〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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まだ追ってくる。どこまで逃げてもついてくる。息が切れて、苦しい。
日頃の鍛錬に気を遣っているとは言え、不惑という年齢を改めて痛感させられる。それでも俺は走った。後少し、後少し走れば……。
「待てー!」
「待つ訳が無いだろう!」
「ここで逃がすものか!」
いつしか廃工場に入り込んでいた。足音が鉄板や機材に反響し、互いの位置が掴み難い。倒されたドラム缶を避けながら、錆が粉となって積もった床を駆ける。その度に舞い上がる、赤い匂い――血に似た、匂い。
それは否応無く、ある記憶を呼び覚ます。
ごく普通の、平和な筈の住宅街。だがその夜、その一軒から家族の団欒が消えた。未だ若い夫婦の二人暮し。写真立ての中の二人は惨劇の現場にあって、未だ自分達の幸せを信じているかの様だった。
当時、二十代半ばで未だ駆け出しだった俺は、危うく指紋を付けそうになったりしながらも、実際の現場に臨んでいる処だった。曖昧に想像していたのとは違う、現場の匂いに噎せ返りつつ。
そう、あの匂いだ。赤い、鉄混じりの。
その匂いの中で俺はこじ開けられ、扉が無残にひしゃげた金庫を調べ、微かな痕跡でも遺していないか、家中を確認した。
血の匂いに酔って、泣きそうになりながら。
あれから十五年――その年月が一気にのしかかって来たかの様に、脚が重い。
鉄板の上の砂利に足を取られそうになり、慌てて体勢を立て直す。
「もういい加減、諦めたらどうだ?」
「馬鹿言うな! ここ迄来て……後少しなんだ!」
「逃げ切れると思っているのか?」
「逃げ切ってやる!」
後少し――俺はちらりと腕時計を確認し、疲れ切った脚に自ら喝を入れる。足場の悪さや疲労は向こうも同じ。俺は奴が機材に躓いたのを見て取ると、一気に距離を詰めた。
「強盗殺人犯……身柄確保!」息を切らせつつも奴を取り押さえ、手錠を掛けた。
時効に追われつつ、俺が初めて捜査に当たった事件は、こうして遂に終結した。
―了―
追って来るもの――色々ありますね。
追っているものも、何かに追われていたりして……。
「待てー!」
「待つ訳が無いだろう!」
「ここで逃がすものか!」
いつしか廃工場に入り込んでいた。足音が鉄板や機材に反響し、互いの位置が掴み難い。倒されたドラム缶を避けながら、錆が粉となって積もった床を駆ける。その度に舞い上がる、赤い匂い――血に似た、匂い。
それは否応無く、ある記憶を呼び覚ます。
ごく普通の、平和な筈の住宅街。だがその夜、その一軒から家族の団欒が消えた。未だ若い夫婦の二人暮し。写真立ての中の二人は惨劇の現場にあって、未だ自分達の幸せを信じているかの様だった。
当時、二十代半ばで未だ駆け出しだった俺は、危うく指紋を付けそうになったりしながらも、実際の現場に臨んでいる処だった。曖昧に想像していたのとは違う、現場の匂いに噎せ返りつつ。
そう、あの匂いだ。赤い、鉄混じりの。
その匂いの中で俺はこじ開けられ、扉が無残にひしゃげた金庫を調べ、微かな痕跡でも遺していないか、家中を確認した。
血の匂いに酔って、泣きそうになりながら。
あれから十五年――その年月が一気にのしかかって来たかの様に、脚が重い。
鉄板の上の砂利に足を取られそうになり、慌てて体勢を立て直す。
「もういい加減、諦めたらどうだ?」
「馬鹿言うな! ここ迄来て……後少しなんだ!」
「逃げ切れると思っているのか?」
「逃げ切ってやる!」
後少し――俺はちらりと腕時計を確認し、疲れ切った脚に自ら喝を入れる。足場の悪さや疲労は向こうも同じ。俺は奴が機材に躓いたのを見て取ると、一気に距離を詰めた。
「強盗殺人犯……身柄確保!」息を切らせつつも奴を取り押さえ、手錠を掛けた。
時効に追われつつ、俺が初めて捜査に当たった事件は、こうして遂に終結した。
―了―
追って来るもの――色々ありますね。
追っているものも、何かに追われていたりして……。
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無題
こんばんわ★ニャン吉です★
いつもブログ拝見しています☆
なんといいますか、巽さんの小説はいい意味で読んだ後ひきずります(笑)
今回の「追跡者」もそうでしたぁ^^
犯人は警察に追われ警察は時効に追われ・・・
小さい時、鬼ごっこをしていて、いつの間にか僕と鬼がムキになってしまって永遠と追っては逃げて、逃げては追ってをしていたのを思いだしました。追われる時の気持ちは本当に快感にも似たスリルだったりしますね。逆もまた然り。
これからも巽さんの世界!!
楽しみにしてますね♪♪
いつもブログ拝見しています☆
なんといいますか、巽さんの小説はいい意味で読んだ後ひきずります(笑)
今回の「追跡者」もそうでしたぁ^^
犯人は警察に追われ警察は時効に追われ・・・
小さい時、鬼ごっこをしていて、いつの間にか僕と鬼がムキになってしまって永遠と追っては逃げて、逃げては追ってをしていたのを思いだしました。追われる時の気持ちは本当に快感にも似たスリルだったりしますね。逆もまた然り。
これからも巽さんの世界!!
楽しみにしてますね♪♪
ニャン吉さん♪
有難うございます^^
ひきずりますか(笑)
そう言って頂けると書いていて某か伝わるものがあるのかなぁ~と、嬉しくなります♪
これからも頑張りますので、何卒宜しく☆
そちらにもまたお伺いしますね^^
ひきずりますか(笑)
そう言って頂けると書いていて某か伝わるものがあるのかなぁ~と、嬉しくなります♪
これからも頑張りますので、何卒宜しく☆
そちらにもまたお伺いしますね^^
無題
しかし、何故時効ってあるんだろうか。
なにか理由があるんだろうけど。
犯罪がリスクある商売としたら、それに伴う褒美に思えてしまう。
科学捜査が進めば、昔の事件も解決すると思うんだよなぁ。
ファブィ。
なにか理由があるんだろうけど。
犯罪がリスクある商売としたら、それに伴う褒美に思えてしまう。
科学捜査が進めば、昔の事件も解決すると思うんだよなぁ。
ファブィ。
Re:無題
重犯罪が時効間近、なんてニュースを聞く度に不条理を感じますねぇ。
その間に罪の重さに悔悟の念を抱く様な犯人ならそもそも自首するだろうし。
リスクに伴う褒美ですか……。いつ迄経っても事件を解明出来ない警察への免罪符という見方も出来ますね。ここ迄やったらもういいよ、みたいな。
こういう所はアメリカを真似て欲しいなぁ。重犯罪だけでも時効無しとか。
その間に罪の重さに悔悟の念を抱く様な犯人ならそもそも自首するだろうし。
リスクに伴う褒美ですか……。いつ迄経っても事件を解明出来ない警察への免罪符という見方も出来ますね。ここ迄やったらもういいよ、みたいな。
こういう所はアメリカを真似て欲しいなぁ。重犯罪だけでも時効無しとか。