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もうくる頃だ。きっと来る。そう思いながら、どれだけ待っているだろう。
古びた館、広い応接間に残された家具には埃除けとしてシーツが被せられている。只一つ、マントルピースの上のビスク・ドールを除いて。
「やれやれ、また落ちているじゃないか……」数ヶ月振りに館を訪れた老人は、マントルピースの前に無造作に広がった布を拾い、埃を払った。「ああ、お前もこんなに……」次いで、本来それを被っていた人形の上からも。
陶磁器でしっかり象られた顔と手足は長の年月にくすみ、帽子を戴いた金色の髪も、絹の衣服もうっすらと埃を纏っている。カーテンを締め切った暗い部屋の奥にある所為か紫外線による褪色は免れているのは幸いか。
どうして来る度に落ちているのだろう、と男は首を捻る。尤も、その謎を追求してやろうと心躍らせるには、彼は老い過ぎていた。肉体的に、そしてより精神的に。
彼は先祖来の館という、この大き過ぎる遺産を初めは歓迎し、今では忌避していた。一人で住むには広過ぎ、そして街からも遠かった。他人への売買や賃貸にはそれに加えて古過ぎる。補修するにも金が掛かる。それでも税金は掛かるのだ。
結局彼は館に残された物から、金目の物を売って、それに充てていた。
残された物も、本当に売れそうな物と言えば数少なくなっていた。それでも母の形見のこの人形だけは最後にする心算だった。あるいは自分の命の方が遺産よりも先に尽きるかと思ってもいたが――と苦い笑みを浮かべる。遂にこれを手放さざるを得なくなっていた。見事なアンティーク・ドールだ。手入れさえすれば高値が付く。
「……迎えに来たよ」彼はそっと囁き掛ける。途端、抱いていた手の指先に、鋭い痛みを感じた。「!?」
少女の頭部そっくりに造り上げられたドールのうっすら、笑みの形に開かれた唇。歯迄が揃うその口に、彼の指が捕われていた。
噛み付かれた!? 馬鹿な、偶然口に引っ掛かっただけ……。そう思いつつ、彼はのろのろとした動作で指を引き抜こうとする。が、痛みが増すのみ。
「……行きたくない……のか?」碧の眼が、頷いた気がした。硝子の眼が? いよいよ耄碌したかと思いつつも、彼は人形をマントルピースの上に戻す。指は、あっさり外れた。「だが……あの頃を――母が居て、家族皆が居た頃を――待っても、もう何も戻りはしないんだよ。どれだけ待っても……私も恐らくはもう……」
自分自身に言い聞かせる様な言葉を最後に、彼は館を出て行った。
何年だって待てるわ――人間を象って造られ、それ以上の寿命を持つドール。その唇が固く引き結ばれ、硝子の瞳が潤んでいる様だった。暗い、館の奥で。
―了―
あんまりホラーにならなかった☆
と言うかぶっつけで書いたから規定文字数が……? (^^;
応募じゃないから、あまり気にしなくても良いんじゃない?…と思いますが。そこら辺はこだわりが有るんでしょうか?
年齢制限ごまかしたくなりますよねアレ(笑)
いつもは400×3で下書きするの。拘らなくてもいいんですけど、ショートショート書く練習には持って来いなので(^^;)
年齢制限……あいたた☆
またいつでもお越し下さいませ♪
未だ未だ勉強中でお恥ずかしいですが(汗)
またそちらにもお邪魔しますね~。
拘り……あんまり拘り過ぎるとシリーズ毎に書き方変えたくなったりして大変なので、程々にしてます(笑)