよ? 相談を受けた以上はと……」誤魔化す様にグラスに手を伸ばす武。「それに本っ当、綺麗な猫なんすよ? 俺が欲しい位っす」
「……ま、そういう事にしといて……。そんなに心配なら断れって言やぁ、いいじゃないか。その彼女もやっぱり気になるから相談してきたんだろう?」
「そうなんすけど……もし本物だったらって処で迷ってるみたいで。やっぱり飼い主としては我が子をプロに可愛く撮って貰うって、チャンスじゃないっすか。もしかしたら雑誌に載るかも知れないし」
だから本物か偽者か――偽者だとしても本当に只写真が撮りたいだけなのか、知りたいのだと言う。
「その方は直接その猫に会って、話を持ち掛けてきたんですか?」庵が訊いた。
「何でもトリミングに連れて行って、ショップを出た所で声を掛けられたとか言う話っす。飛び切り綺麗な猫を探していた所だって」
「そう言われれば飼い主としては、悪い気はしないわなぁ」と、瀧。
「それでまぁ、流石にいきなりお互いの自宅にって訳にも行かないんで、そのショップの二階で部屋を借りて、話を聞いたらしいっす」瀧の言葉に頷いて、武は話を続ける。
「その間、その猫はどんな感じで居たのか、お解りになりますか?」
「元々神経質な猫っすからねぇ。そいつが頭を撫でようとする度にびくついて引き捲くってたそうっすよ。その癖そいつが出した雑誌が何冊か落ちて音がしても平気な顔してたそうっすけど。そんなだから尚の事、馴染ませる時間が欲しいって……」
「雑誌は見せて貰ったとおっしゃいましたね? どんな感じでした?」
「それは……それがそいつの写真だと信じるなら、素人目にもいい写真だったっす。犬や猫の写真が多かったんすけど、どれも生き生きしていて……」
「その中にオッドアイの猫の写真はありませんでしたか?」
「ああ、一枚だけあったっす。お、っと思ったんで、よく覚えてるっす」
庵はそれについてもどんな感じでしたか、と同じ問いをする。
「んー、やっぱりいい写真だったと思うっす。猫がとってもリラックスしてて……」
「……それが本当にその方が撮られた写真かどうかは……やはり疑問ですね」暫しの沈黙の後、庵はそう言った。
時間も遅くなり、やはりこの店での一杯を日課にしている椚も加わった。巡査だけにこの話題にも、興味を持って話の整理がてら武にもう一度語らせる。
そして首を傾げた。
庵が疑問だと言った事に。
「何でそう言えるんだ?」
「ヘテロ……オッドアイの猫が神経質になり易い理由をご存知ですか?」
「知らん」考えもせず、椚は返答した。
「……全てがそうではありませんが、聴覚に障害を持っている可能性があるんですよ」訊くんじゃなかった、という顔で庵は言った。「これも遺伝子の組み合わせの問題らしいですが、白猫のオッドアイでは特に青い眼の側――片耳だけが聞こえない事もあるそうです。猫にとっては聴覚も重要な情報収集手段です。それが使えなければ、方向によっては相手が近付く迄判らず、驚く事もあるでしょうね。頭を撫でようとしただけでも、いきなり触られては人間でも吃驚してしまいます」
「だから彼女が近付いても飛び上がったり、頭撫でられただけでも引いたり……雑誌が落ちても音には反応しなかったんすね?」武が得心入った様に膝を打つ。
「それで、その事と写真家が偽なのとどう繋がるんだ?」と、椚。
「プロの動物写真家が、その特徴を知らない筈がありませんよ」
「でも、だから尚更馴らそうとしたとも考えられるんじゃないか?」
「それ以前に、この可能性を知っていればいきなり撫でたりはしないでしょう。況してオッドアイの撮影が初めてでないとすれば」先ずは自分が近付いている事を相手が視界に捉えてから、そっと手を出す筈だと、庵は言う。「とは言え、推測に過ぎませんからね。後はお願いしますよ? 椚巡査」
「……やっぱりこっちに回ってくるのか?」苦々しい顔で椚は呻いた。
「身分詐称の可能性と、もしかしたらその猫をどうにかする気かも知れません。只の猫好きの自称カメラマンならいいのですが……。そうだとすれば何日も飼い主から引き離そうというのが気に掛かります」
「解ったよ」ここに来る度に仕事が増えている気がする――そうぼやきながらも椚は首を縦に振った。「取り敢えずその彼女には待つように言ってくれ」
「了解っす」武は敬礼した。
翌日、自称写真家の正体はあっさり露呈した。
「牧さん、今回はなかなかいい勘でしたね」夜、いつものカウンターで、椚は彼等に報告した。「変わった猫や高価な猫を見付けては売る、自称ブリーダーでもありましたよ」
「へぇえ……」瀧が、甚く感心した様に、声を洩らした。「タケ坊の勘でもねぇ」
「感心するトコはそこっすか……」褒められた気がしない、と武。「ま、いいっす。彼女の猫は無事だったし……」
そう言いながらも、武はふと首を傾げる。
「マスターは何であんな事知ってるんすか?」それこそ動物の専門家でもない筈なのに、と。
「流石に飲食店に入れる訳には参りませんけれど……」言いながら、庵は裏口の方角を指差した。
「野良のオッドアイの白猫が一匹居るんですよ」棗が苦笑しつつ、言う。「閉店後に何度か餌上げる序でに撫でようとして引っ掻かれたもんね、兄さん」
「お陰で色々調べつつ……実施学習出来ましたよ」微苦笑して、庵はやっと撮れたと言う写真をカウンターに置いた。
金と青の眼の白猫が、小首を傾げて見上げていた。
―了―
困った時の猫とタケ坊(笑)
かわいいんだろうな♪
ところで、「只の猫好きの自称カメラマンならいいのですが……。そうだとしれば何日も」
[しれば]は…すればかな?
つついてゴメン。私の勘違いかも。それなら尚更ゴメン(笑)
きっとそれは幻さ!
さっき気付いて直したもん(ぼそっ)
白猫で、オッドアイなら、ちょっと魅力的~な感じしますよね^^
私の想像の世界では、とっても素敵なんだけど・・・
勿論、ブルーアイでもオッドアイでも、皆が皆じゃありませんのでご安心を^^
以前住んでた所で二匹位見掛けた事はあります。近寄れなかったけど(泣)
後一度だけ、犬のオッドアイ、見た事ありますよ! 片目黒、片目綺麗なブルーでした。
人多過ぎっすか(笑)
確かに増えてきたなぁ。瀧さんは殆ど常に居付いてるしなぁ(苦笑)
あの猫はどうだったのかなぁ?
特に臆病って事も無く、凄く懐いてくれて、可愛がっていたんだけど。
もう一匹いるオッドアイのシロも、この前自分から膝の上に乗ってきた。
それにしても、いなくなったシロのこと思い出しちゃったよ。
どうなっちゃったのかなぁ。はぁ~あ。
きっとどこかでお猫様に納まっていると信じつつ!(>_<)
あ、聴覚障害は必ず出る訳ではないですよ。
只、やっぱり障害持ちの子は神経質になり易いという事で。
猫は呼んでも犬みたいに判り易い答え方してくれないから、聞こえてるのか――もしくは聞いてくれてるのか――判り難いけどね(--;)
懐っこい子は大丈夫だと思う。
のロイエンタールしか出てこない…で、瞬間に銀英熱が沸騰するので、まともに感想も書けない愚か者です…。
にゃんこの眼はほんまに不思議。部屋が暗くても全く関係なく走り回れる視力、というかタペタムの機能を分けて欲しい…。あちこちにぶつかって青あざ作る身としては…。
にゃんこの眼、特にこれからの季節、家に帰った時が暗くて……(-o-;)
電気点ける迄の道に迂闊な物置けないにゃ。
犬は一度だけ見ました!
この猫ちゃんはafoolさんのブログに出てくるシロちゃんですね。
afoolさんもコメントしてるけど、いなくなった子が気になりますよね。
お話の中の猫ちゃんは無事で良かったにゃ(>_<)
ううう、シロちゃ~ん、どこかでお猫様に……(>_<)
そう言えば、うちのお客様、猫飼いの方が多いのですが……不思議と真っ白猫さんが居ない様な?
夜霧は白いけど……中身が黒そう……(--;)
シロちゃんも誰か保護してて欲しいにゃ~。
でも綺麗なんだよね~。白猫のオッドアイ。